医学界新聞

 

【座談会】

21世紀における消化管形態学の位置づけ
『胃と腸アトラス』発行によせて


八尾恒良氏
福岡大学筑紫病院教授
<司会>
 
千葉 勉氏
京都大学教授

寺野 彰氏
独協医科大学教授
 
飯田三雄氏
九州大学教授


■20世紀の消化管形態学

『胃と腸アトラス』について

八尾〈司会〉 ご存じのように,1966年に創刊された雑誌『胃と腸』は,その母体となった「早期胃癌研究会」の時代から,村上忠重先生,白壁彦夫先生,崎田隆夫先生,佐野量三先生をはじめとする錚々たるRadiologists,Endoscopists,Pathologistsが一堂に会すことによって,新しい診断学を成立させました。
 つまり,X線所見,内視鏡所見が切除標本肉眼所見をどのように表現しているのか。肉眼所見は,どのような病理組織構築を表現しているのかを検証する方法論が確立されたわけです。この方法論は,単に早期胃癌に留まらず,食道早期癌,陥凹型早期大腸癌の診断学を生み出し,さらに内視鏡的生検の確立と相俟って,炎症性腸疾患など肉眼標本が得られない疾患にまで及んでいます。そして,今や消化器疾患の形態診断学は,診断する疾患の病理組織構築を推定する学問になったと言っても過言ではないと思います。
 本日は,今回その「『胃と腸』編集委員会」によって,『胃と腸アトラス』全2巻(医学書院)が出版されましたので,これを機会に,「21世紀における消化管形態学の位置づけ」というテーマで先生方のご意見を伺いたいと思います。
 まず最初に『胃と腸アトラス』に対する感想をお聞きしたいのですが,寺野先生,どのようにお感じになりましたか。
寺野 珍しい多くの症例が載っている,というのが第一印象です。われわれの施設で経験できないものも多く入っていますので,教育面でも非常に助かります。その点でも,私は貴重な本だと評価しています。
 『胃と腸』という信頼度の高い雑誌から症例をセレクションされているので,私たちの教室の若い人たちも強い関心を示しています。
八尾 千葉先生はいかがですか。
千葉 他科とは異なって,消化器病学は形態学の占める比重が非常に大きいということに特徴があると思います。そういう点でも,寺野先生がご指摘のように,この本は『胃と腸』という信頼度の高い雑誌から多くの症例を選んだ大著で,特にカラー写真がきれいだという印象が強くあります。
 とにかく非常に楽しく読ませてもらいました。
八尾 飯田先生はいかがでしょうか。
飯田 私は著者の1人としていくつかの項目を執筆したのですが,X線,内視鏡の所見を理論的に裏づけることを心がけて書いたつもりです。
 現在は,消化管疾患の診断には形態学のみならず,分子生物学などの最先端の手法が用いられていますが,その基礎は形態診断学にあると思います。そういった意味で,この本が若い人にも読まれ,さまざまな症例の病変の成り立ちを理解してもらう上で意義があるでしょう。
八尾 本心を言えば,『胃と腸』独特の形態学を入れて,要領よく必要最小限のことを書いた本を作ってみたかったのです。
 差し当たり疾患概念と病態を最小限に留めて,比喩的に言えば,文字通り「絵にものを言わせる」という試みを実行してみました。

「消化管形態学の20世紀のまとめ」として

寺野 ところで,私はこの本は読者対象をどこにおいて企画されたのかということに大変興味があります。
 おそらく学生や研修医,あるいは認定医 試験などを受ける人のためだけではないと思うのです。そういうことが目的ですと,もっと詳しい解説が必要になりますし,教科書のようになってしまいますので,そういう点にも相当悩まれたのではないかと思います。
 この本はそういう狭い意味だけでなく,大げさに言うと「日本における消化管形態学の20世紀のまとめ」という意気込みでお作りになったのだろうと思って私は読みました。歴史的な写真なども相当あります。
八尾 そうですね(笑)。
寺野 その点も苦労されたと思います。歴史を感じるところもあって,それがさまざまな世代に受け入れられる要素になるのではないでしょうか。

臨床における形態診断学-まず「症例ありき」

飯田 大腸癌や胃癌といったポピュラーな疾患の典型例も示されていますので,これから消化器病学を勉強しようとする人にとってもわかりやすく,入りやすいでしょう。
 また一方で,非常に稀な疾患も含まれています。消化器病学に熟達した人でも,あまり経験しないような症例もたくさんあります。そういった意味で広い層にわたって受け入れられるのではないかと思います。
八尾 当然のことですが,臨床医学は症例が基本であって,個人の診断能はその経験例の多少とも左右されます。しかし,個人で経験できる症例は限られますので,きちんとした症例をできるだけたくさん見る以外には方法がありません。現実にはグループや,大学医局のカンファレンスで検討された症例を自分の経験の中に取り入れて,自分の診断能を向上させているわけですが,それでもやはり限度があります。
 そういう点からも,このような形で症例を見ておけば,自分が実際に症例にあたった時に役立つのではないかと思います。この本を読むことによって,その人の経験になるように編集したいという願いもあったのです。
千葉 私もまず「症例ありき」というところから始まっているところが大変おもしろく感じました。八尾先生がおっしゃる通り,臨床医学は症例から始まるわけですから,われわれには抵抗なく入っていけます。その点に関して,飯田先生が言われたように,初心者にも経験を積んだ医師にとっても役に立つだろうと思います。
 ただ,当然のことかもしれませんが,どちらかというと経験を積んだ人のほうがおもしろく読めるわけですね。というのも,呈示されている画像がほぼ完全であるので,経験を積んだ方の場合,症例から入っていって,「病気かどうか」という話になると思います。その時にこの本で示されている個々の症例には多少の質の差があるので,批判的な目で見ることもできます。そういうおもしろさがありますね。
飯田 また,初心者がもう少し詳しく知ろうと思った時のために「参考文献」をあげていますので,非常に有益ではないかと思います。
千葉 私も参考文献は非常によいと思いました。かなり古い症例も含めて,代表的なものがあげられています。
 また,もう1つの特徴として透視の写真が充実しています。今の時代にここまで全般的な透視は撮りませんから,そういう意味では貴重な資料ですね。
八尾 おそらく,X線で呈示できる最後の本ではないかと感じます。

「X線」「内視鏡」「病理」というオーソドックスな流れを押さえる

八尾 今の若い人はあまり形態に興味を示しませんが,特に消化器科医は内視鏡をやらないと臨床ができない時代だと思います。そういう意味でこの本には,X線像や内視鏡像がどういう病理組織構築で成り立っているのかを目で見ることができる症例もかなりあります。
 今の若い人にX線や内視鏡を撮らせるトレーニングをさせると,内視鏡で見た所見が何を表しているのか,そこまで考えようとしない点が少し不満です。ある程度までいったら,病理組織構築まで頭の中に思い浮かべて診断すれば,内視鏡で画像を撮る能力ももう一歩進歩すると思うので,そういう願いも少し入っているのです。
寺野 私どもの教室でも,最近はX線を経験しないでいきなり内視鏡にいく傾向にあります。内視鏡像を撮って何か異状所見があった場合に,「もう一度X線像をきちんと撮ってから診断をつけなさい」と言うのですが,なかなかやらないですね。
 「X線撮影は患者さんに負担がかかるから」と言われると,こちらも何とも言いようのないところもあるのですが。内視鏡で見え,生検を採って診断して,処置すればよいという割り切った考え方をする人が多いです。
 最近は,「X線で診断し,内視鏡で確定し,病理で最終確定する」という流れではなく,内視鏡が先にきます。X線の位置づけが弱くなって,若い人たちによくわからないところがあるようです。そういう意味からは,本書ではX線から内視鏡,病理というオーソドックスな流れを押さえてあるので,若い人の教育によいのではないでしょうか。
飯田 最近は,X線検査の件数も減っていますし,内視鏡が診断の主流を占めていると若い人は思っています。内視鏡の機器の進歩にも目を見張るものがありますので,ある程度やむを得ないかもしれませんが,少なくとも手術に進む症例,例えば胃癌や大腸などでは,造影X線検査は必須だと思います。
 外科の先生方は,細かい所見まで出たX線検査を評価しますし,また要求もされますが,最近は「X線検査は,いちおう行なわれていればよい」と,不十分なX線検査で済ませようとする場合もしばしばあります。外科医側が形態学にあまり興味を示さなくなったことも,X線診断が少し廃れていった原因になっているのではないかと私は思います。

X線の利点

八尾 X線は基本的には内視鏡とはまったく別です。臓器のどこにどのようなものがあり,それが管腔の外にどのような影響を及ぼしているのかについては,USやCTではわからないものが表現できます。
 それから,もう1つの特徴は客観性があることです。例えば大腸のどこかに小さい病変があり,それが大きくなって進行癌になった症例があったとします。これは,内視鏡だけでは本当に同じ場所にできたのかどうかという客観性がないのです。内視鏡所見と一緒にX線所見がありますと,大変わかりやすい。
 先ほど外科手術の話が出ましたが,例えばクローン病の手術でも,これは恐らくこういう手術になるだろう,あるいはこういう手術ができたらいいと,X線で全体と周りの臓器との関係を見て,その上で「こういう手術をしてください」とお願いすることになります。そういうX線のメリットがあるのですが,内科医側だけの目で見ると,診断がつけばよいという以上の力がない。寺野先生がおっしゃったように,内視鏡を撮った後でX線を撮らなければいけない理由はそこにあるのです。
 それから,内視鏡だけではよくわからなくても,X線の情報を加味することで,病変の病理学的な構築がよくわかる症例があります。例えば,盲腸膜様閉鎖症は,内視鏡をいくら見てもどうなっているのかわかりませんが,X線を見るとよくわかります。

診断は「森を見て,木を見て,葉を見る」こと

八尾 病気を診る時に,「森を見て,木を見て,葉をも見る」とよく言われるのですが,近頃は「葉」だけを見て診断しようという傾向にあるようです。
 やはり,「森を見て,木を見る」という意味ではX線が必要です。
飯田 先ほど八尾先生もおっしゃいましたが,X線検査の最大の長所は,正確に場所の客観的な評価ができる,ということだと思います。
 例えば腫瘍の生物学的な悪性度,増大の程度を経時的にレトロスペクティブに見ることができる利点があります。最近のようにX線をなるべく撮らない方向に進むのは,生物学的な腫瘍の全体像を見ていくという面ではマイナスだと思います。
寺野 八尾先生が「森を見ずに,葉だけを見ている」と比喩的に表現されましたが,X線の必要性についてはある程度,若い人も理解できると思います。ただ,局所的な癌でも早期癌でも,X線できれいに出すという職人的な発想はもうないのでしょうね。そういう意味で,先ほど八尾先生が言われたように,X線で呈示できる最後の本になるのかもしませんね。

X線と内視鏡

八尾 私たちが勉強した頃は,単純な胃潰瘍でも必ずX線で出てきました。胃体部の後壁のところは内視鏡では見つけづらい病変があるのです。それをどうやって内視鏡できちんと見るかを工夫するので,また内視鏡のほうもうまくなるのです。
 X線と内視鏡の両方を行なって,初めて内視鏡の技術を進歩させる面もあると思いますが,飯田先生,どう思われますか。
飯田 そうですね。例えば,体中部後壁に浅い陥凹性病変みたいなものがあった場合,盲点になりやすいですね。体部は完璧に見て異常なしと思っていても,後で透視をすると病変が出ていてびっくりするようなことは誰もが一度は経験することです。
 こういう病変ではこういう場所が盲点だ,ということをよくわかって内視鏡をするかどうかは大きな差だと思います。
寺野 ここ20年ほどで,X線から内視鏡に移ってきたわけですが,20年という歴史の流れは,非常に極端から極端に走っているのだなという気もします。X線診断だけやってきた人は内視鏡を信用しないという面がありましたね。
 ところが,現在は逆に若い人がX線をほとんど信用しない,というよりも必要ないという考えで内視鏡に頼っています。20年もたたないうちに,極端から極端に走っているわけです。
 そういう点でも,この本を契機にして,両者の融和の意味づけができることは,若い人にはよいのではないでしょうか。
千葉 昔は,多くの人は透視をメインにしていました。それが時代の流れの中で,内視鏡が進歩して,見える範囲も広がってきたわけです。そういう歴史を歩んできているので,ある程度の年齢の人たちには,どちらにアドバンテージがあるかは理解できていると思います。
 ところが,今は多くの人が内視鏡から入ります。八尾先生がおっしゃるように,透視をやれば内視鏡も上手になるのはよくわかるのですが,現場はそういう状況になっていないわけです。
飯田 その通りだと思います。造影検査件数が消化管,特に胃については減っていますから,若い人たちにどのように技術を習得させ,熟達させていくかということは大きな問題だと思います。
 X線造影が完全になくなると困るということは,ほとんどの内科医の共通認識ですし,私の知っている外科の先生も,消化管造影なしには手術はできないと言っています。いざ精査しようと思った時に,きちんと病変を出す技術を持たないのが現状で,それをどうするかは今後の大きな問題だと思います。

■消化管形態学の将来-21世紀に向けて

臨床と“学”との関係

八尾 最近の内視鏡診断にも問題がないわけではないですよね。
 そもそも,「Endoscopy」の“-scopy”はscrutiny,詳しく見るという意味ですよね。しかし,多くの内視鏡検査医は,早く手際よく検査を行なうことが上手な検査医と勘違いしています。もれなく精密に見るというendoscopyの原点をもう一度考え直してほしいですね。
 ついでに言わせてもらいますと,学問,scienceをウエブスターで調べますと,「未知のものを区別する知識を持つ」とあります。内視鏡で精密に見たものが何を現わしているのか“知識”を駆使して診断体系を構築すると“内視鏡”になるのですかね。「見えた」,「生検したらこうだった」というところで終わる人が多すぎるように思います。

形態学におけるEBM

寺野 ところで,最近はEvidenced-Based Medicine(EBM)ということがよく言われます。形態学におけるEBMとは何かという問題は難しいと思いますが,症例というのは立派なエビデンスです。そういう点で,この本でいろいろな症例を見ることも一種のEBMの実践だと思います。
 ただ,八尾先生は巻頭言で「癌は,別の成書に任せたほうがよかったかもしれない」と書かれていますが,私も同感です。
 EBMということを考える場合,例えば IIcでも1つだけ見て「これだ」というふうに見る見方は危険ですから,いくつかの症例を見なければいけないですね。しかし,IIcだけでも一冊の本になってしまうわけです。その時に大事なことは,先ほど飯田先生がおっしゃった「参考文献」ですね。これをエビデンスにするしかないと思うのです。
飯田 先ほど寺野先生が言われたように,消化管に限らず臨床医学はすべて積み重ねが大事だということを改めて認識すべきでしょう。1例1例をどれだけ深くきちんと評価するかということが基本になると思います。
 最初に少し述べましたが,分子生物学など最先端の医学の基本は,やはり1例1例がきちんと評価された形態学にあると私は思います。例えば,現在の病理の診断で,腺腫か癌かということを決めがたい病変があります。これを決めるのは,やはりその病変の生物学的態度だと思います。これを客観的に説明するためには,X線診断学が大きな役割を果たしてきたわけですから,こういったことから考えると,今後も消化管の形態学は少なくとも廃れることはないと考えています。

遺伝子研究と形態診断

八尾 私には無縁の世界ですが,今は遺伝子解析が盛んですね。癌をはじめとして,いろいろな病気でSNPs(遺伝子多型)解析が進められているようですが,正確な病理診断や臨床診断が基本にないと,どんなに調べても,どんなに適正な統計の手法を用いてもどうしようもないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
寺野 遺伝子診断は,まだ勃興したばかりで本当の評価は難しいと思います。
 病理と内視鏡の関係から見ると,病理の先生も結局は内視鏡診断,X線診断,臨床診断に引っ張られているのです。われわれが病理診断を依頼する時に書いた記載内容は彼らにとっても非常に重要なのですね。生検をすれば済む,という今の風潮は問題だと思います。
 まして,遺伝子診断で片がつくという時代はまだ先で,形態学を無視した遺伝子診断などはあり得ないと思います。
千葉 やはり,お互いのフィードバックが必要です。そのためには,形態診断という確固たるものを持たなければいけないという八尾先生のご指摘は重要だと思います。
飯田 私も千葉先生が言われるように,フィードバックが重要だと思います。形態学が基盤にあって,それから機能にいき,また機能から形態学にフィードバックしてくるという考え方が大事だと思います。
八尾 私は,社会の仕組みと同じように,消化器病学の中にもいろいろな分野があってよいと思います。形態学があり,遺伝子研究があり,機能を研究する人がいる。そういう各分野の進歩が,螺旋階段のように消化器病学のレベルを上げていくのではないかと思います。必ずしも遺伝子研究や分子生物学的な研究だけがすべてを持ち上げているわけではないでしょう。
 ところが現在は,あまりにも形態学の評価が低く,遺伝子研究だけがハイライトを浴びている状況で,少し偏りがあるのではないかという気がしないでもありません。
 形態学を研究する人も,本日の先生方のお話に出たように,自分がやっていることに自信を持ってきちんと進めることが大切でしょう。そして,分子生物学的研究の成果を取り入れて,もう1回形態を見直すという作業をすれば,形態学がつぶれることはないというのが私の考えです。

今後の展望

八尾 それでは時間も迫ってきましたので,本日のテーマである「21世紀における消化管形態学の位置づけ」について,先生方のご意見を伺いまして座談会を終了させていただきたと思います。
飯田 21世紀の消化器病学では,分子生物学的手法を用いた先進的な臨床研究がさらに進歩・発展することは間違いないと思いますが,その基礎はあくまでも形態診断学にある,いやあるべきと考えます。形態診断を軽視した研究は,「砂上の楼閣」に帰すると言っても言い過ぎではないと思います。
千葉 私は形態学は診断や治療方針の決定,予後の推測に最も基本的な情報を与えるものだと思いますが,それに加えて,今後,molecular levelの解明が形態学にさらなる意義づけを与えるものと確信しています。
寺野 21世紀の消化管形態学といった場合,やはり悪性腫瘍の診断がメインになるわけですね。特に,H. pylori の出現によって上部消化管の病態は激変しました。今後,上部消化管疾患,下部消化管疾患ともに,機能性疾患も重要になってくるわけですが,形態学的にはどうしても悪性腫瘍がターゲットです。いかに早期に発見して,早期治療するかということは,21世紀も同じでしょう。
 先日,講談社から『消化器ガン克服マニュアル』という一般向けの本を出させてもらいましたが,その中で,「今後消化器ガンで死ぬのはばからしい」と書いたのです。そして,「われわれ夫婦は消化器ガンでは絶対に死にません」と大見得を切ったのですが,大丈夫ですかね(笑)。
八尾 消化管も診断には形態学が最も正確で,この手法を上回るlaboratory markerは21世紀にもなかなか出現しないと思います。先生方のお話でも,消化管の臨床には形態診断が重要で,特に症例が大切であると,そして『胃と腸アトラス』は20世紀の診断学の総集編であるというお褒めの言葉をいただきました。
 21世紀には診断方法や機器の進歩とともに,正確な臨床診断に基づいた分子生物学的,免疫学的研究の成果が続々と出てくると思います。そうなりますと,逆にその成果を形態診断からどれほど類推できるかという診断学ができないかと夢想しています。
 今は遺伝子研究がスポットライトを浴びて,形態学は“学”として認められない風潮にありますが,社会の仕組みと同じで,もっといろいろな勉強をして,21世紀の新しい診断学を確立し,そして『胃と腸アトラス』の改訂版を作っていただきたい,これが私の願いです。
 本日は長時間,どうもありがとうございました。