医学界新聞

 

「Neuro2001」を終えて

佐藤公道 第24回日本神経科学大会長・京都大学大学院薬学研究科教授


「今世紀の脳科学研究の起爆剤となるように」との願いを込めて

 「Neuro2001」は,平成13年9月26日-28日に京都市宝ヶ池の国立京都国際会館で開催された[第24回日本神経科学大会」と「第44回日本神経化学会」の合同大会の愛称です。
 21世紀における生命科学研究の中心的位置を占めるのは,脳科学研究であろうと考えられています。その新世紀の初年に,脳・神経領域を研究対象としているわが国の主要な2つの学会の定期大会を合同で開催し,この領域の研究者が集う国内最大級の学術集会として,多様な研究情報の交換と発信がより効率的に行なわれ,「今世紀のわが国の脳科学研究にとっての起爆剤となるように」との願いを込めて,第44回日本神経化学会大会長・畠中 寛先生(大阪大学蛋白質研究所教授)と共に計画を練りました。
 しかしながら,真に悲しいことに畠中先生は5月25日に急逝してしまわれました。そのため大会長代行に指名された三木直正先生(大阪大学大学院医学系研究科教授)と協力して,それまでにほぼ大枠を固めていた計画を基に鋭意準備を進めました。三木先生が同じホームグランド(薬理学会)での永年にわたる知己であったことは幸いでした。

日本における脳・神経関連科学研究の広がりと発展を示す

 嬉しいことに,新しい情報源として重要視していた一般演題(すべてポスター発表)に1,270題の応募がありました。これに,特別講演6題,および54主題組まれたシンポジウム内の演題287題を加えた発表予定演題数は1,563題で,3年前の両学会の合同大会の時の25%増になりました。この3年間の日本における脳・神経関連科学研究の拡がりと発展を示していると思われ,真に喜ばしいことであります。
 国内学会ではあっても外国との情報交換を密にすべく,海外から42名の第一線の研究者を特別講演者やシンポジストとして招くことにしていましたが,「Neuro2001」開始を約2週間後に控えた9月11日に起きた米国での同時多発テロ事件の影響で,特別講演予定者のBjorklund,Woolf両先生を含む十数名が来日を取り止め,その方々の演題がキャンセルになったことは大変残念なことでした。

新世紀を担う学生の参加者が1/3を占め,関心の高さを示す

 参加者数は,事前登録者数が2,220名(一般会員;1,427名,一般非会員;93名,学生;700名),当日登録者数が973名(順に各々289名,306名,378名)と大会主宰者の予想の上限を超え,これにご招待させていただいた両学会の名誉会長/名誉会員および非会員の招待者129名を合わせると3,322名に達しました。
 さらに特記すべきことは,学生の参加者が1,078名に達し,参加者全体の1/3を占めたことです。これは,学生の参加費を一般参加者の約1/3に抑えたこともありますが,大学院学生の脳・神経科学に対する関心の高さを示していると思われます。
 事実,大会期間中各会場では熱心に討論をする学生が多数みられ,特にポスター会場では2時間の説明時間中熱気ムンムンといった光景が随所で見受けられ,大会そのものを大いに活気づけてくれたという印象を持ちました。新世紀を担う学生たちによる盛り上がりは,この研究領域の将来を明るくするもので,大変有意義なことと考えられます。

印象に残る伊藤正男先生の講演
「21世紀における脳の中心課題」

 多数の発表演題の内容について書く紙数はありませんが,4題の特別講演をはじめ,内容的にきわめて多彩で豊富な合計54主題のシンポジウムはいずれも聴き応えがあり,充実していました。
 私の頭に特に印象深く残っているのは,特別企画シンポジウム「21世紀の脳科学」での伊藤正男先生(理化学研究所)の「複雑系としての脳を解明するためには,これまでになかった新しい方法論や概念が生み出されなければならない。それが21世紀に求められている」という言葉です。
 脳機能の要素を担う分子を次々に明らかにしてきた分子生物学的成果の次の段階を見据え,高次脳機能のメカニズム解明のために,「新しい着想と証明法をもたらす,若くて柔軟な頭脳」を日本から出したいものだと思います。

大会長として配慮したこと

 今回,大会長として配慮したいくつかのことに触れておきます。
 最近使用が増え,今後の発表機材の主流になると予想される液晶プロジェクターを全口演会場に配備し,当日の支援体制も整えて便宜を図りました。相当数の利用申込がありましたが,大きな支障もなくご利用いただけて胸をなで下ろした次第です。
 また,小さい子供さんを持つ研究者が大会に参加しやすいように,託児室を設けましたところ,全部で7件の利用があり,少しでもお役に立てたことを喜んでいます。期間中に他学会からの見学の申し出もありましたが,日本でも今後託児室の設置が一般化すれば育児中の研究者の学会活動が一層活発になることが期待されます。
 さらに,Eメールを可能な限り活用し,「Neuro2001」ニュースを随時発信して諸種お知らせ・呼びかけを頻繁に行ない,シンポジウムオーガナイザーとの連絡などの事務連絡もペーパーレスを追求しました。
 米国の「Society for Neuroscience」などでは以前から実施していることですが,本学会では初めてプログラムおよび全演題の抄録を会期の約2か月前から「Neuro2001」ホームページに公開し,演題検索機能も付けて参加者に便宜を図りました。ポスター会場では,重い「プログラム・抄録集」を持たず,必要部分のみをプリントアウトして身軽にポスターを見ながら,討論している参加者を見かけました。これらのことは,今後の大会では「常識」になっていくものと思われます。
 大会を成功裡に終えることができましたのは,ご参加くださった方々,多方面でご尽力・ご協力いただきました大学・企業・団体の皆様のお蔭であります。この場をお借りして,心から厚く御礼を申し上げます。