医学界新聞

 

ITによる新世紀の医療

第21回医療情報連合大会が開催される


 第21回医療情報連合大会(第2回日本医療情報学会)が,さる11月26-28日の3日間にわたり,稲田紘大会長(東大教授,写真)のもと,東京・江東区の東京ファッションタウンビルにおいて開催された。同連合大会は,日本医学放射線学会,日本エム・イー学会,日本診療録管理学会,日本病院管理学会,日本臨床検査医学会,他合計19学術団体の共催による。同時に,昨年より正式な大会となった日本医療情報学会の第2回の学術大会として,21世紀の情報社会においてその活動が期待される同学会の今後の方向性を定める機会ともなった。医療制度改革ではカルテなどの情報開示が,また「e-Japan戦略」でも医療が重要なテーマとされていることなどを背景に,メインテーマに「ITによる新世紀の医療」を掲げ,医学・看護・福祉など複合的視点から見た多彩なプログラムを企画。
 プログラムでは,大会長講演,日本医療情報学会会長講演に加え,特別講演に「Networking Health:Prescription for the Internet」(米・コロンビア大 Edward H. Shortliffe氏),および「ゲノム情報に基づくオーダーメイド医療に向けて」(東大 中村祐輔氏),特別シンポジウム「新世紀の医療への挑戦と医療情報の役割」の他,「医療情報の国際標準-ISOTC215の活動をめぐって」などシンポジウム5題,「診療形態を考慮した電子カルテの道程」などパネルディスカッション4題,オーガナイズドセッション6題,ワークショップ9題が行なわれた。なお,一般演題はおよそ350題。これはUMIN(大学病院医療情報ネットワーク)を通したオンライン投稿によるもので,例年同様,プログラムおよび簡単な抄録以外はすべてCD-ROM化して配布された。


地域医療情報システムの構築

 大会長講演「地域保健・医療・福祉と情報システム」(座長=東大 大江和彦氏)では,稲田氏が,地域保健・医療・福祉情報システム(地域医療情報システム)の必要性と,その方向性と課題について講演。疾病構造の変化,医療技術の高度化などを背景に,「医療機能の集積と分化」が起こると同時に,保健・福祉分野でも「ゴールドプラン」策定や公的介護保険制度の実施などにより,新しいタイプの保健・医療機関が多数出現してきたことを指摘。この結果,「医療・保健・福祉間の連携や,医療と在宅介護・福祉の連携が促され,医療サービスの範囲が広域化し,地域医療という概念がいっそう重要になってきた」と述べた。
 さらに,地域医療を「地域住民がその生活基盤の中で,自らの健康を維持・増進させ,生活の向上を図っていくために必要な保健・医療・福祉の諸技術を組織的・体系的に提供し,人々の健康生活を支持していくための一連の過程である」と定義し,これを実現するためには,(1)サービスのシステム化,(2)それを支える情報のシステム化,(3)情報システムを核としたサービス対象者との情報の共有という3段階を提示し,地域医療における情報の重要性を示唆。最後に,病院情報システムなどに比して,導入もその機能もまだ十分とは言えない地域医療情報システムについて,財源の問題,および情報インフラや情報機器の整備,情報関連マンパワー,また標準化の問題など,今後の課題を指摘。「究極的には,将来,生活支援システムが構築されれば,それと地域医療情報システムとの連携が実現することを望む」とまとめた。

ITが医療改革の決め手

 続いて,井上通敏氏(国立大阪病院長)が,日本医療情報学会会長講演として「医療のIT化推進と医療情報学会の役割」を講演(座長=国立国際医療センター 秋山昌範氏)。政府の総合規制改革会議による「重点6分野に関する中間とりまとめ」の中で,「医療に関する徹底的な情報公開とIT化の推進」((1)原則電子的手法によるレセプトの提出,(2)カルテの電子化・EBM・医療の標準化推進,(3)複数の医療機関による患者情報の共有と有効活用の促進,他)が,また「e-Japan戦略」でも「医療の情報化」が掲げられていることなどをあげ,「医療のIT化が,医療改革の決め手」と強調。同学会として「医療のIT化が科学的・技術的合理性のもとに推進されるよう貢献するとともに,それによってもたらされる医療の変化を,社会が受容できる環境整備にも力を注ぐ」と抱負を述べた。
 また,医療のIT化が,医療提供側に医療の質・安全性・効率の向上をもたらし,「よりよい医療をより安く」という目標を実現する可能性を示すとともに,「医療の効率=医療の質/コスト」であると説明。一方,医療を受ける側にも「透明性」をもたらすなど,IT化による多方面での効能を述べた。具体的には,(1)病院:電子カルテなどによる品質管理,(2)地域:情報の共有によるネットワーク化,(3)市民:情報公開による市場原理の導入などをあげ,これらを実現する手段として「医療者の自主努力」に期待を寄せるとともに,「IT化の恩恵を享受できない情報弱者に対する公平性をどう確保するか」との課題を指摘。最後に,医療情報を扱う専門職の育成をめざした認定制度など,他関連学会と検討中であることを明らかにした。


●ITを駆使した新世紀医療への挑戦

 特別シンポジウム「新世紀の医療への挑戦と医療情報の役割」(座長=京大 高橋隆)では,「医療情報の活用を考える時,そのおよそ70%が病院情報システムに関連するが,ゲノム・ITの時代となった今,新たな分野に視野を広げる(高橋氏)」との主旨のもと4名のシンポジストが登壇。

ゲノム情報,EBMをITが活かす

 初めに,豊郷和之氏(ザイブナー(株)社長)がWearble Computerを紹介したのに続き,田中博氏(東医歯大難治研)が,「ゲノム医療時代のAIの新しい展開」を講演。ゲノム研究の現状を概説した後,「きたるGenome-based Diagnosis and Therapy時代に,その成果をパーソナイズド医療などのゲノム医療に有効活用するためには,AI(知的情報技術)を中心とした医療情報システムが不可欠」と述べた。例に,ヒト疾患遺伝子カタログや,薬剤応答性予測・副作用予測データベース,ゲノム情報に基づいた予防医学的解析をあげ,その意義を強調した。
 続いて,「Evidence-based Medicineに果たす医療情報の役割」と題して福井次矢氏(京大)が登壇。EBMの手法と有効性について概説し,現在すでに米国などで活用されている情報システム,(1)1次データベース:「MEDLINE」,「EMBASE」,他,(2)2次情報源:「Evidence-based Medcine」,「Clinical Evidence」,「UpToDate」,他をあげ,これに加えて,決断支援システムの開発に期待を寄せた。氏は,「データの蓄積と分析,またEBMを手軽にどこでも利用するために,ITの果たす役割は大きい」と述べ,健康情報科学的視点を持った研究者・臨床医の育成も今後の課題とした。

医師会総合情報ネットワーク構想

 最後に,西島英利氏(日本医師会)が,「医師会総合情報ネットワーク」構想の全貌を紹介。同ネットワークは,「国民の意志を反映した地域の医療情報の収集・管理・評価をシステム化し,インターネットを利用した全医師会員の双方向情報交換により,医師主導の医療の質向上を図る」ことを目的に,メーリングリスト機能を活用する他,レセコンや電子カルテシステムのソフトウェアを開発・搭載の予定。すでに47都道府県すべてと922郡市区医師会の80%にアクセス環境を整え,さらに,医療専用ネットワークや,地理情報システム利用などの継続的研究と,会員啓発に努めている。