医学界新聞

 

看護婦(士)から「看護師」へ

保健婦助産婦看護婦法が一部改正に


 さる11月29日,参議院厚生労働委員会で,「保健婦助産婦看護婦法(以下,保助看法)」の一部を改正する法律案を審議,可決。その後,参議院本会議を通過し,12月6日の衆議院本会議で可決され,本法案が成立した。本号では,29日に行なわれた同委員会での審議を中心に報告する。

議員立法による成立

 同法案は,清水嘉與子議員(自民党,日本看護連盟)の議員立法によるもので,「保助看法」にある男女で名称が異なる保健婦(士)・助産婦・看護婦(士)・准看護婦(士)を,それぞれ「保健師」「助産師」「看護師」「准看護師」に改め,性による名称の不一致を解消しようというもの。
 前述した参議院厚生労働委員会では,11月27日に清水議員が趣旨説明を,また同29日には3名の参考人による意見陳述・質疑が行なわれ,後述する3つの附帯決議をつけた上で,同委員会出席者全員の賛成で可決。女性議員を中心に,超党派による賛同を得て,同法案は参議院本会議で可決後,衆議院厚生労働委員会,同本会議を経て成立したもの。

男性助産師をめぐって

 なお,同法案の趣旨は男女共同参画社会の実現に向けたもので,日本看護協会をはじめ,名称変更を望む声も強かった。今春の国会では,男性助産師の国家資格化と抱き合わせで名称変更案が提出されたが,「男性に助産師への道を開くかどうか」で,マスコミを巻き込む大きな論争となり,法案は審議未了のままに廃案になった経過がある。今回提出されたのは,名称変更のみの改正法案であったにもかかわらず,男性助産師導入の是非に議論を多く費やしたのは,導入反対の立場からの「名称変更が男性助産師導入への露払いになるのではないか」との懸念があったためである。この問題をめぐる論点は次の2つに要約される。
 1)男女共同参画社会の実現をめざす立場から,男性が性別のみを理由に助産婦資格取得の道を閉ざされているのは適切ではない
 2)助産実習をはじめ,妊産婦に助産婦の性別を選ぶ条件整備ができていない現状で男性に門戸を解放すれば,結果的に権利侵害が起こる可能性がある
 前者は導入賛成側の論拠であり,一方,後者は導入に異を唱える人たちが問題にしている点である。
 以上のように,男性助産師導入の是非論は,ケアを受ける妊産婦の権利をどう保障するか,という問題を内包しており,それは自ずと現状の産科医療や助産婦教育の問題点を論じることにもなる。
 委員会が,参考人3名のうち,あえて男性助産師導入に否定的な意見を持つ2人の助産婦を招いたのは,単純に「賛成」「反対」を論議するのではなく,質疑を通して,むしろこのような問題の所在を明らかにしようとの意図があったからとも考えられないだろうか。
 坂口力厚生労働大臣をはさみ,南野知恵子厚生労働副大臣(助産婦)と,法案提出者でもある清水議員(看護婦),さらに,政府委員として坂東真理子内閣府男女共同参画局長も議員からの答弁に応じるなど,ひときわ女性パワーが目立った委員会での審議であった。助産・看護を取り巻く社会・文化の状況が,男性優位社会の代名詞とも言える政治の場で,公然と語られたのは異例のことと言えるかもしれない。
 同委員会では,その成果として,政府に適切な措置を講ずるよう,法案に次の3つの附帯決議をつけている。(1)出産に関するケアを受ける者の意向が尊重され,それぞれの者に合ったサービスが提供されるよう,必要な環境の整備に努める,(2)十分な出産介助実習ができるなど,助産師教育を充実する,(3)看護職能のそれぞれの機能充実強化に向け,教育環境の改善,人員増員などの施策を講ずる。
 今回は名称統一のみの改正で,男性助産師の是非をめぐっては棚上げの形となったが,早ければ明年の国家・都道府県試験の合格者には,それぞれ「保健師」「助産師」「看護師」「准看護師」の免許が交付されることになるかもしれない。