医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


予想される医療改革に向けての病院経営行動指針

医療改革の工程表
DRG & ICDは急性期病院の常識

川渕孝一 監修/川渕孝一,有馬秀晃 著

《書 評》堺 常雄(聖隷浜松病院長)

公表された「医療制度改革試案」への対処

 「聖域なき構造改革」が言われ,一方で日本の医療が制度疲労をきたしているという認識が持たれている中で,これからの医療制度がどうあるべきか,厚生労働省は2001年(平成13)年9月25日に「医療制度改革試案」を公表した。これに対して,財務省からは医療制度改革の論点が公表され,経済財政諮問会議でも議論がなされている。
 総じて厚生労働省への風当たりは強くなっているが,ひるがえって実際に医療を提供している現場は,どのように対処すべきであろうか。物事を受身にとらえるのではなく,自分たちから積極的に行動を起こす以外ないというのが実状であろう。そのような時期にタイムリーに出版されたのが,この『医療改革の工程表』である。監修・著者の川渕孝一氏は,すでに前著『DRG/PPSの全貌と問題点』,『DRG/PPS導入の条件と環境』(ともにじほう社)でおなじみであるが,今回は,DRG関連書の3冊目として東京医科歯科大学大学院医療経済学分野の有馬秀晃氏と共著での出版となった。

新しい病院経営ツールとしてのDRGへの理解

 本書は,DRGの基礎的な部分に言及した第1-2章と実践的な第3-4章からなっている。
 「第1章 いま何故DRGか」では,医療制度改革の中味が説明され,良質かつ効率的な医療の提供がなされなければならず,そのためには,「選択と集中」が必要であるという著者の持論が述べられている。DRGは,医療資源の利用状況やコストを「プロダクトライン」の観点から見ることができるため,「選択と集中」のツールとして適している。また,この章では,ICDコーディングの重要性についても言及されている。
 「第2章 DRGをいかに使うか」では,DRGのマネジメントツール,政策提言としての2つの役割について述べられている。ここでは,日医総研の第2次定点観測事業(病院ベンチマーク事業)の結果が紹介され,科学的根拠に基づく病院機能の分析がDRGによって可能であり,医療現場でDRGに積極的に取り組むべきであるという示唆がなされている。
 「第3章 DRG事業にどうすれば参加できるか」では,ICDコーディングの解説をとおして,コーディングがDRGにとっては,「命」であることが述べられ,ICDからDRGに転換する具体例が示されている。章末資料として,「第4次病院ベンチマーク事業」調査票が添付されており,各病院の積極的な参加を望むところである。
 「第4章 ICDに関する演習問題」では,実際の患者カルテから抜粋したケースをも とに,診療情報管理士が行なうコーディングについて臓器別に例題,解答,解説の順で述べられ,非常に理解しやすいものとなっている。また,ITを活用したコーディングの実践例も示され有益である。

深めたい「病院運営も科学」という認識

 医療制度改革に対して多くの医療機関は消極的であったし,なるべくなら自分たちの既得権を守り,影響が少なければよいという自分中心のとらえ方であったと思われる。しかし,本書で述べられているように「医療も聖域」ではなくなったのであり,医療の中心は,それを受ける利用者であるということを再確認する必要があるだろう。
 本書では,そのための「医療改革の工程表」が明確に示されており,医療機関のパフォーマンスを示すツールとしてのDRGの役割がよく理解できる。今まで病院の片隅で行なわれていた診療情報管理が,医療の質と効率の面から病院運営の表舞台に登場してきたと言えよう。その意味でも,本書は急性期病院をめざす医療機関の経営担当者のみならず,診療情報管理士にも必読の書である。まさに「選択と集中」が行なわれようとしている現在,行動の有無で医療機関の存亡が決まろうとしているのであり,本書を参考に速やかに行動を開始した いものである。さらには,今までの伝統的な病院経営指標ではない新しいツールとしてのDRGを理解して,病院運営も科学であるという認識を深めていただきたいものである。
B5・頁148 定価(本体3,000円+税)医学書院


四半世紀にわたり愛用された臨床検査の基礎読本

異常値の出るメカニズム 第4版
河合 忠,屋形 稔,伊藤喜久 編集

《書 評》渡辺清明(慶大教授・中央臨床検査部)

ますますブラッシュアップされた内容

 本書は第1版が1984年に出版され,以来25年間にわたり臨床検査の基礎読本として,多くの医師や技師に愛用されてきた。
 今回第4版が出版され,内容も感染症をはじめ最新の事象が加わり,前回の第3版より約60頁ほど増頁され,ますますブラッシュアップされた。具体的にはベンス・ジョーンズ蛋白,リンパ球表面マーカー,トロンビン時間,血清マグネシウム,ナトリウム利尿ペプチド,免疫グロブリン,補体,甲状腺自己抗体,感染症関連検査,エンドトキシン,HTLV-Iなどが新たに加えられた主な項目である。これらの最新の項目の追加により旧第3版に比し,かなり刷新されたものになっている。
 この本の特徴は,基本的な臨床検査について,どのような病態あるいは疾患で異常になるかを1つひとつの検査についてきわめて明解に解説してあることである。医療の現場では,患者を診察し現症をみて確診に至るが,その際スクリーニング検査を行なうことは診断に必須となっている。したがって,スクリーニングに用いる尿や血液検査の値を確実に読むことは非常に重要である。つまり基本検査値をいかに判読し,次の確定診断につなげるかは,疾患の診断や治療判定に不可欠なものである。まして,最近では医療経済の問題(検査の包括化)やリスクマネジメントの問題から,効率的で確実な臨床検査を行なうことがあらゆる方面から要求されており,この点はクリアすべき最重要課題の1つになっている。

把握できる無駄のない効率的な臨床検査の使い方

 最近では多くの臨床検査が利用できるようになったが,その半面1つひとつの臨床検査の適応や解釈について十分理解されなくなったように思う。したがって,決して有効でない検査計画が立てられ,無駄な検査依頼がなされる危険性が出てきている。このことは今に始まったことではないが,今まさに臨床検査の基本的な使い方の十分な理解が必要な時代となっている。
 本書を読めば,初期診療や再診時にどのように臨床検査を解釈すれば,医学的にもまた医療経済的にも無駄のない効率のよい臨床検査の使い方ができるかを容易に把握できる。
 また,最近医療にはEvidence-Based Medicine(EBM)が大切と言われている。臨床検査は客観的数値を医師に与えるため,患者病態をとらえる恰好なevidenceとなっている。しかし,いくらすばらしいevidenceがあっても,その読みが甘ければ大したevidenceにはならない。そこで,「臨床検査で異常の出るメカニズム」をよく知り,診断のために確実に検査値を利用することが求められている。そういう意味で,ぜひ本書を一読されることをお勧めする。なぜなら臨床検査の本は多くあるが,異常値の出る機序を掘り下げて,重点的に記載してある本は非常に少ないからである。
 このような臨床検査の基本知識は,医学生のみならず,研修医,一般実地医家など実践で活躍する医師に不可欠であるので,本書を生涯教育の伴侶として利用すれば大変有益と思う。
B5・頁416 定価(本体5,800円+税)医学書院


「家族」と「業界」に風穴を開ける型破りなケアの本

〈シリーズ ケアをひら〉
病んだ家族,散乱した室内
援助者にとっての不全感と困惑について

春日武彦 著

《書 評》風野春樹(東京武蔵野病院・精神科)

 『ロマンティックな狂気は存在するか』『顔面考』など一般向けのエッセイでおなじみの著者の新刊は,精神病や痴呆の患者の家庭を訪問する保健婦や福祉関係者向けの本。しかし,難解な専門書かと言えばそうではなく,今までの著者の本と同様,生き生きとした実例や新聞記事などを交え,シニカルな雑談口調で書かれているので,専門職でない一般読者も興味深く読めるはず。

やっぱり秋はサンマだねえ??

 さて唐突だが,漫画家・吉田戦車の最近の作品にこんな4コママンガがある(ギャグマンガを文章で説明することほど難しいことはないのだが,まあお付き合い願いたい)。
 道を歩いている主婦に「サンマが旬だよ!」と声をかける魚屋。「じゃあいただくわ」と主婦。しかし家に帰ってきた主婦は,サンマを花瓶の中に活けるのである。「やっぱり秋はサンマだねえ」と,花瓶に入れたサンマを満足げに眺める,サザエさん風のいかにも幸せそうな家族。「どこがいいのかわかんないよ」とふてくされる子供には,「子どもにはこのよさがわからないか」と父親が笑う。そして最後のコマで,「ほかの家ではサンマは食べるものだと知ったのは大人になってからだった」と独白が入るである。
 本書を読んで私が思い出したのは,このマンガである。吉田戦車のギャグが分裂病的だと指摘したのは精神科医の斎藤環だったけれど,このマンガで吉田戦車は,家族というもののブラックボックス性を描き出しているように思える。

表立って話題にされなかったことばかり

 「家」とは,不気味でグロテスクな空間である。もしかすると隣の家では,花瓶に挿したサンマを鑑賞しているかもしれない。もしそうだとしても私たちにはわからないし,当人たちも自分たちの常識が間違っているとは少しも思っていない。「家」という閉空間は,外部の社会とはまったく違ったルールで支配されていることがあるのである。そしてこれは,『屋根裏に誰かいるんですよ』からつながる著者の家族観でもある。そうした家族観を踏まえ,本書ではさらに踏み込んで,患者の「家」を訪問する援助者向けのさまざまな具体的な提言が記されている。例えば,精神病患者を「こわい」と感じるのは当然のこととか,嫌悪感や恐怖,困惑を覚えたとしてもそれを1人で抱え込まず,同僚と共有すること(これは精神分析でいう「逆転移」の利用にあたりますね)とか,患者に嘘をつくのは許されるのか,などなど。確かに重要なのだけれど,今まであんまり表立って話題にされなかったことばかりだ。

「使命感より好奇心」の新鮮さ

 そして,これがこの著者らしいところだと思うのだけれど,援助の仕事をしていて無力感を感じずにすむために必要なのは「好奇心」だと著者は強調するのである。使命感だけでは楽しくないし,ゆとりは生まれない。そうではなく,患者の独自の奇矯な論理やエキセントリックな性格に驚きを感じること。対象に没入するのではなく,距離を置いてみること。ケアというと「共感」を重視したり妙に生真面目に構えたりする人が多い中,これは実に新鮮な結論だし,私も共感を覚えた。そう,興味や好奇心がなくては,こんな仕事やっていられない。
 非常に実践的であると同時に,読み物としても抜群におもしろい本である。ただ,中には,「好奇心」だなんて不謹慎だ,と憤る人もいるだろうし,「民宿が嫌い」と書いたり,自らを「偏屈でエキセントリック」と書いたりする著者のスタンスをあまりに露悪的だと思う人もいるに違いない。福祉や医療の業界には,生真面目な人が多いのだ。そして,業界に限らず,患者やその家族への「好奇心」などと口にしようものならと不謹慎と言われかねないのが今の日本なのだ。やれやれ。
 フランクで型破りなケアの本である本書が,そんな窮屈な状況に風穴を開けてくれればいいのだけれど。
A5・頁224 定価(本体2,200円+税)医学書院
(*評者ホーム・ページ:「サイコドクターあばれ旅」http://member.nifty.ne.jp/windyfield/


いわゆるグリーンブックに準拠した臨床実地問題集

画像診断グリーンブック問題集
Eric P. Tamm 編集/荒木 力 監訳

《書 評》福田国彦(慈恵医大教授・放射線医学講座)

 本書は,Wolfgang Dahnert博士の『Radiology Review Manual, 4th Edition』,いわゆるグリーンブックに準拠した問題集である。骨軟部に始まり核医学までの画像診断全領域を,10章の項目立てで構成している。

網羅された的を射た設問

 本書の特徴は,臨床実地問題集の形式をとっていることである。いずれも簡単な症例呈示,診断,鑑別診断および関連事項のグリーンブックにおける掲載頁が囲みコラムで示され,続いて呈示疾患に関連した設問とその解答とが用意されている。症例呈示は,2-3行の短いものであるが,われわれ放射線診断医にとっては,この程度で十分である。かえって,余分なことが記載されていないので,短時間で読み進むにはちょうどよい。症例の背景を頭に入れることで,後に用意された5-6問の設問に対する興味が増し,問いかけに対する自分の答えと用意された解説とを比較しながら,自己チェックができる。専門医試験やフェローのプログラムを終えて間もない放射線診断医が執筆を分担しているだけに,設問は試問でいかにも聞かれそうなことが的を射て網羅されている。
 本書は,短時間に放射線診断全体の概観をとらえ,自己チェックを行なうには最適の参考書である。これだけの内容を学ぶには,通常,大変な苦労を要するが,臨床実地形式の問題集であるために興味を持ち続けながら読み進むことができる。本書は,グリーンブックのように読影室に1冊といった類の本ではない。研修医やレジデントでこれから放射線診断を始める人,専門医試験の受験勉強を開始する人,自分の知識を再確認し整理したい人,それぞれが各自1冊購入する本である。
 あえて難点を指摘させてもらえば,あまりに要領のよい構成のため,症例の説明文と同じ囲みコラム内に診断と鑑別診断とがあり,考える間もなく診断名を知ってしまうことである。しかし,このような構成は短時間に多くの情報を効率的に読み取れるように意図した著者の工夫とも受け取れる。たしかに,このほうが読む側にとっては効率がよい。幸いソフトカバーで携帯に手ごろなサイズである。症例の画像もない。したがって,電車やバスの中,あるいは仕事の合間に読むことも可能である。全部で441問。1日10問こなせば1か月強で読破(とらぬ狸の皮算用?)。そうなれば,5,400円はこの上ない安い買い物である。
A5変・頁436 定価(本体5,400円+税)MEDSi