医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


日本における硝子体手術のバイブル的存在

硝子体手術入門Book & Video
竹内 忍,荻野誠周,樋田哲夫,小椋祐一郎,田野保雄 編

《書 評》根木 昭(神戸大教授・眼科学)

 硝子体手術の技術革新はめざましく,適応の拡大とともに手術件数は飛躍的に増大し,日常診療に欠かせない手段となった。しかし,その技術の習得は施設ごとの徒弟制度や個人的な学習によることが多く,手術機器や手技の原理,基本操作の標準から系統的に解説した和文手術書は驚くほど少ない。

待望の硝子体手術解説書

 私が研修医の手ほどきに使用しているのは,田野保雄氏と壇上眞次氏が訳したMachemer,Aabergの『硝子体手術』(医学書院)であったが,1984年の発行でありいささか古すぎる。本書は,以前に確実な網膜復位をめざして『網膜剥離の手術』(医学書院刊)を著したメンバーが中心になって編集された待望の硝子体手術解説書であり,手術ビデオもついている。
 前半は,機器の説明と基本手技の解説である。汎用されている最新の機器の写真が多数掲載されている。硝子体切除器やレーザー装置など大型機器の機種による性能,利点の比較や,多種多様な剪刀,鉗子,照明器具類などの各小物の特徴まで述べられていて実践的である。基本操作は,明快な図で示されていてわかりやすい。また,各手技について,してはいけないこと,したらどういうことが起こるかが述べられていて,一読して正当な手技の理由が理解できる。さらに,この部分については付属のビデオに実際の手技が収録されていて,まさに一見して操作の要点を具体的に捉えることができる。

豊富な経験に裏打ちされた適応基準

 後半では,各疾患ごとの病態,適応,手技,成績がまとめられている。疾患によっては,従来不鮮明であった適応についても,豊富な経験から確認された積極的適応と不適応の条件が明解に示されているのが特徴である。
 手技については,硝子体手術の黎明期から携わっておられる各執筆者が,自己の体験から術中,術後の合併症をいかに減らすかという視点に重点を置いて,各手技における注意点をその理由も含めてきわめて懇切ていねいに解説してあり,大変興味深い。
 安易な硝子体手術適応に対する警告もあり,本書の編集理念を伝える必読の書である。成績についても,最新の長期成績を扱ってある。最後に比較的よく遭遇する合併症とその対策,予防が簡潔にまとめられている。
 本書では,黄斑移動術など,まだエビデンスの不十分な術式は避け,代表的な疾患を主体に扱ってあり,その意味で入門書となっているのだろうが,内容的には硝子体手術を手がけ始めた人,助手につく研修医はもちろんのこと,熟練者にとっても自分の技術を見つめ直し,また確認するのに絶好の書と言える。わが国の硝子体手術のバイブル的存在になると思う。
B5・頁224 定価(本体22,000円+税)医学書院


内視鏡検査を目で理解させる編集

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
上部消化管

芳野純治,浜田 勉,川口 実 編集

《書 評》丹羽寛文(聖マリアンナ医大客員教授・日本消化器内視鏡学会理事長)

 芳野純治,浜田勉,川口実の3氏の編集によって,このたび若手の研究者を執筆陣とした『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-上部消化管』が上梓された。
 本書の内容は,「内視鏡検査に必要な解剖」,「正常所見」の解説に始まって,「内視鏡検査の歴史」,「検査にあたっての心構え」,「偶発症」,「前処置」,「内視鏡の挿入法」,「観察法」などの基本事項を簡潔に示した後に,「所見からみた診断へのアプローチ」の章が続き,さらに続いて「生検の基本」,「種々の疾患の分類」などが示されている。

「所見からみた診断へのアプローチ」に重点を置いて

 編者らが序文に述べているごとく,本書は内視鏡像という与えられたデータをまず大まかな主要所見別に分解し,詳細に解析した上で再度総合的に考え,最終診断に至るまでの道筋を解説すべく企画されたとあって,多数の内視鏡像を用いて,主要な特徴的所見を中心に,似た所見を示すいろいろな疾患の内視鏡像を提示して,診断過程を読者に理解させることに主眼が置かれている。したがって,疾患ごとにまとめた内視鏡所見の解説ではなく,同一の疾患でも特徴的な内視鏡所見を複数個示すものでは,そのような所見別にみた考察過程が述べられている。このような編集方針から,本書の中では,特に「所見からみた診断へのアプローチ」の章に重点が置かれ,各臓器別に,主要な内視鏡所見のいくつかが取り上げられ,まずこの所見に注目し,考えを進めることで疾患相互の鑑別の要点が会得できるように構成されている。
 個々の内視鏡像については,必要な着目点,鑑別上の要点が巧みなシェーマで示され,さらに適宜X線像,組織像も提示して,疾患の懸念も理解できるように工夫されている。

短時間に効果的に学べることを配慮

 このように画像による所見の把握を中心に据えたのは,編者らが述べるがごとく,いろいろな疾患を経験するには膨大な時間と労力が必要であるものの,現実の大学,一般病院での研修医としての勉学,習練過程では,このことは難しく,多忙な読者の勉学の一層の能率化を図り,日常臨床に直結した主要な疾患について短期間に効果的に学べることを配慮したためと理解される。しかし重要な疾患のみでなく,まれな疾患もある程度取り上げられており,上部消化管疾患の全般の知識を整理する上での事典的な役割も果たせるような考慮も払われている。
 確かにこのような書物の編集は,非常に難しいところである。特に最近の若い人は,細かい説明をなかなか読もうとしないので,徹底的に画像を中心に主要な所見を繰り返し提示して目で理解させようという編集方針は,内視鏡検査に携わる人々の裾野が非常に広がっている現在を考えると,まことに時宜にかなったものであり,その意味で本書は十分目的を達し成功したと言えるであろう。しかし,画像を見てその所見の取り上げ方を十分理解できるのは,かなり検査に習熟し,それなりに知識を持った読者でなければできないことでもある。したがって本書の読者対象は,初心者ではなく,ある程度内視鏡の現場で経験を積んだ人々と思われる。
 本書は,このような読者が,実際の診療の場で,ある所見を見出した場合に,類似の所見を呈するいろいろの疾患を念頭に浮かべ,鑑別診断を進めるために,必要な資料を具体的に示したアトラスとして使うのが,最も効果的な使い方と思われる。この意味で,日常臨床に非常に便利な書物であると思っている。しかし,局所的な病変の背景としての正常胃粘膜の集合細静脈の所見や,胃炎の細かい所見などは,画像だけでは理解はなかなか難しく,文章での説明を加えてほしいようにも思う。この点はいずれ改版の折にでも,書物としての基本骨格はこのままに,もう少し説明をつけ加えていただければ,初心者から専門家までを含めたより広範囲の読者にとって,一層有用な書物になるのでないかと思っている。
 それはさておき,本書は内視鏡検査に携わる方々にとって,格好な参考書であることは間違いなく,座右に備えるべき書物としてお勧めする次第である。
B5・頁336 定価(本体12,000円+税)医学書院


在宅医療を「本質を踏まえて」はじめよう

〈総合診療ブックス〉
はじめよう在宅医療21

渡辺 武 監修/英 裕雄,山中 崇,川畑雅照 編集

《書 評》佐藤 智(日本在宅医学会長)

 この本の最初の「監修のことば」に,「QOLの向上とともに如何にして死を迎えるかというQOD(quality of death)の領域に至るまで関係する人々の心の持ちようが問われています」と書かれてあります。
 感動をもってここを読ませていただきました。私は30年前から在宅医療に携わってきましたので,多くの本を読み,自らも書いてきましたが,QODを正面から取り上げようとされた著書は初めてです。
 現在は,在宅医療の技術,知識が問われていますし,それに対する情報も膨大になりつつあります。それらを吸収することは並大抵ではありません。

医療は在宅医療が基本

 本書は,それぞれの専門分野で27人のドクターが工夫して,具体例を出しわかりやすく書かれています。在宅栄養,在宅酸素,在宅人工呼吸療法など,現在行なわれいるものがやさしく説明されており,通読するだけでなく,座右において折りに触れて開いてみると役立つことが多いと思います。
 病院医療と在宅医療の大きな違いは,患者さんのお宅で1人で対決しなければならないということです。不勉強であればただちに患者さんに跳ね返ります。また「密室化」しますので,audit(評価)されることが病院のようにはありません。しかし,歴史的には,医療は在宅医療が基本で,患者・家族と医師の信頼関係の中で相互にauditしていたと思います。
 日本のように病院信仰が強くなり,病院一辺倒の国は他にはありません。これからの日本の医療は,本書に書かれたような技術を駆使しながら,患者さん方との間に信頼関係を築いていきたいものです。
 残念ながら本書には,QODの具体的な記載はありませんが,次版には在宅医療の本質に迫るQODが加わることを切に願っております。
A5・頁232 定価(本体4,000円+税)医学書院


臨床検査技師のための一級の教科書

〈臨床検査技術学 全17巻〉
12 微生物学・臨床微生物学 第2版

菅野剛史,松田信義 編集/賀来満夫,他 著

《書 評》播金 收(医療技術学校講師・環境調査会社顧問)

 『臨床検査技術学 12 微生物学・臨床微生物学 第2版』を見ての所感を述べさせていただきます。
 結論から申し上げれば,臨床検査技師,微生物検査担当40年以上の筆者にして,その内容の学術的レベルにおいて,当該内容の国内刊行図書としては第一級のものであると言えるでしょう。ある意味では,本邦における臨床細菌学の教育レベルがここまで高揚されてきたことに対する,驚異と尊敬の両念を禁じ得ません。執筆者の先生方のすばらしさをよく存じているだけに,納得できるまで読ませていただきました。
 顧みれば,1958年に衛生検査技師法が施行され,medical technologistの養成が急務となりましたが,当時,順天堂大学名誉教授であられた,故小酒井望先生が監修されていた『衛生検査技師講座』(医学書院刊)の中の細菌検査編が私の記憶の中にあります。臨床細菌学を自分で意識し,検体別細菌検査法を実施したものです。それ以前の教科書としては,当時の東京大学伝染病研究所(現在の東大医科研)刊行の『細菌学実習提要』を参考書として使用した経験があります。
 その後,1967年に俗に『赤本』と呼ばれる『臨床検査学講座』の初版が東京医科歯科大学名誉教授の清水文彦先生の編集で医歯薬出版から発刊されました。この本は後に,橋本雅一,岡田淳両先生の編集で改版されましたが,この初版の「臨床微生物学」の原本となったBailly and Scottの原著『Diagnostic Microbiology, 2nd edition』を読んで,当時としては最高級の臨床細菌学の教科書だと思ったものです。
 その後,本講座の教科書は著者が徐々に変わり,橋本,岡田両先生を除くと,私にはあまりお名前の存じ上げない都立衛生研OBの先生方の執筆が多くなり,当初に比べて内容が相当変化しているようです。

今後の医学細菌学教育

 ところで,今回改版された医学書院の『臨床検査技術学・c02d・微生物学・臨床微生物学 第2版』は,学会でよくお見かけもし,私もよく存じあげている現役の大学教授や,また個人的にも親しくさせていただき,その学識経験,人格ともに誇り得る2人の細菌学専門のmedical technologistが執筆者であるだけに,今後の医学細菌学教育の上で1つの大きな転機の要因になり得るものと確信できます。
 特に巻頭のカラーグラビア,コロニーと顕微鏡写真のコントラストは,今までにないすばらしさです。また,検査内容,同定内容の諸反応の記述にしても,外国文献の直訳ならばいたずらに反応系testのみの羅列が多く記載されていたものですが,本書では重複するものはできる限り省略化され,必要なものだけをselectしたideaは,原本の内容を推察でき,すばらしい着想だと思います。
 あえて提言を述べるならば,使用外国語の片仮名表記(日本語訳)の発音部分に英独混合が多いように感じます。例えばStaphylococcus epidermidisなど,スタヒロコッカスエピデルミーデスなのかエピダーミージスなのかわからない書き方をするより,きちんとした英語読みの仮名使いにするべきではないでしょうか。医療を学ぶ学生たるものは,これくらいの横文字が読めなくてはいけません。外国語の仮名書きは原文で表示すべきでしょう。
B5・頁424 定価(本体6,000円+税)医学書院


すばらしい面接技法の知識を持った医師に

15分間の問診技法 日常診療に活かすサイコセラピー
Marian R. Stuart,Joseph A. Liebermann III 著/玉田太朗 監訳/佐々木将人,他 訳

《書 評》山本和利(札幌医大教授・地域医療総合医学)

大きくものを言う面接技法の習得

 現代医療は,問診や身体診察よりも高度医療機器への依存を強めている。将来においては,このような傾向が是正され,問診や身体診察を重視するプライマリ・ケア医と高度医療機器を自在に使いこなす各科専門医とが車の両輪のごとく量的・質的にバランスをとって実践していくべきであろう。そのためには専門医はさておいて,プライマリ・ケア医にあっては,最低限必要な3領域の知の枠組み習得が不可欠となる。それは,患者と疾患に対する知識・技能,家族・地域に対する知識・技能であるprimary care medicine,医療に対して科学的に取り組むevidence-based medicine,患者の背景や生き様を重要視するnarrative-based medicineである。これらを統合して用いることにより「患者中心の医療」が展開されると信じている。
 このような視点で医療を展開するためには,患者との間に良好な人間関係を構築することが不可欠であり,そのためにはしっかりとした面接技法の習得が大きくものを言う。
 そこで,外来や病棟で患者の訴えにどう対応してよいのかわからず,苦慮している研修医,プライマリ・ケア医にこの本を勧めたい。その理由として,以下の4つの点をあげよう。
 まず,第1には,これまでの疾患指向型医療モデルの限界と新たなパラダイムに対応した医学モデルが記されている。Thomas KuhnやI. R. McWhinney,George Engel,William Osler,Norman Cousinsなどの著名な科学哲学者,家庭医,内科医,精神科医,ジャーナリストの思想に触れることができるだけでも一読の価値があろう。
 第2に,プライマリ・ケア医と精神科医の治療へのアプローチの違いを認識でき,これまで持っていた精神科への依存的態度が払拭できる点である。単に専門医に紹介すればよいとするようなこれまでの考えと決別し,逆に精神科に紹介するよりプライマリ・ケア医が診たほうがよいとする根拠が列挙されている。
 第3に,読了直後から臨床に応用できる方法論が身につく点である。覚えるのも簡単で,BATHE法といい,Background(背景),Affect(感情),Trouble(悩み),Handle(処理),Empathy(共感)の5つの構造化した質問をすればよいのである。
 第4に,診療の流れや治療の構造が理解できるようになる点である。読み進んでいくと診療の流れ・治療の構造が理解できるようになる。まずBATHE法を用いて心理的介入を組み入れ,患者を支持しながら複雑な問題に対応していく方法が,また,急性疾患と慢性疾患とでは用いるモデルが異なることにも触れながら,要所要所に事例をあげ,具体的な対応が記載されている。

面接技法を身につけた医師に生まれ変わる

 上級医師には特殊な患者の診察法として,難しい患者(difficult patients)の取り扱い方が記載されており,参考になる。例えば,不安患者の治療としてAWARE法を紹介している。最後に,バーンアウトしないための「医師自身が生き延びるための12のルール」も真面目一辺倒の医師には参考になることであろう。
 タイトルは難しそうであるが,気楽に手にとってみてほしい本である。そうすれば,3時間後にあなたはすばらしい面接技法の知識を身につけた医師に生まれ変わっているはずである。
A5・頁280 定価(本体3,000円+税)医学書院


胸部画像診断の実力確保に最適

ケースレビュー 胸部の画像診断
P. M. Boiselle,T. C. McLoud 著/蜂屋順一 監訳

《書 評》宗近宏次(昭和大附属病院長/放射線科教授)

 P. M. BoiselleとT. C. McLoud共著の『Case Review:Thoracic Imaging(ケースレビューシリーズ)』がこのたび,蜂屋順一先生の監訳で『ケースレビュー胸部の画像診断』としてメディカル・サイエンス・インターナショナル社から出版された。
 本書の特徴を列挙すると以下のようになる。(1)150例の特徴ある胸部画像の症例提示,(2)診断の難易度から「入門編」,「実力編」,「挑戦編」の3編に症例を分類,(3)症例ごとに設けた画像診断のポイントに関する設問,(4)提示症例の診断と各設問に対する解答,(5)疾患と画像診断に必要な事項,鑑別診断などについての解説,(6)さらに詳細を必要とする読者のための参考文献。

自己学習に有効で効率的な教材

 症例カンファレンスまたはフィルムリーディングでは,症例の既往歴と画像を提示して,そこで見られる画像所見から鑑別すべき疾患を検討し,最終的に診断に到達する過程において画像診断学を勉強する。本書は,その胸部編を1冊の本にした感じがする。提示されている画像は,胸部単純X線,CT,高分解能CT,MRI,血管造影など多くのモダリティにわたる。それらの画質もよく,厳選された画像でむだなものがない。設問は画像診断に必要な重要ポイントを抑えたもので,正解できればかなり正確な知識を持っていると自己評価できる。それらの設問内容は,実際の症例カンファレンスでもポイントになるものなので,それらに答えていると,あたかもカンファレンスに参加しているかのように,読者を正しい診断へとナビゲートしてくれる。この種のケースレビュー本を成功させる鍵は,解説よりもむしろその設問内容にあると思われる。
 症例ごとに表頁に画像提示と設問,そして裏頁に診断,設問に対する解答,解説,参考文献という構成でできているので,好きな頁を開いて自己の診断能力を評価してみるのもよい。索引から疾患名を調べ,その解説を読めば,通常の胸部画像診断のテキストブックとして用いることもできる。
 本書をティーチングファイルとして考えて,胸部疾患ティーチングファイルの150症例をレビューすれば,相当な実力が身についたことになる。本書は,自己学習による胸部画像診断の実力確保に最も有効で効率的な教材になると思われるので,放射線科の研修医にはぜひ一読を勧めたい1冊である。
A4変・頁192 定価(本体5,800円+税)MEDSi