医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護者自身の手によるリハビリテーション看護の実践

困ったときのリハビリテーション看護
泉キヨ子 編集

《書 評》野々村典子(茨城県立医療大教授・看護学科)

 本書は,リハビリテーション看護領域のベテランナース35名の執筆によるものである。リハビリテーション看護場面での「困ったとき」を臨床ナースにあげてもらったものが目次立てになっている。この「困ったとき」は,どの看護領域にも共通している視点である。

テキストを超えた実践的内容

 まず,目次を読み,関心のあるところから読み始めてみるとよい。例えば,「排泄自立のための援助」の章では,患者の状況として,排尿障害のある脊髄・頸髄損傷患者,排泄動作の困難な片麻痺患者,排尿自立の必要な脳血管障害患者が取りあげられている。しかも,それぞれの状況と問題点がコンパクトに整理されており,問題解決のための対策もベテランナースならではの,テキスト的な内容を超えた実践的なものが記されている。また,事例紹介では特徴的な事例があげてあり,ますますわかりやすい内容となっている。
 全体の項目立ては,リハビリテーション看護において重要で,かつ必要な項目になっており,「第1章 患者のリハビリテーション意欲を高めるための援助」,「第2章 摂食・嚥下障害の援助」,「第3章 排泄自立のための援助」,「第4章 転倒・転落を防ぐための援助」,「第5章 コミュニケーションのとりにくい患者への援助」,「第6章 苦痛や訴えに対する援助」,「第7章 とくに指導の必要な患者・家族に対する援助」で構成されている。

臨床実践に根ざした看護の視点

 編者の泉キヨ子氏は,10年間の看護実践を基として教育研究職になられたというご経歴が示すように,看護実践に価値をおいた教育研究活動をされている。聞くところによると,手術室看護の急性期からの看護に端を発して,高齢者を中心としたリハビリテーション看護領域へと研究を進められている。そして,第27回日本看護研究学会の会長講演で「人間の持てる力を引き出すリハビリテーション看護学の追究」を講演された。その編者による本著は,臨床実践に根ざした看護の視点が強調されていて説得力がある。書名からの印象では,リハビリテーション看護領域で働くナースを対象としているように受け取られるが,内容は書名とは異なり,どの看護領域へも活用でき,看護基礎教育においてもよい教材となっている。
 昨今,リハビリテーション看護に関する著書が相次いで発刊されている。特筆すべきこととして,看護職のみの執筆によるものが増えてきていることである。しかも本書のように,看護実践者によるものが多く執筆されていることがあげられる。このことは,リハビリテーション領域での看護者自身が看護の役割機能を明確にし,看護のスペシャリティを追究していくために重要なことと考える。
A5・頁252 定価(本体2,800円+税)医学書院


QOL尺度の研究・開発そして活用に向けて

臨床のための
QOL評価ハンドブック

池上直己,福原俊一,下妻晃二郎,池田俊也 編集

《書 評》小出里美(順天堂医療短大・看護学科)

医療の評価としてのQOLの重要性

 今日,医療の評価としてQOLの重要性が叫ばれている。しかし,このQOLが人間の身体,心理,社会,家族も含む広範囲な概念であることから,それぞれの考えでQOLについて述べられていることが多い。
 本書では,第1部を「総論編」として,医療の評価としてのQOLをどのように概念化していくのか,QOLの定義,基本的構成要素,QOLの測定について述べられている。QOL尺度の開発にあたっての概念から,計量心理学などの学問体系として必要な項目についてまとめられている。
 第2部は「包括的尺度」として,さまざまな疾患を持つ人や一般に健康と言われる人々に共通する要素によって構成されるQOL尺度であるSF-36やEQ-5Dなどについて述べられている。
 第3部は「疾患特異的尺度」として,がん,呼吸器疾患,糖尿病,腎疾患,泌尿器科疾患,消化器疾患,精神科領域,神経内科疾患,リウマチ疾患,骨粗鬆症といった疾患の特徴をふまえたQOL尺度について述べられている。第2部の「包括的尺度」,第3部の「疾患特異的尺度」では,これらの尺度について,実際にどのようなものがあり,これらの尺度がどのように開発されていったのか,尺度の内容や尺度を用いた研究例,尺度の使用方法などが,1つひとつ具体的に紹介されている。

QOL尺度の理解・使用に重宝

 QOLの評価に用いられるQOL尺度には,その使用目的により多くの種類が開発されている。これらの尺度の開発には,多くの研究者たちの長い年月がかけられている。それは単なる測定に終わるものではなく,比較できることが必要であり,それも国際比較できることが重視されているのである。また,それらの日本語版作成にあたっても,信頼性,妥当性,反応性を検証するために多くの時間が費やされている。QOLを評価するにあたっては,これらのQOL尺度を熟知し,その目的に応じて尺度を選定していかなければならない。本書には,これらのQOL尺度の理解や使用していく際の留意点などがわかりやすく記述されており,重宝するハンドブックになると思われる。QOLをどのようにとらえ,どのように測定していくかにあたっては,個々の概念ではなく,多分野の専門家,研究者たちによる共通理解や共通認識が必要である。その上で,今後のよりよいQOL尺度のあり方や改良を考えていくことが望まれる。
 QOL尺度が研究者による研究にとどまらず,多くの臨床家がそのことを理解し,彼らもまたその研究チームの一員として関与できるとよいと思う。特に看護職としては,医療の評価のためのQOLだけでなく,具体的に患者にもフィードバックされるQOL評価であるように望みたい。よりよいQOL尺度の研究・開発,さらには患者への活用に多くの看護者が関与できることを願い,看護職にも本書を強く推薦する次第である。
A4・頁160 定価(本体2,800円+税)医学書院


「神経学は難解」の通念に挑戦した,神経学の手ほどき書

〈JJNブックス〉
絵でみる脳と神経 第2版
しくみと障害のメカニズム

馬場元毅 著

《書 評》寺本 明(日医大教授・脳神経外科学)

 「神経学は難解である」と思われている。神経学はその論理性ゆえに,ある程度論理が飲みこめるまでは理解がしづらい。さらに,脳はその解剖が複雑である。
 そのため,神経系の構造と機能をわかりやすく解説しようとする試みが数多くなされてきた。しかし,図解にしてもカラーアトラスにしても,どれひとつとして通常の教科書の記述の域を出ていない。ただ図表を多くしただけのものが大半である。

自らの言葉と絵で理解させようというあふれる意気込み

 このような従来の成書と大きく異なるのが,このたび上梓された,馬場元毅著『絵でみる脳と神経-しくみと障害のメカニズム第2版』である。
 馬場氏は,数多くの難手術を手がけてきた現役の脳神経外科医である。外科医としての名声はつとに高い。加えて氏は天賦の才ともいうべき絵心があることでもよく知られている。そのため,脳神経外科の分野ではいわゆる手術アトラスを多数手がけてこられた。
 30年余の現場臨床経験と絵心という背景に加えて,馬場氏に特筆すべきは,教育熱心ということである。いかに有能な臨床医であり,仮に絵が上手であっても,教える気のない人にはよい本は書けない。本書には,何とか読者に理解させようという氏の意気込みがあふれている。
 本書は,ほぼ馬場氏の単独執筆である。図も著者のサインでわかるとおり,大半は氏の手によるものである。すなわち,本書の内容は,熟達した脳神経外科医が自ら習得した膨大な知識や経験を十分咀嚼した上で,自らの言葉と絵でもって著わしたものと言える。これらは,臨床神経の現場で働いている者に共通の基本知識であって,特殊な専門領域のそれを除けば,本書のレベルがスタンダードと考えてよい。ただ,わかりやすく記述するとは言っても,専門用語など一部には平易にできない部分もある。本書で興味を持たれた方は,さらなる解説書にあたられればよいであろう。
 本書の第1版は,主にナースを対象としていたと聞く。前述したごとく,第2版の内容をみると,ナースやコメディカルの方々をはじめ,医学生や研修医にも適した神経学の手ほどき書である。何らかの形で神経分野に携わるすべての医療関係者に,本書をお勧めする次第である。
AB判・頁238 定価(本体2,400円+税)医学書院