〔連載〕How to make <看護版>
クリニカル・エビデンス
-その仮説をいかに証明するか?-
浦島充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)(前回,2459号よりつづく)
〔第7回〕ディザスターの看護(2)
爆発傷害
爆発による傷害の程度は,当然爆発の程度と被害者のいた距離によりますが,周囲の状況も大きく関与します。被害者が,爆発した場所とビルの間にいた場合には,その被害は2-3倍ひどくなりますし,水中での被害も空中と比較して重症になります。実際,オクラホマ事件(前号,2459号参照)の際もビル外で犠牲者が出ています。また爆発による性急かつ強力な圧力の後,陰圧が発生します。これを「サクション・フェーズ」と呼びますが,例えば爆発によって割れた窓ガラスの破片が爆発とは逆の方向に飛散する可能性があることをさします(図参照)。
ショック波は物質を通過する際,物質の密度が大きく変化したところで大きな影響を及ぼします。よって空気と水の混在する肺(呼吸器),耳(鼓膜),消化管が最も影響を受けます。鼓膜が破れる10倍程度の強度の爆発で,肺出血を来たします。これは,圧によって水は縮まず,空気は容易に縮むという性質があるため,肺の毛細血管が破れてしまうからです(下表参照)。
表 サクション・フェーズによる圧力と障害の程度 | ||||||
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また,爆発物の破片による傷害にも注意しなくてはなりません。秒速1.5mもあれば,破片は皮膚を容易に貫きます。テロリストなどの爆弾によって飛ぶ破片の速度は,秒速15mにも及びます。そのために,ヒトの内臓も貫通しますし,手や足を失うことさえあります。さらに第3の被害は,被害者が吹き飛ばされて硬い地面などに叩きつけられた時に発生します。秒速10mの速度でコンクリートに落下すると,死亡率は50%にもなります。
その他の傷害としては熱傷があります。一瞬ではありますが,爆発物の周囲は3000度にも達することがあり,これを吸えば肺の障害を,外部であれば皮膚の熱傷を来たします。衣服はこの一瞬の高熱を防ぐことができますが,熱傷は皮膚の露出部,すなわち顔や手になります。
1987年バルセロナの爆弾テロでは,2次的に火災を発生し,多くの熱傷患者が出ました。また1993年の世界貿易センターの爆破テロ時には煙の吸引が問題となりました。
今回の米国同時テロでは,衝突した飛行機が多量の燃料を搭載しており,爆発の際の火炎は鉄骨をも溶かすほどでした。多くの人はこの火炎とガス,そしてビルの倒壊により亡くなったものと思われます。また,脱出した人,周囲にいた人に関しても倒壊時,小破片による眼の外傷等が問題となっているのではないでしょうか?
爆発時の知っておくべき一般治療
爆発の際の医療は通常と異なります。しかも爆発による犠牲者への治療を経験している医師はまれです。しかし,知っていると知らないでは大きな違いを生じます。つまり,初期トリアージが特殊かつ重要であり,その後の看護の質が犠牲者の予後を決定づけるとも言えるのです。爆発による被害者は,一見交通外傷と類似点が多いのですが,明らかに異なる点を持っています。特に外傷感染のおそれは大きいものがあり,ガス壊疽のリスクが高いのが特徴です。よって傷口を十分きれいにする必要があり,もしも筋肉まで外傷が及んでいる場合には最初から縫い合わせることをせず,5日ほどそのままの状態に保ち,その後に縫合します。破傷風トキソイド(ワクチン)と抗生剤(飲み薬)も使用したほうがよいでしょう。とにかく,小さな傷と思っても十分な医療を施すべきです。
破片が身体に突き刺さるために生じる傷害は最もよく見られることです。レントゲン写真は破片がどこまで達しているか知る上で有用であり,皮膚に6 mm以上深く刺さっている場合は動脈損傷を考えるべきです。安易に破片を抜くと血が吹き出ることがあります。
頭部外傷がなくても頭蓋内出血はあり得る
脳脊髄損傷は,爆発の際の最も多い死因です。破片が脳内に達することもありますが,大きな爆発波を受けると大脳皮質の血管が物理的な力により破れて,頭蓋内出血を来たします。よって脳損傷の疑いがある被害者に対しては,迷わず頭部CTを施行するべきです。しばしば解放創から入りこんだ空気が塞栓を起こし,これが死因ともなり得ます。また脳血管に入り込んだ空気は,細い血管でつまり,その血管によってまかなわれている脳組織は死んでしまうために,梗塞を発生し,麻痺などの神経症状を残します。1983年のベイルート爆破事件では多くの方が脊椎損傷を来しました。レントゲン写真を施行できないと見落とされがちになります。一方,眼の損傷も多く,軽い傷から網膜剥離,眼球破裂までその程度はさまざまです。ちょっと変だと思ったら眼科検査も施行するべきでしょう。
次回は「ディザスター時に見られる人々の行動パターン」について触れます。