医学界新聞

 

連載 これから始めるアメリカ臨床留学

第8回 インタビュー(面接試験)への対応,準備

齋藤昭彦(カリフォルニア大学サンディエゴ校小児感染症科クリニカルフェロー)


2458号よりつづく

インタビュー(面接試験)にどう臨むか

 インタビューでのポイントは,限られた時間の中で,いかに自分を表現し,売り込むことができるかということである。ここでは,日本で美徳とされる“遠慮”という言葉は意味をなさない。当然のことながら,英語を使ったコミュニケーション能力も評価されるが,相手は英語が母国語のアメリカ人医学生と,アメリカでのトレーニングをめざす選ばれたIMG(International Medical Graduates,外国人医師)である。私にとっては,それまでにまったくそのような経験がなかったので,相当のプレッシャーがかかり,準備に多くの時間を要した。
 今回は,私がレジデントのポジションを得た際のインタビューへの準備と,その体験を述べたいと思う。

インタビューの時期と日程

 インタビューの通知をもらったら,まずはそのプログラムに連絡をし,インタビュー可能な日時を尋ねる。インタビューの時期があまりにも早すぎると選考の際に候補者の印象が薄れてしまう印象がある。できれば12月中旬以降の日取りを選んだほうがよいだろう。
 インタビューには,プログラムの大きさにもよるが,通常1日に4-8名ほどの候補者が呼ばれる。その日程を簡単に紹介すると,まず朝のカンファレンスに参加する。その後,プログラムの責任者(Program Director)からプログラムの概要を聞き,2-3名の指導医(Attending Doctors)のインタビューを個別に受ける。そしてレジデントと一緒に病院内を周り(Tour),最後にレジデントと一緒に昼食をして終わるのが一般的なものである。プログラムが複数の病院を抱えている場合は,午後にその病院を見学する場合もある。
 実際に働いているレジデントと話をすることは,多くの情報を得ることができる。また,知り合いになったレジデントの連絡先を聞いておくことは,後に聞き忘れた質問が出た際,非常に助けになる。

インタビューで受ける質問

 インタビューで聞かれる質問は多岐にわたるが,私の経験ではそのほとんどが似かよった質問で,多くの質問が予想可能である。インタビューの際,特にIMGにとって,英語のコミュニケーションに問題があると思われたら致命的である。日本語で受けても緊張するインタビュー,英語ときたらそれ相当の準備が必要である。私の場合,インタビューが決まってから約1か月半,予想される質問に対して,自分で解答を作り,それを英語を母国語とする人にチェックしてもらい,それを躊躇なく話せるようにした。また,自分の声を実際に録音し,どの発音が聞き取りにくいのかがはっきりさせ,その改善に努めた。
 私がレジデント応募の際,特に多く尋ねられた質問は以下の通りである。

(1)なぜ,この科を選んだのか?
 これに関しては,筋道を立てた話を用意しておかなくてはいけない。その内容が深いほど,聞いている者にその候補者の印象を強く与えることができる。内容は前回に説明したパーソナルステートメントに記載したものと一致していたほうがよいと思われる。

(2)なぜ,このプログラムに応募したのか?
 プログラムの特徴を予習しておくべきである。各プログラムには強い領域と弱い領域が存在する。あらかじめ配布されたプログラムの概要を熟読したり,インターネットなどで情報をできるだけ入手し,そのプログラムの強い領域に興味を持っているとするのが妥当な答えであろう。

(3)レジデントが終わったら,何を行ないたいか?(あるいは10年後にどういう医師になりたいか?)
 レジデント終了後,フェローシップに進みたいのか,それとも開業医として一般の診療にあたるのか,その候補者が長期のビジョンを持っているかの評価である。まだ具体的な計画がなくとも,その時点でどう思うのかをはっきりと述べるのがよいであろう。

(4)今までどのようなことをやってきたのか?
(私の場合は,日本での研修とアメリカでの研究生活のこと)

 端的に今までの医師として,あるいは研究者としての自分を経験,業績を話す。学生の場合は,学生時代のことで十分である。どこで,どのような仕事をしていたのか,特に日本での臨床経験を話す時には,今までにどれだけの症例を経験したのかなど,具体的な数字をあげて話したほうが,印象が強い。また,あるプログラムでは,今まで医師として働いていた中で,最も印象に残っている症例をあげなさい,などというのもあった。そのような症例も用意しておくべきであろう。

(5)このプログラムに対する質問はないか?
 的を得た質問は,そのプログラムに興味を持っていると捉えられる。そういう意味でも,各プログラムの特徴をしっかり予習しておくことは重要である。地域のコミニュティ・ホスピタルで,レジデント中に研究を行なうことはできないかなどと聞けばナンセンスである。逆に大学病院のプログラムであればそういうことに興味を持っているというのは好意的にとられることが多い。
 一方,私がレジデントの立場で,医学生からよく受けた質問は,プログラムの長所(strength)と短所(weakness)は何か,当直(on call)のスケジュールはどうなっているのか,さらには,あなたはこのプログラムにいて幸せか,というものまであった。最後の質問は,意外と的をついており,正直な返答を期待できる。
 また,IMGにとって,ビザの問題は重要なので,通常のJ-1ビザ以外にH-1Bビザなどが取得可能かを聞いておくのも後に助けになるであろう。ビザに関しては,次号を参考にしていただきたい。

 また,やや苦労した質問では,
「これだけ多くの候補者がいる中,なぜ,あなたを採らなくてはいけないのか」
「あなたの優れているところと劣っているところを述べなさい」
というのもあった。自分のことを褒めるのに慣れていない日本人にとってやや苦しい回答にならざるを得ない。「勤勉である」,「皆と協調しながら仕事ができる」,「リーダーシップがある」,「人に教えることが得意である」などが模範的回答であろうが,要は端的にはっきりと恥ずかしがらずに述べることである。また,日本ですでに医師として働いた者にとっては,今までの経験をこのプログラムのレジデント教育に当てることができるというのは,相手を引きつけるよい回答と思われる。
 その他の問われる可能性のある質問に関しては,前回も紹介したウェブサイトに一覧が出ているので参考にしてもらいたい。
http://www.aafp.org/student/match/section5.html#e

インタビューを受けた後

 インタビューを受けた後,プログラムの責任者,インタビューを受けた指導医にお礼状(Thank You Note)を書くのが一般的である。インタビューに呼んでくれたことに感謝し,プログラムのよかった点を述べ,自分の行きたいという意思をはっきりと書く。また,後のマッチングのためにも,各プログラムのよかったところ,悪かったところをわかりやすく整理しておくことを勧める。
 最後は,マッチングリストの作成であるが,自分の行きたいプログラム順に,正直に作るのが最も後悔しない方法と思われる。強調したいのは,どのプログラムも一長一短で,それなりの質のトレーニングが保証されており,あとは,プログラムの責任者の印象(なぜなら研修開始後,多くの接点がある),レジデントの満足度,病院の周りの住環境などを加味した上で最終的な判断をしてほしい。
 次回は,研修を始めるにあたって問題となるビザのことについて述べたいと思う。