医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY(PT関連書籍特集) 書評・新刊案内


最新の理学療法の評価から治療への流れが把握できる

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
理学療法評価学

奈良 勲 監修/内山 靖 編集

《書 評》松田尚之(福井リハビリテーション病院・リハビリテーション科)

 臨床の場に出てから早いもので20年近くが過ぎようとしている。「初心,忘するべからず」と言うが,今では初心がどのようなものであったかも思い出せない。この10数年間に理学療法に関連する領域は拡大し,それに伴い知識の質・量とも膨大なものとなった。その間わが身を振り返るとあまり努力もせず,長年の経験と勘に頼ってきたように思う。言い訳をすれば,私が養成校を卒業した頃は,参考になる書籍が数少なく,経験に頼るしかなかったこともつけ加えておきたい。
 現在では,わが国の理学療法も学問として確立し,教育・研究・臨床の各分野で目ざましい発展をとげ,数多くの有意義な書籍が執筆されている。今回紹介するこの1冊もその中の1つである。

「患者を見(観)る」ことの大切さ

 この本では,「患者を見(観)る」ということの大切さを訴えている。評価では,検査・測定が重要であると思われがちであるが,さらに重要なことは,患者を観察することである。「患者の歩行パターンに左右差があるか」,「座位と立位で筋緊張にどのような変化があるか」など,患者の静的・動的な観察が非常に重要である。本書では,「観察」・「姿勢・動作分析」など特別に項目を設けて詳しく述べられている。

患者を1人の人間として評価する収集・分析方法を詳述

 加えて,患者を評価する時,診断名や障害の程度について調べることも大切であるが,患者を1人の人間として評価することも同様に大切である。患者の内面(性格や感情など)や社会的背景など,より正確でより多くの情報を収集する能力と,それをより速く分析する能力が必要となってくる。この本では,その収集方法や分析方法などが詳しく述べられている。
 最後にこの本は,理学療法評価を大きくとらえ,評価から治療に至るまでの流れについても触れられているので,これから理学療法士をめざす方だけでなく,経験年数の浅い理学療法士の方,さらには理学療法とはどんなものかに興味のある方にもぜひ読んでいただきたい。
B5・頁376 定価(本体5,800円+税)医学書院


待望した理学療法プログラム立案のための教科書

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
臨床動作分析

奈良 勲 監修/高橋正明 編集

《書 評》山中正紀(北大医療技術短大・理学療法学科)

 私は,講義のはじめに教科書あるいは参考書を何種類か紹介することにしている。私が担当している講義の中の1つに「臨床運動学」があり,動作分析を主体として教授している。しかし,他の講義のように「教科書」や参考書を紹介することができなかった。動作分析あるいは病態運動学といった観点からまとめられた成書がなかったからである。

理学療法に最も重要な臨床動作分析

 動作分析は,運動を取り扱う理学療法において最も重要である。動作分析をすることによって対象となる患者の何が問題でどこに原因があるのかを推論し,方針が決定され,理学療法プログラムが立案される。しかし,編集者も述べているが,養成教育においてはその習得が最も困難なものの1つで,学生も教師も難渋しているのが現状である。
 そういった点を鑑み,本書は学生を対象とした教科書として,利用する学生および教師の身になって企画,執筆されている。
 第1章は,異常動作を知る上で基本となる正常動作はどういったものかから始まり,その動作がどのような力により動いているのかといった力学的理解を,写真や図を使用してわかりやすく説明している。
 第2章では,事例を紹介しながら動作分析の思考過程やその事例の問題点,治療指針を提示している。
 第3章では,理学療法の対象となる代表的な疾患の症状や動作が取りあげられている。また,教科書として編纂されているので各項目のはじめに学習目標が提示されており,読む者にとって理解を早める。
 ほめてばかりいるが,ここで少し気になった点をあげたい。
 1つは,理学療法の現状を考えればそれも致し方ないのかもしれないが,第1章で動作分析を力学的観点から説明し,動作が力学的に説明できるとしているが,他の章を見る限りこの点の一貫性がまちまちである。
 2つめは,第2章の動作分析の進め方は概念的内容なので仕方ないと思われるが,学生にとっては抽象的で難易度が高い。
 3つめは,項目の所々にアドバンスコース,あるいはスタディとして解説が示されているが,各項目ごとにあれば助かる。いずれにしても教師による解説が必要であり,学生の自己学習書というよりも,教科書あるいはそれに近い参考書としての利用価値が高いように思う。
 動作分析は修得しにくく,最も重要なものであることから,本書は学生ばかりでなく,臨床家にとっても1冊持っていてよい本だと思う。蛇足だがすでに学生には本書を紹介した。
B5・頁230 定価(本体4,700円+税)医学書院


運動療法の新しい理論的枠組みを提示

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
運動療法学 総論

奈良 勲 監修/吉尾雅春 編集

《書 評》大橋ゆかり(茨城県立医療大・理学療法学科)

科学的な思考を運動療法に

 本書を開いてまず目を引かれるのは,“EBM”というup-to-dateな言葉と“身体の神秘性”,“運動制御”,“運動学習”といった行動科学的な言葉である。従来,運動療法の基礎は,機能解剖学と運動生理学という医学領域の理論に置かれてきた。これに対して本書は,従来の理論を踏まえた上で行動科学的理論を取り込むことにより,運動療法の新しい理論的枠組みを提示している。運動制御・運動学習の理論は難しい,臨床からかけ離れている,といった先入観は本書を一読すれば払拭されるであろう。それだけ真摯に臨床と向き合い,科学的な思考を運動療法に取り入れようとする姿勢が貫かれているし,理論を臨床へ導入する部分の解説は見事である。
 理学療法士の第一線の仕事は,運動障害を負う人に専門的な治療技術を提供することである。したがって理学療法教育において技術教育を欠くことはできない。しかし,現在用いられている多くの運動療法手技を切り売りすることを技術教育と考えるのは誤りである。なぜなら,今日の最新技術は明日にはすでに過去のものとなる運命にあるからである。とは言っても,足場のない岸壁は登れない。

期待される新しい理学療法士

 技術教育における足場固めとは,現在用いられている基本的な技術がどういう法則にしたがって,どのように行なわれているのかを正確に伝えることである。そしてさらに上へ登るための手掛かり,足掛かりを示唆するためには,その技術が立脚しようとする理論に立ち返って妥当性を批判的に吟味することを教えなければならない。このように技術教育には,「基本的技術の正確な伝達」と「技術の発展に貢献できる科学的思考の教育」の2側面がある。本書は,この2側面をどちらも大切にバランスよく扱かっている。
 序言に「臨床における経験は貴重なものであり,それによって理学療法士も成長する。それがデータになれば確率論的要因としてのエビデンスにはなりうる」という編者の言葉がある。「経験論は非科学的である」と思いこむことも,もう一方の誤った先入観であることを教えてくれる言葉である。本書によって多くの臨床的エビデンスを産み出してくれる理学療法士が育っていくことを期待している。
B5・頁296 定価(本体4,700円+税)医学書院


充実した内容に仕上がっている物理療法学のテキスト

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
物理療法学

奈良 勲 監修/網本 和 編集

《書 評》佐々木 誠(仙台医療技術専門学校・理学療法学科)

 本書の編者である網本和氏は,理学療法におけるシャープな臨床観察と研究成果の整合性ある解釈を,平易な言葉で伝達する実践家である。執筆陣は物理療法学分野においても第一線に立って,検証のための研鑽を継続されており,充実した内容の書に仕上がっている。

時代とともに変遷する中で
まさに現在の“標準”の書

 物理療法は紀元前より活用されており,現在に至るまでには様々な領域の科学の発展に支えられ,歩みをともにしてきた。
 本書は,その変遷を詳細に解説した上で,現在の主流に重きを置いている。そうでありながら,理学療法教育を受ける学生が最低限理解すべき内容を網羅し,物理療法を施行する際の効果や禁忌,その生理学的背景にとどまらず,患者評価の方法にも言及している。さらに,各執筆陣の実証的姿勢に基づいて,物理療法の各種別ごとの知見がふんだんに紹介されており,その効果と現時点における限界,展望が記されている。科学的証拠を構築することが要望される理学療法学にあっては,物理療法の各方法が時代の流れとともに盛衰の途をたどるのは必然であり,そのような意味で本書はまさに現在の“標準”であると言えよう。
 物理療法関連の書物は数多くあるが,いずれにおいても「これ1冊で」というわけにはいかない。物理療法機器の原理や生理学的作用から臨床での応用的実践までを指し示す必要がある理学療法教育者は,複数の書物を基に学内外での実習を展開する。
 本書の特徴として,物理療法単独での施行に加えて運動療法の併用の重要性が随所に示されている。また,症例別に単一の物理療法やその組み合わせ,運動療法との併用の実際を紹介した章がある。この試みは,編者が序に示したように「統合をはかろうとするもの」であり,学生の臨床イメージを喚起する画期的なものではあるが,独力で一連の理学療法を実施するには至らない。この点,学生に対する教育者の援助が不可欠であり,教育者が学生とともに統合された物理療法展開を創意工夫するための指南役の書として最適である。
B5・頁300 定価(本体4,700円+税)医学書院


呼吸器専門医に勧める胸膜疾患の専門書

Pleural Diseases 第4版
R. W. Light 編集

《書 評》金沢 実(埼玉県立循環器・呼吸器病センター副病院長)

 本書は,胸膜疾患に関する包括的な教科書である。1995年の第3版に比べ,すべての分野で新しい文献が追加され,また内容的にも新たに2章が追加されている。基本的に臨床に即して記載されており,かつevidence based medicineの要素も十分に加味されている。

ベッドサイドで活用大

 画像診断により胸水の存在は,100%確実に判定される。その意味で胸水をきたす疾患は,独立した1つのジャンルを形成しており,胸水穿刺によって診断と治療の方向性は示される。しかし,諸検査にもかかわらず,確定診断に至らない胸水症例が一定数存在する。このような症例の診断と治療に本書はうってつけである。
 結核性胸膜炎の診断では,胸水ADA値とリンパ球比率による診断法が,胸膜針生検診断より優れていると記されている。また,診断困難症例では,胸膜針生検より胸腔鏡診断を優先すべきとされている。さらに,肺血栓塞栓症に合併した胸水診断には,まず造影CTを行なうこととされる。このように診断法に関する記述内容は,最新の論文に基づいてup-dateされている。
 また,「肺炎随伴性胸水と膿胸」の章を参照すると,抗生物質の選択,閉胸ドレナージ,胸腔内の線維溶解法,剥皮手術,オープンドレナージなど,順を追って適応と具体的な方法が示されている。このような記述は,著者の臨床経験を反映したものと容易に推察できる。また,胸膜癒着術にタルクは用いないなど治療に関しても新しい内容に更新されている点は,診断法の記述と同様である。
 第4版では,「第16章心疾患に伴う胸水」と「第17章産科婦人科における胸水」の2章が追加になった。消化器,膠原病,薬剤,その他の全身性疾患に伴う胸水の診断と治療に関して詳細な記述があり,ベッドサイドで活用される機会が多いものと言えよう。われわれの施設でも最近,慢性関節リウマチに先行した両側性胸膜炎の症例を経験したが,診断と治療の両面で本書は大いに参考になったことを付記したい。
B5変・頁413 20,120円(税別)
Lippincott Williams & Wilkins


新たな発見の喜びを感じる理学療法学教科書

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
日常生活活動学・生活環境学

奈良 勲 監修/鶴見隆正 編集

《書 評》神先秀人(京大附属病院・理学療法部)

 臨床において,初期評価時に患者の社会的背景を把握しておくことは理学療法士として当然のことではあるが,「いつでも聞ける」,「そのうち聞けばよい」といった安易さからつい後回しになり,退院近くになってあわてて復帰後の生活を想定した理学療法や福祉用具を手配することがしばしばある。また,介護保険がスタートしてからは,車椅子1つを作製するのにも及び腰になっている自分に気づく。変化する環境や福祉制度に関する医療側の無知は,患者の不利益に直結すると痛感する。

問われる理学療法士の力量

 機能的側面から患者がどの程度までの能力を回復するかを予測し,早期から退院後の生活を想定してADL指導や環境への働きかけを行なうことや,患者が将来設計を立てる際にどれだけの選択肢を提供できるかは,理学療法士の力量が問われる部分でもある。本書は,「日常生活活動学」と「生活環境学」の2部構成となっている。
 日常生活活動学は総論と各論に分かれており,第1章の総論では,「ADLの概念と範囲」,「ADLと障害」,「ADLとQOL」,「ADLと運動学」,「ADL評価」,「ADL評価方法の実際」,「ADLを支援する機器について」,第2章では,「ADL指導の実際」が「片麻痺」,「脊髄損傷」,「脳性麻痺」,「慢性関節リウマチ」,「人工股関節術後」,「下肢切断」,「神経筋疾患・難病」について具体的に解説されている。
 生活環境学では,「生活環境学の概念」,「生活環境の評価と改善計画」,「生活環境と法的諸制度」,「生活環境としての住宅・住宅改造」,「高齢者の在宅生活サービス」,「生活を支える福祉・リハ関連機器」,「地域環境と公共交通」の7章で構成されており,住宅改造の要点や社会保障制度から地域の環境整備等についてまでわかりやすく述べられている。
 本書の特徴としては,全体を通して患者の入院から,退院後の生活に至る理学療法支援の一連の流れがイメージしやすい構成となっていること,各章とも写真や図表が数多く挿入されており視覚的にも理解を助けてくれること,各章,節ごとに学習目標が提示されており,段階を追って知識を整理する上で役立つ点などがあげられる。
 理学療法士養成校の教科書としてはもちろんのこと,臨床の前線で活躍の各医療職の方々も,ぜひ一読されてはいかがと思う。きっと新たな発見に喜びを感じられることと確信する。
B5・頁320 定価(本体5,400円+税)医学書院


理学・作業療法士をめざす学生に推薦できる神経内科学書

〈標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 全12巻〉
神経内科学

奈良 勲,鎌倉矩子 監修/川平和美 編集

《書 評》田中信行(鹿児島大教授・リハビリテーション医学)

 本書の特徴は,高齢化に伴う疾病構造の変化を重視して,脳血管障害や老人性痴呆,パーキンソン病などの中枢神経系の疾患を重視している点と,診断,治療の急速な進歩に遅れないように,新たな診断法やリハビリテーションにおける治療法,評価法を多く取りあげている点であろう。

役立つ神経疾患の基本的知識

 現在,急速に解明が進みつつある記憶や認知など高次脳機能については,単なる症候の羅列に終わるのではなく,さまざまな神経心理学的実験や多くの高次脳機能障害例から得られた結果と,深い洞察によって形成された神経心理学的考え方と,課題遂行中の実験動物の神経細胞の活動や,ヒトの脳血流の変化から情報処理過程を理解しようとする神経生理学的考え方とを解説しており,一見複雑でわかりにくい高次脳機能障害のメカニズムを理解する上で大いに手助けになる。
 リハビリテーションの実務的な面では,脳血管障害について,急性期における保存療法や手術療法の実際が簡潔に述べてあり,実際の急性期から回復期のリハビリテーションを理解する上で大いに参考になる。また,リハビリテーション実施上の阻害要因となる合併症とその対策においても,これまで簡単に触れるに過ぎなかった嚥下障害や排尿障害についての内容が充実している他,これまで正面から取りあげられることのなかった性機能障害についても基本的な知識と考え方を述べていることが注目される。これらの内容は,障害者の悩みに対する問題指向型の治療に役立つであろう。本書は,神経疾患についての基本的な知識だけでなく,実際のリハビリテーションに当たっても役立つ内容をもっており,これからリハビリテーション医療をめざす理学・作業療法士(PT・OT)学生には大いに推薦できる著書である。
B5・頁344 定価(本体5,600円+税)医学書院


待望の理学・作業療法士のための整形外科教科書

〈標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 全12巻〉
整形外科学

奈良 勲,鎌倉矩子 監修/立野勝彦 著

《書 評》猪田邦雄(名大教授・基礎理学療法学)

 生活習慣病などの慢性疾患や,高齢化に伴う身体機能の低下による障害からの回復・予防が重要となってきている中で,理学・作業療法士はその治療の2本柱となる専門職としての期待と需要がいっそう高まり,今やその養成校は130校を越え,年々増え続けている。このような背景の中で,標準となる教科書の出現が望まれてきた。この時期に本シリーズが刊行されたことは,むしろ遅きに失した感さえある。
 シリーズの監修者奈良勲,鎌倉矩子の両氏は,日本の理学・作業療法士のパイオニアであり,また長年にわたりその教育にも関わってきており,学問として発展しつつある理学・作業療法学の中で,医学として排斥されがちな基礎医学系および臨床医学系科目を,理学・作業療法学の専門基礎として正しい位置づけをしてきた。
 さらに本書の著者立野勝彦氏は,理学・作業療法士の養成が専門学校から大学教育へと発展してきた中で,本邦で初の大学教育を行なうこととなった金沢大で,当初からその教育に携わってきた。整形外科医として,またリハビリテーション専門医としての高い識見に加え,大学で教育を行なってきた経験をもとに書かれた本書の内容は,理学・作業療法学における文字通り標準となる整形外科の事柄を簡潔にまとめあげている。

意欲的に学習に取り組める工夫

 「学習目標」と「復習のポイント」を明らかにし,注意すべき事項を「NOTE」に,やや高度な事項を「Advanced Studies」として解説している。これにより学生は,意欲的に学習に取組むことができるよう工夫されているのは特筆に価する。また,機能回復や再建をめざす整形外科疾患の病態に見合った理学・作業療法を自ら考えるための「理学・作業療法との関連事項」を設け,専門職への意識を高める配慮もなされている。
 整形外科疾患の治療は関節の機能のみならず,バイオメカニカルな知識に基づく病態の理解が必要となるが,それらは運動学にゆずり,また日進月歩の技術や治療方法を著者はあえて内容から省いている。持ち運びや価格の点でも学生の負担に配慮し,教科書としてできるだけ簡潔に必要最低限の知識をまとめるという著者の意図が伝わってくる。多くの医学系教科書にみられる価格の高さとボリュームの大きさは,見ただけで学習意欲をそぐことになることも著者は熟知している結果と考えられる。いずれにしても,理学・作業療法学士をめざす学生やその指導にあたる理学・作業療法士にとって利用しやすい,待望の整形外科学の教科書と言えよう。
B5・頁192 定価(本体3,000円+税)医学書院


理学・作業療法士のための本邦初の精神医学教科書

〈標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 全12巻〉
精神医学

奈良 勲,鎌倉矩子 監修/上野武治 編集

《書 評》冨岡詔子(信州大医療技術短大教授・作業療法学科)

過不足のない内容を網羅

 理学療法士と作業療法士の基礎教育における本邦初の精神医学の教科書である。年々進歩する精神医学の基礎知識からメンタルヘルスまでを網羅するのは,編著者らにとってもかなりの苦労があったのではないかと推測される。「拠って立つ学問的な立場や臨床の専門性もさまざまと思われるため,本書ではなるべく公正でオーソドックスな記載を心がけた」とあるように,教科書としての標準的・中立的な立場を保持していることから,理学療法士と作業療法士に共通する精神医学の教科書としては,過不足のない内容が網羅されている点が特徴である。
 最初の4章は,総論的な内容(「第1章 精神医学とは」,「第2章 精神障害の成因と分類」,「第3章 精神機能の障害と精神症状」,「第4章 精神障害の診断と評価」)であり,難解な精神医学的症状論や診断学がわかりやすく体系的に記述されている点は,豊富な理学・作業療法士教育の経験をもつ上野氏ならではと,大いに感銘を受けた。
 次の11章は各論的な疾患論であるが,国際疾病分類(ICD-10)に準拠した順序で項目立てされている点が,既存の精神医学の教科書とは大きく異なり,新鮮な印象を受ける。こうした工夫は,身体疾患に対する見方の延長線として精神医学的な疾患を理解する道筋をつける効果があり,学生にとっては違和感を持たずに精神医学になじんでいけるのではないかと思われる。後半6章のうち3章は,「リエゾン精神医学」,「心身医学」,「ライフサイクルにおける精神医学」を概略的に取りあげており,臨床での盲点になりやすい疾患や,行動上の問題に対する精神医学的な見方や知識を補う内容となっている。また,2章は「治療論」と「精神科医療・職業リハビリテーション」に言及し,最後の1章で「メンタルヘルス」を取りあげている。
 難を言えば,疾患各論における治療法への言及が少ないこと,精神医学における治療とリハビリテーションの関係や障害論への言及が少ないのが気になる。薬物療法以外の治療法に関しても,学生がイメージ化しやすいように,具体的な技法論や背景にある人格論・治療論も含めて概説されると,より体系的に理解しやすくなるのではないだろうか。巻末の資料4(「精神疾患を有する者の保護およびメンタルヘルスケア改善のための原則」)は意外と入手しにくいものであり,原文と合わせて再掲されると,(教師にとっては)より有益な資料となったのではないか。

利用しやすい実用的な参考書

 本書全体としては,教科書に要求される網羅的な側面と理学・作業療法士に必要な内容を詳述する側面(各論の中でも脳器質性の精神障害・発達期や老年期の精神障害を詳述するなど)とのバランスがほどよくとれていることから,精神医療以外の分野で働く理学・作業療法士にとっても実用的な参考書として利用しやすいのではないかと思われる。
B5・頁320 定価(本体4,400円+税)医学書院