医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


なぜ今EBNなのかを解き明かす

基本からわかるEBN
日野原重明 監修

《書 評》古橋洋子(看護コンサルタント)

 本書はサイエンスとしての看護とEBN(Evidence Based Nursing),また,なぜ今EBNなのか,についてわかりやすく解き明かそうとしている。本書においてEBM/Nは,「自然科学的な技法を効果的に使い,その証拠を材料にして目の前の患者の健康問題をより効果的に解決する技法」と定義され,8人の執筆者で解説されいる。

わかりやすく解説されているエビデンスの基本

 構成は,「看護とEBN」,「患者ケアと質」,「EBNとEBMの違い」,「海外事情と文献検索の仕方」について,各分野の専門家がコンパクトに要点をふまえ解説している。タイトルがEBNと看護婦向けになっているが,医療の分野すべての方に参考になるようにエビデンスの基本は何かという原点をわかりやすく解説している。
 臨床の現場でエビデンスという言葉を耳にすることが多くなったが,これは看護ケアを実施して成果を出すだけではなく,根拠に基づくケアが必要であり,これが看護を行なう上でどのような意味を持つかが理解できる本となっている。
 本書では,看護学教育や臨床の場でエビデンスを使う場合,どう使えば妥当性があるかについて詳しく述べられている。特に大切であると思われる点を下記に述べておく。
 まず文献を読むことは,常に最新情報を元手にしながら教育や実践をしていくことになる。すると看護婦の実践は,新しい情報にある根拠に基づき,考えながら行動することにより看護の向上を図ることができる。
 また看護基礎教育では大切なことの1つが,正しい文献の読み方である。よい文献を見極める力を学生時代に身につけさせることは欠かせない。エビデンスに基づいた教育であれば,時代遅れの看護技術などを指導することもないだろう。本書においては,文献検索の仕方が詳しく解説されているのもうれしい本である。
 本書では,現在多くの研究がなされ蓄積されており,臨床の場や教育の分野でそれを活用し,実践しているだろうかとEBNは疑問を投げかけている。最新の研究成果を生かした看護ケアや教育が形作られていけば,チーム医療においてもコンセンサスが得やすくなるという結果になる。
 患者の健康問題をより効果的に解決するためには,エビデンスに基づいて行動するようになる。その結果が成果となり現れ,それがエビデンスの効果として看護の科学性を明らかにするためにも重要なことであることを本書は示唆している。
A5・頁168 定価(本体1,800円+税) 医学書院


目ウロコとはこのことか-「髪かきむしり系」はぜひ一読を

《シリーズ ケアをひらく》
病んだ家族,散乱した室内
援助者にとっての不全感と困惑について

春日武彦 著

《書 評》岡本祐三(岡本クリニック・国際高齢者医療研究所長)

「髪をかきむしるケアマネ,かきむしらないケアマネ」

 最近,この「小見出し」のような風景が話題になっている。両方ともそれなりに真面目に利用者のことを考えて,日夜仕事に取り組んでいるケアマネジャーの方々だろうが,ケアマネジャーの能力向上が今後の介護保険の最大の課題の1つ,という点についてはどなたも異論のないところだろう。この問題の根本には,介護という日々生活を営む利用者の「個別」の「生活」,しかも病気などをきっかけとして心身の障害を抱え込んだ千差万別とされる利用者と,多くの場合その「家族」を問題としなければならないことがある。
 たしかに介護保険は,「本人給付主義」をとっている。なによりも利用者本人の尊厳と楽しみを確保し,本人の自己決定の範囲を少しでも拡げていく,それが「自立支援の理念である」などと言われるものだから,やっかいな利用者にぶち当たってしまうと,どうしてよいかわからなくなってしまう。ケアマネジャーが「髪をかきむしりたくなる」のもよくわかる。
 「現金給付」なんていうズボラな給付をするドイツの介護保険など,この点は気楽なものだ(だって,お金――それもわずか数万円の――を渡して,「お好きなように使ってください,バイバイ」と,あとは本人というかむしろ家族の責任にしてしまうのだから)。それに比べてわが介護保険は,要介護者本人の生活の質の向上をめざす「現物給付主義」を採用しているから,ケアマネジャーの悩みはひとしおである。

方法論がないから悩む

 なぜ悩まなければならないのか。「こういう場合にはこうすればよろしい」という,介護の世界でのケアマネジメントの方法論が未確立だからだ。
 その点,医療の世界の場合は「こういう診察や検査をして診断(アセスメント)し,こういう治療(ケア)をしたらたいていはうまくいく」という方法論を,医学が100年かかってかなりのレベルで確立してくれている。しかも「現在の医学水準だとここまでで限界だよ」というようなことも大筋決めてくれているから,医者自身も「できるだけのことはやった」という自己納得(正確には自己満足)にひたることができる。だから「あぁ,どうしたらいいんだ!」と髪をかきむしるようなことは(あまり)ない。社会的にしっかりと認められた「医学という方法論」のおかげなのである。
 しかし,これも主として身体の病気の世界の話で,心(こころ)系の精神や知的障害の場合はかならずしもそうではない。介護保険でも,家族内人間関係の葛藤や痴呆の利用者については,ケアマネジャーの悩みは大きいものがある。

「家は異界であり魔界である」という切り口の斬新さ

 本書は医療関係者はもちろん,介護関係者,特に「髪かきむしり系」のケアマネジャーに一読をお勧めしたい。著者は精神科医であるが,東京都下の地域の精神保健福祉センターでの勤務経験も長く,数々の第一線での「場数」を踏んだ練達の指導者である(人柄を語るものとして「嫌いなものはゴルフ,カラオケ,宴会。趣味は,商店街を妻と散歩すること」と巻末の著者紹介にある)。
 「わたしは民宿が苦手である」という書き出しに思わず引き込まれる。民宿の売りである,いわゆる「家庭的なサービス」に違和感を覚えてしかたがない,ということなのだ。「家の中は,世間とは多かれ少なかれ異なった空気と時間によって支配されている。だからこそ家庭というものに意味があり[中略],安らぎを求める」――したがって家の中は外部者にとっては「異界」であり,時には「魔界」である,という著者の明快な切り口には,「目ウロコ」とはまさにこのことと納得する。そのほかにも痴呆の本質について事例に基づいた理論的な解説があったり,また「戦略対象としての家族」論なども非常に納得がいく。実に魅力的である。

「原則」や「一貫性」の世界も構築しうる!

 また著者の長年の蓄積から抽出した「コツ」あるいは「実用編」なども,本当に気前よく展開されている。読者は何度もうなずきながら,個別性を重視するのは当たり前だが,同時に「原則」や「一貫性」という標準化された方法論の世界も構築し得るのだ,という本書の最大のメッセージにも大いに同感されることだろう。
 文章もよくこなれていて読みやすい。現場経験によって筆者の考え方が作られていった経過を読者に追体験させよう,という親切なストーリーテリング――「物語」――の手法が読者を惹きつけることだろう。繰り返すことになるが,ぜひご一読をお勧めしたい。
 さて,もっと本の内容紹介をしたいのだが,紙数がなくなってしまった。あとは読んでのお楽しみ,としておこう。
A5・頁224 定価(本体2,200円+税) 医学書院


妙味あふれる小説仕立てで疾患の病態像に迫る

学生のための疾病論 人間が病気になるということ
井上 泰 著

《書 評》永田文子(静岡県立大・看護学部)

 本書は,あらゆる器官系統から選んだ47の疾患を取りあげた,いわゆる病態生理の書である。それぞれの疾患につき,まず患者の「病態像」を描き,そこから疾患の説明へとつなぐ。さらに踏み込んだ知識について,別途の項目立てで展開している。各疾患の末尾には,「~病の臨床像」としてその疾患の特徴を,さらに知識確認問題として,関連する看護婦(士)国家試験の過去問題を掲載している。

活写された病気のイメージ

 特筆すべきは,この「病態像」が小説仕立てとなっており,患者の様子を実によく描いていることである。一般に病態生理の書の短所として,臨床所見や検査データ,診断,治療,予後を無味乾燥に説明する傾向があり,初学者にはなかなか病気のイメージがつかめないことがあげられよう。それに対し本書では,例えばバセドウ病患者の項目を見ると,次のようなストーリーから始まる。
 「池田さんは,30歳の美容師。最近は,ちょっとしたことでもなぜかイライラしやすい。元来,陽気で些細なことにこだわらない性格なので,イライラしやすい自分を持て余している」。そして,仕事中に震えが起こり客に怪訝そうにみられるシーンから,近所のクリニックを受診するシーンへと続く。そのシーンを表す挿し絵風のイラストがストーリーを引き立てていて,これもまた妙味あふれるものである。
 学生に臨床実習の感想を聞くと,「講義で学んだ時点ではよくわからなかったが,実際に病気を持った患者さんに接するとその病気のことがよくわかった」とよく言われる。なるほど,病気は人間がかかえる1つの状態であり,身をもって学ぶことはなによりも吸収されやすい方法なのであろう。本書のサブタイトル「人間が病気になるということ」は,人間が生活していく上での側面である「病気」を実感してもらいたい,という著者からのメッセージなのかもしれない。
 看護を教える上で病気を熟知していることは,もちろん大前提である。しかし,病気だけをみるのではなく,生活している人の一部分としての病気を考えなければならないということを,私は本書を通じて再確認させられた。初学者にはもちろん,一通り学んだ人にも原点に返って読んでほしい書である。
B5・頁240 定価(本体2,600円+税) 医学書院