医学界新聞

 

連載 これから始めるアメリカ臨床留学

第7回 研修先をどう決定するか

齋藤昭彦(カリフォルニア大学サンディエゴ校小児感染症科クリニカルフェロー)



2453号よりつづく

 念願のECFMG Certificateを取得したら,いよいよ研修先を決めることが待っている。実はこの過程ほど,自分がIMG(International Medical Graduate;外国医学部卒業生),アメリカにおいては一外国人医師であることを意識する時はない。残念ながら,IMGという理由だけでレジデントの選考から落とされることは,多くのIMGが経験済みのことである。建前上は,IMGということでの差別は禁止されている。しかし,考えて欲しい。もし自分がレジデントを選ぶ立場にいたとして,自国の教育を受け,言語に不自由のない医学生と,試験はパスしているものの未知数のIMG,どちらを採るであろうか。無難な選択をする場合,おそらく前者を選ぶのではないか。
 現実は厳しい。だが,毎年ある定数のIMGを採るプログラムや,日本人であるがゆえにアメリカの臨床研修病院を斡旋してもらえる制度もある。今回は,そのシステムを含めて,どのようにして研修医先を決定するのかについて述べていくこととする。

マッチングプログラム(Matching Program)

 アメリカでは,日本のような医局制度がないため,マッチングと呼ばれる制度で研修医先を決定する。その過程を簡単に述べてみよう。まず医学生は,最終学年の夏に自分の希望する科とプログラムを決定し,募集要項を取り寄せる。そして応募したいプログラムに必要書類をインターネットを通じて送信する。受け取ったプログラム側は書類選考をし,定員の約10-20倍の候補者にインタビュー(面接試験)の通知をする。それを受け取った学生は,インタビューの日時(通常11月末から2月初旬まで)を決定し,インタビューで自分を売り込む。多くの学生は科によっても異なるが,通常,合わせて10回程度のインタビューを受けるようである。2月の中旬には,学生側,プログラム側双方が自分の行きたいプログラム,受け入れたい学生に順番をつけたリストを作り,それをNRMP(National Residency Matching Program)と呼ばれる組織に送る。そこでコンピューターよる最善の組み合わせが作られ,3月中旬に自分の研修病院が,最終的に1つ決まることとなる。この日を「Matching Day」と呼んで,各大学では大きなイベントとなっている。
 IMGの場合も,同じステップを踏む訳であるが,様相を異にする。なぜなら,インタビューに呼ばれる可能性が低いのである。そのため,多くのIMGは,IMGを過去に採用したことのあるプログラムを中心に書類を送り,その可能性にかけるわけである。

インタビューに呼ばれるための条件

 私はレジデント3年目の際,レジデントを選考する過程に参加したことがあった。私の小児科のプログラムは計10名のポジションがあったが,そこに約2000名を超える候補者からの書類が,アメリカ全土のみならず,世界各地から集まっていた。
 まず,最初に目を通すのがUSMLEの点数である。応募数が膨大なため,各々の書類を1つ1つ読む時間などはなく,まず試験の点数でその候補者をふるいにかけることが行なわれていた。点数はその年によっても異なるが,2桁の点数で80点をカットオフとしていた。また,その病院に以前,エクスターン(医学生としてその病院に短期間実習すること)として働き,高く評価された学生は別枠で選抜されていた。最終的な決定は上級医の判断によるものであったが,インタビューには200名が召集されていた。
 科の選択に際しては,外科系のプログラムに入ることはIMGにとって至難の業である。アメリカの医学生の中でも競争の激しいところで,IMGの入り込む場所がほとんどないというのが現状である。それに比べると,内科系の科目,内科,小児科,家庭医学,精神科などは,IMGが比較的入りやすい分野である。自分の将来の専門をその難易度で選ばなくてはいけないのは残念なことだが,それが現実である。ただ1つ言えるのは,どの科目を選択しても,それぞれの興味ある分野でのすばらしいトレーニングが待っており,きっとその分野を選んでよかったと思えるに違いない。

マッチングの際に必要な書類

 インタビューに呼ばれるためにも,USMLEでできるだけ高い得点をあげておくことは重要であるが,それ以外の書類でも自分をアピールすることは可能である。推薦状,パーソナル・ステートメント,履歴書の3つは,特に点数が接近している際,目を通されるところである。
 以上の書類を作成する際,簡単な注意点がまとまったウェブサイトは以下のアドレスで閲覧可能である。
http://www.aafp.org/student/match/contents.html

推薦状(Recommendation Letters)
 存在の近い指導者,自分の仕事上の上司など,自分の勉強,仕事ぶりをよく知っている人に依頼すべきである。アメリカでの推薦状の意味は,その候補者を相手によく知らせるためのものである。決して建前を並べるのではなく,自分のよいところを取り上げ,総合的にどれだけ推薦できるかを書いてもらうこととなる。したがって,書いたほうにもその責任が問われるわけである。また,アメリカの医師からの推薦状があると,アメリカの水準でその候補者がどう評価されているのかが明確になるので大きな助けとなるであろう。通常3通必要で,最大4通まで送付可能である。

パーソナル・ステートメント(Personal Statement)
 自分がどうしてその分野を選んだのか,将来どういう医師になりたいのかを簡潔に,25,000字(A4で5ページ程度)以内にまとめる。各プログラムによりその字数が規定されているので,詳しくはそれぞれの要項を参照してもらいたい。多くのアメリカの医学生は,その動機になった具体的な出来事を冒頭に持っていき,そこから話を進める。まるでドラマの台本のように話の筋が通っていて,日本語ではちょっと書けないような大げさな描写も見受けられるが,要は自分のビジョンがはっきりとそこから受け取れることが重要である。ミススペル,文法の過ちはその文章の信頼を落としかねず,英語を母国語とする人に一度見てもらうとよい。

履歴書(CV; Curriculum Vitae)
 自分の氏名,連絡先から始まり,学歴,職歴,受賞歴,所属する学会,書いた論文のリストなどを加える。その候補者の学生,医師としての経歴の総まとめがそこにあるわけである。自分をアピールする場であり,たとえ小さなことでもそれが自分の評価につながることであれば,CVに記述することは重要である。連絡先住所は重要で,地の利という言葉どおり,自分の近くの都市のインタビューに呼ばれる可能性が高い。日本からの場合はそれが難しいが,知人の住所を借りたり,短期間アメリカに滞在して応募しているIMGも見かけられた。

 それ以外にも,マッチングに際して,必要な重要書類がある。
学部長の手紙(dean's letter)
 医学生の場合は医学部長からの手紙,医師の場合は,卒業した時点での医学部長の手紙が必要となる。特に後者の場合は,時間が経っており,その当時の学部長がその医師の学生時代のことを遡って書くことは不可能に近い。このような場合,どうしてもありきたりの文章になってしまうであろうが,ないとその過程に支障をきたすため,どうしても手に入れなくてはいけない書類である。
 さらに,医学部での成績表,写真,USMLEの成績なども必要で,これらすべてをERAS(Electronic Residency Application Service)と呼ばれる,インターネットを通じたシステムで送ることとなる。その具体的方法は,以下のウェブサイトを参考にしてもらいたい。 http://www.aamc.org/students/eras/start.htm

日本人としての特権

 日本人としての特権を生かせるプログラムが2つある。これらのプログラムは,日本の医学部を卒業した医師をアメリカの臨床病院でトレーニングさせてくれるものである。IMGとして不利な立場にあることは,避けて通れない現実である。このような中で,日本人としての特権を生かせるプログラムがあることは幸せなことであり,挑戦しない理由はないのではなかろうか。詳しくは,以下を参考にしてもらいたい。
 次回は,実際にインタビューに呼ばれた際,どのような準備をし,どういうことに注意を払うべきか,私の体験を含めて述べてみたと思う。

東京海上メディカルサービス アメリカ臨床医学留学プログラム:
ニューヨークにあるベスイスラエル メディカルセンターを中心とする計4つの病院に研修医を派遣。 http://member.nifty.ne.jp/TMS-DOCTOR/

野口医学研究所:
フィラデルフィアにあるトーマスジェファーソン大学とハワイ大学クアキニ医療センターへの研修医派遣。


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 第2回日米医学医療交流財団・野口医学研究所合同セミナーが,きたる11月24日に,東京・豊島区の女子栄養大学において,「日本の医療改革と日米医学交流の果たす役割」をテーマに開催される。これに伴い事務局では参加者を募集している。詳細は下記まで問合せのこと。
◆連絡先:〒105-0001 港区虎ノ門1-20-7 興武虎ノ門ビル5階 米国財団法人野口医学研究所 日本事務局(弥冨)
 TEL(03)3501-0130/FAX(03)3580-2490