医学界新聞

 

〔レポート〕家庭医療学研究会・夏期セミナー開催
――――――将来の糧になる熱い3日間

渡辺慶介(信州大学医学部・2年)


 8月3-5日の3日間,つくば市で開催された家庭医療学研究会・夏期セミナーに参加した。昨年に続いて2度目の参加だった。医療に関する新たな知識を吸収できたのはもちろんのこと,多くの先生や学生との交流を通して,これからの活動の糧となるさまざまな情報とエネルギーを得ることができた。とにかく熱い3日間だった(9面に関連記事)。


全国から集まるさまざまな学生と第一線で活躍する講師陣

 このセミナーに集まってくる学生は本当に多彩だ。家庭医や総合診療医をめざす学生はもちろんのこと,国際医療協力に携わりたい学生,心療内科医になって悩める女性を救いたいという学生,災害が起こったら世界中どこでも飛んで行きたいという学生,脳外科医になって専門を追究したいという学生。それでも共通しているのは,病気だけを診て,病気だけを相手にするのではなく,人間そのものを診て,その患者さんの幸福に配慮できる医師になりたい,ということではないかと僕には感じられた。
 参加されている講師の先生たちは,いずれも大学や市中病院の総合診療部,診療所などで働いており,忙しい仕事の合間をぬって参加されている。先生方とは主に懇親会の席などで話をさせていただいたが,後進の育成に並々ならぬ熱意を持っておられること,敷居が低いというか,すぐ打ち解けていただけることなどが印象的だった。人間的魅力にあふれた方が多く,こうした中から,自分のロールモデルを見出す学生も多いのではないかと思った。
 セミナーは,初日,米国・ミシガン大で家庭医療を実践する佐野潔先生,名大総合診療部の伴信太郎先生,筑波メディカルセンター病院で総合診療を行なっている木澤義之先生らのレクチャーによって幕を開けた。「プライマリケアとは何か」という話から,本場米国の家庭医療事情や総合診療の現場で直面する問題まで,多岐にわたる内容は,非常に刺激的で,今後自分がどのような道を歩んで行くかを考える上でとても参考になった。

小グループに分かれプライマリケアの技能を学ぶ

 2日目は朝から小グループに分かれてのセッションだった。小外科実習,EBM,家族ケア,身体診察,医療倫理,症例へのアプローチ,在宅ケアなどがテーマで,僕はこの中から小外科,医療倫理,身体診察を選択した。
 小外科実習は,各自豚足にメスで切れ目を入れ,これを持針器などを用いて縫合していくという内容だった。針や糸のつけ方から,縫い方,結び方など最初はとまどったが慣れてくるとおもしろく,思わず没頭してしまった。身体診察は,名大総合診療部の鈴木富雄先生の指導のもと,頭頸部の診察,打診,触診,血圧の測定,聴診などを行なった。僕は,聴診器を持つのも初めてだったので,心臓の音を聞いただけでも結構興奮してしまった。ある程度できたのは,血圧の測定ぐらいまでで,眼底観察や触診などとても難しくさっぱりできなかった。しかし,人体に対して診察という形で接するのは初めての経験であり興味深かった。
 この日,最後に参加したのが医療倫理のセッションだった。「とにかく点滴をしてくれとやってくる,家庭に問題を抱えた40歳女性」を題材に,研修医の先生のロールプレイを見た後,ディスカッションを行なった。これは「四分割法」をもとにプライマリケア領域で出会う倫理問題について考える演習だった。僕は,このセミナー直前,山梨県の診療所で実習していたので,脳死や遺伝子治療など3次医療で議論される倫理問題とは異なる,プライマリケア領域の倫理問題に強く関心を持ったところだったため,このセッションは特におもしろかった。

盛り上がる連夜の懇親会
新しい人とのつながりが財産に

 以上が大まかなセミナーの流れだが,この他に絶対忘れてはいけないのが夜10時頃から連夜行なわれる懇親会,通称“エンドレス懇親会”である。ここでは,勉強や恋愛などの日常の悩みや笑い話から,日本に家庭医療・総合診療は根づくのかといった話題まで,参加している講師の先生や学生とありとあらゆる話をすることができる。病院見学や実習,あるいは学内外のさまざまな医療系の活動をしている学生が多く,そうした方たちの活動報告を聞けたことが僕にとっては大きな収穫だった。また,学外に得がたい友人を作れたことも自分の人生の大きな財産になったと思う。
 昨年から,このセミナーに参加したことでの最も大きな発見は,「外へ出ていくことの楽しさ」だった。このセミナーに参加して,多くの講師や学生との対話から本当にたくさんの刺激やインスピレーションを得て,それが自分のものの見方や学生生活を少なからず変えてしまったほど強烈な体験だった。昨年の夏以来,いくつかの医療施設での実習や,セミナーに参加し,学内での勉強会など自分なりに積極的にあちこちに足を運んできたが,そうした活動は昨年の夏に参加した家庭医療学研究会セミナーが直接のきっかけになっている。さまざまな場所に足を運ぶと,そこでの出会いや刺激がまた次を生むという連鎖が生じる中で,自分の学生生活はとても充実したものになってきたと思う。
 このセミナー中で印象的だった言葉の1つは,ある先生の「このセミナーに来ている学生は,皆ものすごく勉強熱心ですばらしい。でもそれだけでなく,自分の学んだことを仲間や後輩に教えたりシェアすることにも,もっともっと関心を持ってほしい」というものだ。僕は,これまでひたすら自分の充実を追求して,気がついたら身近な所に,遊び仲間はいるけれど勉強仲間はまったくいないという状況になっていることを密かに悩んでいたので,この言葉にはハッとさせられるものがあった。最近いろいろな所で「シェアする」という言葉を目にするが,自分に欠けていたのはこの部分ではないかということをこの先生の言葉を聞いて考えさせられた。
 「これからも多くの場所へ行き,ものを見,人と交流する中で自分を磨いていきたい。さらにそこから得たことをシェアできる場所を身近に作りたい」というようなことを考えながら帰路についた2001年家庭医療学研究会夏期セミナーだった。

(写真とキャプションは編集室)