医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


コンパクトにまとめられた今日の在宅医療の姿

〈総合診療ブックス〉
はじめよう在宅医療21

渡辺 武 監修/英 裕雄,山中 崇,川畑雅照 編集

《書 評》三瀬順一(自治医大・地域医療学)

思わず膝を打つ豊富な経験の内容

 この本は,今日の在宅医療の姿をもれなく示す,しかもコンパクトな1冊である。さらに,近未来を予測する内容をも含んでいる。在宅主治医のために必要な知識,技能,態度,倫理,経済などを盛り込んだ書籍を,私が分担執筆して以来数年での,この分野の確実な進歩がうかがえる。各章に盛り込まれた,豊富な経験に基づく知識,技能,考え方は,少しでもこの世界に足を踏み入れた者なら,「そうそう」と,思わず膝を打つことばかりである。
 「1.誰でもできる在宅医療」における著者の足跡は,これから在宅をめざす人々を大いに励ます。「2.在宅におけるコミュニケーション技法」は,ともすれば技術に走りがちな在宅医療への警告と,あたたかな医療へのヒントを含んでいる。在宅における患者-医師関係という切り口も新鮮である。
 各論の「3.経口摂取と嚥下・口腔ケア」,「4.在宅での栄養療法」などと続く各章は,どれも手抜きがなく,必要にして十分な内容を持っていて,短い総説として読むのに最適である。
 後半の訪問看護ステーションや介護保険の項は,内容は申し分ないが,本で読むより直接足を運んで関係者と話すほうが実践的なので,あえてコンパクトなこの本に入れなくてもよかったのでは?と思う。「17.医療と福祉のネットワークをこうして作る」にしても,実際は各地の資源と関係者の考え方や経済動向に左右されることが多い。ことに社会資源の乏しい地域で在宅医療を実践している医師には違和感があるかもしれない。

確実に増加する在宅医療従事者

 今後,在宅医療を始める医療従事者は確実に増えるだろう。もし,理事者や事務長が味方になってくれないなら,この本を示して,「こんなふうにやりたい!」と言えばよい。その内容の豊かさと患者さんに寄り添うスタンスに驚嘆して,きっと彼らも応援団になってくれるに違いない。
A5・頁232 定価(本体4,000円+税) 医学書院


臨床エキスパートのノウハウとコツが醸し出される

内科レジデント治療マニュアル
北原光夫,渥美義仁,高木 誠 編集

《書 評》齋藤宣彦(聖マリアンナ医大教授・内科学)

 手元に同じくらいの大きさの『診断マニュアル』,『研修マニュアル』,『レジデントマニュアル』,『診療ガイド』等々似たような本が何冊かある。
 なぜ類書を沢山買い込んであるかというと,もちろん時代に遅れないようにしなければという個人的な強迫観念もあるが,初期臨床研修や卒前のクリニカルクラークシップで,どこまで必要なのかを確認するのに,この種の書物はきわめて役に立つからである。それは,これらの書物はどれも,それぞれの執筆者がエビデンスと自身の臨床経験とに照らして,膨大な教科書や文献の中からコアとなる部分を苦労して抽出してくれた結果が示されていることによる。
 確かにどの書も書名の似たものが多い。しかしよく見ると,治療と銘打って方向づけをしているものは少ない。これまでの多くの書は診断に焦点を合わせ,治療方針は概略を述べるにとどまっていた。近年になって,治療にまで踏み込んだハンドブックがいくつか出版されてきた。本書もその1つである。
 治療に焦点を合わせた場合,多くの内科疾患についての治療指針を1冊にまとめると,枕にするのにちょうどよいくらい膨大な大きさの書物になってしまう。それはそれ,確認用として書架に置くか,CD-ROM版を備えて置くか,いずれにしてもあると重宝ではある。しかし,ポケッタブルな書として持ち歩いていて実践の場で治療指針を思い起こし,治療薬のうちの代表的なものの市販名まで確かめるという時には本書が役に立つ。

発揮された編集者の日頃の臨床経験と見識

 治療マニュアルを組み立てる時の難しさは,その内容を病態解説と臨床薬理学とに終始させると実践的ではなくなるし,かといって治療薬の方向に向き過ぎると薬の解説書になってしまうことである。そのバランス感覚を養うのは,編集者の日頃の臨床経験である。さらに,数ある疾患や病態をどのように整理してまとめていくか,これも編集者の見識のみせどころで,この種の書物を作ろうという時,教科書の目次を参考に拾っていこうとすると,あれも必要,これも収載,ということになって,結局収集がつかなくなる。そこで発揮されるのが編集者の臨床経験から醸し出されたノウハウであり,コツなのである。

卒前にも有用な1冊

 以上の観点から本書を見ると,編集者の3人が,きわめて多くの臨床経験を有する人々であることは,この方々を知らない人々でも,臨床の道を歩み始めた人にはわかるはずである。そのとおり,この3人の編集者は,いずれもよく知られた臨床のエキスパートとして,つとに名高い。本書の読者対象を卒後のレジデントに絞る必要はまったくない。医師国家試験でも,病態治療の知識を要求する問題が増大しつつあるのは周知のとおり。卒前のクリニカルクラークシップにも有用な書の1冊である。
A5変・頁704 定価(本体6,800円+税) 医学書院


日常耳鼻咽喉科臨床のコツがいっぱい

〈耳喉頭頸ブックス〉
耳鼻咽喉科オフィスクリニック 診察・検査編

八木聰明 編集

《書 評》中野雄一(新潟労災病院長/新潟大名誉教授)

 本書のタイトルは,『耳鼻咽喉科オフィスクリニック 診察・検査編』となっている。このためタイトルだけを見ると診療所や病院外来での診療に役立つ実用書ととられるであろう。そして次に出るのは,治療編ではないかと思われるところである。しかし実際には,月刊誌「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」(医学書院)に連載された耳鼻咽喉科“コツ”シリーズに,新たな項目と21世紀の耳鼻咽喉科診療を展望するコラムを加え1冊にまとめ,装いを新たにしたものが本書である。

外来診察と外来検査のコツからなる実践書

 その内容を見ると本書は,外来診察のコツと,外来検査のコツの2部からなっており,前者は局所別に,後者は機能別に項目が分けられていて,例えば耳診察のコツとか聴力検査のコツ,というふうにそれぞれの項目についてコツが記載されている。となると,携帯あるいは身近に常備する手引き書やマニュアルとは異なったものであることがわかる。そうかと言って純粋な参考書でもない。本書は必要に応じて,じっくりと読む実践書でもある。
 したがって,この本を手にとってまず関心を抱くとしたら,それは本書の特徴であるコツについて知りたいということであろう。それも,あまり苦労せずに的確に診療する要領を早く会得したい,ということであろう。しかし一口にコツと言ってもいろいろなコツがあり単純ではない。所見の見方・とり方,診断の仕方,検査の進め方などそれぞれにコツがある。その他,物事のやり方についてのノウハウや熟練を必要とするスキルなどもコツとすれば,“How do I it”や工夫もコツといえよう。昔はちょっとしたコツであれば,それは耳学問で得られたものである。車社会でなかった頃,夜遅くまで研究室にいると,やがてみんなの顔が揃い,医局に集って飲みながらの話になる。そんな中で,先輩からコツについての貴重な経験が語られたものである。

必要なコツを会得するための心構え

 ところで,今はグルメの時代。同じ料理でもいかにおいしく調理するかで,多くの料理番組が作られている。確かに,素材を選び,教えられたコツに従ってきちんと調理すれば格段においしくなる。これまでの料理は一体何だったのかとその差に愕然とするが,それぞれの料理にはそれぞれのコツがある。そのコツは昔から代々受け継がれ,さらに改良が加えられて生まれたものである。現在の科学的分析からも,きわめて合理的な調理法であるという。ひるがえって医療の質を高める診療のコツも積年の経験と研鑽から会得されたものであるが,こちらも学問的な裏づけに支えられている。
 となると,“コツ”というものはきわめて合理的な処理の仕方,工夫ということになるが,それを会得するにはそれなりの心構えが必要なことは言うまでもない。例えばこの検査は何の検査で何がわかり,この症例にはどのような検査が必要かという基本的なことをあらかじめ理解していないと,機能を評価,判断するコツはなかなか覚えられない。最近,店頭でみかけた料理の本にも「基本とコツ」という副題がついていた。安直なコツの修得はないという観点から本書を読むとコツの何たるかがわかる。と同時に,逆にそのコツを活かすには前述したような基本的な事項の習得の必要性が認識されよう。そこで,もし,このことに関してはこうしたほうがよいというようなヒントが得られ,試しに行なってみるようになれば,それは自分なりにコツがつかめたということになる。本書の新しい利用法と言える。
 質の高い医療の提供が問われている昨今,先輩の知恵を活用し診療にあたることはきわめて大切なことで,この点本書の果たす役割は大きい。特にこれからの医療を担う研修医や専門医をめざす若手医師には必読の書と言えよう。
B5・頁188 定価(本体4,500円+税) 医学書院


プラクティカルな花粉症診療のガイドライン

〈総合診療ブックス〉
花粉症診療の質を高める
内科医への20の診療ナビゲーション
 榎本雅夫,福井次矢,藤村 聡 編集

《書 評》木川和彦(熊本大附属病院・総合診療部)

求められる非専門外来での患者教育

 花粉症患者さんの受診は,近年の患者数の増加に伴い,耳鼻科などの専門外来のみならず,一般内科やいわゆるプライマリ・ケアの外来への受診増や,さらには内科の他の専門外来においても,受診中の患者さんへの初期診療が求められるなど,非専門外来における対応への需要が増してきている。
 当然ながら非専門外来においても,きちんとした診断,治療そして適切な患者教育が求められている。また症例によっては主治医として,患者さんへのベストな診療を模索するために,専門医とのディスカッションや的確なコンサルテーションが必要になる。その際,総合診療ブックス・シリーズの1冊でもある本書は,多忙な第一線の臨床医にとって,きわめてプラクティカルで,良質な診療ガイドラインとして有用である。

研修医にとっても最適な参考書

 本書の特徴は,(1)第一線の医療現場の状況を把握している総合診療医が,非専門外来での診療に対応していくために何が必要かを熟慮した上で,専門医とともに執筆していること,(2)構成上にもさまざまな工夫がされており,大きく20項目に分け,非常に読みやすく,理解しやすいものであること,(3)病歴や身体診察で注意すべき点,診断,治療,さらに患者教育という視点からのアドバイスなど,単なる診断や,治療のための,いわゆるマニュアル本ではなく,筋道を立ててのアプローチの仕方,考え方が示されていること,(4)コンパクトな仕上げにもかかわらず,引用された最新の文献欄もあり,自己学習によりさらに質を高めることができること,(5)使い方が最初に,Map of the book=本書の使い方として示してあるなど,使いやすさへの配慮がなされていることなどである。したがって,日曜や夜間の時間外の外来診療にあたる研修医にとっても最適な参考書であると思う。
 余談だが,11のコラムに名づけられたClinical pearlsという表現は,27年前のアメリカでのレジデント時代を,懐かしく思い出させてくれた。
A5・頁184 定価(本体3,700円+税) 医学書院


詳細かつわかりやすい図説で,見事に病態生理を解説

一目でわかる病態生理
松野一彦 著

《書 評》寺田秀夫(聖路加国際病院内科顧問/昭和大客員教授)

深い感銘を受けたすばらしい内容

 本書を通読して,まずその内容のすばらしさに深い感銘を受けた。日常臨床の場で遭遇する主要な徴候(易感染性,発熱,黄疸,高血圧,肥満,肝脾腫,リンパ節腫脹など19項目)と胸痛,腹痛,頭痛,咳嗽,関節痛などの自覚症状30項目と蛋白尿,血尿,糖尿などの基礎的検査異常4項目などを39項目に絞り込み,それらの出現する機序,すなわち病態生理を最新の免疫機序,サイトカイン,遺伝子などの点も含めて,実に詳細かつわかりやすい図説で見事に解説されている。
 項目によっては患者を診察する際の要点,検査値から診断へのアプローチの仕方,症状を聞き,所見を見た場合の診断のコツ,例えば悪心・嘔吐・吐血・下血の鑑別など実にあざやかに示され,これらは医学生や研修医・ナースにすぐ役立つものである。
 著者の最も造詣の深い血液学の領域である貧血,リンパ節腫脹,出血傾向などの項目でも,難しい内容が実にわかりやすく記述されているのに驚いた。また,日々の内科外来で最も多く訴えられる関節痛の項では,関節の種類・構造・痛風の痛みの病態,さらに患者数の多い慢性関節リウマチの発生機序について最新の学説もとり入れてあざやかに図説している。

即戦力的で内容の深い病態生理学

 長年内科医としての臨床経験を持ち,また,臨床検査医学における深い識見をも有する著者が,図やイラストを中心として各項目ごとに見開き2頁のレイアウトで解説した本書は,従来に類をみない好著で,医学生はもちろん日常の診療に携わる医師,ナース,薬剤師などに,ぜひ一読をと心から勧めたい書である。
 特に21世紀における医学・歯学教育の改善が叫ばれている現在,このような即戦力的な,かつ内容の深い病態生理学の書が医学生や研修医の最新のガイドブックとして,また,実地医学の座右の書として大いに役立つものと思われる。
 欄外に略語の正式名が随所に記載されており,とかく略語に馴れ過ぎている筆者にはきわめて有益であり,著者の細かい心遣いを感じる。
A4変・頁100 定価(本体2,900円+税) MEDSi