医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


忙しい臨床家のためにズバリ即答,除菌治療のコツ

ヘリコバクター・ピロリ除菌治療Q&A
榊 信廣 著

《書 評》菅野健太郎(自治医大教授・消化器内科学)

 ヘリコバクター・ピロリの除菌治療が,わが国でもようやく保険診療として認められ,わが国の消化性潰瘍治療体系が欧米諸国に近づいてきたことは喜ばしいことである。しかし,これまで除菌治療に造詣の深い専門家の手によって行なわれてきた除菌治療が,だれでも可能となったことに伴い,全国各地でヘリコバクター・ピロリ感染の診断,適応症,治療法,その後の経過観察の方法,ならびに除菌判定法など,除菌治療におけるさまざまなポイントで,保険診療上の混乱が起きていることが明らかになっている。除菌治療が認可され,製薬メーカーも各地で精力的に講演会を開催して,除菌治療についての啓蒙活動を行ない,また各地の医師会も,現場の混乱に対応するために注意を呼びかけているが,今しばらくさまざまな問題や疑問が生じてくることが予想される。

適正な除菌治療を行なうために

 榊博士は,内視鏡診断や除菌治療に関するわが国でも有数の臨床研究者であり,すでに多数の著書を発表され,全国各地で講演を行なっておられるが,その経験に基づいて,現場臨床医の除菌治療をめぐるさまざまな疑問に答える本書を著されたのは,まさに時宜を得たものであると言えよう。
 本書の特筆すべき点は,その内容が「質問と解答(Q&A)」の形式となっていて,現場の医師の疑問や患者さんへの説明にすぐ役立ち,しかも気軽に読みやすく配慮されていて感心させられた。質問に対する答えも,忙しい臨床家のために,そのものズバリの短い解答とともに,その根拠となる,より詳細な解説の2段階になっているので,時間にあわせて読むのに都合がよい。そのうえ向学心の強い医師向けには,解説の中に原著の参考文献まで付せられているので,これらを併せて読むことによって,これまでまったく除菌治療を行なった経験のない医師でも,除菌治療の実際が明快かつ詳細に理解できると思われる。このような本の体裁の工夫には,医学書院の編集者の努力も大きかったのかもしれない。もちろん専門家からみても,榊博士の解説には傾聴させられる点が多く,興味を持って一気に読み進められる。
 現在保険認可となっている除菌治療は,これまで長い試行錯誤に基づいてようやく確立されたものであるが,その過程でさまざまな問題点も有していることが明らかにされている。本書は医師が除菌治療を適正に行なうために,大いに役立つばかりでなく,除菌治療を受ける患者さんにもぜひ一読をお勧めしたいと思う。
A5・頁160 定価(本体3,000円+税) 医学書院


肝癌診療戦略の変革をせまる画期的方法

肝腫瘍の造影ハーモニックイメージング
工藤正俊 著

《書 評》松井 修(金沢大教授・放射線科学)

 工藤正俊教授(近畿大学消化器内科)が肝腫瘍,特に肝細胞癌に関する造影超音波診断法の著書を刊行された。超音波造影剤がわが国で認可され販売が開始されたが,まさにこの時期にこの分野の第一人者による待望の出版である。

深い経験に裏打ちされた画像と解説

 一読して美しい画像とその的確かつ簡明な解説に感銘を受ける。深い経験に裏打ちされた画像と解説には無駄がなく,まさに“state of the arts”である。著者が序言で述べられたように,1例1例の詳細な観察から得られる知見を最重要視する姿勢が貫かれている。それは著者と知り合った十数年前からの一貫した姿勢であった。肝細胞癌の多段階発癌と血行支配の変化は,私と工藤教授の共通した研究課題であった。私は主に門脈造影下CTを用いて,工藤教授はCO2動注下超音波診断法を用いて研究したが,門脈と動脈というまさに表裏一体をそれぞれが観察し,ほぼ同じ結論に至ったが,この間に電話や手紙,研究会でいろいろと意見を交換した。工藤教授の常に真摯で科学的な姿勢は,その後の数々の指導的な論文として世に出ているが,まとまった著書としては初めてのものである。まさに待望の著である。
 本書は,まずCO2動注下超音波診断法とその肝腫瘍における所見を簡潔に解説し,レボビスト静注による造影超音波診断法による所見の解釈の基礎としている。その後,造影剤の性状や体内動態の解説を行なった上で,造影超音波撮像法の基礎的理論や特徴を解説し,画像所見の記載へと進んでいる。この領域の初心者でも十分に理解できるように構成されており,入門書としても申し分ない。さらに現在,造影超音波診断が可能な機器のそれぞれについて,実践的な撮像法やコツをその基礎から臨床にわたって解説している点も他に類をみない点である。機種の差異による撮像法や画像の違いは,実際にすべての機種で多くの経験を積まれた著者ならではのものであろう。機種や撮像法による画像の差異や特徴を知ることはきわめて重要であるが,こうした点で興味深い内容が随所に記載されている。造影超音波診断機器の導入に際しても大変参考になるものと思われる。最後に,造影超音波診断法の臨床的役割について現在の著者の考えが述べられているが,「肝腫瘍の診断あるいは治療の戦略を実質的に大きく変える画期的な方法であると思われる」と結んでいる。著者の本法への思い入れの深さと情熱が伝わってくる名著である。

造影超音波診断法への熱い思い

 工藤教授は,CO2動注下超音波診断法で肝腫瘍の血行動態の解析を行ない,その臨床的重要性を報告されてきたが,これらの知見が非侵襲的診断法で明らかにできる日を夢みておられたことと思う。超音波造影剤の出現,またそれを画像化する新しい装置の出現は,まさに工藤教授のためにあったような気さえする。工藤教授がいち早くこれらを導入し,これまでの知見にさらに新しい知見を加えて本書を出版されたが,そこには工藤教授の造影超音波診断法への熱い思いと一般への普及への願い,そしてその結果としての肝癌診療への大きな貢献への切望が凝縮されているように思う。肝疾患の診療に携わる内科医,放射線科医,外科医にとって必読の書としてお勧めする。
B5・頁224 定価(本体12,000円+税) 医学書院


侮れない高齢者結核の広がり,医療スタッフ必携の1冊

医療従事者のための 結核の知識
四元秀毅,佐藤紘二 著

《書 評》木田厚瑞(都老人医療センター部長・呼吸器科)

厚労省の「結核緊急事態」宣言

 かつて結核は,国民病と言われた。「安静・栄養・大気」が往時の第一の治療であったが,治療薬の進歩,生活レベルの向上により著しく患者数は減少してきた。しかし,順調に減少していた結核の新規登録患者や罹患率の増加,さらにこれが将来的にも危惧されるため,厚生労働省は1999年7月に「結核緊急事態」を宣言し,注意を喚起した。
 結核は,1951年に改定された結核予防法によって予防,治療,追跡調査までが系統的に実施されるという点では,感染症の中でもユニークなものである。しかし,治療費にしても公費負担優先から1995年には健康保険優先に改められるなど,実施内容にかなりの動きがあり,これについても最近の情報を知っておく必要がある。
 本書『医療従事者のための結核の知識』は,長年,専門医として結核の診療,研究,啓蒙,教育に携わってきた2人の著者が,第一線の臨床医およびコメディカルを対象として上梓したものである。著者のうち四元秀毅先生は,国立療養所東京病院の副院長であり,佐藤紘二先生も国立療養所東京病院で長年,研鑽をつまれた後,現在は国立療養所熊本南病院の副院長の職にある。
 全体は大きく6つに分かれており,「1.減らない結核」,「2.結核はどんな病気か」,「3.結核の検査のすすめ方」,「4.結核の治療」,「5.結核の広がりをどのように抑えるか」,「6.さまざまな結核:症例提示」,からなっている。どの部分も図・表を豊富に取り上げ,わかりやすく解説している点が特徴である。しかも情報は,最新の話題を網羅しており齟齬がない。これを手許に置けば,診療現場に必要な結核のすべての知識が得られるような構成になっている。特に,「結核の広がりをどのように抑えるか」は,医療従事者にとって不可欠な基本的な知識がきわめてわかりやすく解説されている。

深刻化する高齢者結核

 最近,高齢者の施設や学校,医療機関での集団発生がしばしばメディアで取り上げられ,医療機関の責任が厳しく問われている。医療機関での集団感染は,医療の担い手である医療従事者が患者になるという痛ましいできごとというよりも,医療事故の範疇に入れられるべきものとして認識されなければならない。ここに書かれている基本原則が遵守されるなら,院内感染事故は適切に回避されることであろう。
 介護保険の導入によって高齢者の医療,福祉,保健の各分野に関わるスタッフは飛躍的に増加したが,その中でも中心になる高齢者の医療情報については必ずしも十分とはいえない。
 結核は,高齢者において問題が深刻化している。病院勤務医,研修医,開業医や看護婦だけではなく,在宅医療に関わる人たちにまで本書が広く活用されることを心から期待してやまない。
B5・頁164 定価(本体3,000円+税) 医学書院


PT・OTのために初めて編集された精神医学教科書

〈標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 全12巻〉
精神医学

奈良 勲,鎌倉矩子 監修/上野武治 編集

《書 評》山内俊雄(埼玉医大教授・神経精神科学)

 本書は,PT・OTのための標準的教科書シリーズとして作られた全12巻のうちの1冊で,“専門基礎分野”という傍題がついている。
 このシリーズ全体の監修者によれば,“専門基礎分野”というのは理学療法学,作業療法学の基礎をなす「人」,「疾患と障害」,「保健医療福祉の理念」に関わる分野を指し,別に発刊された『標準理学療法学 専門分野』全8巻と対をなす学問領域ということである。

長年の編者の経験が随所に

 いわば,専門分野を学習するために必要とされる基本的な医学的基礎というべきものであろうが,そのうちの精神医学に関する本書を編集した上野武治氏は精神医学者である。
 本書は,脳の神経病理学を専攻し,脳の器質的な疾患から精神医学を学び,その後作業療法の領域へと身を転じ,広い立場から精神疾患の治療にあたってきた編者の長年の経験が随所に見られる好著である。
 全体の体系は,ICD-10にしたがって書かれているが,簡にして要を得た記述である。精神医学者の記述する精神医学教科書はややもすれば,あれもこれもと盛りだくさんになり,重厚になりやすいが,その点が適度に押さえられ,本当に必要とされることが,たくさんの図表や貴重な写真をまじえて読みやすくまとめられている。
 だからといって内容に遺漏があるわけではない。必要なことはすべて盛り込まれ,時にはadvanced studiesとして先端的な新しい知識が紹介されている。しかも,共同執筆者がいずれもその道の第1人者であり,それぞれ十分な知識と経験をもとに執筆されていることが,この本がバランスの取れた隙のないものになっている大きな要因であろう。

わかりやすく手ごろな入門書

 実は精神医学の専門家以外の人に精神医学をわかりやすく説明することは,大変難しいことである。意識とか幻覚,妄想といった,多くの人になじみの薄い事柄をわかってもらうためには,それだけの工夫が必要であり,わかりやすく書くということが一番難しいのである。
 従来の精神医学の教科書は,必ずしも精神科医以外の人にわかりやすく書かれていたとは言いがたかった。その点,本書は編集者が言うように「PT・OTのために編集された精神医学教科書としては,おそらく初めてのもの」であるが,このように肝要にしてわかりやすく書かれたことの意義は大きい。
 その意味ではPT・OT以外にも,精神医学を改めて学びたい人,精神医学の現状を知りたい人,精神医学についての知識を整理したい人たちにとっても手ごろな入門書となっている。
 とはいえ,本書はOT・PTを意識したものであるので,「復習のポイント」,「理学・作業療法との関連事項」,「精神保健福祉法・抜粋」,「精神疾患を有するものの保護およびメンタルヘルスケアの改善のための原則(国連)」や「セルフアセスメント」などがのせられている。
 個人的には「理学・作業療法との関連事項」に,理学・作業療法のどのような場面で精神医学が必要とされるか,精神医学的観点から,どんな点に注意し,意識すべきかといったことを,もう少し書きこんでもらえれば参考になり,かつ精神医学の必要性も具体的に理解できたのではないかという感想を抱いたが,ともあれ多くの人に勧めたい精神医学教科書である。
B5・頁280 定価(本体4,400円+税) 医学書院


従来にないわかりやすく使いやすい眼科学教科書

標準眼科学 第8版
大野重昭,澤 充,木下 茂 編集

《書 評》望月 學(東医歯大教授・視覚応答調節学)

 このたび,『標準眼科学』第8版が出版された。本書は,すでに医学生の間で高い評価を受け広く全国で使用されている眼科教科書である。それは,1981年の初版以来ほぼ3年ごとに版を改め,その都度,新しい知識を加え,よりわかりやすくするための工夫を重ねている結果と言える。

一段と内容が充実

 今回の第8版も,7名の新しい執筆者が加わり内容が一段と充実し,各章の章立てと構成を統一化して読みやすくし,文字を濃くし,イラストレーションをカラー化するなど,読みやすくわかりやすくする工夫がなされている。さらに,「Close-up」という新しい企画では,医学生の興味をひく幾つかの項目をより詳しく解説している。
 医学生諸君にとっては,従来にないわかりやすく使いやすい眼科教科書となっている。編集者と執筆者に敬意を表する次第である。
B5・頁324 定価(本体6,800円+税) 医学書院


期待されるより質の高い糖尿病外来診療に必携

〈総合診療ブックス〉
糖尿病患者を外来で上手にみるための21のルール

吉岡成人,大西利明 編集

《書 評》田嶼尚子(慈恵医大教授・内科学/糖尿病/代謝/内分泌)

 「糖尿病はできるだけ軽症のうちから治療する」ことが,世界的な傾向になってきた。糖尿病患者数が激増している昨今,軽症糖尿病患者の治療の多くは,実地医家の手にゆだねられている。また,コメディカルの糖尿病ケアにおける役割も次第に大きくなってきた。このような現状の中で,本書は,より質の高い糖尿病外来診療を行なうための助けとなることを期待して編纂されたものである。

「読む」本でなく
「使える本」をめざす

 本書の最大の特徴は,教科書的な記載から一歩進んで,臨床の第一線で糖尿病の診療にあたっておられる先生方による「本音」の糖尿病診療の指針が示されていることであろう。それだからこそ,編者は本書が「読む本」ではなく「使う本」であることをめざされたのだと思う。外来でしばしば遭遇するテーマを21項目かかげ,臨床シナリオから解説し,そのケースから学ぶべきことを「caseの教訓」としてコメントし,さらには関連するエビデンスを紹介するなど他の本には見られない特徴があり,筆者の諸先生方の努力の跡がにじみ出ている。21世紀の幕開けにふさわしい,新たなアイディアにあふれた実践的糖尿病治療のための本の誕生である。

EBMに基づく糖尿病診療へ

 もう1つの特徴は,本書を座右の書として使いこなしていくことによって,知らず知らずのうちにEBMに基づいた診療を行なえる医療スタッフを育てたいという意図を,編者が持っておられる(のではないか)ということである。しかし,どこまでがエビデンスとして,あるいはコンセンサスとして受け入れられているのか,どこからがその項の筆者のclinical expertiseに立脚した「本音」の治療法なのかが今1つはっきりしない章が見受けられる。また,同じテーマに関する治療法なのに,筆者によって意見の違いがある。このあたりは,糖尿病専門医は「読む本」としては興味深い点ではあるが,一般内科医やコメディカルを混乱させはしないか気がかりである。また,筆者によって文章のトーンが違っていること,引用した図表の出典が明記されていない場合があるところなど目についた。新たな息吹を感じさせてくれる本書である。新たな版を出される時には,これらの点をぜひ改訂し,さらに魅力的な教科書にしていただきたい。
A5・頁224 定価(本体4,000円+税) 医学書院


精神障害ケアの精神生物学的基礎を解説

脳疾患ケアの精神生物学的基礎
植村研一,神郡 博,櫻庭 繁 監訳

《書 評》佐藤光源(東北福祉大教授・東北大名誉教授)

 本書は,Keltner博士らによる『Psychobiological Foundations of Psychiatric Care』(Mosby,1998)の訳書である。『脳疾患ケアの精神生物学的基礎』と題されているが,その内容は精神分裂病,気分障害,不安障害,摂食障害,物質関連障害,てんかんや痴呆性疾患などが中心で,臨床的なケアにも踏み込んだ「精神障害ケアの精神生物学的基礎」である。
 企画が斬新で,心の舞台装置である脳を正面に見据え,その表出症状である精神神経疾患をわかりやすく解説している。精神と神経がスピリチュアリティを構成するという考えで書かれているが,これらは本書が精神科看護学のKeltner博士,精神医学のFolks博士,神経内科学と神経病理学のPalmer博士,そして病理学と老年精神医学のPowers博士の共著ということで納得できる。

脳科学からみた精神医学

 本書は,第1部の「精神生物学的基礎」と第2部の「疾患ごとの生物学的基礎と臨床的管理」からなる。第1部は,脳と神経病理の写真が多いのが特徴で,脳解剖も項目ごとに3行程度の要約があってわかりやすい。第2部は,精神障害の生物学的な基礎と臨床的な管理であり,代表的な精神障害が10章にわたって記載されている。DSM-IVに準拠しながら,心理社会的な介入と精神薬理学の基本がバランスよく記載されている。各論では,物質関連障害,痴呆性疾患,エイズ関連神経精神疾患,運動障害やてんかんはその生物学的な基盤が図説されており,さすがに脳科学からみた精神医学であると評価できる。しかし,精神分裂病,気分障害,不安障害や摂食障害では,その心理社会的な側面,特に精神病理学の記述がもう少し深められてもよい。私は早速本書の図表を中心に医学教育や精神保健福祉教育の講義に使っているが,学生にはわかりやすいと好評である。精神障害に関連する広い領域の方々にとって必読の入門書としてお勧めする。
B5・頁316 定価(本体7,600円+税) MEDSi