医学界新聞

 

〔鼎談〕

肝細胞癌の診断と治療

造影ハーモニックからRFAまで


工藤正俊氏
近畿大学教授・消化器内科
<司会>

田中克明氏
横浜市大市民総合医療センター教授
消化器病センター

田中正俊氏
久留米大学医療センター講師
消化器科


■肝細胞癌の画像診断

肝細胞癌の早期診断

工藤〈司会〉 ご存じのように,肝細胞癌に関してはここ数年,診断面においても治療面においても大きな展開がありました。 診断面では,「CTHA(血管造影下CT撮影)」,「CTAP(経上腸管膜動脈的門脈造影下CT)」,「CO2US(動注造影エコー法)」,さらに最近はLevovist(末梢静脈投与性超音波造影剤)が使用可能となり,造影ハーモニックイメージングが急速な進歩を見せています。
 一方,治療面では,「PEIT(経皮的エタノール注入法)」,「PMCT(経皮的マイクロ波凝固法)」,最近では「RFA(経皮的ラジオ波焼灼療法)」が注目を集めています。
 そこで本日は,「肝細胞癌の診断と治療-造影ハーモニックからRFAまで」と題しまして,先生方のご意見をお聞かせいただきたいと思います。最初に,肝細胞癌の早期診断に関して,田中正俊先生はどのように感じられますか。
田中(正) 最近の日本肝臓学会や厚生労働省が主導している輸血製剤によるC型肝炎のキャンペーンが,日常診療に影響しているように思います。患者さん側が積極的にスクリーニングに協力してくれ,自主的に申請する状況ができつつあると感じます。
工藤 10年前から3か月ごとに超音波やスクリーニングなどをしましたが,最近は患者さんも理解していますね。
田中(正) 久留米地区においても,以前は農繁期には定期検診が途絶えがちでしたが,最近は「採血検査」と「画像検査」の違いをきちんと分けて理解していただけ,画像診断が早期診断に寄与できる状況になりました。
田中(克) 最近は,肝炎の患者さんの会に行きましても,皆さん大変勉強なさっていて,かなり詳しいですね。患者さんから積極的にアプローチをしていただくことはよいことだと思います。
工藤 ちなみに先生方はどの程度病名を告知なさっていますか。
田中(克) 私は95%くらいです。ただし,いきなり告知するのでなく,慢性肝炎や肝硬変の段階から,例えば「癌ができやすい」というように,癌という言葉を何回も使います。前もって癌ができるということを言っておくのも1つの方法かもしれません。
田中(正) 私も大体95%くらいです。
工藤 超音波で発見することが多いですか。
田中(克) 私どもの病院は1年半前に新規オープンしたので,40%ぐらいは紹介ですが,残りの60%のかなりの部分は超音波で発見されています。工藤先生のところはいかがですか。
工藤 私どもも50%以上は紹介です。2-3年前までは,かなり進行癌が多かったのですが,先ほど言われたように,最近は肝臓学会のキャンペーンもあって,開業医の啓蒙の成果も大きいですね。

診断のコンセンサス

工藤 ところで,今年の「消化器関連学会週間(DDW)」でコンセンサス・ミーティングがあります。B型肝炎とC型肝炎と肝癌に関して,診断と治療に分けて日本のコンセンサスを統一しようとするものです。診断のコンセンサスを考えてみると,結節が見つかったらどこまでやるか。CTHA,CTAPはどういう時にやるか。Feridex MRIとdynamic MRIは,どちらが検出率がよいか。Dynamic MRとdynamic CTはどちらがよいのか。そういうことが議論の対象になると思います。
田中(正) 一般企業であれば,「歩留まり」を上げるために,当然行なわれてきた作業だと思います。これまでは,自分の得意なもので診断して,スクリーニングをしてきたきらいがあります。そういうものがある程度出揃ってきた状況もあるので,もう一度見直して効率よくしようということですね。「効率よく」ということは,患者さんのリスクを減らし,経済的負担も少なくして,きちんとした診断をするためのコンセンサス,了解点を作っていこうという意味ですから,正しい動きだと思います。
工藤 そうですね。また,専門医だけでなく,一般医の先生方に対するガイドライン としても重要だと思います。
田中(克) そうなると,超音波の役割はますます大きくなると思います。特に第2世代の造影剤が臨床応用可能となり,普及型の装置でも十分に診断できるようになると,超音波だけで診断・治療・効果判定までが可能になるかもしれません。

「病巣検出」について

工藤 ところで,肝細胞癌診断における血流画像の役割は,(1)病巣検出(lesion detection),(2)質的診断(characterization),(3)悪性度評価(evaluation of malignant grade),(4)進展度診断(staging),および(5)治療効果判定・再発診断(evaluation of treatment response)の5つがあると思います。
 まず「病巣検出」に関する造影エコー法の有用性についていかがでしょうか。
田中(正) 他の画像診断でマルチスライスCTという非常に有望な方法も出現し,MRIもまた新しい造影剤が出てきそうですが,現在の画像分解能からは,1番が超音波,2番がCT,3番がMRIだと思います。
 スクリーニングのために存在診断をするためにはどうしても客観性が必要です。そういう意味から,現段階でバランスがよいのはやはりマルチスライスCTでしょう。
 ただ,造影超音波はスクリーニングという意味では今の段階では一歩引いているとしても,「質的診断」という意味では,血流に対する感度はCTよりもはるかに高いです。ですから,悪性度評価という点では,現状では狙ったところに関しては超音波の情報を信じているという立場です。
田中(克) 造影ハーモニック法によるスクリーニングという点では,Levovistを静注してから5分後くらいのいわゆるpost-vascularphaseで全肝をsweep scanすると,肝細胞癌などは「欠損像」として捉えられるため,検出やstagingに寄与する,という報告もあります。
 しかし,実際には後でも述べますが,まだまだ転移性肝癌に比べると,肝細胞癌のスクリーニングにlate phaseのsweep scanを使うというのは問題があります。

「質的診断」について

工藤 それでは,次に「質的診断」についてはいかがでしょうか。
田中(正) まず,肝癌に関しては血流があるかないか,乏血性腫瘍か多血性腫瘍かという評価は,CTよりも超音波のほうが本当の姿が出ていると思います。
 後ほど触れられるでしょうが,治療効果判定の面からも造影超音波のほうが本来の姿を出しています。とすれば,診断の意味においても,現在はまだ造影剤や器械,またハイエンドの機器でなければ正確に血流診断ができないという問題や,造影剤をもう少しシェル(殻)を硬くして時間を持てるようにして,resonanceである程度血流を評価できるようにしなければならないという問題があるにしても,将来的には肝癌の血流評価に関しては超音波がスタンダードになる可能性を秘めていると思います。
 当然そこまでわかるのなら,典型的なFNH(限局性結節過形成),あるいはアルコールに伴うような過形成結節や臨床的に比較的診断の難しい病変については,むしろ狙ったところであれば,いずれ超音波による質的診断のほうが評価が高くなるのではないかと思います。
 克服すべき課題は,技術的レベルを高めていくことです。器械だけでなく,術者の技術の問題も含めて,いかに客観性を持たせるかということが問題だと感じます。
田中(克) 私も同感です。Levovistはかなりデリケートな造影剤です。エキスパートと初心者では画像が異なり,vascularityの診断をさせるとまったく違った結果を出してくるのはめずらしくありません。臨床医がすべて同じレベルで診断できるかというと,まだ無理だろうと思います。また装置によってもまだまだ差があります。
 しかし,第2世代の造影剤ができると,その辺の閾値がだいぶ下がってくるので,状況は変わってくると思います。
工藤 CTと比べてどうでしょうか。と言うのも,局所で超音波で見つかったものの血管構築は,CTではperfusion image(染まり)しか見えないことが多いです。
 その点,Levovist造影はvascularの血管構築と染影の両方が得られことが大きなメリットだと思います。Vasular imageはCO2USやDSA(デジタルサブトラクション血管造影)の早期の血管構築を断層面で見るわけですから,それと染まりと両方見られるという点ではCTを凌ぐと思います。
田中(克) 同感です。うちのCTはマルチスライスではありませんが,腫瘍血管の構築を行なうという点から言えば,CTよりも造影エコー法の画像のほうが上です。
田中(正) きちんとした器械できちんとした技術を持った者が理論をわかってやれば,CTよりも確実に感度が高く,分解能が高いことが証明できていますが,地域や施設間格差が出やすい器械なので,ある意味で職人芸になってしまうところがあります。今後普及させるためには,情報を交換し合うシステム作りも必要だと思います。

「悪性度評価」について

工藤 「悪性度評価」という話になると,肝細胞癌の場合は,最終的にはCTも血管造影も行なうわけです。その意味において造影ハーモニックは有用であるかどうかという問題についていかがですか。
田中(正) 田中克明先生は,血管造影をすべての肝癌症例にされていますか。
田中(克) 明らかに門脈本管に腫瘍塞栓があるようなケースはしませんが,それ以外のケースであれば基本的にやります。
田中(正) hypovascularとわかっていてもそうですか。
田中(克) CTAPやCTHA,CO2USはルーチンに近いので,必ず一度は血管造影というステップを踏んでいます。
田中(正) 工藤先生はいかがですか。
工藤 私は診断目的だけの場合には,やらないケースも稀にありますし,RFAのみを行なってしまう場合もあります。
田中(正) 実は,私も最近そういう方向にあります。ある程度肝硬変が進行した方で,明らかに肝切除の適応にはならない,かつまた他にも疑わしい結節がある場合,あるいはChild Bでも悪いほうの肝機能の患者さんに乏血性の腫瘍がある場合,マルチスライスCTを多用しています。
 そのせいもありますが,マルチスライスCT造影超音波腫瘍生検診断で肝癌と診断できれば,患者さんの負担とこれから先の多中心性発生のリスクを考えると,あえて血管造影をしません。
 血管造影はリスクになりますし,入院期間も長くなりますので,その時点で診断をつけて治療に踏み切るケースが増えてきているのは事実です。
田中(克) コスト面や侵襲性などを考えると,将来的にはそうなるでしょうね。
田中(正) そういう意味では,造影超音波は非常に重要な位置を占めるようになってきています。従来は,CTと血管造影で行なっていた評価を,CTと造影超音波でvascularityを確認して,診断をつけて治療に入るわけです。
工藤 血管造影という作業を省ける可能性がありますね。
田中(正) すべてではありませんが,あるグループに関しては可能性があります。
工藤 少なくとも,ステージングあるいはvascularの診断目的のための血管造影は必要なくなりますね。Feredex MRIを使えばスキップしてもよいわけですから,結節の血流評価だけでいけることもあります。

「治療効果」について

工藤 治療効果判定についてはどうですか。
田中(克) 私はカラードプラ法に思い入れが強いのですが,現在の造影ハーモニックBモードを使った治療効果判定は,造影剤をボーラスで静注してから90秒前後の門脈相,あるいはlate vascular phase(後期血管相)のperfusion imageの有無で判定するのがよいと思います。
工藤 私も造影ハーモニックが出始めて,新しい真実がわかってきた局面もあると思います。例えば,Lipiodol TAE(肝動脈塞栓術)でも治療効果判定には,ダイナミックCTですべて見ていました。しかし,Lipiodol CTで,サブセグメントにしっかり詰めた結節が,1週間後にLipiodolが完全に停滞し,なおかつ造影ハーモニックで見ると血管や血流perfusionが結節内に残っていることがしばしばあることがわかってきました。これは日本においては次第に常識的になってきている事実ではあると思いますが,われわれ日本のグループこそがこういう事実を世界で初めて目にしている数少ない集団ではないかと思います。最初は,放射線科医には受け入れられにくかったことと思います。
 それが,現在次第に認められるようになってきた理由は,LipiodolがCTにしっかり入っていて,血流があるわけがないという認識が覆されたからだと思いますし,TAE後のLipiodolのwashoutや再発の理由がこれで説明できると思われます。Lipiodol TAE後の治療効果判定についてはCTを凌ぐということは,すでに確立されつつあるのではないかと思います。
田中(克) 私たちの施設でも造影ハーモニック法で効果判定をした症例のうちCTでどれだけ診断できるかというと約3分の1です。Lipiodol TAEで治療後早期という前提はありますが,残りの3分の2はCTで診断できていませんので,その差は大きいですね。

■肝細胞癌の局所治療

RFAの現況と展望

工藤 そういう点では,治療戦略が変わってくると思います。
 私どもの施設も,造影ハーモニックでTAE後に血流が結節内に残存しているもので,局所治療を追加していないものは全例再発しています。
田中(正) 局所温熱治療(RFA,PMCT)の場合とTAEの場合は,後の造影超音波の像は違いますから,それだけで答えは出ていると思います。ただ,実際に血流があったとしても,それが再発につながるものか,隔壁の中をただ通っているものかという問題に関して言えば,あえてクレームをつければそういうことだと思います。
 それに関する回答は,また別の観点からの証明も必要でしょうが,血流が残っているということに関しては誰も疑いません。それが初めて,造影超音波の画像を見てわかったわけです。カラードプラハーモニックの間欠送信ではうまく解決できなかったものがグレースケールの造影ハーモニックで解決できるようになったことは,誰もが認めざるを得ない事実だと思います。
 それだけ感度が高く,分解能の高い検査だということが,逆に実際の臨床の現場で証明されたわけですね。
工藤 感度が高いことに加えて重要だと思うのは,超音波画像上で血流表示が得られることですね。なぜかというと,ほとんどすべての局所治療は超音波ガイド下に行なわれますから。
田中(正) RFAやPMCTも含めて,最近よく行なわれるようになった局所温熱治療に関してはどうですか。
工藤 治療効果判定については,基本的には,Bモード上でラジオ波で灼いてしまうと,癌が灼けたところと同様,被癌部が同じように低エコー化してしまうので境界が不明瞭になってしまうのです。
 すると,癌が残っているところは「遺残癌があり」と診断でき,血流が消えたら「遺残癌なし」と診断することは可能だと思いますが,局所温熱療法でさらに重要なのはセイフティ・マージンをとることです。
 そのセイフティ・マージンは,もとの腫瘍からどれだけ離れて非癌部も灼けているかということですが,その認識はハーモニック超音波でも少し難しいですね。
田中(正) そういう場合があります。
田中(克) そのほうがむしろ多いですね。
工藤 私もそう思います。客観画像としての意味では,最終的にはCTで評価しないとセーフティ・マージンの評価はできません。
田中(克) 特に灼いた直後は,周囲がうっ血帯になりますから。
 CTですとエンハンスド・リム(enhanced rim)ですね。そこは造影ハーモニックでも少し濃染されるような感じがありますが,間欠法を用いるとうっ血帯の部分がきれいに染まるのです。血流が入っていることは間違いないのですが,そこは将来的には壊死していくということでコンセンサスが得られているのでしょうか。
工藤 ほとんど死ぬでしょうが,再発が出るのはまたその部分からだと思います。
田中(正) そうですね。まだ,そこまで言うのは危険かもしれないと思います。
工藤 超音波でセーフティ・マージンまで評価できると思いますか。
田中(正) まずマージンまで評価できるかどうか確証をとること,いわゆる客観的事実を作るためにどういう方法をとればよいかを考えています。
 最近始めているのは,仮想超音波像をCT像で作る方法で,MPR(多断面再構成画像)で3D画像を作り,それを超音波の断層面に合わせてCTを再構成することができます。そうすると,例えば任意の超音波と同じ画面で,CTの画像を再構築することができるようになるので,それと造影超音波で確認したablationの形と,超音波断面に合わせた仮想超音波像のCTとの断面を一緒に合わせて評価する。そして,前のCT像も同じようにして,腫瘍濃染の場所を重ね合わせてみると,マージンがどれだけとれているかがわかります。そうやって超音波像に移し変えることができるようになったのです。そういう症例を重ねていけば,造影超音波でもきちんとマージンがとれたということを確認できるような方向に進むだろうと思います。
 現段階では,造影超音波だけで,「マージンが何ミリ取れています」という評価を下すのは早計だと思いますが,そういう客観性を持った別のスタンダードを使いながら症例を重ねていけば,たぶんその方向まで造影超音波で評価できると思います。今の段階では両方やらないとダメでしょうが,将来的にはそうなってほしいですね。
田中(克) RFAと言っても,完全に球形に灼けるわけではありませんから。確かに,一断面ではきれいに灼けるかもしれませんが,どこかの断面で残っているかもしれません。それを造影ハーモニックだけで診断するのは,今の段階では少し怖いですね。

「遺残癌」について

田中(正) 治療後の遺残癌の評価についてはどうですか。
田中(克) 現時点では,完全に灼けているのかという確証には自信がないというところでしょうから,やはりCTを組み合せないとまずいと思います。
 実際には,腫瘍を灼いたら造影超音波で評価することを繰り返し,最終的にCTで確認するという方法を用いています。
工藤 それに関連して,ハーモニック造影法によるブレークスルーと言えるのは,PEITの時代から結節の遺残癌,あるいはその再発について,CTやMRではどこにあるかはわかっていても,超音波断面はかなり無数ですから,どこに対応するかわかりません。
 ですから,辺縁に再発しているものをBモード上で局在を明らかにすることができなかったわけですが,ハーモニック法の登場により超音波断層下に血流表示ができるようになったことが大きなブレークスルーで,肝癌の局所治療を行なってきた人の夢が現実のものになってきたと思います。
田中(正) 最大の重要な点ですね。
工藤 RFAもそうですが,CTでここに再発があるとわかっていても,このへんだろうと頭の中で3次元構築して針をさすと,まったく違うところが灼けているといったことが実際にはよくあるのです。
 絶対にこの脈管からいってこの場所に間違いないと思って刺しても,間違えて違うところが灼けたり,残ったりしてしまいます。その試行錯誤の繰り返しで,前に灼いたところがここだから軌道修正してもう1回刺すということがあったと思います。
 それが超音波造影ハーモニックの出現によって,その癌の局在を超音波画像で明確にしてそこに針を刺すわけですから,効率的な治療で合併症も少なくなります。それは大きなブレークスルーで,肝癌の専門家の夢が現実化してきたと思います。
田中(正) その通りだと思います。先ほど言った仮想超音波をCTで作ろうという発想も同じです。超音波をCTに合わせるか,CTを超音波に合わせるかの違いだけで,目的は同じだと思います。

【資料】(工藤正俊著『肝腫瘍の造影ハーモニックイメージング』 医学書院刊)より
●造影エコー法の分類
(1)動注法(CO2マイクロバブル)
(2)静注法(Levovist 300mg/ml,ボーラスあるいはインフージョン)
 [1]造影ドプラ法(基本波のカラードプ ラ,パワードプラ)
 [2]造影ハーモニック法(ハーモニック パワー・カラードプラ法,ハーモニッ クBモード法,リアルタイムハーモ ニックBモード法(CHA:Coded Harmonic Angio)

●Levovistによる静注造影エコー法の種類
(1)造影ドプラ法(fundamental Doppler=カラー/パワードプラ)
(2)Color flash法
(3)造影ハーモニック法
 [1]ハーモニックパワー/カラードプラ (間欠送信法)
 [2]ハーモニックグレースケール法(間 欠送信法)
 ・Phase(pulse)inversion harmonics
 ・Digital subtraction harmonic image
 ・フィルター法によるセカンド・ハー  モニック法
 [3]リアルタイムハーモニックグレースケール法(連続送信法)=CHA:Coded Harmonic Angio)

●肝細胞癌における画像の役割
(1)病巣検出(lesion detection)
(2)質的診断(characterization)
(3)悪性度評価(evaluation of malignant grade)
(4)進展度診断(staging)
(5)治療効果判定・再発診断(evaluation of treatment response)[1]治療効果の有無,[2]遺残癌の診断・場所の同定.[3]追加治療のガイド.[4]Follow-up中の再発診断

●間欠送信:何秒かに1回超音波ビームを送信してイメージを得ること。フレームレートが極めて遅い画像もこれに含まれる。
●グレースケール:Bモード像のこと。白黒表示の超音波画像。
●造影ハーモニックイメージング:造影剤から共振・共鳴,もしくは破壊により生み出されるハーモニック信号を映像化するイメージング法
●パワードプラ:平均流速ではなく,周波数偏位を積分した値(パワー)を表示したイメージング方法。従って,血流速度や流速の情報は得られないが,微少血管や低流速血流表示,ビームに直交する血流の感度が向上する。
●Coded Harmonic Angio:Coded technologyとphase inversionの技術を併せることにより,最もLevovistの造影効果を引き出せるようにsettingされた造影モード
●late phase sweep scan:Levovistは投与後,数分たつと肝臓のKupffer細胞や血管内皮に貪食ないし付着するとされている。この状態で全肝を超音波でスキャンすると正常部は白く染影され腫瘤部は欠損部として表示される。主としてヨーロッパで始められた手法で転移性肝癌の病巣検出診断,進展度診断には有用である。肝細胞癌についてはさまざまの理由(すなわち数分以上たっても肝細胞癌も血流や血洞へのtrapにより染影されることがある)であまり有用ではない。


■今後の超音波造影法の展望

造影ハーモニックガイド下穿刺

工藤 実際にハーモニックガイド下穿刺を行なっていますか。
田中(克) 私の施設ではまだやっていません。その理由は,1つは物理的な問題で,ハイエンドの装置を穿刺室まで持っていけないことが最大の難関です。移動させる許可が得られないので,残念ながらハーモニック下の穿刺は行なっていません。おそらく,日本で行なっているのは工藤先生ぐらいではないかと思うので,お聞きしたかったのです。
 例えば,CO2USですと,一度入れるとけっこう長い時間バブルが腫瘍内に残存しますので,ゆっくりでも刺せます。しかし,Levovistを使った場合は,washoutが早いのです。何か工夫をしているのですか?
工藤 現時点ではLevovistですので,消毒して針を刺す準備をしてから造影するのです。そして,局在を明らかにします。その断面を見出せるだけでもメリットがあります。そういう状態だと,いわゆる直前造影ですね。
田中(克) 刺している時にですか?
工藤 最初に始めた時はそうでした。最近は直前造影をして,もう1本Levovistを使うこともあります。もう1本穿刺直前にLevovistを静注すると,本当に造影下穿刺をやれるケースが何例か出てきています。この手技は装置依存になりますが,Coded Harmonic Angioを使うと3-4分ぐらい癌が光ります。ただ難点は,CO2USと違って断面フラッシュでないと光りません。
 ところが,ある程度フラッシュ血流(濃染)が見えている場所でリアルタイムに見ると腫瘍血管だけは見えています。そこでその状態のままでも,腫瘍血管は見えますので,実際に刺せる症例は結構あるのです。ですから,以前は直前造影がわりと多かったのですが,最近は造影下穿刺も可能な症例があります。
田中(克) 機種の違いも大きいですね。
工藤 ええ,まだ装置依存ですね。以前に,モニターモードでやっていると,確かにできる症例もあるのですが,間欠送信法だと濃染が消えてしまってわからなくなってしまうこともあります。また周囲と結節との境界がわかりにくくなるという欠点もあります。
 ですから,結局,直前造影の意味しかなかったのですが,Coded Harmonic Angioでやると造影効果が2-3分続くので,その間にうまく刺せる場合があるのです。ですから,そのあたりは実際に臨床において使えるということです。
 それともう1つ,次世代造影剤になれば,このような手法はもっと容易になるでしょうね。
田中(克) 文句ナシですね(笑)。いずれにしろ,目的とするところは3Dのオリエンテーションですね。

「late phase sweep scan」について

工藤 ところで,Late phase のKupfferイメージはやられていますか。
田中(克) やっています。工藤先生は「late phase sweep scan」と呼ばれていますが,肝細胞癌の診断上でどんな意味があるのだと,一度議論になったことがあります。
 通常,肝細胞癌の診断で用いられるのは早期相,せいぜい造影剤注入後1-2分以内で十分ではないかという意見が大勢で,実際にlate phaseを撮って何かよかったかというと,今のところあまりありませんね(笑)。
 造影剤が残っているから撮るという意味合いですね。ただ,腫瘍の鑑別がついていない症例では,やる意味はあると思います。例えば,血管腫などは早期相で辺縁が染まっていきますし,late phaseでもまだ造影剤が残っていますね。そういう意味で血管腫の診断はつくでしょう。
 それから,late phaseの最大の意義は転移性肝癌ですね。
工藤 それは間違いないですね。
 HCC(原発性肝細胞癌)についての「進展度診断」や「性状診断」に意義があるかどうかは難しい問題だと思ってお訊きしたのです。
田中(克) 現実問題として,late phaseをやって診断が変わったことはないです。
工藤 診断が変わったり,治療方針が変わったということはないですね。問題は,高分化型肝癌でもまわりと同じような構造を呈しているために,Kupffer細胞や内皮細胞が正常に近いため染影効果が残っていることはあるだろうし,中分化型肝癌で,バリバリの動脈性血流でも,血流が残っているために染影することもあります。そういう問題があると,抜けないからといって高分化とも中分化ともどちらとも言えないですね。そのあたりが難しいと思います。
田中(克) もう1つの問題は,転移性肝癌ですと,肝実質のイメージがきれいに映るのですが,late phaseは背景に肝硬変があると,きれいに映らないですね。
田中(正) 特に肝癌ですと,late phaseにしろ,perfusion imageにしろ,CTと超音波造影剤を見ていて思ったのは,CTなどで門脈欠損と言っているけれども,動脈血も門脈血も実質流れていて,高分化の肝癌だって完全に門脈血がゼロの結節はあまりありません。あれは比較の問題で門脈欠損と言っているだけですね。

治療面におけるRFA

工藤 それでは次に,治療面でのRFAについてはいかがでしょうか。
田中(克) そのあたりが今後の大きな課題になると思います。
 最初の話に戻りますが,開業医の先生に対する啓蒙が進んだおかげで,最近は肝結節の精査依頼がかなり多くなって,大型進行肝癌症例は少なくなってきています。以前ですとTAEのケースが5-6割はありました。つまり,RFAの適応となる症例が増えてきているのですが,今は「まずはRFA」という1つの流れができてしまっていますが,すべてRFAでよいかというと疑問に思う点もあります。
 例えば,1-1.5cmでhypovasularなものであれば,PEITでも十分ではないかと思います。それから,TAEで治療をした後の再発や遺残が1.5cmぐらいであれば,私もRFAでよいと思いますが,不規則に脇のほうに少し残っているようなものは,PEITでも十分だと思います。
 私どもの施設でも,PEITを行なって造影超音波で完全壊死と判断したものからは,ほとんど再発がありませんから,すべてRFAでなくてもよいと思います。
田中(正) PEITは時間効率が悪く,何回も行なわなければいけないけれども,RFAは1回で終わるのでシンプルだという意見に関してはいかがですか。
田中(克) それは私も同意見です。ただコストが安いので,1-2回で済むものはPEITでもよいと思いますが,1コースで5-6回穿刺する必要があるものはRFAでもよいと思います。
工藤 田中正俊先生はいかがですか。
田中(正) なかなか結論が出せない状況です。時期尚早という点もあって困難かもしれませんが,第3者的な立場から評価してほしいと思います。
 まだPEITが使われる余地は残っているとは思います。しかし,経済的な問題もありますが,患者さんの治療効果を考えると,局所の再発率が低い方法から治療法を選択していくべきだと思います。局所温熱療法のほうがPEITよりも局所再発が少ないのであれば,何mmであろうが,その治療法を選択しなければいけないし,そう指導しなければいけないと思います。
 今後は合併症が問題になると思います。よい器械で簡単に刺せ,合併症も少なければ,治療効果が高くかつ再発率の少ない方法が選択肢になるでしょう。RFA,PMCTのどちらでもよいと思いますが,そう考えなければいけないと思います。
工藤 今は保険適用がないのでばらつきがありますが,始めた施設はRFAがPEITに完全に置き換わっていっていますね。1回で治療が終了するメリットは大きいと思います。
田中(正) 大きなものに関してはRFAよりもPEITのほうが吸収が早いです。そういうところにメリットがあると思います。
田中(克) 先生方がおっしゃるように,患者さんのQOLという点もありますので,現実には私どもの施設でも,ほとんどRFAです。
田中(正) ただ,局所の効果で言えば,やはりPMCTのほうが確実だと思います。RFAは電流熱が主体で,焼灼した周囲にうっ血が起こりますね。どこまで確実に処理できたか,まだ解決できていません。
 おそらく組織が火傷をした状態なのでしょうが,その火傷の程度に関しては,RFAはPMCTほどにはきちんと境目がなされていなくて,なだらかな坂になっていると思います。動物実験のデータも合わせれば,そういう印象があります。
工藤 ただし,PMCTの焼灼範囲は狭いですね。
田中(正) ええ。PMCTの問題は焼灼範囲ですよ。PMCTは誘電加熱が主体です。ですから,PMCTでも時間をかけて灼くことによって,その組織温度上昇が周辺組織に及ぶようにして,凝固範囲を拡大することができるかもしれません。
工藤 しかし,これからの流れとしてはRFAになっていくのではないでしょうか。私どもの施設ではこの2年間,PEITもPMCTも1例も行なっていないのが現状ですね。
田中(克) そうですか。私どもではPEITは最初から単独ではなく,RFAで腫瘍が残存してしまった場合に使うケースが増えています。
田中(正) あるいは,リスクが高い場所の場合もあります。
工藤 そういう場合も多少ありますが,PEIT一本槍はなくなりましたね。
田中(克) 少し話がずれますが,動脈を結紮あるいは詰めた場合に大きく灼けるという効果は報告されていますが,門脈を一時的に遮断した場合はどうですか。
田中(正) 動物実験の結果で,正常肝の熱凝固において最も強い凝固範囲の拡大が得られたのは,肝うっ血の状態でした。インフローもアウトフローもブロックしてしまうのが一番強いです。ですから,まず動脈をブロックし,次に門脈も,最後に肝静脈をブロックしたら,一番強いのは肝静脈の結紮でした。
 工藤先生ともお話ししていたのですが,RFA単独よりも,Lipiodol TAE併用のほうが影響が強いと思います。逆に言うと,Lipiodol TAEは区域性の肝静脈塞栓に近い状態が作れていると思いますから。
田中(克) Lipiodol TAEを行なった直後にRFAをやると,思ったよりも大きく灼けてきます。あれにはびっくりしてしまいました。灼ける範囲がコントロールできないですね。
工藤 あれは危険かもしれないですね。
田中(正) あれをどうやってコントロールするかが今後の問題です。
工藤 あれはおそらく詰め方によるのだと思います。末梢でLipiodolが門脈に逆流して,一過性の動・門脈血流低下がどれだけ起こっているかを予測できないから,時々びっくりするくらい灼けるのです。
田中(正) セグメンタルにしたらうまくいくのではないですか。
工藤 そうですね。
田中(正) セグメンタルにきちんとLipiodol TAEという形で出て,門脈が出てくるような状態までいって,それがセグメンタルだったら,予測範囲がつくような感じでやっています。

診断面におけるRFA

工藤 治療面では,やはりRFAが大変ドラスティックに肝癌の臨床を変えてきているし,治療方針を変えたと思います。診断面でも造影超音波が入ってきて,戦略が大きく変わってきていると思います。
 先ほどもお話が出ましたが,現在は造影モードがいろいろあって,なかなか難しい問題があります。ある機種では装置依存の問題でうまくいかなかったりします。しかし,ほとんどの超音波装置のモードがリアルタイムグレースケールのphase inversion法という段階に進み,なおかつ次世代の造影剤が出たら,誰がやっても同じ画像が容易に得られ,その再現性も高くなるでしょう。
田中(克) おそらくそう遠くない将来のことだと思います。
田中(正) 残された問題は,CTが持っている客観性にどこまで造影超音波が迫れるかというところですね。
 以前の「胃透視」が,内視鏡にほとんどとって替わられ,現在の胃透視は精査のために行なうケースが増えてきました。造影超音波は現段階では胃透視のように,技術者依存が強いところがあると思います。
 そういう意味で,今後の課題は造影超音波という優れたモダリティをいかに客観性を出し,普遍的に使えるような方向に持っていくかということだと感じますね。
田中(克) その点をフォローすると,造影超音波法は撮像法ひとつとっても,施設間でも個人間でもバラバラですね。そのあたりをぜひ統一していただきたいですね。そうしないと,同じ土俵の上でディスカッションできません。
田中(正) そうですね。しかし,さらによい造影剤が出るようになるでしょうから,その問題は解決すると思います。
工藤 私は『肝腫瘍の造影ハーモニックイメージング』の序文にも「現在,一般に行なわれているCTやMRIとは異なる臨床的な役割が確実に造影ハーモニック法には存在し,その意味において造影ハーモニック法は臨床の現場に確実に定着し,さらには肝細胞癌の臨床そのものを大きく変える可能性をも秘めている」と書いたのですが,CTやMRIにはない造影超音波の役割は絶対にあるのです。
田中(正) そうですね。そうしなくてはいけないでしょう。造影超音波がCTやMRIにすべてとって替わるとは言えませんが,ある部分ではっきり評価を受けて,とって変わる部分があるでしょう。現時点では,超音波の普及率がはるかにCTやMRより高いわけですから,患者さんにとってより有益な情報を提供でき,ひいては診断・治療の方針が変わってくることは間違いないでしょう。そうなると,CTやMRIで得られない情報がハーモニックにより選られ,患者さんの予後も向上することが期待されます。もっときちんとした診断が普及してくると思います。
工藤 本日はお忙しいところを,長時間どうもありがとうございました。
(おわり)