医学界新聞

 

「家族を支援する家族看護」を論議

第8回日本家族看護学会開催


 第8回日本家族看護学会が,さる9月8-9日の両日,小宮久子会長(千葉大)のもと,「21世紀の家族を支援する家族看護」をメインテーマに,千葉市の青葉の森公園芸術文化ホールで開催された。
 今学会では,会長講演「障害を持つ子どもと家族-家族への支援を考える」(小宮氏)をはじめ,特別講演「高齢者と家族看護」(都老研 鎌田ケイ子氏),シンポジウム「長期ケアを要する家族員を持つ家族への看護援助」(座長=千葉大 石垣和子氏,北里大鳥居央子氏)が企画された他,家族役割,障害児と家族,対象理解,がん患者支援など,全22群80題を超える一般演題発表(示説含む)が行なわれた。


望まれる社会資源の整備を指摘

 会長講演を行なった小宮氏は,千葉市の重症心身障害者通所施設での,障害を持つ子と家族との長年にわたるかかわりから話題を提供。障害を持って生まれた子,成長過程において突然障害を持つことになった子の親の心情とともに,兄弟の関係について解説を加え,「精神的支援や具体的な世話を通し,家族をトータルに支えることが,看護職の役割」と指摘した。また,障害を持つ子の家族が癒される時とは,「子どもが楽しそうにしている時,その子なりの成長が見える時,父親のやさしさや精神的な協力が見られた時」と述べた。その上で,重症心身障害者の高齢化,介護者の加齢などに伴い,「在宅看護サービスの充実が今後の課題」と結んだ。
 なお,特別講演で鎌田氏は,寝たきりや痴呆になった時に「家庭に看られたい」と望む者が40%という調査結果や,「子どもに期待できない」「親を看ることはできない」との双方の期待度を提示し,従来の調査結果とは異っている現状を報告。さらに,現実的な問題として「社会福祉に期待することもできない」との理由から,「病院で看られたい」と希望する人が増えていることを指摘し,高齢に伴なう不安は,「従来の経済的なものから,寝たきり・痴呆の不安へと変わってきた」と述べた。

家族の持つ機能を高めるために

 一方,「長期的ケアを要する家族員を持つ家族に対する家族看護の必要性」を探ることを目的に開催されたシンポジウム(写真)には,「小児糖尿病患者を持つ家族」(千葉大 中村伸枝氏),「血液透析患者を持つ家族」(家族看護研究所 渡辺裕子氏),「アルコール依存者の家族」(世田谷区北沢保健福祉センター 徳永雅子氏),「精神分裂病を病む家族」(東海大 式守晴子氏)の4人が登壇。それぞれの看護援助の展開が語られるとともに,援助方法の確立へ向けた議論が展開された。
 中村氏は,小児糖尿病患児との10年間のかかわりの中から,小児糖尿病患児を持つ家族への援助について言及。「援助にあたる者は,患児と家族のライフスタイルの変化や発達課題を理解することが重要」と述べるとともに,「家族や人間関係の問題が生じることも多いが,患児も家族も成長していくものであり,家族とともに機会をとらえかかわること,生活全体を見直すことなどが必要」と結んだ。
 渡辺氏は,糖尿病患者の増加とともに,約20万人と言われる透析人口が今後もさらに増えることや,「糖尿病性腎症」の急激な増加に伴ない,重篤な合併症を引き起こす患者が増える傾向を危惧した。また,糖尿病を発症した祖母と「糖尿病食」を羨む子どもとの葛藤に悩む介護者の具体的な実態を報告する中から,「透析導入によって家族が受ける影響」についても解説。家族援助のあり方についての提案として,「必要な時期にねらいを定めたタイムリーな援助=先手必勝,患者・家族・看護者の3者がともにケア計画を立案する=協働作業,そして,チームアプローチの強化」をあげた。
 徳永氏は,アルコール依存症が看護者に「病気である」と認識されるようになって,まだ20年にすぎず,また自助グループでの解決を図るようになったのは1980年代半ばのことと報告。コントロール不能な疾患であることを理解することが重要であるとする一方,「共依存が働く疾患」であることを指摘し,「健康な家族への再構築を図ることが看護者の役割」と述べた。その上で,「個別援助だけでは治療は難しく,医療・福祉・教育などを含め,地域を巻き込んだ支援態勢が必要」と結んだ。
 式守氏は,精神科医療が1970年代に施設から地域へと視点が移ったことにより,家族の持つ役割が重要になるとともに,家族ケアも必要になってきた現状を報告。一方,「本人,家族,医師,PSWがそろう面会時が,退院へ向けた取組みのチャンスとなる」と述べ,家族を視野に入れた治療が行なわれている現状にあって,看護者は家族の状況を理解した上で本人にかかわる必要性を強調した。
 なお,次回は明年9月7-8日の両日,横田碧会長(岩手県立大)のもと,岩手県立大を会場に開催される。