医学界新聞

 

学会は政策へ働きかけられるか

第5回日本看護管理学会が開催される


 第5回日本看護管理学会が,さる8月24-25日の両日,井上悦子会長(佐賀医大)のもと,「看護サービスの新パラダイム-顧客・情報・組織化」をメインテーマに,佐賀市の佐賀市文化会館で開催された。
 今学会では,会長講演「看護サービスの新パラダイムをめざして」(井上氏)をはじめ,シンポジウム「看護資源の有効利用と政策決定」(座長=東女医大 金井Pak雅子氏,佐賀県立総合看護学院 副田峰子氏),教育講演「顧客が求める看護サービス」(富士コーポレートアドバイザー 谷川紀彦氏)の他,インフォメーションエクスチェンジが4題企画された。
 一方,第1回から継続して開催され,恒例となったディベートのテーマは,「医療のハイテク化は医療事故を減らせるか」(下写真,司会=東女医大 佐藤紀子氏,佐賀県立病院好生館 伊藤美智子氏)。肯定派・否定派それぞれ3名が登壇し,ゲーム形式ながら熱い激論を交わした。なお,一般演題は口演・示説全16群63題の発表が行なわれた。


政策提言をしていくために

 21世紀となった現在,いかに看護資源を活用すべきか,また日本の保健・医療・福祉を根底から支える看護職が,どのように政策へ働きかけることができるのかを探るべく開かれたシンポジウムには,各領域から4名が登壇。
 急性期ケア管理者の立場からは鶴田恵子氏(東医歯大病院看護部長)が,医療制度改革と絡めて,民営化・法人化が提言されている国立大学病院の看護管理に関して意見を述べた。氏は,「看護職は病院職員の1/3を占めるにもかかわらず,閉鎖性があり,発言できる立場にない」とした上で,今後の展望に,看護への信頼性の維持,データの蓄積と政策提案,開かれた看護管理組織,をあげた。
 また,長期ケア管理者の立場からは,大石逸子氏(西合志病院副院長)が登壇。看護職に求められるものとして,「より深い看護知識・技術・アセスメント能力と,コーディネート能力」をあげ,政策決定に関与する看護管理のためには,ケアマネジャーの独立,慢性期病棟(長期)の看護職員の確保,地域作りへの貢献が必要と述べた。
 一方,「看護婦主導のケア」を主張する塚原安紀子氏((株)ライフコンプリート代表)は,水中ウォーキングプールなどを併設する総合保健施設「紀水苑」を運営する立場から発言。医療・介護・福祉の3者が一体となった予算組みや施策を考えることが今後は重要となると強調した。
 教育現場の立場からは,前田樹海氏(長野県看護大)が登壇。看護有資格者の動態をとらえるためには,職歴と学歴を把握できる「履歴データベースの構築」が必要とした上で,「免許者にダイレクトにアクセスし,情報を更新する仕組み,免許にキャリアレコードを蓄積するための仕組みを持たせることによって,攻めの看護政策が打てる。看護免許の独立性が増す」と結んだ。
 なお,久常節子氏(慶大)は厚生省(現厚生労働省)看護課長だった経験から「日本の医療の特徴は長い(入院日数),多い(薬剤),少ない(看護職)である」と指摘。それを踏まえ政策決定のプロセスには,「審議会方式」「議員立法方式」などがあり,その手続き,問題点などを解説するとともに,「看護職は政策をもっと知らなければならず,政策に勝つ方策を考えていかなければならない」と示唆した。

医療のハイテク化と医療事故

 「医療のハイテク化は,医療事故を減少させられるのか否か」を論じ合ったディベートでは,賛成派に石垣恭子氏(島根医大),内田宏美氏(鳥取大),得丸尊子氏(大分医大病院)が,否定派には伊豆上智子氏(東医歯大病院),大岡裕子氏(徳島大病院),斎藤むら子氏(早大理工)が登壇。
 賛成派からは内田氏が,「これまでの医療システムは,『人は誰でも間違える』というごく当たり前の人間特性を前提としたものになっていない」と指摘。ハイテク化が適切になされていたら,防げた医療事故は多かったはずであり,看護職の確認に頼りすぎるシステムがリスクを温存させている,とした上で,点滴に関連した医療事故の事例を取りあげて立証を試みた。また,得丸氏は,「転倒・転落」に関し,その予防がハイテク化により可能になることを立証した。さらに石垣氏は,「医療情報システム」の側面から立証の裏づけを行なった。
 これに対し否定派は,伊豆上氏が,マスコミが報じた医療事故ながら医療機器がかかわった件数を提示し,ハイテク化は医療の一部を担っているに過ぎず,死亡につながる医療事故は,医療機器がすべてに関与していることを報告した。太田氏は,「医療事故は医療機関という,組織事故である」とした上で,ハイテク化がいくら進んでも,「人が人をケアすることが基本である医療・看護においては,医療事故はなくならない」,と述べた。また,斎藤氏は,「医療がすべてハイテク化できれば医療事故の減少は可能だが,事故の90%がヒューマンエラーの現状からみる限り,ハイテク化が進みつつある中では事故は減少しない」と主張した。
 なお,その後に両者の反論,最終弁論と討論が交わされたが,会場の評定者が投じた賛・否の票は7:24で,今回は「否定派」に軍配があがった。