医学界新聞

 

連載 これから始めるアメリカ臨床留学

第6回 TOEFL,CSA対策

齋藤昭彦(カリフォルニア大学サンディエゴ校小児感染症科クリニカルフェロー)



2446号よりつづく

 USMLE Step 1, 2に合格したならば,いよいよ最後のステップが英語である。英語のレベルは人によってさまざまであろうが,誰もが最初に抱く疑問は,アメリカで臨床をやるだけの英語力をどうやって備えるかということであろう。
 私の場合,アメリカに来て6年が経つが,未だ英語は毎日が勉強で,これには終わりがないものと思われる。それにはそれ相当の時間と努力が必要である。そういう意味でも,この2つの試験に合格することはあくまでその通過点に過ぎず,本当の英語の試験は研修を始めてからにあると言っても過言ではない。ただ,通過点を通らないとその先は見えないわけで,まずはその通過点を通るために,何をしなくてはならないのか,試験の対策を含めて述べていきたいと思う。

TOEFLの概要

 TOEFL(Test of English as a Foreign Language)は,英語を母国語としない人を対象とした,世界最大の英語試験である。 TOEFLを受験するためには,USMLEに合格していなくてはいけないという制限はないが,合格した日から2年以内に研修を始めないとその合格は無効となり,もう一度受験しなくてはならない。したがって,USMLEに合格してからか,あるいはある程度合格の目途がたった頃に受験するのがよいと思われる。
 TOEFLはlistening(ヒアリング),structure(文法),reading(読解),writing(筆記)の4つのパートからなる。受験英語に慣れ親しんだ皆さんならば文法,読解の問題は決して難しくはないであろう。筆記は,30分間に1つのトピックについてエッセイを書く試験で,予想される課題をあらかじめ練習しておくと試験の際に,時間を有効に使えると思う。私の経験では,ヒアリングが最も難しい部門であるという印象を持った。なぜなら,私はアメリカに来て約1年経った時にTOEFLを受験したが,その当時,耳がある程度慣れていたつもりでも,わからなかったことが多く,その部門の点数は他の部門の点数を大きく下回っていた。
 ECFMG取得に必要な点数は,旧来の筆記試験で550点,コンピュータ試験で213点がその合格ラインである。TOEFLの実際の成績が,実際の英語のコミュニケーション能力を反映するとは必ずしも言い切れないが,アメリカで臨床医として働くにあたって,上記の点数は必要最低限の点数と言ってよい。日本では,多くの場所で受験が可能であるが,詳しい試験に関する情報はTOEFLの公式ホームページ(http://www.toefl.org)を参考にしてもらいたい。

TOEFLの対策

 日頃から英語に親しむ時間を多く持つ,これが第1である。繰り返すが,ヒヤリングは点の取り難い分野である。そのためにも日頃から集中して英語を聞き,そして話さなくてはいけない環境を作るのが試験に限らず,英語の会話能力を磨く上で最も重要と思われる。日本でそのような環境を作るのは難しいであろうが,英会話学校に通ったり,テレビ,ラジオの英会話番組を活用したり,英語の映画ビデオを見たりと,そのチャンスは至る所にあり,それらを有効に活用すべきである。
 他の部門の試験形式に慣れるためには,適当な問題集を購入して,それを時間を決めてやってみることを薦める。そこで,皆さんがおそらく感じるのが,語彙の絶対量の不足であろう。日本の受験勉強で学んだ語彙とTOEFLで使われる語彙は違いがある。特に読解部門では,最近の時事問題などが文章に使われることが多く,それぞれの領域の専門用語に慣れておく必要がある。そのためには,普段から医学以外の領域の英語の新聞,雑誌などを読む癖をつけ,わからない単語は書き出して,意味を調べておく。日本で発行されている英字新聞や雑誌で言うと「Time」「Newsweek」などはそのよい材料と言える。

CSAの概要

 CSA(Clinical Skills Assessment)は1998年の夏から始まった試験で,TOEFLと同様,外国人医師(IMG: International Medical Graduates)にのみ課せられる試験である。IMGの一種の締め出し政策とも取れるもので,施行時はIMGから反発があったが,合格率がきわめて高いこと(90%以上と発表されている)から,すっかり定着した感がある。現に私の友人で今年の6月から研修を始めた日本人医師が3人いるが,3人とも見事に1回でCSAに合格している。
 CSAを受験するためには,Step1とTOEFLに合格していなくてはならず,受験会場もアメリカ,フィラデルフィア市のみである。試験に合格すると3年間有効で,そのうちに臨床研修を始めなくてはいけない。試験は,1日約8時間を要し,11人の異なる摸擬患者を問診,診察,そしてチャート(日本でいうカルテ)を書き,その内10人が採点対象となる。与えられる時間は,患者との問診・診察が15分,チャートを書くのが10分である。そして,その内容が総合的に評価され合否が決定される。
 この試験は,英会話能力,医学的知識を問うばかりではなく,医師としての常識的行動もその採点内容として含まれている。例えば患者さんの部屋に入る時は,まずノックをし,そして自己紹介をし,握手をしてから問診を始める。また,診察の前には必ず手を洗うなど,アメリカのルールに則った医師としてのマナーが必要である。

CSAの対策

 この試験への対策は,実に幅広い内容をカバーしなくてはいけない。しかし,一番大事なことは,患者の訴えを聞き,それを理解し,しっかりとした対応ができるかどうかにかかっているという点である。決められた時間内でスムーズにその課題をこなすためには,予想される患者の訴えに対して,聞くべき問診内容,取るべき診察所見,行なうべき検査,そして鑑別診断を整理し,スムーズに口に出せるようにしておかなくてはいけない。代表的主訴(胸痛,腹痛,頭痛,全身倦怠感など)はそう多くはない。それぞれの訴えに対して,重要な疾患を見逃さない,ポイントをおさえた準備が必要である。例えば,患者が胸痛を訴えた場合,決して臓器を心臓に決めつけず,肺炎,食道炎などの他の臓器が原因になっている可能性がないかも頭に入れて問診,診察を進めなくてはいけない。そういうところを採点者はチェックしているのである。
 英語の発音は,すぐに改善するものではないが,常に気にかけておかなくてはいけないことである。日本語にない発音,例えば,“L”,“R”,“TH”,“F”,“V”などの子音は意識して近い発音になるように日頃からの練習が必要である。ただ,多少発音が異なっていても,はっきりと大きな声でわかりやすいように相手に話すことがこの試験では最も重要と考える。
 なお,CSAの具体的内容については,ECFMGのホームページ
(http://www.ecfmg.org/csa/csaman.html)に詳しく記載されているので,参考にしてもらいたい。

英語はいつ上手くなるのか?

 アメリカで臨床をやるだけの英語をいつどうやって勉強したのか,という質問をよく受ける。私の場合,大学時代の後半に週1回,英会話学校に通ったり,英語の雑誌を読もうと努力していた以外は,特にこれといった英語の勉強をしていたわけではなかった。研修医の頃は,努めて英語でチャート,退院サマリーを書いたり,英語を話す患者さんを診察させてもらうように心がけたつもりだった。
 しかし,アメリカに来て,今までの英語はまさに日本の中での英語であり,実際の生きた英語はまったく異なる言語であることを理解した。母国語でない言語は,使わなくてはいけない環境に自らを置かないとなかなか上達しないものである。英語を上達させたいのなら,まずは自らをそのような環境に置くこと,そういう意味でアメリカで研修を行なうことは,よいトレーニングを受ける意味でも,また英語の上達にも役立つ,理想の環境が整っていると言えよう。英語が上手くなってから,アメリカで研修をと言っていたら一生来れないだろう。テストに合格できる英語力を身につけたならば,まずアメリカに来て研修を始める,これが英語上達の最短距離ではないか。

 次回は,試験に合格した後,どのようにしてその後のレジデントのポジションを取得するか,という過程を述べることとする。