医学界新聞

 

BOOK REVIEW


短時間の外来でしっかり患者さんに対応するために

15分間の問診技法 日常診療に活かすサイコセラピー
Marian R. Stuart,Joseph A.Lieberman III 著/玉田太朗 監訳

《書 評》前沢政次(北大教授・附属病院総合診療部)

時宜を得た名著の翻訳

 サイコセラピーを必要とする人口が増加しているのは,先進国共通の問題である。この課題に精神科医のみでは対応することが困難で,プライマリ・ケアを担当する医師にもその役割が期待されている。しかしながら,抗不安薬や抗うつ薬の開発で,薬剤による治療は一般の医師に活用されるようになったものの,サイコセラピーは用いられているとは言えない現状にある。そのような状況の中,この度,名著『15分間の問診技法-日常生活に活かすサイコセラピー』が,玉田名誉教授らのご尽力により,日本語に訳されたのは時宜を得たことである。
 この本は,私が10数年前,プライマリ・ケア教育技法の学習に何度か米国を訪ねた際に推薦された著作の1つであった。初版は1986年の発刊である。今回第2版(1993年)を優れた日本語訳で読了でき,改めて本書の意義を認識することができた。

すぐに臨床で役に立つサイコセラピーの「How to 本」

 本書は,外来で1人当たりの患者に短時間しか割けない一般医を対象に,サイコセラピーの具体的方法を説き明かしたものであり,あえてHow to本であることを明言する。第1章はヘルスケアシステムの新旧を比較し,なぜ今新しいパラダイムが必要かを経済的考察も加えて述べている。第2章は治療法の理論的基礎を,第3章は医師の資質について論述している。患者が変化を起こす要素,他のセラピーとの比較,治療の構造化に関する方法について第4章から6章までに述べ,残りの章は具体的な例と将来の役割について記述している。
 すぐ役立ちそうないくつかの方法を取り上げてみたい。
 「大変でしょうね」「辛かったでしょうね」などの言葉で患者は保証された気持ちがもてる(62頁)。「決めつけ」や「ラベルを貼る」ことをしない(102頁)。問題を解決するのは患者自身である(109頁)。患者の強さに目を向ける(112頁)。宿題を出す,自立を促す(120頁)。身体症状や受診の意味を患者の生活全般の流れでみて,背景,感情,悩み,処理,共感(BATHA法)を活用する(129頁)。小さな勝利をめざす(138頁)。診療所スタッフの訓練と気遣い(220頁)。医師が生き延びるための12のルール(巻末)まであり,とても書ききれない。
 最近,心療内科の先生方と話し合う機会が増えたが,日本での今後の課題は「認知行動療法」の活用であると主張される方が多い。本書はその課題に十分応えるものであり,玉田先生父子,佐々木将人先生のご労苦に心からの賛辞を送りたい。
A5・頁280 定価(本体3,000円+税) 医学書院