医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


漏れなく書き込まれているリハビリの基礎から臨床の知識

リハビリテーション医療入門
武智秀夫 著

《書 評》石田 暉(東海大教授・リハビリテーション医学)

 医学・医療が進歩し,従来救命できなかった者が何らかの障害を持ちつつも生活を送れるようになり,また平均寿命が長くなり高齢者の数が増えるに従い,当然のことながら障害を持つ人の数も増加してきている。

求められるチーム医療

 リハビリテーション(以下リハビリ)は,障害を持った者の機能を改善し社会復帰させるという考えから,より幅広く人間らしい生活を取り戻すよう指導していく方向へと考え方が変化してきている。そのためにこれらの目的を実現するリハビリ医療は,多くの専門職からなるチーム医療が必要になってきている。また,医療に留まらず,介護・福祉など幅広い職種の関与も重要である。特に高齢者医療において,医療と福祉,あるいは介護とを分離することは,困難であることは自明である。分離できなければそれらを一体と考え,それらの領域に精通した人材育成と共通の認識を持つための言葉,すなわち共通言語が必要になってくる。しかしながら,この共通言語をわかりやすく体系化することは非常に困難な事業で,この任に値する教科書はかつてなかったと言っても過言ではない。武智秀夫先生は,長年のご経験から医療に留まらず幅広い分野に高い見識を持っておられ,まさにこのニーズに応える最適の人と言える。

リハビリのエッセンスがビッシリ

 この書は,第一線でリハビリを行なっている,あるいはこれから行なおうとするすべての方の実践的な書と言える。それはリハビリ臨床でよく遭遇する疾患を中心に幅広くかつ系統的にわかりやすく書かれていると同時に,障害福祉や職業復帰の分野までカバーし,また改訂障害分類,介護保険,地域リハビリなどの新しい内容も含まれているからである。しかも内容は一般の専門書にありがちな単なるレビューではなく,先生の長年の経験から生まれたエッセンスが詰め込まれており,実地場面を想定しつつリハビリの基礎から臨床の知識まで,必要なものは,漏れなく書き込まれているという力の入れようである。
 この書を契機にリハビリに関心を深める人が増え,リハビリ現場で着実にこの内容が実践されていけば,これこそ先生が本書を編纂された目的が達成されるものと考える。
A5・頁128 定価(本体1,800円+税) 医学書院


リハビリテーション関係者必携の書

科学としてのリハビリテーション医学
上田 敏 著

《書 評》眞野行生(北大大学院教授・リハビリテーション医学)

『リハビリテーションの思想』の姉妹篇

 本書は,日本のリハビリテーション医学の先駆者である上田敏先生の書かれたもので,『リハビリテーションの思想』の姉妹篇として出版された。リハビリテーション医学・医療のユニークな科学性を先生の長年の経験と深い洞察力で書かれたものである。
 リハビリテーション医療が始まった初期にリハビリテーション医学を根づかせようとした努力がひしひしと伝わってくる。経験から出発して常に学問の醍醐味を感じながら,新しい法則を見つけ科学性を探求する取り組みが感じられる。先生はアメリカに留学して,かえって日本独自のリハビリテーション医学が必要であると感じ,作りあげていく過程が,日本のリハビリテーション医学の創成期の像と重なりあって伝わってくる。

日本独自のリハビリテーション医学の探究

 上田先生のしっかりとした考え方の基には,臨床での鋭い観察眼があると思われる。しかもこの臨床力はいわゆる神経内科などでの診断学,治療学だけではなく,自立・生活に焦点をあてた障害の診断・評価・障害の予後予測であった。これは今までの医学にないヒトの活動や社会参加を視野に入れた幅広い医療の創成であった。
 障害を持った人の日常活動や社会参加を考える時には,先生の学ばれたアメリカのリハビリテーション医療をそのまま導入することができないことは,当時の日本の家屋状態,生活様式,社会資本の充実度などを考慮すると確かに難しく,アメリカとは異なった日本のオリジナルなリハビリテーション医学を考える必然性があった。そこに先生の片麻痺や筋ジストロフィー症でのグレーディングが生まれたと思う。
 先生は,科学性と同時にリハビリテーションでの倫理を強調されている。リハビリテーションで科学性を探求する時に,常に倫理面を意識することの考えを述べている。しかし,日本におけるリハビリテーション医学の卒前・卒後教育は日本各地で大きく異なり,卒業した大学によってはリハビリテーション医学に関する知識・経験をほとんど教育されることがない場合もある。本書では医師に育つすべての人がリハビリテーション医学の教育を受ける必要性を述べている。これは21世紀の日本の医療が救命の医療だけではなく,生活がうまくできるヒトの医療になるためには,重要な課題である。
 また,介護保険を含めた地域リハビリテーションシステムとリハビリテーション医学との関係についても書かれているが,医療が生活での満足,ヒトの活動や社会参加をも考慮するには,社会システムの確立が重要な要素となる。
 本書は,上田先生の貴重な経験と考え方が書かれており,リハビリテーション医学を学ぼうとする学生,臨床の第一線の医師ばかりではなく,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護婦さんも対象として,ぜひ読まれることを勧める本である。
A5・頁240 定価(本体2,400円+税) 医学書院


検査値変動の背景を理解するための格好の教科書

異常値の出るメカニズム 第4版
河合 忠,屋形 稔,伊藤喜久 編集

《書 評》山田俊幸(順大助教授・臨床病理学)

初版以来絶大な支持

 本書は,臨床検査医学のパイオニアである河合忠・屋形稔両博士の編集・執筆により1985年に初版が刊行され,以来絶大な支持を集め今回で第4版となる。第3版改訂から7年経ており,本改訂版はその間の進歩を踏まえ,すべての章において加筆,見直されたほか,感染症検査が独立した章となり,細菌感染症の診断手順,院内感染,HTLV感染症診断などの解説が加えられた。また新たに伊藤喜久博士が編集・執筆に加わり免疫検査の項が充実した。
 ところで筆者は臨床検査医学の講義,実習に本書を活用させていただいている。実習の学生に,「血清カリウム濃度が低いときは何を考えるか」と尋ねると,多くは「アルカローシス,アルドステロン症,……」などと疾患の名前を羅列する。正解であるし,即時性を求められる場では適した反応であろう。しかし筆者は学生にこう言う。「いきなり疾患を言わないで,腎臓からの排泄増加,消化管からの排泄,細胞内外の移動といった状態をまず考えるように」と。学生の間は,検査値の変動の背景を,その物質の正常な代謝を理解しつつ,系統だてて考えるトレーニングが必要である。それは生化学であり,生理学であると言われればそれまでだが,教育としての基礎医学と臨床医学の間には,少なからず不連続なことがある。

検査医学講座に適した書

 例えばアンモニアの代謝,尿素サイクルなどを生化学で学ぶが,検査で出てくるBUNとはあくまで血中にある物質の動きであるため,基礎医学では整理されない部分である。筆者は,この基礎-臨床間のツナギ教育を担当するのが,全国の多くの大学に設置されている検査医学講座であろうと考えている。本書はこの目的にかなう最も適した教科書である。わかりやすいシェーマがふんだんに挿入されており(これは中心執筆者の河合博士の卓越したセンスによる),前述のカリウム,BUNの血中動態などは一目で理解できる。一般の医師にとっても解釈に悩む検査値に遭遇した際に,復習を兼ねて知識を整理する絶好の書である。例えばγ-GTPと言うと,アルコール,胆管系酵素というキーワードでインプットされていると思うが,本書ではそれ以外の病態における上昇についても(不明なことが多いがそれなりに)解説が加えられている。
 本改訂では基本的検査を中心にという原則からか,遺伝子検査などの特殊検査は取りあげられていないが,次回には難しいものもわかりやすく解説が加えられるよう期待したい。
 医学生,臨床検査技師(卒前,卒後)の教育にはもちろん,実地医家の方々にも検査値の解釈を病態生理から理解するために,ぜひ本書を利用していただきたい。
B5・頁416 定価(本体5,800円+税) 医学書院


将来を着目した臨床化学の教科書

臨床検査技術学 10 臨床化学 第3版
菅野剛史,松田信義 編集/菅野剛史,他 著

《書 評》小川善資(北里大助教授・医療衛生学部)

明確化された教育目標

 この教科書で最もインパクトを受けた点は,「キーワード」,「学習の要点」,「理解度の点検と問題」が各セクションに明記されていることである。「学習の要点」は何を教えたいのか,何を理解させたかったのかをまず明確にし,それから,教科書に取り組むことを推薦している。「理解度の点検と問題」ではどこまで理解しているか,どこがポイントであるかをきわめてわかりやすい形式で提供し,教育目標を示している。
 これからの教育は,今までの知識を詰め込む教育から,基礎知識の伝達と,応用性,自発思考の推奨を惹起させる教育でなければならないと思う。このため,教育目標と達成目標を明確にし,その上で,応用性と思考の目標を与え,柔軟な頭脳を養成することが重要であると思う。将来を着目したすばらしい形式の教科書である。

立体的思考能力を養う

 また,従来の教育では,ややもすると平面的知識を提供しがちであった。臨床化学は,臨床化学,臨床免疫,血液学との接点がどこにあるかはわかりにくかった。臨床化学の中でも脂質と酵素の関わり合いや項目間の関係は,なかなか理解できなかったと思う。しかし,生体内では,すべての反応や物質が混ざり合って共存共栄している。また,病気という観点から見ても,単純なただ1つの病気だけの患者はむしろ少なく,いくつもの病気に罹患した患者のほうが多く,絡まり合った病状を科学の力を借りて解きほぐしていかなければならない。
 今,患者に必要なことは何か,何から改善していかなければならないのかを科学的に証明していく必要がある。このためには知識を立体的に組み立て,学科目の壁をうち破って思考できる能力を持った学生に成長してもらわなくてはならない。
 これは学生1人ひとりが自発的に思考し,身につけてもらわなければならない能力かもしれない。しかし,本書では「キーワード」を明確にしたことで,立体的思考の重要な糸口になるように思う。別の項で,同じキーワードがあったとすれば,まさに,関連性が明確になるだろうし,関連性をいやでも感じると思う。
 近年の科学技術の進歩は,目を見張るものがある。このため,教育しなくてはならないと感じることが否応なしに増加し,どれもこれもが重要な問題のように思える。しかし,この教科書はコンパクトにまとめられていながら,学習する方に大きな未来を与えてくれそうな立派な本であると思う。知識の拡張性や思考の方向性を指し示してくれているように思う。精読,読破し,この教科書の裏まで読み取り,大きく躍進する礎として,活用できる教科書である。
B5・頁328 定価(本体6,000円+税) 医学書院


接触皮膚炎のバイブル的教本の改訂 第5版

Fisher's Contact Dermatitis 第5版
R. L. Rietschel, J. F. Fowler, Jr. 編

《書 評》川島 眞(東女医大教授・皮膚科学)

 接触皮膚炎,特にその原因究明には欠かせない試験であるパッチテストのバイブルとも言える『Fisher's Contact Dermatitis』の第5版が改訂出版された。第3版から徐々にFisherのみならず複数の著者からなる形式となってはきているものの,Fisherの精神は初版から脈々と受け継がれており,接触皮膚炎に関する常に新しい情報と実践的なノウハウを伝えてくれる書である。

パッチテストに至る筋道をガイド

 接触皮膚炎に関する書であるが,そのメカニズムについては多くの頁を割くことはなく,接触皮膚炎の免疫学を説く書ではない。しかし,各領域別のアレルゲンに関しての記載は誠に充実しており,接触皮膚炎の診断から原因検索のパッチテストに至る筋道をきっちりとガイドしてくれる書である。
 800頁を超えるボリュームのある書であるが,頭から順に読み進めるものではなく,領域ごとに必要な時に効率よく読み,知識を得る書であり,実質的に重い書ではない。
 また,各章の記載方法も初版以来変わっておらず,重要なポイントが四角で囲まれて表示されており,時間のない時にはこの部分に目を通すだけでも十分な知識が得られるようになっている。皮膚科医になりたての頃,眼前の患者さんでの原因究明を急ぐために,本書(第2版であったが)のこの囲みを懸命に読んだ記憶は懐かしい。
 第5版の特徴は,治療の章が独立した点であるが,この章により本書が接触皮膚炎の診断から治療までを網羅することとなり,完結したこととなる。接触皮膚炎は,皮膚疾患の中でも最もありふれた疾患の1つであり,そのマネジメントには皮膚科医とすれば当然十分な知識と技能を発揮しなければならない疾患である。診療の場の傍らに常に置いておき,必要な時に紐解くタイプのバイブル的教本である。
A4変・頁862 \20,820(税別)
Lippincott Williams & Wilkins