医学界新聞

 

良好な「患者-医師関係」こそが医療事故を防ぐ

李啓充氏が医療過誤防止をテーマに東医歯大で講演


 頻発する医療事故が大きな国民的関心事となる中,米国の経験から「医療事故を防止するためには何が必要か」というテーマに挑んだ話題作『アメリカの医療光と影』(医学書院刊)などの著者として知られる李啓充氏(マサチューセッツ総合病院)が,さる7月16日,東京の東医歯大で「医療事故防止」をテーマに講演を行ない,学内外の多数の聴衆を集めた。

インフォームド・コンセントという不可欠のプロセス

 この中で李氏は,医療事故が多発した1995年以降,米国がいかに医療事故の防止に取り組んできたかを概説。「医療事故を防ぐには医療のプロセスの見直しが不可欠であり,Who?(誰がやったか)ではなく,Why?(なぜ起きたか)と問わなくてはならない」と強調し,個人を責めるのではなく,根本的な原因の分析から,実効性のある再発防止策へつなげることの重要性を示唆した。
 また,医療事故発生の背景には,患者-医師間,医療者間のコミュニケーション不足が背景にある場合が多いことから,インフォームド・コンセントの重要性を示すと同時に,医療チーム内においても「医師に看護婦がものを言えない雰囲気があれば,まずそれを変えなくてはならない」と指摘した。さらに,李氏は講演の中でインフォームド・コンセントの重要性を繰り返し強調。「インフォームド・コンセントとは訴訟逃れの書式ではなく,患者と治療のゴールを共有し,共同して治療プランを作成するためのプロセスに他ならない」とその本質を述べた。

日本での問題点

 講演の最後に,李氏は医療事故をめぐる日本での問題点を指摘。「基本的な医療過誤防止策が取られていない」,「社会的に医療の質を保証するための制度がない」,「インフォームド・コンセントの未熟さ」,「国家的対応の欠如」,「個人を責めないと気がすまない文化」,「医療訴訟以外に医療過誤の被害者を救う術がない」などを指摘した。
 講演後には,参加者から「医療の不確実性をも十分に患者・家族と共有するという米国医療のあり方に驚いた」などの声があがった。また,講演の前後に発言を行なった西岡清氏(同大医学部附属病院長)と大山喬史氏(歯学部附属病院長)は,それぞれ,「人間は必ず失敗する。しかし,そこに学びいかに再発防止に結びつけるかが大事だ」,「まずは,患者との良好な関係が大切。そのためには意識改革も必要だ」と語り,医療事故防止に向けて意欲を見せた。