医学界新聞

 

連載 これから始めるアメリカ臨床留学

第5回 USMLE Step2の具体的対策

齋藤昭彦(カリフォルニア大学サンディエゴ校小児感染症科クリニカルフェロー)


2441号よりつづく

 USMLE Step 2は,臨床医学の以下6科目からの出題である。
 内科(internal medicine)
 産婦人科(obstetrics/gynecology)
 小児科(pediatrics)
 予防医学(preventive medicine)
 精神科(psychiatry)
 外科(surgery)

USMLE Step 2の難易度

 USMLE Step 2は,Step 1と同様,全体の点数が特殊な計算法により160-240点内に振り分けられ,平均点が210点,174点がその最低合格点である(2001年6月現在)。全体の55-65%の問題に正解することが合格の最低ラインと公表されているが,得点は高いにこしたことはなく,65%を合格ラインの目標とするとよいであろう。試験は計400問で,それらを480分で解かねばならず,1問にかけられる時間は平均72秒である。
 Step 1に比べて,Step 2は症例を提示することが多く,問題文が長いことが多い。したがって,より速く文章を読む力が要求される。問題を最初から読むよりも,まず選択肢を見て何を聞かれているのかをすばやく考え,頭をその領域に切り替えたほうが効率がよい。
 Step 2の内容は,決して難しいわけではないが,その範囲はきわめて広い。一方で,日本の国家試験を見てもわかるように,その国で頻度の高い疾患は試験にもよく出題される(例えば,日本では胃癌など)。アメリカでも同様で,アメリカで頻度の高い疾患(高血圧,虚血性心疾患,糖尿病,肥満など)について,いろいろな角度から問われることが多く,特に集中して勉強する必要がある。

参考書,問題集はできるだけ1つに絞る

 Step 2を勉強するにあたり,残念ながらアメリカの医学生が皆使っているような参考書は見あたらないが,要は自分が勉強しやすそうな参考書,問題集を見つけ,それをマスターすることである。どの本にも一長一短があるが,できるだけ1つの本に集中し,わかりにくい箇所を他の本で補充するべきである。
 また,参考書と問題集,どちらを先に手をつけるかという質問を受けるが,苦手分野は,まずしっかりと参考書を読んで知識の整理が必要である。その後,問題を解くと知識の整理ができる。一方,得意分野は,問題集にすぐに飛び込んでもよいように思うが,やはり問題を解いた後,知識の整理を行なうべきである。

各科目のポイント

 ここに,最近の傾向を含めた各科目のポイントを簡単にまとめることとする。ここで示した例は,あくまでその内容をわかりやすくするためのもので,それだけが出題範囲ではないことを付記しておく。

内科(internal medicine)
 幅広い分野だけあって,各分野を万遍なく勉強する必要がある。特に循環器,呼吸器系の疾患とそれに関する危険因子は,よく出題される領域である。例えば,身近な高血圧,高脂血症の患者を診た時にどういう検査,指導を行なうか? アメリカのガイドラインに沿った答えが必要とされる。また,写真を用いた問題もよく出題され,例えば巨人症の患者の顔が紹介され,その治療を問う問題や,髄液のグラム染色の所見(グラム陰性球菌)から,髄膜炎菌(Neisseria meningitis)を答えに導く問題などが思い出される。特に重要な徴候,検査所見などはアトラスなどで確認する癖をつけておくべきである。

産婦人科(obstetrics/gynecology)
 産婦人科は,勉強した科目の中で,日本の国家試験と出題頻度の高い分野が最も多く一致していた科目という印象を受けた。産科は,妊娠が正常とどう違うのか,その生理的変化,妊娠中の管理,妊婦の合併症,分娩時の胎児のモニター法などがよく出題される分野である。1つ注意しなくてはいけないのが,分娩時の胎位の表現方法が日本と異なることである。が,慣れればそう難しいものではない。
 婦人科は,性感染症,不正出血,流産,無月経の鑑別などがよく出題され,また,婦人科系の悪性腫瘍(子宮頚癌,子宮体癌,卵巣癌)の分類を実際に行なわせる問題もあったことから,その分類には精通していなくてはならない。

小児科(pediatrics)
 小児科は小児特有の疾患のみならず,正常な小児の発達,栄養,ワクチンの接種などの問題が多く出題されることを忘れないでほしい。この領域は,知識を整理しておけば簡単に答えられる問題が多い。小児特有の疾患としては,感染症からの出題が多く,各臓器におけるその年齢特有の起因菌を問う問題や,それに対する抗生物質の選択を問う問題が多い。また,日本では見ることのない,アメリカ特有のLyme病,Rocky mountain spotted feverなどは,小児の発疹の鑑別で重要な疾患である。また,代表的症候群(ダウン症候群など)は,出題しやすい分野で,特に頻度の高い症候群の主症状,合併症をあげられるように知識を整理すべきである。

予防医学(preventive medicine)
 健康増進,疾病予防,疫学,職業病,倫理など,幅広い内容からの出題である。一部,Step 1の行動医学(behavioral science)との重複する領域がある。代表的疾患の危険因子は,よく出題される。また,確実に点のとれる疫学の計算問題は,試験会場で困惑しないよう,自分なりのパターンを作って問題を解く必要がある。倫理の問題は,文化の異なる私たちには難しく感じるが,本人の意思が最も重要であることを常に念頭に問題をおくと解答しやすい。

精神科(psychiatry)
 私が,Step 2の中で最も注意が必要と強調したいのが精神科である。その理由は2つある。まず,日本とは異なる疾患分類(DMS-IV)が使われているため,まずはその分類に慣れなくてはいけない。分裂病,躁うつ病,人格障害などは頻出の領域である。また,それぞれの疾患に用いられる薬もよく出題される。
 もう1つは,日本人にとって不慣れな分野,薬物中毒である。コカイン,マリファナなどを服用した時,あるいは中毒患者が禁断状態になった際に,どのような症状をきたすかを各薬物ごとに整理しておかなくてはならない。臨床経験のない分野だけあって,鍵となる症状,症候を各薬物ごとにしっかり押さえておくことがこの分野での成功の鍵と言える(例えば,マリファナ中毒患者の眼瞼結膜充血,散瞳など)。

外科(surgery)
 一般外科,整形外科,脳神経外科,泌尿器科,眼科,耳鼻科からの出題である。各科の頻度の高い疾患を集中して勉強し,それ以外の細かな疾患は余裕のある場合のみにすべきである。一般外科そのものの問題は意外と少なく,内科疾患と絡んだ出題が多い。外科的疾患の診断,治療はもちろんだが,手術適応を外科の質問として多く問われる。具体的な手術術式などは問われることはなく,要はその手術の理論を理解しておくことである。整形外科では,小児特有の骨疾患はよく出題されていた。この分野も,画像,写真を使った問題を出題しやすいところで,代表的疾患の診断を写真,画像を通して確認しておくべきである。
 次回はTOEFL,CSAの対策を含め,英語の壁をどう突破するかを述べることとする。