医学界新聞

 

問われる研修施設の「教育責任」

倉本 秋氏(高知医科大学教授・総合診療部)に聞く


―――研修医による医療過誤や十分とは言えない教育の実態が報道され,臨床研修への社会的な関心が高まっています。
倉本 いまのままでは研修医がかわいそうです。彼らには,医療過誤に巻き込まれないための教育を受ける権利がある。しかし,これまでの臨床研修では,「見よう見まね」で学ぶ場合がほとんどで,しっかりとした教育をしてきた施設はきわめて少ないのが実状です。
 「自己責任」の時代だとよく言われますが,ろくな教育を受けていないのに,責任ばかり追及されるのでは,研修医にとってはたまらないことです。
―――何をしなければならないのでしょうか?
倉本 昨今の医療過誤報道を見ていても,その背景に不十分な研修実態があるのは明らかです。臨床研修の必修化に伴い,研修医が十分な教育を受けられるように制度改革の議論が行なわれていますが,そのような国レベルでの改革を待たずに,各施設は「教育責任」を自覚し,医師として具有すべき必要最低限の知識・技能・態度の教育を始めなければなりません。
―――具体的には?
倉本 プライマリケアなど,医師である以上身につけておくべきことがしっかりと学べるような,研修医本位のプログラムが必要だと考えています。
 高知医大病院では,2000年より全研修医を対象に1年間にわたる共通プログラムを実施しています。これまでの日本の臨床研修はストレート研修がほとんどで,その研修内容は各医局任せで行なわれてきましたが,これからは病院全体で取組まなくてはなりません。皆で議論を重ねながら,世の中に求められている医師を育成するための研修内容を確立するための努力が必要です。現在のプログラムも完全なものとは考えていません。プログラム自体の評価を行ない,常に改訂していく作業を行なうつもりです。
 また,研修医の到達度をチェックするために,研修オリエンテーション最終日と1年間の共通プログラム最終日にはOSCEを行ないます。評価がなければ「質」も確認できませんから。

現状を放置することはできない

―――臨床研修の必修化後には,「修了認定」も大きな意味を持ちますね。
倉本 2004年に必修化され,2006年には初年度の修了認定をしなければなりません。2004年に突然,その施設としての研修プログラムを立ち上げても,自信を持った「修了認定」はできないでしょう。各施設として,修了認定の「質」を保証するためにも,準備が必要なのは当然です。しかし,そのことよりも強調したいのは,不十分な臨床研修の実態をこれ以上放置できないという認識を医療者が持つべきだということです。すでに,医師には厳しく責任が求められる時代になってきています。研修内容の改善はもう「待ったなし」の状況なのです。
(文責:「週刊医学界新聞」編集室)