医学界新聞

 

第36回日本理学療法学術大会開催される

21世紀の理学療法-臨床・教育・研究の展望


 第36回日本理学療法学術大会が,さる5月24-26日の3日間,佐々木久登会長(JR広島鉄道病院)のもと,広島市・広島国際会議場において開催された。今学会のテーマは「21世紀の理学療法-臨床・教育・研究の展望」。
 今学会では原田康夫氏(広島大学長)による特別講演「人間のバランス感覚とめまい」の他,シンポジウム,教育講演,セミナーが,また三好春樹氏(生活とリハビリ研)による市民公開講座が行なわれた。
 佐々木会長による会長講演では,「21世紀における理学療法の夢」と題して,20世紀の初頭に知識人に募集した「20世紀の夢」のほとんどが20世紀のうちに達成されたことを例に,今後の理学療法のあり方について,臨床・教育・研究の側面から実現に向けた「夢」を語った。「21世紀はまさしくリハの時代である。柔軟な発想をもって,夢を持ち,21世紀の理学療法を作ろう」と,会場の参加者に呼びかけた。

新世紀の理学療法を探る

 今学会では,シンポジウム「20世紀を振り返り,21世紀を語る」をテーマとして,パート1では理学療法士以外の立場から,パート2では臨床,教育,研究と3領域に分かれて,理学療法士のあり方を2部に分けて,議論した。
 パート1では,日本理学療法士協会長である奈良勲氏(広島大)が進行役を務め,関連職種からの意見を集める目的で,リハ医,看護,ジャーナリストの3氏が登壇。リハビリテーション(以下,リハ)医の立場から土肥信之氏(広島保健福祉大)が,これからの理学療法として,(1)チームと連携および専門性,(2)臨床・教育・研究の一本化,(3)専門分化と統合,(4)職能と学問,(5)もっと地域へ,と理学療法士への希望を5点にまとめて述べた。
 続いて,リハ看護の立場から,落合芙美子氏(日本リハ看護学会)は,看護と理学療法はルーツを同じとする観点から,「両者の共通の概念を確認し,専門職としての相違を考えてみたい」と述べた。その上で,21世紀の理学療法士に期待する3つの夢として,(1)超高齢化社会において地域や福祉施設などの,社会のニーズに対応できる実力をつけるための教育の確立,(3)処方せんが書けるなど,裁量権の拡大を通した理学療法士としてのアイデンティティの実現,(3)基礎教育と卒後教育の連携や,組織的な教員研修と生涯教育の確立を提示した。
 最後に,ジャーナリストの視点から大熊由紀子氏(阪大)が,新聞記者時代に取材を通して触れた北欧の高齢者医療・福祉の姿に感銘を受けた経験から,日本における貧困な高齢者対策に一石を投じるのに理学療法士の役割は大きいと述べた。また「医療・福祉の最前線にいる理学療法士はもっと現状に怒ってよいのではないか。現場で起こる問題を社会に主張して,よりより医療・保健・福祉の担い手になってほしい」と,エールを贈った。
 最後に司会の奈良氏は,「誰のための専門性かを再度考え,豊かな人間性に加えて,科学性が必要であり,さまざまな立場の意見を聴取し,情報を吟味してスマートに怒れる理学療法士でありたい」と,この場で提示された種々の問題点を総括した。

臨床・教育・研究の立場から

 パート2では,21世紀の理学療法について臨床・教育・研究と会場を3つに分けて,それぞれテーマをもって討論が行なわれた。
 「臨床」では,半田一登氏(九州労災病院)を司会に,(1)急性期・回復期・維持期病院の立場から松木秀行氏(近森リハ病院),(2)地域・福祉・老健施設の立場から小山樹氏((株)ジェネラス)が,また(3)外来診療については森川美紀氏(有川整形外科医院)が登壇した。特に(1)では「回復期リハ病棟の位置づけをスタッフ全体が理解し,「医療の質」が問われる今こそ,理学療法の効果判定が重要となり,さらに21世紀には人材の育成が大きなポイントとなる」と述べた。
 (2)で1999年に作業療法士と共同で会社を設立した小山氏は,現在160名余の利用者を対象に地域リハを展開する中での課題を示した。特に,まだ認可されていない理学療法士・作業療法士による開業における可能性を示唆。また「生活からみられる在宅リハは教育の場としても優れている」と,そのメリットを強調した。(3)では,「外来診療は『臨床のフィールドワーク』であり,理学療法士の研鑚の場にふさわしい」とし,その現状を解説した。
 そのほか「教育」では鶴見隆正氏(広島保健福祉大),「研究」は伊東元氏(茨城医療大)を司会に,それぞれ熱心に討議された。