医学界新聞

 

リハビリテーション医学の充実と普及

第38回日本リハビリテーション医学会開催


 さる6月14-16日の3日間,第38回日本リハビリテーション医学会が,安藤徳彦会長(横浜市大)のもと,横浜市・パシフィコ横浜において開催された。今回のテーマは「21世紀への船出-リハビリテーション医学の充実と普及」。
 今学会では,シンポジウムに「脳外傷のリハビリテーション(以下,リハ)Outcome studyなど2題,パネルディスカッション「アジアにおけるリハ医学教育」「脳卒中リハにおける新技術」など5題やワークショップ7題などが企画された。また同時に,併催イベント「ヨコハマ・ヒューマン・テクノランド」(本紙2443号既報)や,脳性麻痺研究会,看護フォーラム(テーマ:「これからのリハ看護をデザインする」,本紙2447号に詳報予定)などが企画され,リハ医以外の専門職や利用者,市民らを巻きこむ形で多くの参加者を得た。


リハ医療のシステム確立

 安藤会長による会長提言「リハ医療のシステム確立の必要性」では,「すべての病院にリハ科が必要」と強調した上で,(1)一般総合病院,(2)リハ専門病院,(3)大学医学部,(4)医療圏における体系化と連携の4つの場面に分けて,氏の考える理想的なシステムのあり方を提示。
 (1)では,地域の中核的病院における,ICUなども含めた全方向的な院内連携を考えるべきとした。また1次医療機関,救急病院,3次リハ医療機関などや,病院・診療所など,また外来患者の健康管理などにも目を配るような院外連携の必要性にも触れ,さらに,「自治体は地域の中核病院にリハ広域センターの役割を求めている」とし,福祉機関との連携など地域リハ連携のあり方を提示した。(2)では,市中病院や福祉,更生相談所,行政などへの対外的な役割を果たすことが求められると示唆した。次いで(3)においては,「人材育成は最大の重要課題」とし,今後はリハを初期研修の1つに組み入れることを提起した。最後の(4)は地域リハ支援システムの連携についてその役割を語った。
 氏は,「リハはほとんどすべての急性・慢性疾患に必要な医療である」としながらも,「リハ医療が適用されない患者が増えているのが現状。骨関節疾患や心疾患などの患者さんにリハが関わると,生命予後がよくなると報告されている。今,時代はリハの充実に向い,その供給を保証する方向にある」として,講演を結んだ。
 会長提言を受ける形で行なわれたシンポジウム「21世紀のリハシステム」(司会=東海大 石田暉氏,横浜市リハセンター 伊藤利之氏)では,(1)救命救急センターにおけるリハシステムについて出江紳一氏(東海大)が,(2)地域完結型リハシステムを古閑博明氏(熊本リハ病院),(3)総合リハセンターにおける地域・医療機関連携を高岡徹氏(横浜市リハセンター),(4)医療経済の立場から鴇田忠彦氏(一橋大)がそれぞれ解説。
 はじめに(1)の構築に向けて,人的・物的資源とPatient Flow Managementが必要であるとし,救急リハの系統的教育の必要性や,嚥下障害クリニックなど,救急リハに対応するユニットの整備などが急務であるとした上で,リハ科医が救急の現場に常駐する必要性を示した。続いて(2)では,構築中である熊本市における病病診連携による地域完結型のリハシステムを提示。脳卒中の治療・転院をスムーズに行なうことを目的に,地域の関連施設が集まり「脳血管疾患を考える会」を発足させ,地域単位で患者を支えるシステムを紹介した。(3)では,横浜市の現状から,リハシステム構築のための1つの解決策として横浜リハセンターを位置づけし,急性期から在宅復帰,社会復帰までの一貫したリハシステム,およびさらに在宅生活の維持を目的とする地域・在宅リハのモデルシステムも提示し,現時点で可能となるリハシステムの1つの到達点を示した。
 最後に(4)では,医療改革の具体的な改革案として,医療機関に関する規制緩和,保険者機能の復権,医療のIT革命と情報の開示,高齢者医療制度の4点をあげ,さらにリハへの期待として,保健医療介護のシステム,医療の質と効率の改善,平均在院日数の短縮(=早期リハが必要),障害者への貢献などを挙げた。
 最後に司会の伊藤氏は「21世紀のリハは,地域単位で発症から在宅まで一貫したシステムを築くことが必要」と,議論を結んだ。

WHO国際障害分類改訂版

 今年5月にWHOの国際障害分類(ICIDH)改訂が正式決定され,その日本メンバーである上田敏氏(日本障害者リハ協会)による特別講演「新しい障害概念と21世紀のリハ医学」が行なわれた。
 これまでのICIDHから「ICF」(International Classification of Functioning, Disability and Health:生活機能・障害・健康の国際分類)と名称変更された経緯や,この基本的な考え方を披露。さらに障害の3相である「機能・形態障害(impairment)」は「心身機能・構造(body functions and structure)」に,「能力障害(disability)」は「活動(activity)」に,「社会的不利(handicap)」は「参加(participation)」に変更されたことが示され,注目を集めた。
 上田氏の特別講演を受ける形で,安藤会長の司会による特別ディスカッション「障害概念に関わるリハ医学的検討」が,西村尚志氏(諏訪赤十字病院),高橋秀寿氏(国療村山病院),小林一成氏(東京逓信病院)が登壇し,意見が交換された。中では「新しい障害分類は,リハ医の日常診療には使いづらい面もある」との指摘も出たが,これに対して上田氏は「ICFは異なる分野の間の共通言語であり,このまま診療に使うという性格のものではない」との考え方が述べられるなど,さらに新しい分類をめぐって議論がなされた。