医学界新聞

 

重度の手首骨折(橈骨遠位端骨折)に創外固定が有効

-日本創外固定・骨延長学会 ワーキンググループ調査

大西五三男(東大・整形外科学),中村耕三(東大教授・同科)


 日本における人口構成が高齢化にシフトしたことに伴い,骨粗鬆症を有する高齢者の患者数が増加し,日常生活の中のちょっとした動作や転倒などの事故により,いとも簡単に重度の骨折を生じることも少なくない。
 患者が転倒した際に,手をついて受傷する手首部分の骨折(橈骨遠位端骨折)は,以前は徒手整復やギプス固定で治療可能と言われていたが,最近,特に不安定性のある骨折では,手関節の運動制限や運動時痛が強く残ったり,また整復後に関節の変形をきたし,日常生活動作(ADL)に障害を残すケースが多いことが明らかになってきた。
 この問題に取り組むべく,日本創外固定・骨延長学会では,「橈骨遠位端骨折に関するワーキンググループ」を設置し,検討を重ねてきた。
 今年行なわれた第14回本学会(2月16-17日,会長=東大 中村耕三)では,パネルディスカッション「橈骨遠位端骨折」(座長=阪市大 山野慶樹教授,阪医大 阿部宗昭教授)を企画し,6人の演者による自施設での治療成績と,さらに6施設(後述)による「創外固定を用いた橈骨遠位端骨折の治療に関する調査票結果」を共同発表した。そしてこの調査結果から,重度の橈骨遠位端骨折に対して適切な創外固定を施行した場合は,治療終了後に十分な機能回復が得られることが明らかになったので,ここに報告したい。

 


調査の結果

 本学会の「創外固定を用いた橈骨遠位端骨折の治療に関する調査」に参加したのは,日医大,弘前大,朝日大学附属村上記念病院,山梨医大,熊本整形外科病院,済生会神奈川県病院,の6施設。
 調査の対象は,上記6施設における創外固定を用いた橈骨遠位端骨折の症例。以下にその主な項目をあげる(図1参照)。
●術前合併症治療期間:1995-1999年の5年間
●症例数:268例(男106名,女162名)
●受傷年齢:17-89歳(平均50歳)
●受傷機転:「転倒」が59%,次いで「交通事故」(16%),転落(20%),その他(5%)
●整復方法:「閉鎖的」52%,「直達式」23%,その他が25%
●創外固定器の装着期間:平均日数42日(15-126日)
●入院期間:平均14.3日(0-311日)
●自家骨骨移植:「あり」が6%,「なし」が94%
●人工骨補填:「あり」が18%,「なし」が82%,
●内固定併用の有無:「なし」46%,「K-wire」40%,「plate」14%。さらに,
●創外固定器装着中可動域訓練の有無:「あり」58%,「なし」42%
 受傷者を年齢別にみると,高齢者といっても60歳代をピークに,次いで50歳代が多かった。また,治療後に齋藤の治療成績評価基準(総合)を用いて評価したところ,「Excellent」46%(111名),「Good」49%(121名),「Fair」5%(11名),という結果が得られた。

創外固定が必要な骨折とは

 橈骨遠位端骨折は,例えば転倒した時に手関節伸展位(背屈位)で手をついた場合,手関節より数㎝の所で生じる。骨折後には患部の腫脹,圧痛,運動制限などの症状がみられ,これらを主訴とする場合が多い。この時に,患者さんは転んで手をついただけなので,あまり深刻にとらえていない場合が多く,医師側から受傷機転となるような転倒がなかったかなどを聞くことも大事である。
 上述したような患者さんが受診された場合,X線所見で骨折部に重度の転位があるか,または関節内の粉砕の程度が大きくないかなどを確認すべきである(図2)。いったん整復してもギブスなどでは再度転位しやすく,整復位を保持できないなどの不安定性のある場合は重症ととらえ,そのような患者さんには創外固定が必要と考えられる。

創外固定を治療選択肢の1つに

 この6施設による調査の結果,創外固定法による橈骨遠位端骨折の治療は,非常に効果的な治療成績をもたらすことが明らかとなった。
 女性は閉経後に,男性は80歳前後で骨粗鬆症になる率が急激に高くなることから,特にこの年代の骨折には注意が必要であることは言うまでもない。また最近では,高齢者に限らず,ダイエットなどで骨粗鬆症様の症状を呈する若い女性や若年者も少なくないこともあり,過度にやせている若者が上記のような症状を呈して受診した場合には,橈骨遠位端骨折の可能性を念頭に置き,X線などで確認することが大切である。
 創外固定などの十分な治療を受けずに,手首を動かす時に痛みが走る,また変形などをきたしてしまうなどの後遺症が残ってしまった場合には,患者さんの日常生活の質は著しく低下してしまうことになる。最も重傷者の多かったのが60歳代であることを考えれば,仕事や家事,趣味,または社会生活などを行なう上での大きな支障となってしまう。あらかじめ予防できたはずの障害を持ったまま,受傷から天寿までの長い人生を過ごすようなことは,ぜひとも避けなければならない。
 創外固定自体は,手術時間は1時間程度ですみ,最近では日帰り手術も行なわれているなど,患者さんへの負担が少ないものである(図3)。
 整形外科を専門としない一般医の方々の日常診療の中でも,「手首の骨折」は遭遇する機会の多い疾患と思われる。骨折だからといって軽視せず,「創外固定治療」を,骨折における治療選択肢の1つに加えていただきたい。