医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


待望の眼科診療辞典

今日の眼疾患治療指針
田野保雄,樋田哲夫 編集/大路正人・他 編集協力

《書 評》松井瑞夫(日大名誉教授・眼科学)

 本書は,サブスぺシャリティの確立が殊に進んでいる眼科においては,長年月の歴史を持つ『今日の治療指針』(医学書院刊)では,眼科診療上の情報を得るにははなはだ不十分である,という観点から企画されたものと理解していた。

充実した850余項目の内容

 しかし,本書を一覧して,まず「これは眼科辞典だ」と思った。この点,「序」を読んでみて編集者の意向が理解できたが,読み応えのある教科書ともすべく,臨床で遭遇する可能性のある疾患,さらに眼科専門医として明確な治療指針が求められる疾患を収載するという2点を目標に,850余の項目を選択したというのであるから,眼科辞典と考えられるのも当然であった。この850項目余を,それぞれの分野で現在もっとも活躍している230名ほどが分担して執筆しているのだから,その内容の充実振りも理解できよう。
 さて,筆者の経験では,各論の構成や執筆は比較的容易であるが,総論の構成や執筆はいろいろと苦労するものである。
 本書ではこの点をまず,フローチャートによる症状・所見・主訴からの鑑別診断という手法で見事にはじめ,その後に緊急措置,各論,検査総論,治療総論,薬剤一覧という構成順となっている。ただしこのフローチャートによる鑑別診断という方法には,構成を進めていて,どうしても割り切らざるを得ないという点にぶつかるという問題があるように思う。この点,割り切り方に多少の問題点があるのは止むを得ないとしても,改版の際に工夫・改良していただきたい。検査総論,治療総論の項では基本的なものから最新のものまでが簡にして要をえて網羅されている。

診療を進める点できわめて有用

 以上のような点を考えると,眼科専門医をめざす研修医にも役立つし,専門医が当面している症例の治療法の現状を知るのにも役立つ内容と言える。また,病院等に検査・診断・治療を依頼した症例の報告書にある,検査結果の評価・解釈にすこぶる役立つであろう。したがって,眼科研修医,そして眼科専門医の机上に本書があることは,診療を進める点できわめて有用であると思う。
 最後に編集者,そして編集協力者の方々に,このように有意義なそして大部の内容からなる治療指針を刊行されたご苦労はいかばかりであったかと,心から敬意を表したい。
B6・頁824 定価(本体18,000円+税) 医学書院


患者に「がん」と病名を告げる時に

がん告知
患者の尊厳と医師の義務
 竜 崇正,寺本龍生 編集

《書 評》日野原重明(聖路加看護学園理事長)

 医学書院から「患者の尊厳と医師の義務」と副題のついた『がん告知』という単行本が今般発刊された。
 これは昭和43(1968)年の同じ年に各地方の医学部を卒業した方々を中心に,32名の医師(1名は弁護士を兼ねる)が,編者の竜崇正院長(千葉県立佐原病院)と寺本龍生教授(東邦大第1外科)の下に,それぞれの経験した「がん告知」の症例と病名告知上の自己反省と教訓例を持ち寄られ,編纂されたものである。

病名告知は守るべき患者の人権

 この年代はちょうど,インターン廃止にからまる学生騒動のあった混乱の時代に卒業した方々で,めいめい自力での卒後研修を体験した人たちである。内科,外科をはじめ各科の専門医学を身につけ,卒後33年の臨床と教育と研究を経て,現在病院の管理職や教授職についている方々である。看護婦長として女性1人の参与もある。これらの臨床家たちが日頃から話し合っている「がん告知」に関する見解やいろいろな症例から体験的に得た教訓を基礎にして,病名告知は「守るべき患者の人権である」という立場に立って,異なる患者の性格や環境に応じて,どのような告知を勧めるべきかがまとめられている。
 これだけの混合部隊の臨床家の意見を大きくまとめて理解するのに,私はまず目次をみて,そのあと32頁にわたる「がん告知の実践――困難例にどのように対処するか」と題された座談会を一読した。これによって,本書を貫く諸問題の実体がよく理解されたように思う。私は本書の読者に私がとった読み方をお勧めしたい。

がん告知をどう行なうか

 この書にはまず第1章に「がん告知のガイドライン」が,人権を中心に9人の医師によりまとめられている。第2章には先に述べた症例集,そしてこの章の終わりにはさまざまの患者や家族の状況を設定しての各筆者へのアンケート(がん告知こんなとき,私はこう告知している)の答えが記述されている。座談会に次ぐ第4章の「さまざまなアプローチ」には都立駒込病院外科所属の5人の筆者が,同病院での2年間の胃癌患者への告知102例のアンケートの集計を11頁にわたって発表されているが,これには非常に参考になる文献が添えられ,研究者には嬉しい付録である。さらに,「がん告知と医師や看護婦の対応の仕方」が述べられ,「がんの告知をした場合としなかった場合の評価」が「病床傍対坐参与観察法」を用いて記載され,患者や家族の精神・心理についての感性による評価法が示されている。
 そして最後には,本書の編者の竜崇正医師が「がん告知についての患者の権利と医師の義務」というタイトルで,本書での結論を示すものとしてインフォームド・コンセントの定義,ヘルシンキ宣告での医師として生物学的研究に携わる医師のための勧告,医療行為と医学的研究の関係,患者の説明に際しての医師の心得,日本全体での告知のパーセンテージやがんセンターでの告知のパーセンテージ,そして患者の知らないところで医師と家族でその人の運命を決めることは人権侵害であることが強調されている。
 また,付録として「ヘルシンキ宣言」が付されており,索引も丁寧につけ加えられている。
 最後に私の感想として,多くの本の編者は,筆者の人選をし,項目を分類する役にとどまる医学出版物が多いが,本書は各執筆者の内容をよくまとめ,分類して,種々の意見を紹介しながら,インフォームド・コンセントに関する基本的理解のためのデータ分析に最善の努力をされている。その意味で,多くの臨床医,看護婦,医学や看護の教育者,研究者がこれを参考として「がん告知」を行なうとともに,この方面の教育と研究の資料とされることを強くお勧めしたい。
A5・頁216 定価(本体3,500円+税) 医学書院


知りたい花粉症診療のコツがいっぱい!

〈総合診療ブックス〉
花粉症診療の質を高める
内科医への20の診療ナビゲーション
 榎本雅夫,他 編集

《書 評》木戸友幸(木戸医院)

すっと頭に入り,肩の凝らない内容

 本書は,一般医の診療のためにと企画された『総合診療ブックス』の第9冊目になるものである。内容は,「内科医への20のナビゲーション」と名づけられた20の章からなっている。これらの章の内訳は診断編8章,治療編9章,トピックス3章である。各章には,まずチェックリストでまとめが示され,その後,すぐ症例が提示される。それに続きイラスト豊富な本文があり,最後に提示された症例の解説と教訓が示されるという,かなり凝った構成になっている。しかし,プライマリ・ケアに従事する医師が患者を診る思考過程に沿って書かれているので,すっと頭に入り,決して肩は凝らない!

効果的なマスクの使用まで記載

 執筆者はすべて臨床家で,日頃コンサルテーションを受ける立場の先生方である。したがって,プライマリ・ケア医が何を知りたいかを熟知しておられる。おそらく執筆メンバーは,他科の医師から人気の高い先生方なのだろうと察せられる。書かれていることは,日頃われわれプライマリ・ケア医が知りたいことばかりである。また記載が抽象的または一般的な記述ではなく,非常に具体的である。これもわれわれの日常診療に非常に役立つ点である。
 例えば,「花粉症にマスクが効果的」と書くだけでなく,「高価なマスクを大切に長く使用するより,安価なものを毎日使い捨てで使用するほうが,衛生面も考えるとお勧めである」と書いてくれている。また,検査法もその信頼度と保険点数の両方の観点から見て,どの方法が好ましいかが記載されている。また,表現,述語も平易なもので統一されているので,医師だけでなく,看護婦,薬剤師,検査技師など同じ職場のコメディカルの人たちにも十分利用してもらえる著書である。
 さて,最後にこの『総合診療ブックス』シリーズへの希望であるが,ぜひ精神科関係のものを企画してほしい。最近,薬物療法の進化に伴い,一般医がうつを中心に,精神科疾患の患者を多く診ているが,それに対する信頼のおけるガイドをぜひお願いしたい。
A5・頁184 定価(本体3,700円+税) 医学書院


ゲノム時代に見事に応えた遺伝相談に関する内容

〈Ladies Medicine Todayシリーズ〉
周産期遺伝相談

神崎秀陽,玉置知子 編集

《書 評》荻田幸雄(阪市大教授・産婦人科学)

外来でも求められる出生前診断情報

 近年,ヒトゲノム解析が進み,これをマスコミが詳しく取りあげたことも手伝って,医学関係者だけではなく一般にも遺伝子という概念が深く浸透してきた。あらゆる疾患,あらゆる体質が,出生以前に遺伝的に全て決定されているという錯覚すら抱いてしまいそうな時代となった。これに伴なって,産婦人科外来においても出生前診断に関する情報を患者から求められることが以前にもまして頻繁になってきたと言える。患者自身がかなりの知識をすでに有している場合もしばしばであり,遺伝学や出生前診断は,産婦人科医師が日頃から十分に身につけておくべき分野の1つとなっている。

随所に言及されている患者への対応

 本書は,このような時代的要求に実に見事に応えた内容を有していると言える。従来の遺伝相談は,家系的にすでにハイリスクであることが明らかな患者群がその対象の大部分を占めていた。これらの患者に対しては,羊水穿刺や絨毛採取によって染色体や疾患関連遺伝子が専門家によって解析されるが,本書では各先天性疾患についての診断方法や,その限界,予後のみならず,患者への実際の対応について随所に言及されている。一方,最近ではまったく低リスクの患者からも,漠然とした不安から胎児異常についての検討を求められることがある。こういったすべての患者を対象に侵襲的な検査を安易に施行することは事実上不可能である。そこで,本書では染色体異常の超音波検査によるスクリーニング的検出についても具体的かつ詳細に述べられている。また,IVF-ETやICSIなど生殖補助技術の進歩と普及に伴って,倫理的な問題が多々包含される反面,わが国においても着床前診断に対する要望が高まりつつあると考えられるが,これについてもその方法のみならず,問題点についても触れられている。
 巻末には,実際に遺伝相談専門外来を担ってきた2病院の遺伝相談に対する考え方や現状についても詳しく触れられている。本書は遺伝相談専門を志す医師のみならず,不妊症や産科外来担当医師にとっても有用かつ最新の内容が十分に含まれており,ぜひ手元に備えられることをお薦めする1冊である。
B5・頁208 定価(本体6,000円+税) 医学書院


公衆衛生現場で働く者に求められる考え方を学ぶために

地域診断のすすめ方
根拠に基づく健康政策の基盤
 水嶋春朔 著

《書 評》伊礼壬紀夫(沖縄県北部保健所・技術次長兼健康増進課長)

 本書はコンパクトな書であるが,集団を扱う時の公衆衛生の基本的考え方が見事にまとめられている。しかも簡潔に記載されており,大変読みやすい。

診断なくして治療(計画)なし,評価なくして改善なし

 そもそも地域診断とはなんであろうか?集団の健康を扱うということは,Public Healthそのものであり(Public=公衆,Health=健康),地域集団の健康を評価するということが地域診断の本質である。この集団を評価するという部分が,個別評価を基本とする医療や福祉との決定的な違いでもある。
 患者の治療やケアは,個人(患者)の健康評価(診断)から始まるように,地域の健康政策は,地域集団の健康評価(地域診断)から始まる。患者の効果的かつ効率的な治療方法の選択にあたっては,科学的根拠に基づいた最善の方法を選択し,インフォームド・コンセントに基づいて実行していく。地域集団の健康政策の選択にあたっても,科学的根拠に基づいた効果的な方法を住民とともに選んで(ポリシー・チョイス),計画・実行していく。そして,治療の効果を評価して次の症例に活かしていくように,健康政策や事業の実施後にその効果を評価し,次の政策や事業にフィードバックする。本書には,このような一連のサイクルがあって初めて効果的な健康政策が形成されていくことが上手に解説されている。「Plan-Do-See」の前に「診断」が必要なのである。

住民の思い+専門家の診断=良い健康政策のスタート

 住民の意見を聞くことは大切である。しかし,それだけを頼りに健康政策を展開しても地域住民全体の健康は向上しないのではないだろうか。客観的情報と合わせて適切な評価(診断)がなされてはじめて,「何をどうしたらよいのか」という段階に進むことができる。
 本書には,「健康日本21:地方計画」の進め方のポイントも記載されているが,読者は地域診断や根拠に基づく健康政策が「健康日本21」の考え方の基本でもあることが理解できるであろう。

公衆衛生現場に求められている診断(評価)能力

 本書は,単なるハウツー物ではない。今,公衆衛生の現場で働く者に求められているのは,マニュアル通りに動くことではなく,考え方を理解して現場に応用していく能力,すなわち考える力である。本書は,それを学ぶ絶好の機会を与えてくれる。
 さらに本書では,統計処理の進め方,アクセスを用いたデータベース作成の基礎,そしてエクセルを用いた集計の進め方についても触れており,実に盛りだくさんである。いずれも簡潔に基本的事項が解説されており,保健所や保健センター等の業務に直接活かせそうな例が掲載されている。これを地域診断におけるデータ分析導入のきっかけとして,さらに発展させていくことも可能であろう。
 筆者自身も本書を職場の学習会に利用しているが,よりよい公衆衛生活動を展開するため,公衆衛生に携わる多くの方々にぜひ,本書を活用していただきたいと思う。
A5・頁140 定価(本体2,500円+税) 医学書院


臨床家向きのバランスの取れた疼痛治療入門書

疼痛管理シークレット
R. Kanner 著/津崎晃一 訳

《書 評》長沼芳和(NTT東日本関東病院・ペインクリニック科)

 臨床家向きのバランスの取れたペインクリニック入門書である。

質問に答える形で明快に

 本書のユニークな点は,日頃疑問に思うことや,基礎的に習得しておかなくてはならない知識を,質問に答える形で明快に説明してくれることである。扱われる内容は,ペインクリニックに携わる人と会話をするのに不可欠なterminologyに始まり,各種疼痛疾患の診断・治療,トピックスに至るまで実に幅広い。
 欧米のペインクリニックに関する書籍には,とかく疼痛疾患を精神・薬物療法で解決しようとするものが多く,神経ブロックに関しては臨床的な記述をしたものは真に少ない(おそらく欧米人は,“日本人はすべての痛みを神経ブロックで解決しようとしている”と思っているであろうが……)。
 本書は,神経ブロック,薬物療法,理学療法,心理的アプローチにほぼ同じ頁数を割いており,それらの適応,効果,限界を簡潔に説明している。

特筆すべき小児と老人の疼痛管理

 さらに,本書の特筆すべきこととして,小本であるにもかかわらず,小児と老人の疼痛管理について章を起こしていることがあげられる。新生児に関しては神経系が未熟なため,刺激を受けても痛みを感じていないとする乱暴な解釈が,つい最近まであった。
 また高齢者は,疼痛閾値が若年者より上昇していることや,痴呆を伴っているものでは意思を伝達することができないため,重篤な疾患が見逃されてしまう傾向がある。本書では小児の疼痛評価法,オピオイドを中心とした鎮痛薬,鎮痛補助薬の投与法などをわかりやすく説明している。一方,生理機能の衰えた高齢者については,安全面を重視した投薬上の注意を促している。
 疼痛治療の弱者にも配慮した内容と言えるであろう。
A5変・頁354 定価(本体5,400円+税) MEDSi