医学界新聞

 

第19回臨床研修研究会が開催される
臨床研修における質を討議


 さる4月21日,全国の臨床研修指定病院の代表者が集い,第19回臨床研修研究会(幹事病院=国立国際医療センター,会長=同センター 矢崎義雄氏)が,東京・シェーンバッハ・サボーにおいて開催された。今回の主題は「臨床研修のQuality Controlをめぐって」。これまでの「努力規定」であった卒後臨床研修が,2004年(平成16年)から必修化されたことから,カリキュラムや指定病院のあり方などについて熱心な議論がなされた。
 特別講演では,大久保寛司氏(人と経営研究所代表)が「医療におけるQuality Contorolの方策-患者にいかに満足を届けるか」と題して,企業で展開される顧客サービスを医療現場や病院運営にあてはめて,種々の提言を行なった。また,トーマスJ.ナスカ氏(ジェファーソン医大)による「卒後医学教育の質の保証-認定システムの果たす役割」では,米国の臨床研修の動向を紹介するとともに,レジデントやフェローの研修プログラムおよび研修施設の認定を行なう機関である「全米卒後医学教育認定評議会」(Accreditation Council for Graduate Medical Education;ACGME)を紹介。卒後医学教育の質の保証には,プログラムのそれぞれの要素に「研修の成果に基づいた認定システム(Outcome-based Accreditation)」という考え方にシフトしてきている実情を述べた。

臨床研修カリキュラムの質

 シンポジウム I「必修化カリキュラムのQuality Control」(司会=京大 福井次矢氏,国立国際医療センター 松枝 啓氏,写真)では,前半の「必修化におけるカリキュラムの確立-Minimal Requirementをめぐって」で,(1)外科医の立場から高崎健氏(東女医大)が,(2)内科医の立場から樋熊紀雄氏(新潟市民病院),(3)眼科医の立場から安達惠美子氏(千葉大)が口演。
 (1)では,日本外科学会が来年度から開始する,初期臨床を含めた4年間の外科専門医研修と3年間のサブスペシャル専門医研修制度について,「ジェネラルな外科医が育たず,専門医にしかならない」と危惧の念を示した。また氏は「外科を志望する人間には内科的事項の研修が必要であり,内科志望者にも同様」とした。一方(2)では,プライマリ・ケアへの対処ができる第一線の臨床医,専門医を目標に掲げて,将来専攻する専門科を重点的に学ぶスーパーローテート方式を取り入れた研修を施行。「研修医はこの2年間の研修でほぼ十分な症例を経験できる」と,その効果を明示した。
 さらに(3)では,自身の経験から「総合診療方式が採用された場合,眼科,皮膚科などの専門性の高い科にとって,他科の医師も知っておくべき知識をどのレベルに設定するかは,今後の重大な課題」と指摘した。
 続いて「臨床研修必修化における研修病院と大学病院との役割」をテーマに,研修病院の立場から(4)井村洋氏(飯塚病院)が,(5)大学病院の立場から山崎洋次氏(慈大)が登壇。(4)で,「研修は研修医自身のニーズや社会的なニーズに基づいて行なうべき」と主張。研修医自身が目標に掲げる「ACLS(Advanced Cardiac Life Support)」,「よくある症状・問題のアプローチに習熟する」「コミュニケーション能力を磨く」の3点を,診療科の枠を超えた研修目標として取り入れる効果とその重要性を強調した。
 一方(5)では,大学病院と関連病院の外科手術のあり方を比較したところ,大学病院では専門性の高い症例に偏り,外科医の基本的臨床能力を養うという点で適当とは言えないこと,一方,関連病院では1人当たりの手術数は多いが教育スタッフのマンパワー不足などの側面があると分析し,「大学病院とその他の研修病院との連携させて補いあう体制を検討すべき」との見解を示した。

必修化における臨床研修評価システム

 シンポ II「研修内容および成果のQuality Control」(司会=千葉大 磯野可一氏,国立名古屋病院 下山正徳氏)では,「必修化における臨床研修評価システム」と題して,(1)自治医科大学方式について箕輪良行氏(船橋市立医療センター)と,(2)臨床研修指定病院の立場から,初期臨床研修の評価法について木下牧子氏(国立国際医療センター)がそれぞれ自施設における試みを報告した。続いて「卒後研修における問題解決能力の開発」をテーマに,(3)福原俊一氏(京大)が,「研修医に診療の面白さを体験できる場を提供すべき」と述べ,一方,(4)上野征夫氏(本庄総合病院)は,アメリカでの卒後研修の経験を披露した。

■卒前・卒後と連携した臨床研修の検討を

 同研究会では,厚生労働省・文部科学省との協議の時間を設け(司会=国立国際医療センター 矢崎氏),各担当課長と課長補佐が登壇し,卒前・卒後における医学教育・臨床研修のあり方について議論する場となった。
 最初に,中島正治氏(厚生労働省医政局医事課長)は,3年後の臨床研修必修化の施行に向けて,今後,どのような事項を必修として行なうべきか,そのためには(1)プログラムはどのように組まれるべきなのか,また(2)研修修了をどのように認定していくか,(3)研修を行なう場である臨床研修病院,あるいは病院群などの施設基準,など実施に向けて山積する課題を示した。今後は,これらの課題を医道審議会医師分科会の医師臨床研修検討部会で具体的に検討していくことを明らかにした。
 また,医療研修推進財団がインターネット上に構築した「医療研修情報提供システム」を紹介し,参加者に活用を呼びかけた。

3つの改革,1つの拡充

 一方,文部科学省の村田貴司氏(文部科学省高等教育局医学教育課)は,医学教育における「3つの改革,1つの拡充」として,(1)カリキュラム,(2)学部レベルの臨床実習,(3)教育能力の向上・体制改革と,多様な人材を集めるための学士編入学制度の拡充について説明。3月27日に発表された「21世紀における医学・歯学教育の改善方法について-学部教育再構築のために」の内容を中心に,医学部教育の今後の方向性を示唆した。
 (1)は,医療人としての素養を教育課程の中で十分獲得できる教育カリキュラムが必要との観点から「モデル・コア・カリキュラム」を策定したことから,「これにより知識詰め込み型から課題解決型の学習への展開と,各教育機関の特性を生かしたプログラムの提供体制を検討してほしい」と述べた。(2)については,「モデル・コア・カリキュラム」にのっとった学習達成度を確認するために,各大学共用の臨床実習前試験の実施も提案。さらに臨床実習では内科・外科を中心とした重点的履修や臨床実習指針の整備,診療参加型実習ガイドラインの策定についても触れた。また(3)は,医学・歯学教育指導者研修会の開催や,教員の教育業績評価に関するガイドライン策定について解説した。
 また氏は,臨床実習前の評価を行なうために,「各大学共有のコンピュータ・ベースのテスティング・システムの構築が大きな柱になる」との見解を示した。最後に,大学病院における卒後臨床研修の改善として,(1)共通カリキュラムの再編・見直し,(2)質の保証カリキュラムの確立,(3)病院群研修体制の構築,指導体制の確立が必要とし,「卒前教育と円滑に接続するために,厚生労働省と緊密に連携して協議することが重要」と結んだ。
 2氏による説明を受けて司会の矢崎氏は,討議の開始前に寄せられた参加者からの質問・意見を披露。その中で特に多かった研修の支援体制や待遇・保証について,中島氏は,「具体的な内容は今後詰めていく」としながら,「インターン時代の反省も含めて,研修医が研修に専念できるような,財源確保と基本的な保証ができる体制作りについて検討を進めている」と回答。さらに指導体制,臨床研修指定病院の位置づけなどについては,具体的に検討が必要と,現状を説明した。一方,必修化カリキュラムに話が及ぶと矢崎氏は,「いわゆる診療科ベースでのカリキュラム作成は困難」と指摘。さらに「診療科の枠を超え,『何を教えるか』という考え方にシフトして検討すべき」との見解を示した。

診療所で家庭医を体験してみよう!

●プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる
 診療所医師のネットワーク(PCFMネット)

 「プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク」(PCFMネット)とは,「医療の原点といえるプライマリケア・家庭医療診療所での見学実習・研修を通して医学生や研修医に,診療所医療の独自性・重要性,PCFM診療所医師のやりがい・醍醐味を味わってもらう」ことを目的に設立されました。
 現在,PCFMネットでは全国37の診療所で医学生・研修医の見学・実習を受け入れています。
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◆問合せ先
 URL=http://www.shonan.ne.jp/~uchiyama/PCFM.html
 (紹介=国立東京医療センター 中村明澄氏)