医学界新聞

 

【学会長インタビュー】

新しい時代が問う看護研究の方向

第27回日本看護研究学会学術集会開催にあたって

泉 キヨ子氏(第27回日本看護研究学会学術集会長・金沢大教授)に聞く


 第27回日本看護研究学会が,きたる7月27-28日の両日,金沢市の金沢市観光会館,他で開催される。本紙では,「新しい時代が問う看護研究の方向-Directions of Nursing Research in the 21st century」をメインテーマに掲げる泉キヨ子会長(金沢大教授)に,今学会の開催を控えての心境や看護研究の方向性などについて話をうかがった。
 なお,日本看護研究学会は,国立4大学(熊本大,徳島大,弘前大,千葉大)の教育学部特別教科看護教員養成課程の教員連絡協議会(四大研究協議会)を前身とし,「看護教育の真の充実のためには,これを理論的に支援する看護学の確立が不可欠であり,急務である」と,1974年に準備委員会を組織。翌年「四大看護学研究会」として発足し,第1回学術集会(徳島市)を開催した。また,1977年の第3回学術集会開催時より4大学教員以外にも門戸を広げて入会を受けつけるようになり,結果として会員の拡大,発表演題数も増加の一途をたどることとなった。その後,1982年の第8回学術集会・総会(千葉市)時に「日本看護研究学会」と改称し今日に至るが,同学会は1993年に日本学術会議より「登録学術研究団体」として承認。現在,会員は4000名を超え,国内最大会員数を誇る看護系学会となった。


■看護研究の多様な方向を探求

討議の活発化を図るために

――「四大看護学研究会」発足当時から4半世紀が過ぎ,この間に看護系大学が急増しました。そのような背景の中,学会のあり方や看護研究の質も変わってきたのでしょうか。
 日本看護研究学会の会員は,4000名以上となりました。会員の多くは,教育研究者と臨床の現場に勤務されている方々です。研究会当時の会員は,4大学の教員でしたが,その後に転換があり,臨床の方々が入会されています。本学会は,特定の専門分野に限定されない看護学全般の研究を扱う学会として,1993年に日本学術会議に承認されましたが,看護関係者に広く門戸を開いており,比較的入会しやすい学会です。そのためでしょうか,他の看護系学術学会よりも臨床ナースの発表が多いように思います。
 今回は,300題を超す応募演題がありました。また応募演題に関しましては,北陸地区の評議員の方々にお集まりいただき,査読の協力を得ました。北陸地区は地理的問題もあり,本学会の特色でもある地方会活動にやや消極的でしたが,このような機会を持ったことで,会員間の意識も高まったのではないかと考えています。
 応募演題の傾向をみてみますと,看護教育に関連した演題や実験研究がやや多いように思いますが,看護学全般を扱う学会らしく多様性にあふれています。また近年,看護の質的研究に関心が高まっているようにも見受けられます。
 演題発表に関してですが,発表形式を若干変更しました。これまでは,1演題10分の枠で7分を発表,3分を討議にあてていましたが,今回は8分を発表時間とし,討議の時間を5分とするなど,少しでも討議が活発にできるように,工夫をしました。

「ともに探りながら」を基本に

―― 看護系大学がこの10年の間に大幅に増え,本年4月現在で89校となりました。そう考えますと,学会での研究発表は以前と比較すれば,自ずと内容も質も向上し,看護研究の方向性も変わってきているのではないかと思えます。今学会では,「新しい時代が問う看護研究の方向-Directions of Nursing Research in the 21st century」をメインテーマに掲げていますが,この意味するところ,加えまして学会のプログラムを紹介いただけますか。
 私は新しい時代は看護の原点を見つめ直して,より専門性を発揮していく方向に向かっていきたいと考えています。また,今世紀には保健・医療・福祉の協働によるアプローチが求められています。このような時代に看護が専門職としての力量を発揮していくには,看護実践を科学的基盤に基づくケアにしていく研究や,今まで無意識に行なってきた看護現象をていねいに見つめて,その意味を他者にも説明できたり,社会に認知されるような研究が必要と考えました。そういうことから,「新しい時代が問う看護研究の方向」というメインテーマを考えました。これは,決して「ある方向がよい」と一方を指し示すのではなく,看護研究として,「ともに探りながら」を基本に,多様な方向を探求していくという意味です。
 なおプログラムですが,会長講演では,私の専門領域でもある「リハビリテーション看護学」の視点から,細々と継続している「転倒予防に関する研究」を中心に,新しい時代におけるリハビリテーション看護の必要性について,この分野をアピールする意味も込めて講演をするつもりです。障害を持った人,あるいは障害を抱える高齢者がよりよく生きられる時代のために,看護の中で「リハビリテーション」という思想をどう展開していくのか,社会的にも注目を集めています。でも,会長講演のタイトルは格調が高すぎて,実は恥ずかしいのですが,与えられた機会ですのでよく考えたいと思っています。なお,現在本学の大学院では,「高齢者・リハビリテーション看護学」という講座を開講しています。

■今世紀の知の創造に向けて討議を

若い研究者間での討論を期待

 私は研究成果が少しでも臨床実践に役立つものでありたいと日頃から考えています。このような観点から,今学会では2つのシンポジウムを考えました。
 まずシンポジウム1「看護現象の着眼と研究の方法」では,若い研究者を中心に自分が実践している質的研究の着眼や研究プロセス,研究方法の選択,研究成果の臨床への還元について話をしていただきます。その上で,中山洋子氏(福島医大)から全体像や発展性についてお話しいただきます。実践例を通して,さまざまな討議が展開できるのではないかと期待しております。
 また,最近の看護界ではEBM(Evidence-Based Medicine)に続いてEBN(Evidence-Based Nursing)という言葉が1人歩きしているようにも見受けられますし,1人ひとりの受け止め方も違うように思えます。そこでシンポジウム2では,「看護学におけるエビデンス」とは,どのようなことなのかを明らかにしたいと考えています。
 真田弘美氏(金沢大)は,ケアの効果を見るためのエビデンス,黒田裕子氏(日赤看護大)からは,これまでの概念とはちょっと違ったエビデンスが紹介されると思います。また,臨床の婦長を務める宮下多美子氏(聖マリアンナ医大横浜市西部病院)には,臨床での呼吸ケアやその活用を,松下博宜氏(ケアブレイン)からは,看護経営学から見たエビデンスを口演いただきます。これからの看護の方向性として,やはりエビデンスを持ったケアを重要視する必要があるでしょう。看護現象そのものを研究にどう活かすかも大きな課題ですので,若い研究者の間で討論していただきたいですね。
 それから,ワークショップ1「ITが看護および看護研究に及ぼす影響」では,川口孝泰氏(兵庫県立看護大)をコーディネーターに,次世代型の遠隔看護システムの構築に向けた内容が展開されます。また,これからの時代には倫理の問題が大事になります。そこで,同2「実践と研究における看護倫理」では,宮脇美保子氏(鳥取大)にコーディネーターをお願いしました。弁護士や臨床に勤務する看護職,海外で倫理を学んでこられた看護研究者に参加いただき,彼らの口演で主に構成されます。

臨床実践に役立たせるために

 さらに,長年人間の生活援助技術としての看護技術論を,実践を通して追究している川島みどり氏(健和会臨床看護学研)に「看護学の到達点と新世紀の課題」をテーマに講演いただきます。また米国・シアトルの精神看護ナースプラクティショナ-でありワシントン大学大学院の臨床教員でもある田中勝子氏に,米国の事情を通して「臨床現場に活かす看護研究」についてお話しいただきます。また米国での研究生活を長年経験してきた牧本清子氏(阪大)から,米国の看護研究の歴史を概観していただき,21世紀の日本の看護研究の方向性を探る「新しい時代における看護研究の方略」を講演いただきます。
 これらの企画を準備していますので,ぜひとも多くの方々にご参加(当日参加も可)をいただき,今世紀の知の創造に向かって討議していただければ,と思っています。

●第27回日本看護研究学会学術集会プログラム

【メインテーマ】「新しい時代が問う看護研究の方向-Directions of Nursing Research in the 21st century」
◆開催日:7月27-28日
◆会場:金沢市・金沢市観光会館,他
【プログラム】
◆会長講演:人間の持てる力を引き出すリハビリテーション看護学の追求(泉)
◆特別講演:看護学の到達点と新世紀の課題-看護技術論の立場から(健和会臨床看護学研 川島みどり)
◆招聘講演:臨床現場に活かせる看護研究(ベテランズ・ホスピタル 田中勝子)
◆教育講演:新しい時代における看護研究の方略-日米の看護研究比較を通して(阪大 牧本清子)
◆シンポジウム1:看護現象の着眼と研究の方法-質的研究を中心に(座長=石川県立看護大 天津栄子,岡山大 安酸史子,シンポジスト=福井医大 高山成子,石川県立看護大 水野道代,長谷川病院 荻野雅,福島医大 中山洋子)
◆同2:看護学におけるエビデンス(座長=大分県立看護科学大 粟屋典子,金沢大 稲垣美智子,シンポジスト=金沢大 真田弘美,聖マリアンナ医大横浜市西部病院 宮下多美子,ケアブレイン 松下博宜,日赤看護大 黒田裕子)
◆ワークショップ1:ITが看護および看護研究に及ぼす影響(コーディネーター=兵庫県立看護大 川口孝泰)
◆同2:実践と研究における看護倫理(コーディネーター=鳥取大 宮脇美保子) 
◆連絡先:〒920-0942 金沢市小立野5-11-80 金沢大学医学部保健学科看護学専攻 「第27回日本看護研究学会学術集会」事務局
 TEL(076)265-2552/FAX(076)265-2513
 E-mail:27kenkyu@mhs.mp.kanazawa-u.ac.jp
 URL=http://mhs3.mp.kanazawa-u.ac.jp/nurse/nurseHP.html