医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 「優しさと強さ」との出会い

 馬庭恭子



 半年間におよぶ抗がん剤化学療法と手術療法を終えた。短いようで,長かったような……。
 私が「がん患者」になって,秋から冬,そして春と3つの季節が過ぎてしまった。大好きな平和公園(広島市)の,黄金に輝くいちょうが見られなかった。桜の花も,一時帰宅の折りに窓から見ただけで,花咲く木々の下を歩くことができなかった……。
 等々,小さな楽しみだが,毎年繰り返されていた大切な私の行事は,すべてフイ。しかし,得たものがそれ以上にある。その最たるものは,当たり前のことかもしれないが,なんと言っても「がん患者さんの気持ちがわかる」ということだろう。今まで自分がケアをしてきた患者さんの1人ひとりの顔が思い浮かび,私自身の対応に思いを馳せる。快復して,職場に復帰し,患者さんの前に立った時,今までと「眼差し」の違う自分がいるように思う。
 そして次には,「優しさと強さ」を知ったこと。特に病棟で出会った女性たちからは,たくさんのかけがいのないものをいただいた。
 副作用を心配していた私に,
「あなたなら大丈夫!」と背中を押してくれたIさん。抗がん剤を注射した翌日には,自信を持って「講演」に行けました。
 嘔気が続いて食欲不振の時に,アイスバーを持ってきてくれたTさん,いつもタイムリーな差し入れでした。
 今も抗がん剤療法中のSさん,
「好きなことをするのが一番!」と言って,手作りのパッチワークの小物入れを持ってきてくれました。
 よく似合うカツラを見つけてくれて,
「眉毛はこう描くといいよ」とお化粧までしてくれたTさん。
 ドレナージをつけて,前かがみになって歩いていると,
「早くとれるといいですね」と,自身も再々発の治療をしていて辛いはずなのに,声をかけてくれたMさん,菩薩のような笑顔でした。
 本当にみなさんに支えてもらった入院生活……。この出会いの中で,看護に役立てられることは数え切れない。その「優しさや強さ」は,いつまでも私の中にあって,それがこれから出会う人たちに伝えることができれば,「すばらしい!」と思う。
※編集室より:執筆者の馬庭恭子氏(広島YMCA訪問看護ステーション・ピース)は,前回(2月26日付,2426号)この欄を担当されました折りに,「昨年,突如がん患者になった」と公表。その後,入院治療の傍ら,さまざまな学会・研究会などで講演活動を続けておられます。