医学界新聞

 

チームで行なう医療をめざして

第2回日本ロービジョン学会が開催される


 さる4月22日,第2回日本ロービジョン学会が,高橋広会長(柳川リハビリテーション病院)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。同学会は,昨年4月,「眼科医,視能訓練士,看護職など眼科スタッフ以外の多種の医療従事者,教育,福祉,保健担当者や企業の方々とともに,視覚障害児・者に関する学際的な基礎および臨床研究を行なう」ことを目的に設立。本年4月20-22日に開催された第105回日本眼科学会総会(会長=慶大 小口芳久氏,パシフィコ横浜)の専門別研究会としても位置づけられた。
 今学会では,特別講演1「眼科医療従事者が行なうロービジョンケア」(川崎医大・同学会理事長 田淵昭雄氏),同2「点字絵本『よ~いどん!』ができるまで」(漫画家赤塚不二夫氏,森下眼科 森下清文氏),およびシンポジウム「視覚障害児・者の生活の質(QOL)」(司会=高橋会長,阪大 中村桂子氏)が企画された他,学術展示と位置づけられた全22題の一般演題発表が行なわれた。


点字による絵本を発行

 田淵理事長は特別講演で,「眼科医療は,視覚障害をもたらす疾患の治療と予防が最も基本であり,再生医療への期待は想像以上」と論じた。その上で,「眼科医療従事者は視覚障害児・者の第1発見者であり,生涯にわたって最もよき伴侶でありたい」「100万人以上の対象者の8割は視機能を利用できる狭義のロービジョン児・者であり,各医療施設での質の高いケアを提供したい」とロービジョンケアにおける基本姿勢を示した。また,緑内障とロービジョンケアに関しては,全国大学附属病院眼科の調査(73校,91%)によると,「ロービジョンクリニックあり」が49%,「緑内障患者に対するロービジョンケアを実施」は63%,一方でケアをしていない理由としては,「時間がない」(44%),「クリニックがない」(43%),「ケアの方法を知らない」(22%),であったことを報告した。
 さらに氏は,1999年にニューヨークで開催された世界ロービジョン学会には世界58か国から556演題の発表があり,2002年にはスウェーデンで,2005年には日本での開催が決定したことを報告した。
 赤塚漫画のよき理解者でもある森下氏とともに特別講演を行なった赤塚氏は,自身が食道癌で入院し,現在も加療中であり,視覚障害があることを公言。氏は,入院した際にテレビ画面に映った目の不自由な子どもたちを見て,「あの子たちを自分の漫画で笑わせることができないだろうか」と考え,点字漫画を思いついた。それが,視覚障害児・者のための初めてのオールカラーによる点字絵本『よーいどん!』(小学館刊)の発行につながったことなどが,森下氏との軽妙なやり取りの中から語られた。なお,赤塚氏は学会設立趣旨に賛同し,学会のロゴマーク(右上)を好意により作成,講演の席上で初披露された。

視覚障害児・者のQOL向上のために

 一方シンポジウム(写真上)は,「ロービジョンケアは,視覚障害児・者が保有している視機能を最大限活用し,QOLの向上をめざすもの。視覚障害児・者のQOLを考える場合,日常生活においてどのような支障が,どのような場面で生じているかを把握することが重要」との趣旨で開催。看護,教育などの立場から4名が登壇し,視覚障害児・者のQOL向上のためには「今何が必要か,何が求められているか,何をすべきか」が論議された。
 工藤良子氏(千葉県医療技術大)は,看護学生が担当した41歳男性糖尿病性眼疾患患者の事例を通して,「看護職が果たすべき役割」を口演。患者は,実際には50cm先が見えず,夜間トイレに行くのも不自由,人にぶつかる等の障害があるにもかかわらず,学生の受け持ち時には「介助の必要なし」とされていた。患者自身も「健常者に戻れる」との思いから障害を受容できずにいたが,学生とのかかわりから変化していった過程を報告。「医師,看護職などの医療職には言えないことも学生には表現できること,歩行訓練ではない『散歩』などを通した触れ合いが要因」と述べた。
 中野泰志氏(慶大)は,盲学校や盲訓練施設など教育施設での経験を踏まえ口演。生活と関連性の深い視機能評価方法に関して,(1)生活上のニーズが高い事象を最優先しなければならない,(2)研修さえ受ければ学校や福祉施設等で簡便に利用できる,(3)低年齢の子どもや知的な障害等を併せ持っていても評価が可能でなければならない,の3点を要件にあげた。その上で,「集団の中で子ども同士がともに競い合い,助け合って成長していく場合がある。他の人のために自分が何かに貢献することも大切」など,自助グループの必要性を指摘した。
 歩行訓練士の立場からは,山田信也氏(国立函館視力障害センター)が口演。QOLの充実をめざす際の問題点を,(1)日常生活,(2)職業,(3)教育などの観点から指摘。(1)については,(a)情報収集・伝達の問題(読めない,書けない,等),(b)日常的技術の問題(移動が不自由,等),(c)趣味等の問題(観賞できない,等)をあげた。また,(2)については配置転換,転職・就職,職場環境の変化などを,(3)に関しては読み書きなどの座学や,実技実験での変化がわからないことなどを指摘した。さらに,QOLを高めるための取組みとして,(1)問題指向から目的指向,(2)脱ステップ化した,段階的実施から縦横的・並列的実施,(3)日常生活に根ざした訓練,をあげた。
 齋場三十四氏(佐賀医大)は,「基本的な経済保証,就労保証が未整備なままで,自己選択,自己責任を軸とした利用システムにするのは大きな問題。自立できる状況を提供することが先決。自立(律)できない福祉は本物ではない」と指摘。また,「障害者ケアマネジャー制度」導入の動きなど,今後の障害者施策の方向についての疑念を述べるとともに,21世紀の障害者福祉に関しては,「ケアではなく,自立(律)をキーワードにすべき」と強調した。
 なお,次回は,明年10月12-13日の両日,山縣浩会長(宮城教育大)のもと,仙台市にて開催される。
◆連絡先:〒701-0192 倉敷市松島577 川崎医科大学眼科学教室 日本ロービジョン学会事務局
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