医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


カルテ開示時代の医学用語・略語辞典

カルテを読むための医学用語・略語ミニ辞典
浜家一雄 編集

《書 評》中田 功(済生会宇都宮病院長/済生会宇都宮病院看護専門学校長)

 鮮やかなオレンジ色(カドミウムイエロー)の装いで『カルテを読むための医学用語・略語ミニ辞典』が誕生しました。17.5×10.5cmのポケットサイズであります。
 編者の岡山済生会総合病院副院長である浜家一雄先生に,このミニ辞典の生い立ちをお聞きすることができました。
 1970年,先生はレジデントとして,フィラデルフィア総合病院で研修されましたが,臨床現場で,ドクターの書いたカルテの内容,とりわけ略語の判読に大変な苦労をされました。そしてこれを救ってくれたのが,病院で発行した略語集であったとのことです。
 留学を終え,帰国された先生は,岡山済生会看護専門学校で,20年以上,医学英語を担当されることになりましたが,この間,教え子たちが臨床の現場で,カルテの中の医学専門用語や略語の理解に四苦八苦している姿を目の当たりにされ,実践的なポケットサイズの辞典を作り,ナースを含めたコメディカルスタッフの悩みに何とか答えようとお考えなられました。1998年,手作りの院内用ミニ辞典の初版が刊行され,これが大変好評で広く院内外の多方面で利用されるようになりました。その初版をもとに,今回,新たな見直しと検討が重ねられ,内容,装いを一新した本書が生まれるに至りました。

チーム医療や病診連携に必須

 先生はこの辞典の利用にあたって3つの点を志されました。
 (1)良質の医療を行なうため,医療スタッフが正確なカルテ内容を共有できること
 (2)病診連携における円滑な情報交換に役立つこと
 (3)患者さんが自分のカルテ内容を判読できる手助けになること
 現代医療の進歩と高度化により診断方法,治療手段は多岐にわたり,医師,ナースその他のコメディカルの連携によるチーム医療の効率化,標準化が問われ,クリニカルパスをはじめとする疾患マネジメントのツールが,医療現場でたえず工夫開発されています。
 一方,これらと連動して,患者さんと医療スタッフの架け橋としてのカルテ内容の重要性が今まで以上に大切になっています。その前提として,医師は常に適格な医学用語を記述することを心がけ,コメディカルはそれを十分に理解し,自由に読みこなす実力を常日頃から身につけることが要求され,その際,携帯辞典は大きな戦力となります。
 浜家先生は日本医師会の理事として病診連携を担当されました。そしてドイツ語を中心に医学を勉強された諸先輩医師と,医学英語,略語中心に教育を受けた勤務医との間にコミュニケーションギャップがあり,紹介,逆紹介を通じての情報交換が必ずしも十分に行なわれていない実態を知られ,その解決のためにもこのような辞典が有用であろうと考えられました。
 さらに,日本医師会の主導で行なわれたカルテ開示について,すべてカルテは日本語で書くべきであるという意見があるものの,情報化,国際化の激しい医療界の実状を考える時,やや現実性に欠ける面があり,それを補い患者さんが自分のカルテを判読できる手段として,このような辞典が準備されることは有意義と考えられました。

実際のカルテを参考に語を選択

 本書は「医学用語」「略語」の2部からなり,各々約5300語,2200語が収載されています。語の収載にあたっては,岡山済生会総合病院で書かれた実際のカルテを全科にわたってチェックし,これを参考にしながら語を選択された,実践本位の内容であります。病名,症状名,検査名,薬剤名などすべてを包括し,これ1冊あればカルテの内容はほとんど理解できるように配慮されています。
 本書の高い完成度は,日頃からの浜家先生の医学,医療を愛する真摯な努力によることは言うまでもありませんが,それを支える岡山済生会総合病院医療人各位のよきチームワークの結晶とも考えられ,心からの敬意を捧げるとともに,このハンディなオレンジブックが医療のあらゆる分野で有効に活用され,患者さんにとって満足度の高い医療の提供に資することを願うものです。また,今春新たに巣立つフレッシュナースをはじめとする医療職者にとって,すばらしいプレゼントになることを期待したいと思います。
新書判・頁212 定価(本体1,200円+税) 医学書院


難解なイメージの血液ガスをシンプルに解説

シンプルガイド 血液ガス
片山正夫 監訳

《書 評》宮坂勝之(国立小児病院・麻酔集中治療科医長)

一気に読んで理解を深める

 臨床に携わる私たちの多くは,血液ガス分析と聞くだけで,統計学の場合と同じく,勉強しなければと思いながらも,難解であるとのイメージを抱く。それで“簡単”とか“やさしい”との言葉に誘われて解説書を求め,勉強を始めるものの,数頁でギブアップした経験をお持ちの方も多いと思う。
 本書はとても読みやすく,理解しやすい。文章がこなれていて翻訳口調でないことも幸いしているが,説明の要所で要点を数項目にまとめる手法がとても生きている。図表も効率よく使われている。訳語も理解しやすい選択がなされ,多数の翻訳者が参加していながらも,監訳者がその役目を十分に果たしていることがうかがわれる。小型の装丁で軽く持ち歩きやすい本ではあるが,携行して参考にする書というより,一気に読んで理解を深めるのに向いていると私は思う。
 難点をあげれば,理解をもっと助けるであろうsignificant bandが,基本的な説明がないまま用いられていること,実際の症例解析の中で,酸素分圧(PO2)に関してのデータとその解析が多くの症例で省略されていることである。本文中で,「検査依頼書には,患者の酸素濃度も含めなければならない」と誠に適切に太字で注意が喚起されていることを考えるとやや残念である。訳注ででも説明が加えられればよかったと思うが,これらは本書の利点を損なうほどのものでない。

血液ガスの初歩を理解できる

 本書は本当に「シンプル」の名に値し,気楽に読めるし,理解できる。医学生やベッドサイドで働く看護婦さん,検査技師の方が,血液ガスの初歩的なことを系統的に短時間で理解するのにはとても適している。そして,「いまさら人に聞けない」ものの,何となく血液ガスを理解していると思っている医師で,日頃の自分自身の知識の曖昧さを補うのにも最適な書である。かくいう私自身にとっても,とても参考になった。
A5・頁200 定価(本体3,500円+税) 医学書院


リハビリテーション医療の専門家が患者心理とケアを解説

リハビリテーション患者の心理とケア
渡辺俊之,本田哲三 編集

《書 評》藤田和弘(筑波大教授・心身障害学系)

リハ患者の心理社会的問題

 本書は,第 I 章から第 VIII 章で構成され,索引を含めて総頁数260頁からなるリハビリテーション心理学の分野に属する概説書である。目次にそって,本書の内容を簡潔に記すと,以下の通りである。
第 I 章 リハビリテーション医療と心理
第 II 章 障害受容
第 III 章 リハビリテーション患者の心理とケア
第 IV 章 リハビリテーション医療におけるQOL
第 V 章 リハビリテーション医療における治療関係
第 VI 章 障害者家族への関わり
第 VII 章 治療場面における心理的問題
第 VIII 章 技法
 第 I 章では,リハビリテーション心理学の歴史を紹介し,患者,治療,家族という側面から心理社会的問題の再検討を行なっている。
 第 II 章では,障害受容と適応に関して,日本と欧米の研究の流れをレビューし,それらの概念を整理して,新しい視点を提案している。
 第 III 章は,10種類の疾患・障害別に心理特性とそれをふまえたアプローチについて取り上げている。この中には,身体障害のみならず,精神障害も含まれている。また,具体的な事例が紹介されている。
 第 IV 章では,独自に開発した自己記入式QOL質問表(QUIK)およびその改訂版(QUIK-R)による長年の臨床研究が取り上げられている。
 第 V 章では,リハビリテーション医療における治療関係について,患者の心理的状態,転移と逆転移,良好な治療関係を築く方法に分けて述べられている。また,第 VI 章では,障害者家族の関わりについて,障害者家族の機能,その評価の仕方,家族への具体的な関わり方に分けて論じている。
 第 VII 章では,5種類のリハビリテーション専門職(看護職,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,ソーシャルワーカー)の立場から,各治療場面に特有な心理社会的問題や視点,ケアについて記されている。
 第 VIII 章では(1)リハビリテーションチームワークの運営,(2)うつ状態,せん妄,妄想状態,自殺の診断と対応,(3)中途障害者の心理療法,(4)認知リハビリテーション,(5)リエゾン精神医学やリエゾン・カンファレンスについて取り上げている。

類書にはない新たな論点を提示

 上述した構成内容から見て取れるように,本書には,次のような特徴がある。
(1)リハビリテーション医療における心理的問題のみならず,その解決方法,すなわちケアについて記されている
(2)身体障害のみならず,精神障害も取り上げ,しかも狭義のリハビリテーション医学と精神医学の連携や融合,すなわちリエゾンという新たな視点が導入されている
(3)最新の理論の紹介にとどまらず,具体的な事例が多数あげられており,リハビリテーション専門職のみならずボランティアや家族などの実践的な取り組みにさまざまな示唆を与える
(4)本書は,医師,看護職,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,心理専門職,ソーシャルワーカーなど多様な背景と豊富な臨床経験を有する専門家によって執筆されている
 以下のように,リハビリテーション心理学の分野に,類書には見られない新たな論点が提示されている。リハビリテーション関係者に一読を勧めたい。
A5・頁260 定価(本体2,800円+税) 医学書院


心血管疾患の実践的なガイドブック

Imaging in Cardiovascular Disease
第6版
 G. M. Phost 編集

《書 評》坂本二哉(JOURNAL of CARDIOLOGY創立編集長)

映像時代の新しいテキスト

 世は挙げて映像の時代である。その中核は超音波,核医学,コンピュータ断層法 (CT)を含む放射線医学,および磁気共鳴映像法(MRI)である。本書の前半のSection Iでは O'Rourke以外の編者3名により,この4つのSubsectionが全34章に細分され,それぞれ基礎的事項から将来への展望までを含めて解説されている。なかでも核心臓学が190頁近くを費やして詳細に論じられており,その中には玉木長良ほかによる脂肪酸イメージングまで含まれている。
 後半のSection IIはO'Rourkeの編集による臨床応用編である。ここではSubsection A-Lの12編で虚血性心疾患,弁膜症,心筋症,心不全,心臓疾患,先天性心疾患,肺疾患,大動脈および血管疾患,腫瘍,不整脈,外傷,手術に対する各種映像法の軽重,利用,効用などが述べられている。例えば虚血性心疾患では狭心症,急性肝不全,インターベンション,心筋生存能に対するそれぞれの方法が詳細に述べられ,一方,手術では経食道法のみといった具合である。しかしいずれも重要な問題を的確にとらえ,記載には無駄がなく,章によって記述方法の統一性に乏しいけれども,各方法論の臨床的意義,相対的評価,適応なども忌憚なく述べられ,是々非々の態度は一貫しているように見受けられる。また心移植については心筋症の中の1章を割いているが,各検査法の不一致についても正直に述べている。これは移植心の予後を考える上で重大な問題であるが,しかし他の疾患でも大なり小なり同じことが言えるし,虚血性心疾患で,運動負荷心電図と心臓核医学の間に成績の齟齬が生じるのは日常の経験である。したがって映像診断法は常に一般的診断法を閑却するものではないのである。

マネジドケアにおける原則も

 最後のSection IIIにはマネジドケアにおける映像法の原則についての記述がある。米国における2000年の生産の14%を占めるヘルスケアにあっては,これも大きな問題である。
 心臓病学を志す医師および関係者が本書を座右に置くことを薦めたい。
(JOURNAL of CARDIOLOGY Vol.37 No.1より抜粋転載)
976頁 \26,070 Lippincott Williams & Wilkins