医学界新聞

 

BOOK REVIEW


君は「話せる医療者」になれるか?

話せる医療者
シミュレイテッド・ペイシェントに聞く
 佐伯晴子,日下隼人 著

《書 評》市村公一(東海大医学部・6年),黒川 清(東海大医学部長)

 「医療者の『よくわかります』という言葉に対して,多くの患者さんは心の中で『あなたに本当のことなんかわかるもんですか』とつぶやいているはずです」(本書47頁)。
 厳しい指摘である。

技術偏重で抜け落ちた問題

 インフォームド・コンセントに代表される医師―患者関係の見直しは,必然的に医療者と患者の出会いの場である「医療面接」の重要性をクローズアップし,今や書店の医学書コーナーはちょっとした医療面接本ブームである。医学教育の現場でもすでに多くの大学が何らかの形でOSCEを導入し,新しい医師国家試験でも「必修の基本的事項」として医療面接に大きな比重を置いている。
 しかし,多くの医療面接本や大学における医療面接の講義は「医療面接をどう進めるか」という方法論,ないしは,それを円滑に進めるための技術,テクニックの解説が中心ではなかろうか。この本は,そうした医療者側からの,ややもすれば技術偏重 な医療面接の盲点,そこに欠落している根本的な問題を指摘する。
 曰く,「技法どおりによいコミュニケーションがとれたと医療者が満足しているうしろで,『それでも,やっぱりわかってもらえていない』と病気の人が取り残され,『適切な』インフォームド・コンセントの陰で,『なんだかわからない』と本人や家族が置き去りにされていることはないのでしょうか」(本書4頁)

「話せる医療者」とは?

 「インフォームド・コンセント」が,従来のパターナリスティックな医師―患者関係を改め,医師が十分な情報を患者が納得するまで説明し,患者の同意を得て診療を進めることとして紹介されたのはまだまだ最近のことである。しかし,患者側の意識はさらに進んだようである。本書のタイトル『話せる医療者』とは,「相手にわかってもらえるように話すことができる医療者でもありますが,それ以上に『この人なら話しかけてもよさそう』と患者さんが思える医療者のこと」というのである(本書4頁)。医療者として信頼できるのは当然として,さらに人間として信頼できるかが問われているということであろう。

もう無条件には信頼されない

 これは医師をはじめとする医療者が,かつてのように無条件で人間的に信頼される時代でなくなったこととも無関係ではあるまい。また,そもそも人間としての基本的なコミュニケーション能力まで問われていることを考えると,18歳,19歳の世間知らずの若者を6年間も医学部という「温室」で純粋培養している今の医学教育が,果たして社会的要請に応えられるものなのかという問題も浮かんでこよう。
 もっとも,こうしたコミュニケーションの問題を一番深刻に感じているのもまた医学生であって,全国のあちこちで模擬患者を交えた医療面接の学生による自主的な勉強会が開かれていることは,本紙「医学生・研修医版」でも度々報じられているところである。本書を通じて医療面接が診断のための単なる情報収集の場ではなく,心と心の「触れあい」,人と人との「おつきあい」の場でもあることを知り,こうした主体的な勉強の輪がさらに広がることを期待する。
A5 頁190 定価(本体2,000円+税) 医学書院