医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医用超音波技術のバイブル的存在

新超音波医学
第1巻 医用超音波の基礎
 日本超音波医学会 編集

《書 評》上羽貞行(東工大精密工学研教授)

 最近の医用超音波技術の進歩には目をみはるものがある。これらの技術の参考書としてバイブル的に用いられてきた『超音波医学』や『超音波診断』が,急速な最近の技術の進歩を反映して一新された。すなわち,従来は基礎分野を含め1冊であったものが,基礎分野といくつかの診療分野ごとに4分冊化された。
 第1巻である本書は,第1章「超音波の物理的特性」(超音波法の特徴,超音波の音場,ドプラ効果,非線形現象),第2章「探触子の基礎知識」(超音波の発生・検出,探触子の構造),第3章「超音波診断装置」(エコー法,ドプラ法,分解能),第4章「信号処理と映像の保管」(信号処理,映像の表示と記録,画像ファイリング),第5章「アーチファクトと画像の劣化」(超音波の物理特性によるアーチファクト,画像の劣化,コントラスト分解能の劣化),第6章「ハーモニックイメージングと造影剤」(ハーモニックイメージング,超音波造影剤としての気泡の役割),第7章「超音波組織特性」(基礎音響特性,エラスティックイメージング,超音波顕微鏡),第8章「超音波の診断・治療への応用」(超音波映像の診断・治療への応用,超音波エネルギーの治療への応用),第9章「安全性」(音響的安全性と標準化,装置の維持管理),第10章「健診・検診への適用」(施設検診および集団検診,ハイリスク群検診,今後の課題)から構成されており,それぞれ現在第一線で活躍されている研究者により執筆されている。

最新技術の成果を網羅

 当然のことながら,すべての分野について,技術および基礎的事項に関する最新の技術についても加筆修正されているが,特筆すべきことは,機器の大幅な性能向上を可能にしたディジタル方式の機器の記述,およびハーモニックイメージングを含む非線形効果とその利用法についての記述が新たに追加されたことである。また付録には,時としてまぎらわしくなる専門用語の解説,診断基準などが網羅されている。
 本書は,単に超音波医学を学ぶ人のみならず,超音波応用装置の開発に携わる人にとっても大変役立つものと思われる。
B5・頁270 定価(本体5,000円+税) 医学書院


診療科を問わず妊婦を診るすべての医療従事者に

産婦人科外来処方マニュアル
青野敏博 編集

《書 評》木下勝之(埼玉医大総合医療センター教授・産婦人科学)

 このきれいな小冊子は,2000年度の第52回日本産科婦人科学会学術集会(4月1-4日;徳島市)で,青野敏博会長が会員のために編集・執筆し,配布されたものである。一度開いて使ってみると,産婦人科医だけでなく他の診療科の医師にも,日常診療にすぐ役立つ便利な1冊としてぜひ薦めたくなる。何よりありがたいことは,困った時に質問すると,いつでも理路整然と明解に答えてくれる青野教授の声は聞こえなくとも,同じ内容の親切な行き届いた回答を読み取ることができることである。

一見難解な薬の使い方も明解に

 女性は思春期から性成熟期を迎え,更年期を経て,閉経に至る。女性の一生はエストロゲンに支配されており,排卵を中心として生殖機能が全開している時の問題だけでなく,卵巣機能の退縮によるエストロゲンの枯渇は成人病,うつ病,骨粗鬆症などと直接関係がある。
 青野教授は生殖内分泌学の基礎学者としての業績を,臨床内分泌学に応用して病態の諸相に光を当て,明解な理論を組み立て,実践してきた。この思想はこの冊子の骨格をなしており,一見難解に思える女性ホルモン剤の使い方,妊娠中の内科的問題など,他科の医師にも容易に理解でき,実際に使えるように記述されている。

なぜこの薬を選択するのか

 特に妊婦は風邪,喘息,嘔吐,下痢等で内科を訪れることが多い。そのような時,内科医は母体と胎児の影響を気にして,薬の使い方に戸惑うことがある。
 この本では,具体的にそのような場合は何をどのくらい使うべきか,まで記述されているだけでなく,なぜこの薬を選択するのかに関する情報も,薬剤の解説とともにまとめてあり,さらに簡潔なポイントアドバイスは,病態や副作用を理解するうえで大変役に立つ。
 1項目が見開きにまとめてあることもうれしい。
 わが国では米国と異なり,学会による診断治療のガイドラインがない。実地医家にとって有用なマニュアルがいずれガイドラインとみなされるようになり,すべての医師へ行き渡るようになれば,医療レベル全体の向上につながり,願ってもないこととなる。
 すでに私の医局員全員に本書を持たせているが,診療科を問わず,医師だけでなく,助産婦の方々にも必携の1冊として推薦したい。
B6変・頁184 定価(本体3,000円+税) 医学書院


眼科学の基礎を広く速く学びたい人に最適のテキスト

標準眼科学
第8版
 大野重昭,澤 充,他 編集

《書 評》本田孔士(京大教授・眼科学)

 まず本書の構成上の特色について述べたい。昔の教科書,そして講義は,当該臓器の解剖と診断学がやたらと詳しく,その分野を将来専門とする意志のない学生にとっては,診断手法を理解するのに学習時間の大半を使い果たし,疾患論という佳境に入る前に疲れてしまったものである。
 本書は20年前の初版から,豊富なカラー写真,大型眼底写真を駆使して,まず視覚的に読者を引きつけてから,その病因を考えさせようという流れがあった。これは教科書の構成に関しての新しい提言であり,それは正しかったと思う。今ではその型が定着し,他の教科書もそれに倣いつつある。そのはしりとしての本書の構成上の特色に,今回の改訂ではさらに磨きがかかっている。

国試に対応しやすい内容

 内容的な面から特色を述べれば,本の分量の割に14章「全身疾患と眼」の記載が詳しく,また要領よくまとまっている。学生教科書としての立場に配慮したのであろう。そのまとめは総合診療的で,国試に対応しやすいと思う。また15章「眼の外傷」も国試によく出そうな分野を要領よくまとめている。このあたりの記載は何科を専門とする医師にとっても必須の眼科知識と言えるので,力の入った文章となっている。
 神経眼科的なことを,9章「視神経」,16章「瞳孔」,18章「眼球運動と両眼視機能」と分けたのは,初心者に親切と思う。国試でこの分野から出題するとしたら,このような視点になるだろう。たとえば神経眼科としての系統は,また別のレベルでの学習によればよい。8章「網膜」には最も多い頁を割いており,内容的にも新しいものになっていて,教科書として読みごたえがある。
 「Close-up」,「課外講義」という囲み記事がとてもおもしろく,読者を飽きさせない。通読しているとよい気分転換になる。巻末の索引はブルーの用紙を使い,目立つように編まれている。しかも和文・欧文と両面から作られていて,もってこいの頁であろう。
 今回の改訂にあたって著者の若返りが図られており,新鮮味が感じられる。カラー写真満載の割には価格がリーズナブルであるのも嬉しい。医学生,眼科の基礎を広く速く学びたい人たちに広くお薦めしたい本である。
B5・頁324 定価(本体6,800円+税) 医学書院


洗練された質の高い神経解剖学テキスト

ハインズ神経解剖学アトラス
第2版
 Duane E. Haines 著/山内昭雄 訳

《書 評》千葉胤道(千葉大教授・解剖学)

 このアトラスは原著では,第5版であり5年ぶりに改訂されたものである。旧版も鮮明な美しい図と写真,およびかなりの量のMRI画像で大変使いやすく,学生に好まれていたようだが,この新版ではさらに洗練されたものになっている。前回のアトラスを紹介させていただいた者として,今回の改訂がかなり大幅に行なわれたことに感動した。
 序文で詳しく解説されているように,教育の現場からのフィードバックを大切にする著者の心構えが活かされ,読者にとって一段と使いよくなっていることに驚かされる。
 著者は神経解剖学と臨床医学の統合をめざしており,現在日本でも進められているカリキュラムの改訂,すなわち臨床と基礎を連係させたコアカリキュラムの標準化計画の考え方に一致する構成となっている。
 改善されたいくつかの点をあげると,近年格段の進歩を遂げている画像診断技術の成果をふんだんに取り入れていることがあげられる。より高画質のMRI画像が73枚用いられて,脳神経の画像,肉眼解剖標本,脳の前額断,水平断,染色切片にそれぞれ対応する画像が同じ頁に配置され,直接対比できるようになっている。脳断面標本は画像と一致させるためもあって,よく固定された鮮明な新しいものと取り替えられている。また,図のラベルのほとんどすべてが略号ではなく,フルネームで日本語と英語が並列に記されていて一目で理解できる。英語では略号を用いた部分でも,日本語はすべてフルネームが記されているのは大変親切である。

中枢神経系の機能的解剖学の学習に最適

 今回の新しい試みの1つはカラーの活用である。たとえば,このアトラスを特徴づける第7章の神経伝導路のかなり詳細な模式図では,機能別にカラーで神経連絡を示し,わかりやすく説明している。特に脳幹と脊髄の神経核の機能的関連および伝導路との関係は臨床症状の理解に大切であるが,複雑で理解し難い部位でもあり,機能との関係を考慮した色分けにより理解を助けている。色分けは,脳幹の切片の神経核と伝導路にも利用されていて見やすくなっている。一部の詳細な神経連絡路と機能の確定されていない神経伝達物質の説明は,学部学生のコアカリキュラムの程度を越えていて,利用の際に工夫が必要と思われる。
 さらに,脳の血流供給について鮮明な磁気共鳴血管撮影(MRA)像,磁気共鳴静脈撮影(MRV)像等が新たに加えられた。中枢神経系の重要な領域である血管疾患に配慮して,血管分布領域がカラーで示され,神経路とその動脈分布を臨床関連事項とともに同じ場面で考えられるように配置されている。われわれの実習でも関連臨床事項を解説したり,臨床の先生による症例の紹介を行なうが,学習の動機づけに効果的である。
 以上,このアトラスは中枢神経系の機能的解剖学の学習に最も適した,質の高いと同時に使いやすい,優れた教材であると思い,医学部学生のみならず大学院生,コメディカルの学生らには特に推薦したい。
A4変・頁274 定価(本体5,800円+税) MEDSi