医学界新聞

 

新世紀の脳卒中医学と医療を論じ合う

第26回日本脳卒中学会が開催される


 第26回日本脳卒中学会が,さる3月15-16日の両日,山口武典会長(国立循環器病センター総長)のもと,第30回日本脳卒中の外科学会(会長=京大教授 橋本信夫氏,開催日程=3月13-14日)と一部合同にて,大阪市の大阪国際会議場で開催された。
 同学会では,これまでにも日本脳卒中の外科学会と合同でシンポジウムなどを開催してきたが,今回はこの形式をより明確にし,今後も合同で開催する意向を表明。またこれまでは,会員のみを対象に演題募集を行なっていたが,今回は他の関連医学会やコメディカルの学会へも門戸を広げて演題を募集するとともに,学会への参加を呼びかけ,「脳卒中=multi-disciplinary」を印象づけた。


「脳卒中」が抱える社会的問題

 同学会が設立された1976年当時,日本における主要死因別死亡率の第1位は「脳卒中」であった。それから,4半世紀をすぎた現在(1998年統計)では,悪性新生物,心疾患に次いで死亡率では第3位となったものの,一般医療費の構成を見ると「脳卒中」は癌(9%)に次いで2位(8%,ちなみに3位は「高脂血症」7%)となっている。また,その額は1兆9000億円を超え,高齢者医療費としては約1兆5000億円で第1位を占めている。さらに,寝たきりの原因では「脳血管障害」(38.7%)が,2位の「骨粗鬆症・骨折」(13.2%)を大きく引き離している。一方で,現在約173万人と推定される脳卒中の患者数は,今後のさらなる人口の高齢化に伴い,2020年には300万人にも達すると予想されている。
 厚生省(現厚生労働省)では,これらに向けた対策として,1998年より医師,コメディカル,専門外の識者などで構成される「脳卒中対策に関する検討会」(座長=山口武典氏)を組織し,意見交換が重ねられてきた。同検討会の意向から,脳卒中における実態調査などの結果,今年度の補正予算では「メディカル・フロンティア戦略」構想(後述)が打ち出された。

現状を踏まえた今学会の企画

 このような背景をもとに,今学会では山口会長が,「わが国の脳卒中診療の現状と21世紀の展望」と題し,厚生科学研究である「脳梗塞急性期医療の実態に関する研究」の成果を中心に会長講演を行なった。
 一方,第30回日本脳卒中の外科学会との合同シンポジウム I「内頚動脈病変の診断と治療」(座長=山口武典氏,橋本信夫氏)では,頸動脈病変における治療法として,内膜剥離術がよいのかステント留置術かの選択に関し,外科,内科双方の見解が示された。また,理想的な内科医像として(1)的確な診断と正しい病態把握ができる,(2)EBMをベースにした共通の手術適応を認識できる,(3)心臓循環器内科的対応に気軽に応じてくれる,(4)共通の土俵でフォローアップしてくれるなど,「外科医から内科へ」の要望(名市大山田和雄氏)も提示。さらに,シンポ II「新世紀の脳卒中医学と医療」(後述)の他,外国人演者による特別講演2題も企画された。
 なお一般演題は,応募334題から虚血-病態・治療・画像,疫学,脳出血などの領域で317題採択,発表された。

「メディカル・フロンティア戦略」構想

 シンポジウム II(座長=千葉大 山浦晶氏,島根医大 小林祥泰氏)は,「学術的な問題だけでなく,これからの日本の脳卒中対策,病院における方針・方向性の一助となるべく有意義な討論としたい」との意向から,(1)行政,(2)地域完結型診療体制,(3)病院完結型診療体制,(4)脳卒中専門医制度・ガイドライン,(5)最先端医療と将来展望,の立場から5名が登壇。
 (1)については,田中慶司氏〔近畿厚生局(前近畿地方医務局)長〕が,「健康日本21」と脳卒中対策に関して基調講演。健康日本21への取り組みは,自由意志,環境整備,地方計画が基本,とした上で,脳卒中の危険因子として,高血圧,喫煙,耐機能異常,多量飲酒を指摘。WHOの「たばこ対策条約」を解説するとともに,人材育成,救急医療体制の整備など,日本における脳卒中対策にも触れた。また,「メディカル・フロンティア戦略」構想については,「豊かで活力ある長寿社会を創造することをめざして,働き盛りの国民にとっての2大死因である癌および心筋梗塞,要介護状態の大きな原因となる脳卒中,痴呆および骨折について,地域医療との連携を重視しつつ,先端的科学の研究を重点的に振興するとともに,その成果を活用し,予防と治療成績の向上を果たすための総合的な戦略を推進する」と述べた。同戦略では2005年までの計画目標として,a)癌患者の5年生存率の20%改善,b)心筋梗塞・脳卒中の死亡率の25%低減(年間5万人以上),c)自立している高齢者の割合を5年後に90%(現在87%)程度に高め,疾病等で支援が必要な高齢者を70万人程度減らすことを掲げている。また氏は,脳卒中対策として,心筋梗塞・脳卒中の早期治療体制の整備や,より効果的な治療・リハビリ等の確立に関する調査研究をあげ,専門医の配置,ドクターヘリの導入などの具体的対策を明示した。
 なお,(2)については橋本洋一郎氏(市立熊本市民病院)が,脳卒中診療の問題点として「地域・チーム・病院・医師ごとに診断,治療方針に違いがある」ことなどを指摘。その対策として,熊本市内における連携医療を概説。また(3)に関しては,畑隆志氏(横浜市立脳血管センター)が新しい形態の脳卒中専門病院の試みを紹介した。
 さらに(4)については鈴木明文氏(秋田県脳血管研究センター)が,「脳卒中対策に関する検討会」の中間報告書(1999年11月)に盛り込まれた「脳卒中専門医制度」に関し,a)必要性,b)あるべき姿,c)教育研修方法,d)整備すべきこと,の視点から解説。地域・施設間格差の解消やSCU(ストロークケアユニット)の診療システムの担い手となるべく専門医の必要性を説くとともに,「脳卒中における『標準的ガイドライン』の存在は不可欠」と指摘した。
 (5)については松本昌泰氏(阪大)が,ポストゲノム時代への対応などが21世紀の脳卒中診療に求められるとした上で,「分子レベルで制御する遺伝子治療法の開発,応用が期待されている」と述べた。