医学界新聞

 

第65回日本循環器学会が開催される

日本の学術研究の成果を世界に発信


 さる3月25-27日の3日間,第65回日本循環器学会が,篠山重威氏(京大教授・循環病態学)のもと,京都・国立京都国際会館,京都宝ケ池プリンスホテルを会場に開催された。
 今学会では,日本人の優れた研究を世界に発信したいという趣旨のもと,発表言語に英語を採用し,会長講演をはじめ多数のセッションでは英語による口演が行なわれ,また抄録もすべて英語による記述という大胆な試みがなされた。同時に,アメリカ心臓病学会(ACC),アメリカ心臓学会(AHA),ヨーロッパ心臓学会(ESC),国際心臓病血管薬物治療学会(ISCP)と海外の学術団体との合同シンポジウムも開催された。
 その他,同学会に功績を残した2人の名を冠した招待講演2題,世界の最先端で活躍する研究者らによる招請講演や,臨床・基礎研究をテーマとしたシンポジウム18題に加え,パネルディスカッション2題,川崎病心臓欠陥後遺症や心臓移植などをテーマとしたラウンドテーブルディスカッション4題などが企画された。さらに,診療において議論の残るテーマを扱うコントラバーシーでは,「慢性冠動脈病変に対する治療法の選択」「高齢者における大動脈瘤の管理」など4つのトピックスが用意された。このセッションは,投票システムを用いて,会場の参加者の意見を集約するというもの。各講演者の発表の後,参加者が何を選択するかがその場で明らかになることから,会場では熱心な議論が繰り広げられた。
 最終日には,同学会学術委員会の各種ガイドライン作成班(1999-2000)で検討が進められてきた「心房細動(薬物)」「不整脈非薬物治療」「虚血性心疾患の一次予防」「肺高血圧」の各治療ガイドラインに関する最終報告がなされ,その考え方や具体的な内容などが明らかにされた。これらは最終報告での議論をまとめた後,学会誌やホームページ上での掲載を予定。
 若い研究者を奨励すべく同学会には,4つの賞が設立されているが,今学会から優れた臨床研究を対象として,高安正夫氏(元京大教授)の名を冠した「高安賞」が新設された。第1回は,佐藤幸人氏(尼崎市立病院)に授与された。


学会初の英語による会長口演

 日本の学術研究の国際化を図るという目的のもと,篠山氏による会長講演「非代償性心肥大と心不全」では,会長自ら英語による講演を行なった。これは65年の学会史上,初めてのこと。
 氏は,心不全の病態として心筋におけるエンドセリン-1発現の亢進,肥大した心筋における細胞内カルシウム動態や,肥大心の心筋における肥満細胞など,種々のイベントを概説。また,今後の可能性として,「心不全の治療は代償不全をもたらすシグナル伝達系を遮断することにあり,今後の治療は細胞を標的にしたものになるだろう」との考えを示した。さらに,氏は「非代償性反応を単一の手段によって抑えるのは困難だが,今後の科学の進歩によって必ず解決されることを期待したい」と結んだ。

PTCA後の再狭窄をどう防ぐか

 学会初日に行なわれたパネルディスカッション2「PTCA後再狭窄の予知と予防」(座長=東邦大 山口徹氏,ブリガム&ウィメンズ病院 Richard E. Kuntz氏)では,ステント導入後の最大の問題とされる再狭窄について,特にその予知と予防に焦点をあてた議論がなされた。
 最初に本江純子氏(日大)は,血管内エコー法(IVUS),フローワイヤーを用いた冠血流予備能(CFR),プレッシャーワイヤーを用いたFFR(fractional flow reserve)が冠動脈インターベンションの補助診断に有用であることを証明する各種研究の結果を報告。氏は特にIVUSの有用性に着目し,ステント留置後の再狭窄予測因子として,IVUS上のステント内腔断面積が最も強力な因子であるとのデータを紹介した。
 続いて,血管内視鏡による再狭窄の予測については平山篤志氏(大阪警察病院心臓センター)が概説。再狭窄機序には責任病変の性状との関連が強いことから,プラークの色調や血栓の性状について,血管内視鏡を用いて検討。黄色プラークの色調よりも血栓量による関与のほうが強いことが示唆されたことを報告した。
 また井上晃男氏(獨協医大越谷病院)は,冠動脈インターベンション後の血小板,白血球の活性化や接着分子との関連を検討。治療後,白血球表面にはMac-1(CD11b/CD18)とL-selectin(CD62L)が,一方,血小板表面にはP-selectin(CD62P)の発現が認められ,重回帰分析の結果,POBA(コンベンショナルPTCA)やステントにおいては,48時間後のMac-1の増加率が有効な予測因子になることを示唆した。最後に氏は,「接着分子をターゲットとする薬物療法は,重症の再狭窄例への治療法になるのではないか」との考えを示した。

再狭窄の予防・治療に新しい方向性

 「再狭窄予防のための冠インターベンション,戦略の現況」として,中村正人氏(東邦大)は,PTCA後再狭窄の原因の7割がelastic recoil(PTCA後血管が拡大した部位が縮むと内腔が狭くなる現象)であることから,これに対応したステントを選択する必要性を強調。また,現在ステント挿入後再狭窄を予防する治療法として,Adhesion therapy,放射線治療,薬物療法などが開発されていることを背景に,「今後は現在の治療に,何を加えることができるかが大きな鍵になる」と述べた。
 招請講演で登壇したKuntz氏は,ステント留置後の再狭窄予防法として効果が期待される放射線療法と「sonotherapy」(血管内放射線療法)について,アメリカ国内における種々の臨床試験の結果とともに報告。前者は再狭窄について効果は認められるものの,副作用や後遺症など新たな問題点が上がってきたことを付け加えた。また再狭窄予防に向けて新たに開発されている手技として,薬剤コーティッドステントなども紹介した。
 玉井秀男氏(滋賀県立成人病センター)は,氏らが開発した生体吸収性冠動脈ステントについて概説。高分子乳酸ポリマーを用いて作成された「伊垣・玉井(IGAKI-TAMAI)ステント」は,ヒトに近いとされるブタ冠動脈において良好な結果を得られたことから,世界ではじめてヒト冠動脈による臨床試験を開始。その結果,同ステントはヒト冠動脈の血管における安全性が証明されたことを明らかにした。
 最後に薬物治療について青木元邦氏(阪大)は,細胞周期調節遺伝子群を抑制する転写因子E2Fに注目し,核酸医薬E2Fデコイを用いた再狭窄予防を検討。2000年より開始された臨床試験J-PRANET(Japan Trial to Prevent Restenosis after Angioplsty using ODN transfer of E2F decoy as Gene Therapy)を報告し,現在まで明らかな副作用が認められていないことを報告した。
 なお次回は,北畠顕会長(北大)のもと,明年4月24-26日の3日間,北海道において「ポストゲノムの循環器学の展望と社会への貢献」をテーマに開催される。