医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床医のためのアレルギー診療の教科書

米国内科学会 アレルギー診療ガイド
プライマリケア医のために
 Raymond G.Slavin & Robert E.Reisman 編集/岡田正人 訳

《書 評》野口善令(京大附属病院・総合診療部)

 あなたは次の質問に答えられますか。もし,すらすらと解答が浮かんでこないようであればこの本を読む価値があります。
(1)血清総IgE値が診断に有用な疾患は何か
(2)肝障害や薬物相互作用により,致死的な不整脈を起こす可能性がある抗ヒスタミン薬は何か
(3)重大な疾患の部分症ではなく,対照的に観察してよい良性の慢性じんま疹を示唆する特徴は何か
(4)抗生剤投与に先立つ皮内反応(ペニシリン皮膚検査)は誰に施行されるべきか

実際の臨床に役立つ構成

 岡田正人訳『米国内科学会アレルギー診療ガイド-プライマリケア医のために』が刊行された。原書はACP Expert Guide seriesの“Allergy and Immunology”である。米国の学会が出版する実践書は,忙しい臨床医に読ませて損をさせないという意気にあふれていて好感が持てる。本書の原著も,各章のはじめに典型的な症例が呈示してあり,実地臨床に即して理解していけるようになっている,EBMに則って理由づけがされている,プライマリケアにおいて頻度の多い疾患に絞ってある,どこまでプライマリケア医がケア可能で,どのような場合に専門医に紹介することが望ましいかが示されているなど,実際的で臨床に役立つ構成になっている。
 また通常の翻訳書では,(1)日本語に翻訳された時点で最新の情報から遅れてしまっている,(2)欧米のスタンダードな治療法が日本で伝統的に行なわれている医療と大きく異なる場合,そのまま翻訳しても医療現場に受け入れられない,(3)わが国で市販されない薬物に言及されている場合にわざわざ同効薬を調べるのが煩わしい,などの問題があることが多いが,本書では訳者が丁寧な注釈と補追を行ない,これらの問題点には下記のような対応がなされている。
(1)各分野の主要雑誌(NEJM,Pediatrics,LANCET,Ann Im,Allergy,J All Cin Immu)から2000年8月(一部10月)までの重要な最新知見が補足されupdateされている
(2)喘息に対するテオフィリン,吸入ステロイドなど,日本の慣習と大きく治療方針が異なる場合は論文を引いて解説してある
(3)大綱は原著に忠実に世界標準になっているが,単なる翻訳ではなくわが国で使用可能な同効薬があげられ,投与量,適応も日本で使うことを念頭に翻訳されている
 また,他にもPOINTSを各章のはじめにつけるなど,読みやすくするための工夫が凝らされている。
 アレルギー疾患はプライマリケアで遭遇する頻度が高いにもかかわらず,わが国では系統的な臨床教育がなされることが少なく,いわば専門の谷間にあたる領域である。筆者も何となくいいかげんに理解している内容が多かったが,本書を通読して随分知識を整理することができた。EBMの方法論に従って臨床的疑問についての追求ばかりを行なっていると,どうしても知識の谷間ができるため,時にはsurveillanceとして広く知識を仕入れることも必要であると痛感した。本書は,アレルギー疾患の知識を整理するためには最適であり,プライマリケア医のためのアレルギー診療の教科書として一読をお薦めする。
A5・頁250 定価(本体3,800円+税) 医学書院


臨床の場ですぐに役立つ眼感染症の実用ガイド

眼感染症クリニック
臼井正彦,他 編集

《書 評》鬼木信乃夫(鬼木眼科医院長)

眼科におけるすべての感染症を網羅

 抗生物質・抗菌剤の出現により感染症は減少したと思っている方が多いのではなかろうか。しかし,人類が存在する限り感染症とのつきあいは絶えない。
 今回,医学書院から出版された『眼感染症クリニック』は,眼科におけるすべての感染症について懇切丁寧に解説され,その主な構成は,臨床像・治療薬・検査・基礎知識の4章から成り立っている。
 臨床像の章では,起炎菌からみた分類ではなく,眼組織を部位的にみた分類となっているのが特徴である。すなわち,眼瞼・結膜・角膜・強膜・ぶどう膜・視神経と眼筋・涙器の順に感染症とのかかわりを,きれいな付図と要領よくまとめられた付表をふんだんに使いながら説明している。また,各疾患での検査手順も親切で,忙しい開業医向けとじっくりと検査できる勤務医向けに分けているのも心にくい。

眼組織を部位別に分類して解説

 治療薬の章では,各種薬剤の作用機序がわかりやすく解説されており,検査の章では,材料採取の基本,および病原体の分離・同定から各種免疫学的検査の解釈まで,手とり足とり記述されている。
 基礎知識の章では,単なる形態,増殖伝播様式,感染病理のみなず,細菌と眼組織との親和性,ウイルスの再活性化,新しいウイルス(HHV-6/7)の紹介などもあり,とかく難解になりがちな細菌学やウイルス学の基礎がわかりやすく解説されている。
 このように,1つの起炎菌による眼感染症について,臨床像と治療法と検査法と基礎知識とをそれぞれに独立させているため4回も反復学習できるようになっている。
 従来も,眼感染症に関する成書は出版されたことはあるが,細菌性・ウイルス性・寄生虫性など起炎菌別分類によるものであった。今回の眼局所別分類はユニークで,開業医・勤務医・研修医の区別なく誰でも抵抗なく読めて,すぐ役に立つすばらしい眼感染症の解説書である。
 ところで,平成13年夏期に開催される日本眼科医会が企画した第42回生涯教育講座のテーマは「眼感染症-病原体別トレーニング」である。本書はまさに時宜を得た出版で,この講座の前後に合わせ読まれれば,生涯教育講座もさらに充実したものになると思う。
B5・頁288 定価(本体19,500円+税) 医学書院


不整脈の病態,治療法の全体を効率よく把握する

一目でわかる不整脈
第2版
 比江嶋一昌,他 著

《書 評》新 博次(日医大附属多摩永山病院助教授・内科学)

実用性の高い情報を盛り込んで

 わが国で心電図研究が始まってから約半世紀が経過し,今日では,循環器を標榜する専門医が増加したが,不整脈について自信をもって適切なアドバイスができる医師は意外に少ない。循環器疾患を心不全とともに代表する不整脈であるが,専門として研究する医師は比較的少数であるためであろう。
 この『一目でわかる不整脈』は,不整脈の診断と治療に重要な要素となる,臨床電気生理学,心臓薬理学,非薬物治療の領域でわが国を代表する3人の共著になるものである。
 不整脈を解読するのに必要な分析図(ラダーグラム)を付した実測大の心電図を,限られた誌面ではあるが豊富に収載し,不整脈の謎解きを簡潔な文章でわかりやすく解説している。抗不整脈薬に関する記述では,各薬剤の薬理学的特徴のみならず有害作用まで,臨床的に実用性の高い情報が盛り込まれており,進歩めざましい非薬物療法では,カテーテル・アブレーション,植込み型除細動器(ICD),さらにメイズ手術に至るまで解説されている。また,理学的用法と題し,手技の実際に際し必要不可欠な情報が記載されており,本書の実用性を高めている。

辞書的な利用も可能

 不整脈への対応は,患者背景や現場の的確な状況判断が重要となる。それゆえ,全体を理解し最適な方法を選択する能力を養っておく必要がある。そこで,不整脈の病態,治療法の全体を効率よく把握するため,学習効果が高く,かつ簡単な辞書的利用にも答えうる冊子が必要である。医学生,研修医から実地医家まで,不整脈の入門書としても実用ガイドとしてもお薦めできる1冊である。
A4変・頁96 定価(本体2,900円+税) MEDSi


21世紀に小児外科学を学ぶ医学生に最適のテキスト

標準小児外科学
第4版
 鈴木宏志,横山穣太郎 監修/岡田 正,他 編集

《書 評》岩渕 眞(新潟大教授・小児外科学)

 このたび,『標準小児外科学』第4版が発刊され,医学書院より書評を書くように依頼を受けた。本書は1985年3月に初版が発刊されて以来15年間で3回の改訂が行なわれ,今回は1995年の第3版以来5年ぶりの改訂で,21世紀に小児外科学を学ぶ医学生にとってわかりやすく充実した内容の教科書が編纂されたと思う。まず第4版の書評を書く前に,初版以来長い間本書の編集に携わってこられた鈴木宏志,横山穣太郎両先生に心より謝意を表したい。

医学生に必要な知識を1冊に

 さて本書は,初版以来今回初めて編集者が交代し,岡田正先生に加え伊藤泰雄,高松英夫両先生が編者となり若返った。さらに執筆者も前回に比べ7人増え47人となり,そのうちの27人は今回が初めての執筆であり,ここに編者の意図が読み取れる気がする。次に編者らが序に書いているように,本書は医学生に必要な知識を網羅した教科書にすることを第一義とし,個性的な内容を避け多くの人に読まれるために「標準」に拘ったことである。これまでの本書は小児外科の研修医を対象に執筆されたと思う箇所が所々にみられ,医学生には要求水準が高かったように思う。また内容も「標準」の意識の下に統一性がみられ,全原稿を3人の編者が入念に目を通した後がうかがえる。

小児の内視鏡下手術など新たに追加

 ここでいくつか気づいたことを書いてみる。今後各施設で積極的に行なわれるであろう小児の内視鏡下手術が新しい項目として加えられたことに時代の流れを感じている。また消化管閉鎖症・狭窄症と消化管重複症が独立した項目になり理解しやすくなった。移植の項目では免疫に関する専門的な知識が最小限度に留められ,替わりに脳死肝移植,小腸移植,腎移植が追加され移植全般を学ぶのに有用となった。付録1-4の引用文献も久しぶりに1981年のものから1991年のものに替わっている。今回の図の中にはコンピュータ・グラフィックで描かれたものがあり,読者を楽しませてくれると思う。MRIや超音波検査の写真も多く挿入され,学生には理解しやすくなった。この他,紙質がよくなり見出しの字が大きくなったことなど改善が認められ,学生諸君にお薦めしたい。
 最後に次回の改訂時に再考していただければと思うことを2,3書いてみる。写真は理解する上で重要であり鮮明なものを載せていただきたい。リンパ管腫を学生に記憶してもらうために局所の写真を掲載してほしい。各疾患の予後についてはevidenceが重要で,生存率何%,良好群何%,不良群何%と詳しく記載していただければと思っている。
 いずれにしろ対象を学生に絞った今回の『標準小児外科学』は,学生が小児外科を理解するために大いに役立つと確信しているし,3人の編者および47人の執筆者に敬意を表したい。
B5・頁312 定価(本体6,800円+税) 医学書院


日常の腫瘍病理診断に有用なカラー図版の豊富な参考書

Diagnostic Histopathology of Tumors
第2版
 Fletcher,CD 著

《書 評》小池盛雄(東医歯大教授・病因・病理学)

 ハーバード大学医学部教授,ダナ・ファーバー癌研究所病理部長であるChristopher D.M. Fletcherが本書の初版を出版したのは1995年であり,今回の第2版は5年目の改訂ということになる。旧版と章立ては不変であり,第1巻に循環器系,呼吸器系,消化器系,泌尿生殖器系をまとめ,第2巻に内分泌系,リンパ血液系,皮膚軟部および骨,神経系等をまとめている。全体として旧版の1358頁から1851頁と約500頁の増である。各項の担当者は大部分が旧版と同じであるが,鼻腔,唾液線,肺,卵巣など,担当者が変わった項目は倍以上に増頁している。
 本書の特徴は2150に及ぶ図版のうち,電顕を除くほとんどすべてがカラー図版であることで,色調もよく補正されており,旧版よりも鮮明で統一感がある。腫瘍の分類はおおむね最新のWHO分類に基づいており,本書で最大の頁数を占めるリンパ腫の項目では,REAL/WHOの2000年の分類が用いられている。分類表のある項では冒頭に広いスペースを割いているので旧版より見やすい。少し特徴的なのが気道系の神経内分泌腫瘍の分類で(おそらく鼻腔の項を担当したWenigの見解で統一されていると思われる[AFIP〔Armed Forces Institutes of Pathology〕 3rd series Fascicle26, Table7-2参照]),議論の残るところである。
 全体に分子生物学的な知見が補われており,最終章にも1章を割いて,ごく簡単ではあるが最新の手法まで紹介されている。多忙な病理医にとってはありがたいことである。リンパ腫の免疫組織化学に使用される抗体も7頁にわたって一括してまとめられており有用であろう。1万4500に及ぶ豊富な文献もまた本書の特色の1つで,ごく最近のものまで含まれているので,それを手掛かりに詳細な情報を得ることも可能である。

腫瘍病理の全体像を俯瞰

 腫瘍外科病理のリファレンスとしてはすでにAFIPの大部なシリーズがあり,現在第3版を刊行中である。手許に置くかどうかは別として,病理医でこれを参照しない者はいないだろう。
 ここに本書を加えることにどのような意義があるだろうか。まず非常にコンパクトで手許に置くことができる。診断を迷うような症例に出会ったとき,第一次的に参照するのに好適で,豊富なカラー写真が視覚的にも強く訴えるため助けになる。Ackermanをはじめ通常の外科病理学の教科書は非腫瘍性病変まで含んでいるため,腫瘍に関する記述はさらに少なく,写真も少ないため,実際の病理診断には向かないところもある。本書はこれらの教科書とAFIPなどの臓器別専門書としての橋渡し的な存在であると言えよう。AFIPをはじめ臓器別専門書はなかなか刊行されなかったりして,情報の新しさが統一されないきらいがあるが,本書のような辞書的な本が数年ごとに改訂を重ねていけば,同時期の最新の知見を俯瞰することができる。誠に結構なことと思われる。また内容が簡潔で精読には向かないが,適読には適している。したがって全体的な知識を得るにはよい。

最新情報を盛り込んだ改訂第2版

 病理診断学は腫瘍に限ったものではないが,治療法の選択や切除範囲の決定などに直結する腫瘍の病理診断は,最も重要な分野である。誰しも得手不得手の分野があり,病理診断においても同様である。不得意分野の知識は古いままになりがちであって,それを補うためにAFIPを読み通すということは骨の折れることである。本書程度のものであれば,写真を眺めつつ読み進めることで,かなり知識を増大させることができると思われるが,いかがであろうか。「腫瘍組織病理診断学」の書名の通り,腫瘍の肉眼所見および臨床的な画像所見の写真が圧倒的に少ないのが残念であるが,本書のコンパクトな体裁を維持するためには致し方ないところであろう。逆に言えば,臨床的知識を有する医師が,広く腫瘍病理学に触れることのできる好著である。
1851頁・全2巻 定価(本体71,760円+税) Churchill, UK


毎日の診療の場で活用してほしい1冊

〈総合診療ブックス〉
花粉症診療の質を高める
内科医への20の診療ナビゲーション
 榎本雅夫,他 編集

《書 評》大滝純司(北大助教授・総合診療部)

 「総合診療ブックス」シリーズは,generalな診療に役立つポイントを,第一線の臨床医がわかりやすく紹介することをめざしているとのことで,今回のテーマは花粉症である。鼻腔の診察,問診,鑑別診断,薬剤(経口・点鼻・点眼)の使い方,妊婦や小児の花粉症への対応,眼鏡やマスクから始まり掃除や寝具にまで至るセルフケアの指導,そして病態に迫る研究のトピックスと,幅広くかつ実用的な内容が具体的な記述でまとめられている。執筆者の多くは耳鼻咽喉科医である。それぞれの執筆者が経験的に行なっている診療内容を紹介しているのではなく,重症度の分類,鼻腔内所見の記載方法,治療法の選択,セルフケアの指導などは「鼻アレルギー診療ガイドライン」に基づいた内容になっている。

耳鼻科医以外も鼻粘膜の観察を

 特筆すべきは,耳鼻咽喉科以外の医師に,鼻粘膜の観察を強く勧めている点である。私は身体診察が(へたの横好きであるが)大好きで,風邪の患者をはじめ,鼻症状のある患者では必ず鼻鏡(後述)で鼻粘膜の視診を行ない,副鼻腔の触診や透光性の観察なども積極的に行なうように心がけているが,日本の教科書で耳鼻科以外の医者に鼻腔の観察の重要性をこれほど強調している本を読んだことがない。その点で画期的な本だと思う。診察だけでなく,エオジノステインやプリックテストなど,簡易で安価で短時間で結果が出る検査を重視し,患者の負担を減らし医療費を少なくしようという姿勢も随所にうかがえる。
 通読してみて,気になった点もいくつかあった。中でも鼻粘膜の観察のところでは,検眼鏡のヘッドを耳・鼻鏡用ヘッドと付け替える方式の,手持ち式の光源つき鼻鏡を用いる方法も,ぜひ紹介していただきたかった。日本の医学教育でようやく普及しはじめた,いわゆる「基本的身体診察」の教育の中では,この種の用具を用いることを勧める場合が多いし,ペンライトや額帯鏡を使うよりも簡便で確実に観察できると思う。さらに,せっかくのカラーページをもっと生かして,正常とアレルギーだけでなく,肥厚性鼻炎やポリープなど,頻度の高い鼻粘膜異常所見をもう少し多く示していただけるとありがたい。
 このシリーズは,コンパクトなのに価格が高目だという事と,それにも関わらず,役に立つのでどんどん買ってしまうということで,総合診療の仲間うちでは知られている。耳鼻科医以外のすべての臨床医に(厚さの割に値段がちょっと高いなと思っても),ぜひ一度,手にとって読んでみていただきたい。
A5・頁184 定価(本体3,700円+税) 医学書院