医学界新聞

 

急性冠症候群治療の将来像を提示

第28回日本集中治療医学会が開催される


 さる3月8-10日の3日間,第28回日本集中治療医学会が,高野照夫会長(日医大教授)のもと,東京・文京区の東京ドームホテル,および文京シビックホールを会場に開催された。
 同学会は,医師・看護・臨床工学技士(ME)の3部門からなっているが,今学会の医師部門では,会長講演「新世紀に向けての急性心筋梗塞の診断と治療」をはじめ,特別講演として海外から,血行動態測定を可能にしたSwan-Ganzカテーテルの治療法概念を生み出したJames S. Forrester氏(米・Cedars-Sinai Medical Center)による「Back to the future ; from hemodynamic subset to 21st century strategies in cardiac care」が,また日野原重明氏(聖路加国際病院名誉院長)による,市民公開講座を兼ねた「集中治療における医の心」も行なわれた。
 さらに,フロンティア・セッションとして,「臓器再生医学の現況と将来」と「臓器移植,現在から未来へ」の2テーマを特別企画。若手研究者を中心に発表と討議が進められた他,集中治療学の現状と将来を展望し,各領域における最先端の知識を学ぶべく,招請講演7題,教育講演10題,シンポジウム6題,パネルディスカッション5題,ワークショップ8題などが行なわれた。
 一方,看護部門では医師部門との共同によるパネルディスカッション「小児集中治療の現況と21世紀への課題」をはじめ,招請講演,シンポジウムなどを企画。またME部門では,医師部門との共同による特別講演「集中治療における医用工学の展望-過去,現在,未来」(鈴鹿医療科学大 伊原正氏)やシンポジウム「補助循環を要す心不全・ショック患者の管理と問題点:救命への方策」の他,招請講演,教育講演,ワークショップなどが企画された。なお,看護部門については2435号にて詳報する。


急性冠症候群の診断治療における将来への期待

 「急性心筋梗塞と私」をサブテーマに会長講演を行なった高野氏は,急性冠症候群(ACS)の過去50年の進歩について診断・治療の両側面から解説。1950年代は「直流通電による除細動」による治療,1963年にペースメーカー植込み術が行なわれ,67年には日本で最初のCCUが東女医大で開設された。その後,1970年に冠動脈バイパス術が施行され,74年にはIABPによる補助循環療法を開始。76年にはSwan-Ganzカテーテルによる心機能評価が行なわれるようになり,79年にはニトログリセリン臨床治療も始まった。そして,1980年代には梗塞巣救出と治療法が変遷してきたと述べた。
 氏はその上で,急性心筋梗塞の治療目標として(1)梗塞巣の救出と治療,(2)extensionとexpansionの防止,(3)心機能の改善を掲げるとともに,1959年にFletcherらによって開始された「血栓溶解療法」の可能性と,早期の診断・治療の有効性についても報告。また,氏が1991年に著わした書の中で,「急性心筋梗塞治療の将来」として,「1990年代には非観血的冠動脈内血栓溶解療法の確立,2000年代には3次元エコー法の確立・経静脈的冠動脈造影法の確立・補助人工心臓治療法の普及,2010年代は完全植込み型人工心臓の普及,2020年代には虚血性心疾患発症遺伝子の解明」と予測。それらが着実に進歩していることを実証した。なお,氏は「急性冠症候群の診断・治療の将来期待」として,(1)より強力で選択的かつ経口・非経口で長期投与可能な抗血栓薬・血栓溶解薬の開発,(2)不安定なプラークの同定とACS発症予防法の開発,(3)遺伝子工学による動脈硬化・冠インターベンション後の再狭窄予防法の開発,(4)効率のよい人工心臓の開発,(5)遺伝子工学による非拒絶性動物心・組織・細胞移植,(6)幹細胞を用いた再生心・血管移植,(7)有効かつ安全な血管新生療法の開発など,11項目をあげた。
 次回は明年2月28日-3月2日の3日間,平川方久会長(岡山大教授)のもと,岡山市のホテルグランヴィア岡山で開催される。また,本紙2面に関連記事として,シンポジウム I の報告を掲載している。


人工臓器の進歩と集中治療への応用を論議

第28回日本集中治療医学会シンポより

 3月8-10日に開催された,第28回日本集中治療医学会(1面参照)では,シンポジウム「人工臓器の進歩と集中治療への応用」(座長=京大 米田正始氏,東大 井街宏氏)を企画。許俊鋭氏(埼玉医大心臓病センター),長屋昌宏氏(愛知県心障者コロニー中央病院),寺岡慧氏(東女医大),前田憲志氏(名大大幸医療センター),宮本正章氏(京大再生医学研)の5名が登壇した。

進化する人工臓器とその臨床応用

 人工臓器は,1940年に初めて人工骨が臨床で用いられて以来,数多くの開発が試みられ,飛躍的に臨床応用されてきた。
 許氏は,心臓移植を必要とする末期的心不全患者に対し,「移植医療が進まない現状にあっては補助人工心臓治療が必要」とし,左室脱血型補助人工心臓システムを導入した結果を報告。同治療は,「血栓症,感染症等の致命的合併症が少なく,多臓器不全の克服策として有効」と述べた。
 長屋氏は,新生児の呼吸循環障害の治療における小児ECMO(膜型人工心肺治療)の開発を報告。1986-2001年(2月)における新生児92例の治療成績は76.7%であったことなどから,「ECMOは,難治新生児呼吸障害の管理や心機能障害の管理に有効である」とした。
 寺岡氏は,「肝臓は複雑な機能を有する代謝臓器であり,代行する人工肝は存在しない」とした上で,急性肝不全に対する人工補助装置の効果とその限界を明らかとした。その上で,「ある種の肝不全には細胞移植が可能」と述べるとともに,自己臓器からの再生の可能性にも触れた。
 前田氏は,ECUM(限外濾過による体液除去法)が,体液組成濃度に変化を与えず体液を除去させることから,集中治療における適応として(1)心不全,肺水腫でのoverhydrationの治療,(2)人工心肺使用術後の肺水腫の予防,(3)浮腫の治療,(4)自由な補液のための体液量調節,などをあげた。
 宮本氏は,糖尿病治療に関して,インスリン治療に代わる根治的治療法としての膵臓移植,膵・腎同時移植について解説。今後は「膵島移植やバイオ人工膵は,恒久的ドナー不足の根本解決とともに,きわめて侵襲性の少ないQOLに富んだ根治的糖尿病治療となりうる可能性がある」と結んだ。
 なお,座長の井街氏はまとめにあたり,特に人工臓器の将来に関して「バイオ臓器が利用可能となるまでに20-30年,再生臓器は30-50年かかるだろう」と述べた。