医学界新聞

 

【学会長インタビュー】

双方向での語り合いをめざして

第7回日本看護診断学会学術大会開催にあたって

江本愛子氏(第7回日本看護診断学会学術大会長・三育学院短大教授)に聞く


 第7回日本看護診断学会学術大会が,本年6月に横浜市で開催される。昨年アメリカで開催されたNANDA(北米看護診断協会)の第14回大会では,これまでの9つのパターンに変わる新しい看護診断分類法(タキソノミー II)が承認された。本学術大会は,それを受けた初めての学会となる。本紙では,新世紀となり,初の大会長を務める江本愛子氏(三育学院短大教授)に,最近のNANDAの動向,日本における看護診断はどの方向に進むのか,今回の学会ではどのような企画があるのかなどについてうかがった。


●日米における最近の看護診断の動向

NANDAの動向

江本 昨年の第14回NANDA大会に関しましては,本紙の2401号(2000年8月28日付)で報告させていただきました。その時点では,NANDAとNIC(看護介入分類),NOC(看護成果分類)がお互いにリンケージしようという理念が報告されましたが,その後にそれをまとめました『Nursing Diagnosis Outcomes Interventions』が出版されました(日本語版は,医学書院より本年6月頃に出版予定)。
 NANDAとNIC,NOCの関係ですが,これからはますます看護の知体系としてリンケージが進むでしょう。団体としては1つになるということはないでしょうが,パートナーとして,それぞれの団体が互いに個別性を尊重し,協働していくという形ではないでしょうか。
 また,1998年のNANDAの25周年記念大会で紹介され,昨年の大会で承認されました新しい看護診断分類法「タキソノミー II」は,「タキソノミー I」の9つの反応パターンに変わるもので,7つの軸を設ける多軸構造となりました。
 その7つの軸というのは,(1)診断概念,(2)時間,(3)ケア単位,(4)年齢,(5)潜在性(potentiality),(6)記述語,(7)身体の部位です。多軸構造を使えば個別の状況を具体的に表しやすくなります。なお(1)の「診断概念」ですが,従来の9つの反応パターンではなく,13のドメイン(領域)と下位構造としてのクラス(類)に分かれています。
 例えば,「睡眠混乱のパターン」は,「活動/急速」領域の中の「睡眠パターン」という診断概念についての「混乱」であることがわかります。9つのパターンを使ってアセスメントする方も,NANDA承認の診断を自分のアセスメントの枠に整理して使用できます。ちなみに,新分類体系の診断コードが9つのパターンのどれに該当するのかが,すぐにわかる対比表もあります。

日本における看護診断

江本 日本における看護診断でよく問題とされるのが,翻訳による日常聞き慣れない用語の使いにくさです。訳語だからという理由だけでなく,慣れるためには用語の意味を知る機会が必要なのだと思います。一方,日本人特有の価値観,ライフスタイル,つまり日本文化に即した診断用語が開発されないといけませんね。
 当学会の用語検討委員会が取り組んでいるのは,訳語の統一です。それから,教育カリキュラムの中でどのような看護診断を取りあげているのかについても調査をしています。将来的には,日本でも基礎看護教育カリキュラムの中に看護診断を取り込むべきではないかと考えています。
 加えまして,今後は情報開示が促進され,電子カルテの普及も進みます。そうしますと,そこでは「共通の用語で書く」ということが非常に大切になってきます。看護婦たちが書く記録を見て,医師がそれをどれだけ理解するのか。それも1つの問題で,他の職種の方たちから「看護婦たちはいったい何をしているのか,何を記録しているのかが十分に見えてこない」とも言われます。他職種の人に,看護の専門性を理解してもらう意味でも,共通用語の開発は非常に重要です。専門用語を一般の人にもわかりやすい言葉で伝えることも必要ですね。
 これらのことを考えますと,やはり基礎教育の中で看護診断を取り扱うほうが混乱はないように思います。三育学院短大で看護診断の教育を始めた時には,「まず診断用語をクラスの中で教えましょう」という考えがありました。しかし,それを実際に臨地実習で使った時に大混乱があり,再検討が必要となりました。結果として,プロセス重視の授業,最終的にはカリキュラムの構造の中に診断の分類を使いましょうということになって,成人・老人その他の各論に至るまで,看護診断の概念をそれぞれ横断的に各教科で取りあげています。その上で,さらにそれを縦断的に,診断プロセスを通して1年次から3年次までつなげることにいたしました。ですから,カリキュラムのどこを切っても,そこに看護診断の概念とプロセスがあるというカリキュラムを作りました。現在は3年目に入り,検証の時期ともなっています。
 もう1つの研究推進委員会では,専門領域別の看護診断検討会を開催し,在宅ケアとクリティカルケアの2つのフォーカス・グループを立ち上げました。実際に看護診断を使っておられる専門家の方々からあがってきた活用状況や使用上の問題を,本学術大会の交流セッションの場で話題提供します。広く参加者たちと意見交換し,今後の方向性を探っていければと思います。
 それからもう1つ,日本の看護診断は今後どうあるべきかにも関連しますが,日本でも専門看護師(CNS)や認定看護師が育ってきました。その方たちと学会とが連携しながら調査研究や教育していくことも,日本の看護界にとってはプラスになることだと思っています。今大会では感染対策専任ナースに積極的なご協力をいただきますが,大変にうれしいことです。実際には,CNSの方々とはまだほとんど交流はありませんが,これは今後の課題と言えます。

●第7回日本看護診断学会学術大会では

2つの対話型セッションを新企画

江本 今大会の新しい企画として,対話型のセッションを2つ設けました。1つは「事例セッション」です。本学会も研究会から学会となり7年目です。これまでは,壇上から評価者がコメントをするという形式でしたが,参加者も力がついてきましたし,相互に意見交換を行なう場がもう必要な時です。互いに評価をすること,私たちはこれを「同僚相互評価」と呼んで,今回セッションに取り入れました。相互討論をすることで診断プロセスの理解が深くなりますし,同僚評価を実際にやってみますと,看護婦たちがパッと目を見開いて,非常に熱心になります。主体的に学ぶ喜びというのでしょうか,とても喜んで勉強してくださいます。それを学会として取りあげます。
 もう1つは,先ほど触れました「交流セッション」です。これはそれぞれの専門領域の研究グループが情報収集をし,看護診断活用の現状と課題についてまとめたものを話題として提供します。そして,大勢の参加者とともに今後の方向性を探ろうという趣旨です。これもお互いに意見を交流しあうという1つの方法です。現場に密着したテーマですし,頻度の高い看護診断は何か,また使いにくい看護診断は何かなどが議論となるでしょう。また,地域との連携においては,日本の現在の医療システムの中で,どのような展開が図れるのか,その方々とディスカッションすることで,より視点が広がるだろうと期待しています。

NANDA前理事長による招聘講演

江本 それから,アメリカから2人の講師を招聘いたします。ドロシー・ジョーンズ先生は,ボストン大学教授ですが,2000年までNANDAの理事長を務められて,NANDA・NIC・NOCのグループを結びつけることはもちろんですが,医学分野の用語分類を検討する場に,看護団体の代表者として参加するなど,医学と看護の用語分類団体とのパートナーシップを強化された方です。講演でもそのあたりのことや標準看護用語の方向性を示してくださいます。
 それからパトリシア・ジョーンズ先生は,ロマリンダ大学看護学部の教授で,国際的なネットワークを持つ国際部室長に就いておられます。日本にも何度か来日され,講演をされていますし,中国の看護大学設立に貢献されました。
 彼女の専門的な研究が,「connectiveness」と「personal wholeness」です。これは非常に訳しにくい言葉で,「全人性」ですとか,「絶対性」となるかもしれませんが,おそらく「全体の安寧と統合性」にあたるものではないかと思います。「personal wholeness」は聞き慣れない言葉ですが,この理論を紹介し,看護がどのようにかかわることができるかということも話されます。これは宗教の有無にかかわらず,人間が誰でも持っている信念ですとか,価値観というものにアプローチすることが看護の大切なかかわりである,と指摘しています。
 このような企画を立てましたが,日本ではこれからますます看護診断が主流になってくるでしょう。現在は,そのための実証の時代を迎えていると言えます。看護職の方々には,ぜひ学会にご参加いただき,新しい試みによる双方向での意見交換を通し,「看護診断」を直に肌で感じていただきたいと思います。ぜひとも多くの方々が参加されますことを期待しております。