医学界新聞

 

グローバルな視点から看護を創造

第15回日本がん看護学会が開催される


 さる2月10-11日の両日,第15回日本がん看護学会が,小島恭子会長(北里大病院看護部長)のもと,横浜市のパシフィコ横浜において,「がんサバイバーシップ“Cancer Survivorship”-新しいがん看護をめざして」をメインテーマに開催された。なお,「がんサバイバーシップ」とは,米国のがん患者が組織するがんサバイバー連合が打ち出した,新しいがん生存の理念である(本紙2422号1月29日付,小島恭子氏インタビュー記事参照)。
 小島会長は開会のあいさつで,「ポストゲノム時代と言われる21世紀には,がんの診断・治療がますます進歩・発展し,がん患者・家族のニーズも多様化・複雑化してくる。それに伴いがん看護の役割も,がん予防と早期発見のための活動や,患者の自己決定の尊重と権利擁護など,よりいっそう拡大し,グローバルな視点から新しい看護を創造していく必要があるだろう」と述べた。
 なお今学会では,146題にのぼる一般演題発表の他,養老孟司氏(北里大教授)による特別講演をはじめ,基調講演,シンポジウム,パネルディスカッションが企画された。


「生きる」ことを支える専門家に

 基調講演「生きることを支える看護」を行なった古庄冨美子氏(前北里大病院看護部長)は,「真実の意味で“生きる”ことを支えるということは,長期間の生存をめざしてがんばれと患者に強いることではなく,患者がその家族とともに,いかにその人らしく自然の姿で生きるかを支えることである」と論じた。また,ベストセラーの童話『葉っぱのフレディ』を引用し,「死とは個体の消滅ではなく,ともに生きた人々に生きることの芽を残していくもの。それぞれがその芽を受け継ぎ社会を形成していく」と「人のライフサイクル」について解説した。さらに,21世紀のがん看護職へのメッセージとして,「がん看護の専門性を活かし,それぞれの患者と向き合いながら生きることを支える,新しいがん看護の専門家として,ますます地球規模で活躍してほしい」と述べた。

がんサバイバーシップを支える

 シンポジウム「がんサバイバーシップを支える看護」(司会=北里大看護学部 遠藤恵美子氏,北里大東病院 佐藤禮子氏)には,患者の立場からピーコ氏(ファッションジャーナリスト)と田中美智子氏(NPO法人「ももの会」)が登壇。「悪性黒色腫」のために左眼を摘出したピーコ氏は,「死が目前に見えた時に欲が消えた。また死から生還した時には,死ぬまで一生懸命に生きようと思った」と患者の心境を語る一方で,ナースの制服に対し辛口批評。その上で「すてきな看護婦さんに出会えた。皆さんもすてきな看護婦さんになってください」と結んだ。また,アメリカ・メイヨークリニックで食道と胃の切除を行なった田中氏は,その理由と病後の体験を語った。
 一方,患者家族を代表して生川玲子氏(全社協中央福祉学院)は,がんで母親を亡くした経験から,「病院看護職の,マニュアル通りの優しさの裏にある冷たい態度に許せない思いがした」と発言。その後に出会った個人開業の在宅ホスピス医とのかかわりで,「母は自分らしく最期まで生きることができた」と述べ,看護職へ向け「患者を患者としてだけみるのではなく,その内面に関心を抱いてほしい」と訴えた。
 医師の種村健二郎氏(栃木県立がんセンター)は,がん医療における看護と治療の違いを解説。患者が主体的に生きる方法である「がんサバイバーシップ」の実践には,看護職の関与が重要なことを示唆した。
 またがん看護専門看護師の近藤まゆみ氏(北里大病院)は,がん患者と看護職のかかわりについて,「がんとともに生きる意味を見出すことで,その人らしく生きることができる。患者の中にある生きる力を引き出すように援助をすることが患者のパートナーである看護職の役割」と述べた。

OCNSの貢献

 パネルディスカッション「がん看護専門看護師(OCNS)の活動と効果」(司会=日本看護協会理事 岡谷恵子氏)では,がん看護領域で活躍するOCNSに焦点をあて,4名のパネリストが意見を述べた。
 1996年にOCNSの認定(同時に4名が誕生し,現在は9名)を受けた吉田智美氏(神戸大病院)は,現在同病院の教育担当婦長も務めている。氏は,OCNSとしての活動は月40時間,相談件数は年間約40件と報告。OCNSの効果については,(1)治療に対する患者と家族の意向の聴取と明確化,(2)症状緩和について具体的な方法を患者に提案できることなどをあげた。また今後の課題として,組織の理念に応じたOCNSの活用システムの構築などを指摘するとともに,OCNSの活動効果のエビデンスを集約することの必要性をあげた。
 OCNSとともにスタッフとして活動する和田栄子氏(淀川キリスト教病院)は,同病院のホスピスにおけるOCNSの活用と効果について,(1)ホスピスケアに関する専門的な知識と技術の提供,(2)医療チームのコーディネーターとしての働き,(3)スタッフの心理的サポートとキャリア開発などをあげ,「卓越した看護実践と質の高いケアを提供するOCNSの存在は不可欠」とした。
 一方,管理者の立場からは國井治子氏(前横浜市立市民病院看護部長・日本看護協会理事)が登壇。医療制度の改革で病院経営に厳しさが増していた1995年にリエゾン専門看護婦を登用した経験から,「OCNSの効果はチーム医療への貢献」と強調し,「OCNSは直接的なコスト効果を望める存在ではないが,他職種を巻き込み,その自尊と意欲を高め,病院全体の改革を促す存在として,高く評価できる」と述べた。
 医師の的場元弘氏(北里大)は,同大学病院の緩和ケア専門病棟および外来を支える「Team KANWA」の活動を紹介。その一員であるOCNSが緩和医療の推進に大きな役割を果たしていることを明らかにするとともに,OCNS活動を妨げる要因として,(1)問題を病棟内で処理しようとする姿勢,(2)OCNSの不足,(3)病棟サイドで役割の認識に差がある,(4)他のCNSや認定看護師との役割分担が不明確,と指摘した。
 なお本パネルからは,OCNSはがん看護の質の向上だけでなく,医療職の意欲・資質を高め,医療の質の向上にも明確な貢献をしていることが示唆された。


「OCNSの活動と効果」が論じ合われたパネルディスカッションでの4名のパネリスト

お知らせ
 本紙看護号の連載コーナー「チャットブース」の執筆者の1人である加納佳代子氏(心和会八千代病院)がホームページ「ナースサポートkk」を開設。老人・精神科病院の総婦長としての日常の様子が,ユーモアを交えながら語られています。ぜひご覧ください。
◆ナースサポートkk URL=http://www.ac.wakwak.com/~kayokokano/
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