医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


著者の迫力に,白旗

話せる医療者
シミュレイテッド・ペイシェントに聞く
 佐伯晴子,日下隼人 著

《書 評》畑尾正彦(日本赤十字武蔵野短期大学教授/日本医学教育学会副会長)

 最近の医系の書店では,ようやく医療面接に関する書籍が平積みにされるようになった。それも1種類ではない。それだけ医療面接に対する関心が高まっている証拠である。コミュニケーションの上に医療面接が成り立つことを語りつづけ,その学習への取り組みを進めてきた医学教育関係者にとって感慨が深い。ただそれらの書籍のほとんどが,医療人から発信されたものである。
 このほど発行された『話せる医療者』は,医療を受ける立場から東京SP研究会の佐伯晴子さんが中心となって書かれたというだけでも,その価値は大きい。東京SP研究会は1995年の発足以来,日本中の学校(医・看・薬・その他)や教育・研修のセミナーに,「模擬患者Simulated Patient:SP」として参加し協力してこられた,実績あるボランティア組織だからである。

「わからないことをわかってほしい」の重さ

 頁を繰ると,まず著者の迫力に驚かされる。思いを込めて書き綴られる一語一語が,反論の余地なく読者を圧倒する。医療の世界にどっぷりと漬かっている読者にとって,そうなのかと初めて気づかされることが,次々とその頁の裏表から迫ってくる。
 「簡単に人を理解したつもりになってくれるな,わからないことをわかってほしい」という著者の叫びが医療人の耳に痛い。
 人はしょせん理解し合えないものであり,理解し合えなくても愛し合えるのであって,そこに人のおもしろさがあるし,愛する人に理解し合えたという誤解を許すという文化の中でわれわれは生きている。それが健康上の問題を認識すると,理解したつもりになることを許さない異文化圏に入る。自己の存在の危機が,通常の文化圏に安住させてくれなくなるのは当然であろう。医療人が異文化圏の人種であるのと同様に,健康上の問題を認識すると,人はもう1つの異文化圏に入るのだろう。

向き合う相手の思いを知るために

 医療がサービス業であることは広く認識されるところとなった。異文化圏の人同士が向き合い,関わり合うことについては,医療の専門職になろうとするものが必須のこととして学習すべきことである。
 医療面接の学習をしようとする医学生や看護学生に限らず,研修医,看護職,薬剤師,栄養士など,あらゆるヘルスプロフェッショナルと,さらには医療事務職のすべてにとって,本書が必読書であることは言うまでもない。向き合う相手の思いを知らずに,医療面接の学習ができるはずがない。壁に向かってのテニスの練習は,本当の練習にならない。
 なぜか本書は,医療人の1人である日下隼人氏の共著となっている。氏はこれまでにも鋭い洞察眼と豊富な読書量で,医学教育・看護教育界の関心を呼ぶ独特のメッセージを発信してきた。異文化圏を超えたおもしろい読み物で,氏の磨かれた感性に触れることができるのも本書の楽しみの1つである。
 本書をすべての医療人にお勧めしたい。ただしこれを読む時には,よほどの覚悟が要るかもしれない。特にこれまで医療面接の学習に当たってきた人たちにとっては,そこまで言われるかと白旗を掲げるしかないところが少なくないからである。
A5・頁190 定価(本体2,000円+税) 医学書院


医療資源の有効利用の立場から生まれた最新の方法論

医師とクリニカルパス
臨床各科の実際例
 小西敏郎,他 編集

《書 評》山内豊明(大分看護大助教授・看護アセスメント学)

なぜクリニカルパスは普及しないのか

 われわれを取り巻く種々の環境の変化は,ケア提供体制の変革や改善を余儀なくさせている。クリニカルパスは現代の医療資源の有効利用の立場から生まれるべくして生まれてきた最新の方法論である。このクリニカルパスはマネージドケアの台頭が著しい米国で誕生し,医療が提供される社会環境の変革に対応すべく,わが国でも昨今急速な勢いで拡がりをみせつつある。
 本来果たし得る機能の可能性からすれば,クリニカルパスはもっと普及してもおかしくはないはずである。しかしながらわが国の多くの医療現場ではクリニカルパスに対しては必ずしも十分に認知されているとは言いがたい。その大きな理由の1つには,多くの医師のクリニカルパスについての理解不足とそれによる誤解があろう。
 これまで出版されたクリニカルパスに関する書籍は,クリニカルパスの基本的な理論や本質的な考え方,あるいは地道な開発経過についての論考にはあまり紙面を割かずに,とにかく最終産物である2次元平面に展開されたパス図表そのもののプレゼンテーションに終始しているものがほとんどである。このこともクリニカルパスへの誤解の一因になっているという印象は否めない。
 またクリニカルパス導入のいくつかの事例をみていると,とにかくクリニカルパスを「導入する」というイベント自体にエネルギーが集中し過ぎていて,そこまでの経過について十分な注意が払われていない例も少なくないようでもある。つまりなぜ導入する必要があるのか,また導入するためには何をすべきなのか,ということに十分な検討と議論と合意がなされておらず,とにかく導入したい,あるいは導入すれば何とかなるであろう,という思いだけで進んでしまった場合も少なくないようである。
 しかし,クリニカルパスは導入することがゴールではないはずである。やりたいからやる,ということだけでは関係者の納得は得られまい。あたかも結婚生活において,結婚式あるいは結婚披露宴が究極の目的ではなく,結婚に至るまでのプロセスの積み重ねと結婚後の生活への体制作りこそが大切であるように,クリニカルパスも導入に至る適切な経緯と,導入後の継続的な維持向上の担保が必要である。
 そのうえ,新しいパラダイムへ変化するということ自体についての相当の労力,すなわちこれまでの習慣からの脱却という心理的なバリアを越えるエネルギーが必要となる。つまりパラダイムシフトは応分の痛みを伴うものであることには疑いはなかろう。それらを見越してまでもクリニカルパスの導入を決断し説得するには,それなりに十分な根拠が必要となるのである。

実際の導入過程をそのまま述べる

 本書では,これらの課題について誠実かつ着実に取り組んできた自らの姿そのものとして,実際の導入過程をそのまま詳細に述べている。そして過分に気負うことなく事実を淡々と記すことから,かえって何よりの説得力をもってこれらの課題への解決策を示唆している。これからクリニカルパスの導入に関わるすべての人に,ぜひとも一読を期待したい比類のない1冊である。
A4・頁160 定価(本体3,000円+税) 医学書院


疫学的手法を理解し活用したい臨床家にうってつけの入門書

論文が読める!早わかり疫学
研究デザインとその評価
 David L. Streiner,Geoffrey R. Norman 著/野尻雅美,他 訳

《書 評》嶋本 喬(筑波大教授・地域医療学)

 疫学は医学生や一般の臨床医からは割合と敬遠されることが多い。しかし,近年臨床医家に対して,単なる経験に基づく医学でなく,科学的な証拠に基づく医学(EBM)が要求され,その手段としての臨床疫学(Clinical Epidemiology)が誕生している今日,臨床家にとっても「疫学は嫌い」ではすまされない。医師のうちでも数学を比較的苦手とする人々にとっては,疫学の重要性が理解できないというのではなくて,疫学の親友である生物統計学や疫学の特有の用語がなじみにくいということらしい。

数学が苦手でもOK

 本書はその点では数式や統計学はあまり登場せず,登場してもむしろ具体例を解説する道具として使われており,数式には記号よりも,なるべく文字で説明文が入っていて,数学アレルギーの人にも大変とっつきやすい。この点,タイトル通りの「早わかり疫学」であり,数式は苦手でも疫学は理解できる仕組みになっている。疫学的手法を理解し活用したい臨床家にとって,うってつけの入門書と言えよう。
 臨床医家が自身の臨床データを駆使して論文を作成する時にも,あるいは文献を検索して,自身の研究や臨床的な判断の参考にしたい時にも,本書のわかりやすい説明が役立つと思われる。医師以外にも,医学生や保健・看護・福祉などのコメディカルの分野で同様の関心を持つ研究者にも参考になる点が多いと思われる。
A5・頁200 定価(本体3,400円+税) MEDSi


在宅の現場まで携行してほしい1冊

<総合診療ブックス>
ホームケア・リハビリテーション基本技能

石田 暉,前沢政次 編集

《書 評》加勢田美恵子(都立大塚病院リハビリテーション科医長)

在宅でのリハビリテーション

 在宅医療は,多くのスタッフが力を合わせて1人の患者に対応するチーム医療である。しかし,各スタッフが共通の認識,共通の方針で,時間的・空間的場を共有しつつ医療にあたるのは至難の業である。その溝を埋めるためにも,全スタッフで同じ視点を共有できるテキストは,待ち望まれたものである。今までにも,ケアスタッフ向けの在宅ケア技術書や,医師や訓練士向けの在宅リハビリテーションについて書かれた本はいくつかあるが,在宅医療の最前線に立つスタッフが誰でも携行でき,その場で評価でき,症状ごとに対処法を知ることができるものは見あたらなかった。
 本書ではIntroductionで,ホームケア・リハビリテーションの何たるかを確認し,介護保険下での主治医の役割をきちんと定義づけた後,評価および基本的視点について簡潔明瞭に述べられている。しかも漏れがないようにチェック欄がついており,現場のスタッフの共通理解に役立つ。
 基本技能編では,まさに在宅医療の最前線のスタッフが必要とする,症状への対処法がイラストを取り入れながら具体的に示されている。各項目でCASE紹介とそこからの教訓が述べられ,またメールアドバイスでは現場スタッフからの質問に答えを出すと言う形で,今必要としているものの答えを即得ることができるような構成になっている。
 実例編には,いくつかの施設で成功したプログラムを紹介してある。紹介してあるのは非常に目的指向型のケアプランであり,ケアマネジャーの方にも大いに参考になる内容である。
 興味深いのは,「Clinical Pearl」と名づけられた項目で,リハビリテーション用語の説明,最新医療トピックスから福祉システムの紹介まで,各著者が臨床で得た貴重な指針が示されており,この本をより内容深いものとしている。
 職種を問わず第一線の在宅医療に携わるスタッフに,現場まで携行していただきたい本である。
A5・頁204 定価(本体3,700円+税) 医学書院


がん臨床に困り果てたレジデントや研修医に必ず役立つ

がん診療レジデントマニュアル
第2版
 国立がんセンター中央病院内科レジデント 編集

《書 評》大野竜三(愛知県がんセンター病院長)

研修医やレジデントが本当に知りたいこと

 現在の日本では,「マニュアル」と名のつく小冊子が,各社からいく種類も発行されている。しかし,日常診療の場において,その名のごとく手元において,参考にしながら使用する際に,実際に役に立ってくれるマニュアルは,必ずしも多くない。
 1997年に発刊された本書の初版は,この種のマニュアルとしては異例ともいうべき6刷が重ねられている。がん診療のマニュアルがいかに求められているかを示すとともに,レジデントや研修医に実際役に立ったからこそ,そのような好評を受けたものと理解される。
 本書が,がんの実地診療に役立っている最大の理由は,マニュアルを必要とし手元においてこれを参考にしつつ,がん診療を行なっている立場にある医師によって,本書が書かれているからであろう。
 このたびの改訂第2版も初版と同様に,国立がんセンター中央病院で働いている現役のレジデントが分担執筆している。がん診療のいわゆる権威者ではなく,実際にがん患者を診療している医師が,自分たちと同じレベルにあるレジデントや研修医を想定しつつ,彼らが知りたいところや彼らに役立つポイントを,わかりやすい言葉で書いている。

実地の場で困っている医師が執筆者

 第1章は「がん告知とインフォームド・コンセント」で始まっているが,「本人に伝えることを原則とする」,「家族には先に知らせないのが原則である」と,レジデントや研修医のみならず,がん告知に慣れていない日本のベテラン医師にも読ませたいような,がん告知の基本が書かれている。第2章以降は「がん化学療法の基礎概念」に続き,患者数の多い順に「肺がん」,「乳がん」,「胃がん」などの臓器別各論が書かれている。また「原発不明のがん」にも4頁が割かれているが,実地の場でこのような症例に直面して困っている医師が執筆者ならではと思われる。
 さらに,がん性胸膜炎やがん性疼痛などの合併症,感染症や消化器症状などの化学療法の有害反応対策についても扱っている。そして「抗がん剤の漏出性皮膚障害に対するアプローチ」に7頁を割いている。この章も,実地診療の場で静脈注射時に抗がん薬を漏らし,どうしたらよいか困り果てているレジデントや研修医にとっては,本当に役に立つところと思われる。
 現役のレジデントたちが分担執筆しているため,そのクオリティに若干の危惧のあるところであるが,がん診療を専門とする国立がんセンターのスタッフである5人の編集責任者が最終稿をレビューして,その危惧を払拭している。しかしながら,例えば,同じ白血病のことを,ある章では急性骨髄性白血病とし,別の章では国際的に権威のある分類法では使用されなくなって久しい急性非リンパ性白血病を使っている。本マニュアルを読む若いレジデントや研修医は,後者の分類名を大学では教わっていない可能性もあり,別の白血病であると間違って理解するかも知れない。専門医である編集責任者が,はたして,本当にしっかりとレビューしていたのかと疑問を禁じえないのはやや残念である。
B6変・頁352 定価(本体3,800円+税) 医学書院


医学生の気どらない米国留学奮戦記!

It's My Challenge
ペンシルベニア大学医学部留学奮戦記
 長浜正彦 著

《書 評》寺田秀夫(前昭和大教授/聖路加国政病院内科顧問)

 このたび,聖路加国際病院研修医の長浜正彦氏による『It's My Challenge』と題する書をいただき,その内容のたくましさ,おもしろさに魅せられて一気に読んでしまった。

異文化のまっただ中に飛び込んで

 著者自身が述べているごとく,脳ミソまで筋肉になりかかっていたラグビー部主将が,大学6年生の時に一年休学してペンシルベニア大学医学部に交換学生として留学し,言葉や習慣やシステムの違いのまっただ中に飛び込んで悪戦苦闘した奮戦記である。しかしその内容が,著者自身の生来の素直な明るさと優れた文才から,ユーモアやロマンを混えながら,留学生活の日々の様子が手に取るように理解され,読んでいる自分が留学しているような錯覚に陥るようであった。
 渡米前の1年間,英語・英語・英語と努力に明け暮れた語学力が,渡米1か月間はあまり通用せず,苦しみ悩みながら,腎臓内科のコンサルテーションチームに入り,臨床実習の初歩から努力し,アメリカの医学生(4年生・最高年生)が一人前の医師のごとく聴診器を使いこなして患者を上手に診察する姿を見て驚きながらも,必死の思いで彼らにくっついていく著者。そして日本の大学の医学部と違って堅苦しい上下関係がなく,教授も,アテンディングドクター,フェロードクター,レジデント,学生などが本当にfriendlyに意見を交わしたりする様子が書かれている。これは自分が留学した昔(1962-1964,タフツ大学New England Medical Center)も強く羨ましく感じたことであるが。
 渡米1か月はただただobservation,次の1か月が周囲のドクターからのeducation,次いでcompetitionと著者の素直さと純粋さが,自分のいたらぬところを十分認めつつ,周囲の人々の力を借りながら1つひとつ自分自身のものとして総合内科や集中治療室,老人科,消化器一般とローテートしながら,著者のパワーが発揮されていく様子が述べられて,読者に強い感銘を与える。
 ある日,受持ちの患者にお別れの挨拶をした際に“I miss you”と泣かれたこと,麻薬の静脈注射による薬物乱用者が多いこと,コロンビアからの美人交換留学生イザベラとの楽しい文献検索,またアメリカの医学教育が実践を中心としたディスカッションの連続に特徴があること,また患者の入院期間は非常に短いのに,分厚いカルテが書かれている事実は,訴訟社会のアメリカではカルテの記載に必要以上の時間が割かれている点にも触れている。
 またアメリカ社会では自分をよくみせる能力が大事なこと,病棟で回診しながら自分の患者について質問攻めに遭い,これがアメリカの病棟での学生に対する一般的教育方法であると実感している。
 また著者がアフガニスタン,スペイン,フェルナンデス,イギリス,中国,イランなどのドクターたちと一緒に学びながら,彼らが言葉や習慣の違いに臆することなく,アメリカの医師たちと対等にやり合っている姿に大きく感動し,英語ができないことやシステムの違いを理由に泣き言を並べる自分の甘さを痛切に反省している。そして巻末に最後の最後に頼ったのは日本の家族への国際電話であったと述べている。

体当たりで感じたアメリカの臨床医学

 この書は素直で謙虚な,しかもチャレンジ精神に富む医学生が体当たりで感じたアメリカの臨床医学の飾り気のない体験記で,21世紀の日本の医学生にぜひ読んでいただきたくこの書を心から推薦したい!!

B6・頁236 定価(本体1,500円+税)
篠原出版新社 TEL(03)3816-8356