医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


定評ある「今日の治療指針」の眼科版の登場

今日の眼疾患治療指針
田野保雄,樋田哲夫 編集/大路正人,他 編集協力

《書 評》丸尾敏夫(帝京大学医学部長)

 医学書院の『今日の治療指針』は,ベストセラーとしてあまりにも有名である。不肖私も,編集協力あるいは責任編集として,1979年版から1992年版まで14年分,眼科の担当をさせていただいた。
 ただ,『今日の治療指針』は全科にわたっており,眼科は20数項目に過ぎない。主要疾患について,他科の医師がその概要を知るのにはきわめて便利であるが,専門医向きではない。
 何年か前から広告で,専門科別の今日の指針シリーズが出版されていたが,眼科はいつ刊行されるのか期待していた。このたび,田野保雄,樋田哲夫両教授の編集により,『今日の眼疾患治療指針』が上梓されたのは,眼科医にとって大変喜ばしい。

眼科で遭遇する疾患を網羅

 本書を紐解くと,眼科の診療で遭遇するほとんどの疾患が網羅されている。疾患の解説の前には,症状・所見・主訴からの鑑別診断フローチャート,診察室・手術室での緊急事態に備えて,その後には,検査総論,治療総論,眼科薬剤一覧の章がある。序文にもあるように,携帯可能でもあるが,何分800頁を超える大著であるから,座右に置いて,診療中ちょっと調べたいという時に,非常に便利であると思われる。
 執筆陣には,私もよく存じあげない若い人を含めて広く選んでいる。近ごろの若い医師の大きな欠点の1つとして,過去の文献を読まないことがあげられる。本書は『今日の治療指針』の編集方針を踏襲し,「私はこうしている」という自らのやり方を紹介しているようである。そのため文献もないから,若い執筆者にはまさにうってつけで,書きやすかったのではなかろうか。
 反面,最新の情報が提供され,新鮮味ある内容になっている。カラー図は,一般の眼科書の編集方針と異なり,眼底疾患より,外眼部・前眼部疾患に多用されている。この点も,本書の斬新さを示す一助となっている。
 今後,本書は眼科医に愛用されるようになるのは間違いない。
B6・頁824 定価(本体18,000円+税) 医学書院


大腸内視鏡挿入法を変えた1冊

コロナビを用いた新大腸内視鏡テクニック
多田正大 著

《書 評》酒井義浩(東邦大大橋病院教授・消化器診断部)

 何をおいても,まずは著者多田正大氏の旺盛な執筆活動に敬意を表すべきであろう。狭いわが家の書棚にも,氏の著書や編書が5冊ある。職場にはこれと異なる氏の書がほぼ同数あるから,おそらく膨大な著書が上梓されているに違いない。
 本書は最新の1冊(そう願っているが)で,スコープ内に組み込まれた複数の磁性体から発信される電磁波を,近傍に設置したアンテナで磁界を計測し,個々の磁性体の位置と相互関係をTVモニター上にスコープの形状に加工して表示する装置(スコープ形状観測装置,著者はこれを「コロナビ」と呼称)をいち早く臨床に用いて,その使用経験から有用性を具体的に紹介している。

大腸内視鏡の新しい視点を提供

 そのために,冒頭で大腸内視鏡の挿入法の変遷や本装置の概略を簡単に説明し,本書の核心とも言える挿入技法を本装置のモニター上で示される像を用いて解説を加える構成になっている。本書の「新」は新しい大腸内視鏡テクニックの紹介ではなく,むしろ形状を常時表示できるようになったことで,「新」しい視点を提供したと考えてよいであろう。スコープの改良と被検者数の増加とから,いつのまにかX線透視の行なえない内視鏡室での大腸内視鏡が常態となっているが,それでも途方に暮れることもある。本装置を併設すれば,X線は不要となり,X線透視と同じ像だけでなく,被検者の体位に関わらず正面と側面,希望するならどのような角度でも,2方向表示が可能であり,しかもスコープの形態だけでなく,X線像では単一平面でしか表せなかったスコープに濃淡をつけて3次元表示されているために,容易に立体認識できることが示されている。困った時にチラッと見ればよいことになり,経験者にとっても心強い装置と言えよう。
 これらの豊富な像に加えて,おそらく著者の手になるイラストが適宜挿入され,文字数を少なくして理解を深める工夫がされている。さらに要所要所に「note」と「ワンポイント・アドバイス」が配置され,前者はエピソードが主体で,後者はチョットまじめな本音が述べられ息抜きも与えながら,単調になりがちな技術解説を一気に読ませる工夫がされている。さらに挿入困難を解決するために,「ケース」として10例が各部位の通過法の最後に加えられて,特殊な事例への助言が示されており,著者の並々ならぬ気配りが読みとれる。
 「コロナビ」を語るあまり無理を感じる箇所もないわけではないが,総じて体内でスコープの形状が挿入の難易に関連していることを示す好著であり,本文104頁と手頃なことから,ぜひ読んでほしい1冊である。
 ただ印刷の具合か背景が青すぎるのはおくとして,「コロナビ」が用語として適切であるのか気になる。著者の本意は本装置が安全で,円滑な,苦痛の少ない方法への提案を馴染みやすくする便法とは思われるが,進むべき内腔が示されているのではなく,あくまでも被検者の体内でのスコープの走行を示しているだけであり,経験の多い術者にはそれから先が予見できても,どちらかを指し示すわけではないので,著者の愛用している呼称であっても,その語の醸しだす期待が一人歩きしないようもっと警告が必要であろう。
B5・頁104 定価(本体4,000円+税) 医学書院


新ミレニアムに必要な糖尿病の知識を集大成

糖尿病
21世紀の統合治療に向けて
 青木矩彦 編著

《書 評》赤澤好温(WHO糖尿病センター名誉所長)

治療とケアの目的意識で統一

 これは新ミレニアムを意識した糖尿病のユニークな書である。本書のように,糖尿病の治療・ケアの目的意識で貫かれた糖尿病総合書はめずらしく,貴重な試みである。新ミレニアムにあたって糖尿病を把える視点を整理してみると次のようになる。
 まず,糖尿病は「生活習慣病」と言われる国民病である。これは国内では赤澤らの厚生省(現厚生労働省)疫学調査班,国際的にはWHOの仕事から明らかにされた事実である。日本の国民病はかつては結核であったが,今や糖尿病である。国民病であるならば,医師やコメディカルが糖尿病に関する知識を占有するのであってはならず,国民の誰もが糖尿病とは何かを理解しこれへの適切な対処法を知るべきである。この点で糖尿病はまず正しい最新の情報をやさしく解説されるべきであるし,糖尿病書は,読んで楽しいとともに,糖尿病の患者とそのケアに関係のあるすべての職種の人々にすぐ役立つ好書であることが必要である。本書は著者のこのような意図がはっきりと各文で記されてあり,専門書であると同時にすぐれた大衆書をめざしている。
 第2に,糖尿病は進歩する医学のみならず,生命科学,社会科学を含むサイエンスの大きな背景の中で眺められなければならない。過去,現在,そして,未来への洞察を含む内容があれば申し分ない。この点,本書の最初には科学技術会議の井村裕夫氏(前京都大学総長)の示唆に富んだ講演を載せている。最先端のゲノム解析に関連して将来への展望が楽しく,また余すところなく述べられている。読者はメディカル,ノンメディカルの別なく「糖尿病」という病気の歴史的背景と将来の研究発展の可能性に気づくだろう。
 第3に,大衆病・慢性病としての糖尿病はその自然科学的側面の最新事実(facts)を確実に,また正確に読者にインプットされなければならない。この点ですぐれている論文が多く本書に採用されている。とりわけ,本書のレベルを高めているのは清水弘一氏(群馬大学名誉教授)の美しい眼底図譜と,青木矩彦氏(近畿大学教授)の糖尿病関連の最新知識であろう。読者は前者において,糖尿病眼症の大凡を自然に理解することができる。また後者において,糖尿病全般における最新情報を2001年開初における断面としてそのエッセンスを把握できる。読んでみて正しい医学新知識が難なく理解できて,新しい世界が開いたように感じられる。頁の都合で割愛するが,糖尿病の口腔疾患など,今まで糖尿病の医学書では注目されなかったところが大切な問題として指摘されており,他にも興味津々の好論文が多い。
 第4に,糖尿病を自然科学以外の人間的側面でも把えようとしている点が新しい。社会的アプローチや心理学的計測の応用など,自然科学と異なって困難な道ながらも,糖尿病を持った人々に対する青木氏の深い愛情があふれている。答は出しにくいけれども,あえてチャレンジしている本書の試みは,欧米ではその必要性が強調されており,糖尿病ケアの新しい試みとして評価されるべきであろう。
 第5に,今後さかんに取り上げられるであろうクリティカルパスの問題を,糖尿病についていち早く解説している嶋森好子氏(日本看護協会常任理事)の論文は大変参考になる。医療エコノミー,医療資源等を考えた今後の医院・病院の経営にも役立つものである。

健康に関心を持つすべての人に

 このように,本書はまさに糖尿病オムニバスであり,同時にそこには患者とともに糖尿病のケアを進めようとする青木氏のヒューマニズムに溢れた医学者・医師としての哲学が示されている。科学書であると同時に社会に対する健康教育の書物として医師,看護職,栄養士,薬剤師,医学政策に関係したすべての人々,そして糖尿病をはじめ健康に関心を持つすべての人々にお勧めしたい教養書として,身近に1冊ぜひ置いて熟読することをお勧めしたい。
B5・頁315 定価(本体8,200円+税) 金芳堂


急速に進歩する小児外科領域のテキスト 待望の改訂版

標準小児外科学 第4版
鈴木宏志,横山穣太郎 監修/岡田 正,他 編集

《書 評》土田嘉昭(群馬県立小児医療センター院長)

若返った執筆陣

 標記の教科書第4版がこのほど刊行された。わが国の小児外科は最近著しく進歩し,そのレベルは世界の第一線にあり,英文の教科書の発行にまで日本の小児外科医が参画するほどになってきている。また,日本語で発刊された小児外科の教科書も既に数種に上っている。本書『標準小児外科学』は1985年にその初版が刊行された。その特徴は,医学生から研修医に至るまでを主たる対象とし,医師国家試験出題基準および日本小児外科学会認定医制度認定医試験に対応することをねらいとすることであった。本書は,その後,改版を重ねて遂に今回,その第4版をみるに至ったことは誠に喜ばしいかぎりである。
 第4版の特徴の1つは,その執筆陣が大きく若返ったことであろう。また,顔ぶれでは大学の教授職に就いている執筆者が増え,実に47名中30名の教授を数えることができる。小児外科は,大学ばかりでなく,全国の小児総合医療施設(小児病院,小児医療センター,等)でもより活発に行なわれているので一方に偏した見方は避けたいが,このように教授の職が増えたことは,初めの頃を知る者にとって,正に驚きである。

最新の知見・治療を盛り込んだ内容

 内容をみると,初版にはなかった梨状窩瘻,出生前診断,生体部分肝移植,内視鏡下手術などが,それぞれ最新の知見をもって繰り込まれており,時代の進歩を思わせる。今日,小児外科の難治性3大疾患と考えられている新生児横隔膜ヘルニア,胆道閉鎖症,進行神経芽腫の他,食道閉鎖症,腸閉鎖症,臍帯ヘルニア・腹壁破裂,肥厚性幽門狭窄症,ヒルシュスプリング病,消化管重複症・小児虫垂炎,鼠径ヘルニア,鎖肛,先天性胆道拡張症,ウイルムス腫瘍,肝芽腫,悪性奇形腫,泌尿生殖器疾患,小児外傷など,随所に新しい知見や治療内容が盛り込まれている。この他,特によくまとめられている項目として輸液・栄養管理,心大血管疾患,脳神経系疾患などがあり,これらはいずれも小児外科の臨床上必須欠くべからざるものである。執筆者の各先生方が限られた枚数の中でいかに原稿の執筆にご苦労なされたかを拝察し,敬意を表するものである。標準教科書シリーズの中の1冊として広く読者にお勧めしたい。
B5・頁312 定価(本体6,800円+税) 医学書院


EBMを臨床現場で活用するために必要なこと

エビデンス精神医療
EBPの基礎から臨床まで
 古川壽亮 著

《書 評》神庭重信(山梨医大教授・精神神経医学)

 JAMAがEBMのレクチャー・シリーズを開始したのが1992年のことである。その頃からであろう,精神医学の国際誌をめくっていると,目新しい解析法や用語につまずき,もどかしい思いをすることが多くなった。メタアナリシス,intention-to-treat analysis, effect size, odds ratio, likelihood ratioなどの言葉が,最初はぽつりぽつりと,やがて一流紙のほとんどの論文に登場するようになってきた。ぼんやりとではあるが臨床研究の流れが変わってきたことを感じた。“このままじゃまずいな”という気持ちを抱きながらも,当時は,これらの用語を調べようにも適切な解説書が身近になかった。
 しかし,状況は一転した。EBMは医学の一用語として定着し,一般的な解説書の数も多くなり,どれを手に取ったらよいのか迷うほどである。だがEBMが身体医学を基礎に発展してきたために,どの本をみても,高血圧とか心筋梗塞をめぐる議論で終始するので,専門外の私としては,読み飛ばしたり,辞書のように用いることはあっても,とうてい読み通すことはできなかった。

EBMの全体像を理解

 古川壽亮氏が纏められた『エビデンス精神医療』は,従来のEBM解説書のイメージを払拭した傑作である。私がこれほどまでに熱中して読めた解説書は他になかった。身体疾患の例に加えて精神科の例がふんだんに用いられており,難解なEBMをこれ1冊で理解し,応用できるようにと,随所に工夫が凝らされている。明晰な文体は,「あなたならば,どちらの治療法を患者に勧めるか……」などと,医師のプロフェッショナリズムを挑発する巧みさをも兼ね備えている。400頁を越す大著であるが,最後まで興味をもって読み続けることができ,EBMの世界の全体像を理解できる。
 研修医がアルツハイマー病の患者を受け持ち,その幻覚妄想を治療しようとしている。その研修医があるオーベンに尋ねると,「老人だからハロペリドール1mg以上使うことはできない」と言われ,他のオーベンに聞くと,今度は,「副作用が現れない限り,3mgくらいまでならいいよ」と言われる。研修医は異なる意見の間で1人悩むことになる。一体どうしたら最善の治療法を見つけることができるのだろう。これは本書に出てくる一例である。ごくありふれた精神科の臨床現場をうまく写し取ったスナップである。

EBMの対象は治療法に限定されない

 目の前にいる患者さんの抱える臨床的な問題を回答可能な疑問形に定式化する,そしてその疑問解決に参考になるエビデンス(論文)を検索し,そのエビデンスを批判的に吟味し,患者のケアにその結果を最良な形(現時点での)で反映させるにはどのようにするのがよいかを考える。EBMはこの一連の臨床判断を導いてくれる。無論EBMの対象は,診断,検査,予後,副作用などにわたり,治療法に限定されるものではない。
 本書からは,“経験医学の最たるもの”とされてきた精神医療にもEBMが必要であり,すでに誰にでも実践できることを伝えようとする古川氏の並々ならぬ熱意が伝わってくる。しかし一部には,EBMによって,裁量権は言うに及ばず,その医師がこれまで受けてきた医学教育や臨床経験,それらすべてが否定されるような気にさせられる医師もいるだろう。経験豊富な医師たちほど,自分のスタイルを変えることが難しいものである。しかし,EBMを誰よりもうまく臨床に活用できるのもまた,経験豊富な医師たちに他ならないのである。これが,本書に織り込まれた著者からのメッセージである。
A5・頁448 定価(本体5,900円+税) 医学書院


世界に通用する細胞診断学アトラス 改訂第3版

Color Atlas of Cancer Cytology
第3版
 高橋正宜 著

《書 評》杉森 甫(佐賀医科大学長)

 細胞診の領域において高橋正宜先生の令名を聞いて久しいものがある。私が細胞診を始めた昭和36年頃,細胞診の教科書と呼べるものはパパニコロウ,グラハム,コスといった英語の本のみであり,和書としてはわずかに当時,中央鉄道病院の病理部長であった高橋先生が出された『癌の細胞診断』と日常検査法シリーズとして発刊された『細胞診』があるのみであった。しかし,その美麗な写真は洋書のそれをはるかに超えるものであって,まさに座右の書として重宝させてもらったものである。その後,国際細胞学会などに出席する機会を得て,高橋先生が国際的にも有名な細胞学者であることを知り,さてこそと思った次第である。やがて長年の研究を集大成された『Color Atlas of Cancer Cytology』が英文で出版され,世界に通用する細胞診断学の代表的な本が,ついにわが国から出されたことを大変誇りに感じたことを思い出す。

広い視野に基づいた詳細な解説

 今回『Color Atlas of Cancer Cytology』の第3版が出版された。本書はAtlasとされているが,その内容からいってTextbookと名づけられてしかるべきものである。単に細胞形態のみでなく,その病理学的背景はもちろん,臨床・疫学をも含めた広い視野に基づいた詳細な解説は,ご自身の長年の研究と実地経験を踏まえてのものだけにきわめて的確であり,類書に抜きん出たものとなっている。第3版では総論として免疫細胞化学,分子生物学,flow cytometryさらには遠隔診断といった最先端の事項が盛り込まれた他,各論では,穿刺吸引細胞診の発達によって急速に応用範囲が広がった甲状腺,唾液腺,胸腺などの新しい分野が含まれて,一層広汎に充実したものとなっている。特に縦隔や中枢神経系からの細胞採取などは,以前には思いもよらなかったものであり,その進歩の著しさに驚くと同時に,これらをいち早く取り入れておられる著者の研鑽ぶりに敬意を表するものである。
 著者も述べておられるが,細胞診は細胞を採取する臨床医,標本を作成してスクリーニングをする細胞検査士,最終的な判定をくだす細胞診断医のすべての人が,細胞診を理解し,正確な業務を行なって初めて正しい診断にたどり着くことができる性質のものである。その意味で,本書を細胞診断医のみでなく,広く臨床医,細胞検査士の方々にもお勧めする次第である。
A4・頁488 定価(本体25,000円+税) 医学書院