医学界新聞

 

【座談会】

21世紀の骨粗鬆症診療

骨の健康維持から骨折の防止まで


中村利孝氏<司会>
産業医科大学教授・整形外科

太田博明氏
東京女子医科大学教授・産婦人科

森 諭史氏
香川医科大学助教授・整形外科

白木正孝氏
成人病診療研究所所長


■骨粗鬆症診療の意義

骨の健康維持と骨折予防

中村<司会> 本日は,骨粗鬆症の臨床分野の第一線で活躍されておられる先生方にお集まりいただきました。
 骨粗鬆症診療は約20年前にスタートし,基礎研究の成果が臨床に応用できるようになり,いよいよ骨粗鬆症の治療が実際にできる目処が立ってきた時期にさしかかってきました。まさに20世紀後半の骨代謝研究の進歩の成果が,21世紀に入って花を開かせる時期だと思います。
 そこでまず,骨粗鬆症を診療する意義について,白木先生にお伺いします。
白木 人口構成が老齢者に偏ってきたという時代的な背景が大きいと思います。
 骨粗鬆症が問題にされるようになったのは,最初は大腿骨頸部骨折で,これは日本人にはそれほど多くはなかったのですが,生活様式の西欧化に伴って増えてきました。しかも手術法が進歩したとは言え,10-20%ぐらいの人たちが寝たきりになってしまい,運動能力を失う疾患として認識されてきました。しかし,最近は大腿骨頸部骨折もさることながら,日本人では脊椎の圧迫骨折が西欧の統計に比べて多いと言われるようになりました。この脊椎の圧迫骨折が起こることが,運動能力だけではなく,姿勢の問題やそれに由来する内臓障害といった多くの問題点を含んでいることがわかりました。考えてみますと,人間が80歳まで生きることは大変なことで,臓器の使用限界を越えているわけです。そういう方々のQOLを少しでも高めるために,骨の健康維持が重要なテーマになってきた,という時代背景もあります。
中村 運動機能がまず主眼で,同時に臓器の保護機能も骨の健康維持の重要な意義であるということですね。
白木 そういうことですね。

早期治療の必要性

中村 最近,骨の機能の重要性に対する認識が高まってきています。そして,骨量の減少が骨折の原因になることもはっきりしてきました。さらに薬物治療も進歩して,骨折危険域に達してもその危険性を下げられるようになりました。しかしそれでも,やはり早期治療と予防の必要性は変わらないと思います。太田先生,早期治療の必要性についてのお考えはいかがでしょうか。
太田 骨粗鬆症は明らかな退行性の疾患ですので,加齢が進めば必ずそれなりに骨量の低下が進みます。日本人の場合,女性は84歳,男性も70歳代後半まで生命寿命を獲得しております。白木先生がお話しになったように,人間の器官や臓器の耐用年数は50年ぐらいではないでしょうか。丈夫で長持ちさせるためには,それなりの対応をしなければなりません。早期発見・早期治療よりも1次予防が必要で,早くから手だてすれば,相応の効果が可能なのではないかと思います。逆に言えば,若い時に骨をたくさん獲得しておくことです。いずれは目減りしてくるわけですから,貯金を増やすことも重要です。そのためには,それなりの手だてが必要で,そういうことからいくと,YAM(young adult mean:若年成人平均値)を過ぎた頃から生活習慣に対する心がけが必要です。
中村 いまのお話で大変興味深く感じましたのは,「早期」と言う意味は閉経前後のことですが,昔ならばそれは必ずしも早期ではなく,活動性も落ちてくる,寿命も近づいてくる時期であったわけですね。骨量がピークを迎え,それから減り始めてくる40歳後半から50歳が老化現象のスタートになるので,そうしたところを治療の最初にしようというお話です。早期治療という考えが浸透しましたが,早期治療と言いますと非常に早期に,若い方では20歳代ぐらいからでもお考えになりますが,治療という意味では別だということですね。
太田 早期治療はあくまでもYAMを過ぎた40歳代後半になってから,というくらいに考えてよろしいのではないですか。

高齢者の骨折とQOL

中村 骨粗鬆症になりますと骨折を生じます。森先生,整形外科医のお立場から骨粗鬆症診療の意味づけをお聞かせいただけますか。
 整形外科医としては,骨折後の治療をいかにしていくかということが重要と思います。整形外科では骨粗鬆症に対峙する退行性疾患として,変形性関節症があげられますが,悪化する年代が50-60歳と閉経後と一致しますので,病気の進行には骨の脆弱性が必ず絡んでいると思います。ですから,今後は骨粗鬆症と変形性関節症は異なるという見方から離れて,骨の脆弱性をベースにした退行性変化の中で,いかに運動機能を維持するかという観点が必要になると思います。
中村 高齢者の運動器障害によるQOLの低下ということが重要で,そういう意味で今後は骨粗鬆症,変形性脊椎症,変形性関節症,退行性の骨関節疾患,なども視野に入れていきたいというお話ですね。
 そうですね。
中村 白木先生,骨折以外にも骨の臓器保護機能が消失すると,やはりQOL障害が起きてくるでしょうが,何か具体的な例がありますか。
白木 最も顕著に現れてくるのは,亀背の患者さんにおける逆流性食道炎です。厚生労働省の統計では,全人口では2%ぐらいですが,亀背を持っている人では47%ぐらいの人が逆流性食道炎を起こします。このことが食物摂取を制限させますし,食後にも耐えざる苦痛が襲ってきます。食という意味でのQOLはかなり低下せざるを得ません。さらに肺機能,心機能もかなり低下して,動き回ると息切れや頻脈になり,運動療法ができません。そういう意味でもQOLが低下します。背骨がまっすぐであるということは,われわれ二足歩行動物にとっては重要なことでして,これが曲がってくることによって内科的な意味でのQOLがかなり低下すると考えています。
中村 腹部臓器,それから胸部の呼吸循環臓器などにも重要な影響を与えるという意味で,骨粗鬆症のQOL障害をさらに広く見ていく必要があるということですね。
白木 もう1つ付け加えますと,これは太田先生の領域かもしれませんが,ほとんどが女性ですね。女性はやはり着飾って外に出たいものですが,その外観ゆえに疎外されますね。亀背になりますと,合う洋服もありません。そして,自分のボディイメージに対して悪い影響を及ぼしますので,「こんな体になって,もう外に出たくない」ということになり,どうしても家にこもりがちになります。そのような精神的な意味でのQOLもかなり大きいと思います。
太田 そうですね。産婦人科には骨折がないと考えておられる方もいらっしゃいますが,50歳代後半で3.8%ほどいます。心肺機能の低下など臓器の問題もあるけれども,女性性の喪失と言うのでしょうか,円背・亀背になった方が30年ぐらい生き延びるわけですから,QOLにさまざまな支障を来すということですね。
中村 骨粗鬆症診療は臨床症状がわかってくるにつれて,加齢のせいと思われていた臓器障害も,防護していた骨の機能障害に引き続いて起こってくるということがわかりました。今後,骨粗鬆症診療を考えていく上での大きなターゲットになりますね。

■骨の健康に影響を及ぼす要因

栄養嗜好品

中村 骨粗鬆症診療の意義を骨折防止と言うと単純に聞こえますが,その意味するところは,高齢者の運動機能の維持,または日常生活動作の維持にとって広い範囲の要素を含んでいることになりますね。そういったことで,骨の健康を維持していくということは高齢化社会では基本的に必要です。最近,さまざまな疫学研究・調査などによって生活状態が骨の健康に及ぼす要因がわかってきました。1つはカルシウム,ビタミンなどの栄養嗜好品の役割ですが,白木先生,どのように考えればよろしいでしょうか。
白木 多くの統計が,カルシウムを摂らないと骨粗鬆症になるという結果を示しています。最も有名なものは,ユーゴスラヴィアのMatokivicのデータです。そこから演繹して,HeaneyやDawson-Hughesの一派がカルシウムはどのくらい摂らなければいけないのかということを研究しました。それによりますと1500mgぐらい摂らなければいけないということです。そうすると,日本人のほとんどはそこまでは摂れていません。しかも,骨粗鬆症とわかっている人でも600-700mgぐらいしか摂っていないので,足りないことは事実です。しかし,これを増やす努力をどの年代からすべきで,どのくらい摂るべきであるかということに関しては決定的にエビデンスが不足しています。
 それから,カルシウムを供給する上で重要なビタミンDに関する問題があります。従来の栄養学からは,ビタミンDの血中濃度分布の平均値から2標準偏差を引いた値以下を異常と考えていました。これは分布上から見た異常値ですので,機能的な面から見た異常値とは言い難いところがあるわけですね。栄養素に関しましては,機能的な面から異常の有無を判定しなければなりません。
 例えば,従来はビタミンDが正常だと思われていた20ng/mlの付近で,二次性副甲状腺機能亢進が起きています。そういうことを考えますと,ビタミンDの必要量をもう少し見直すべきだと思います。
中村 栄養嗜好品ではカルシウム,ビタミンDが重要ですが,どのぐらいの期間か,いつ頃から摂れば効果があるのかについての具体的なエビデンスはまだありません。今後調べなければならないことはたくさんあります。最近,カルシウムの摂り過ぎが話題になっていますがいかがですか。
白木 あるタイプの人たちは,カルシウムを摂り過ぎると体調が悪くなることは事実です。ビタミンDに関しても,摂り過ぎは中毒を起こします。人によって必要量は異なりますが,今後はもう少しグループ全体の正常値を見直していかなければいけないと思います。
中村 最近,厚生労働省もカルシウムの摂取については上限を提示しております。実際,あのぐらいの量のカルシウムを摂るのは大変ですね。
白木 大変ですし,食品栄養の総体のバランスを崩してしまうことが多いです。「人間は,骨のみにて生きるにあらず」ですから(笑),他のことももう少し考えなければいけません。そう考えると,カルシウムはほどほどにして,その吸収を促進するような薬剤をもう少し付け加えておくことも必要で,それがビタミンDになります。
中村 両方を視野に入れた栄養の摂り方が必要だということですね。

運動と病気

中村 次に,運動をしますと骨が強くなるし,寝たきりになると骨が弱くなりますが,森先生,運動と骨との関係はどのように考えればよろしいでしょうか。
 先ほど太田先生からもお話がありましたけれども,PBM(peak bone mass:最大骨量値)を達成した後の運動に,はたして骨量増加効果があるかどうかが論じられてきましたが,さほど劇的な骨量の増加効果は,PBM以降には期待できないと思われます。そういう意味から,いかに高いPBMを若い時に達成するかが大きな課題ではないかと思います。
中村 40歳後半以前では運動はかなり骨を強くし,骨量を増やす効果はあるでしょうが,その後は運動の意味合いや意味づけが少し違ってきます。お年を取られてから運動をされて,骨が増えないことを残念がる必要はあまりないということですかね。
 そうですね。50-60歳の方の生活指導では,骨量増加効果よりむしろ維持効果を重視すべきだと思います。
中村 白木先生,運動は骨の健康維持に関して,どのように位置づければよいでしょうか。
白木 先ほど中村先生がおっしゃったように,よく患者さんは「せっかくこれだけ運動したのに骨が増えない」と言います(笑)。高齢者になって骨を増やす運動をすること自体が現実的ではないです。身体的な能力がついていかないし,またそこまで運動をしますと,関節障害を起すことがしばしばあります。従って,高齢者の運動に関しては,「転倒防止用の運動」が最大の目標になるだろうと思います。
中村 それが運動することの1つの具体的な目標になってくるわけですね。高齢者においては,運動の目的が変わってくると考えたほうがよいですね。
白木 そうですね。
 寝たきり寸前の患者さんに関する最小限の運動量がまだわかっていません。「ここまで運動していれば安全。それ以上はあまり無理しないでいいですよ」と言えるような指標を示せればよいのですが,その辺りが残された課題ではないかと思います。
太田 しかし,骨量測定をして経過を見ている方々は,測定していること自体で啓蒙・啓発されるので動機づけとなり,骨の健康のために食事や運動に気をつけますので,経過を見ていても骨量は減らないですね。維持効果は年代にもよると思いますが,更年期外来の50歳代を主体とした年代では維持できます。逆に,時とすると骨量が増えている方すらいますね。
中村 維持効果とバランス機能・転倒防止の2つの意味合いから,特に高齢者に運動を勧める場合は,「維持効果です。増えなくても普通ですよ」というようなアドバイスが必要なのかもしれません。栄養嗜好品と同様,一般的に運動はよいと言われていますが,どのレベルが運動不足で,どのレベルから十分かということもまだ正確には決められていないですね。
 この問題は,例えば高齢者の施設でどのぐらいの運動が適当であるかという指標の根拠にもなる重要な問題だと思います。
中村 そうですね。21世紀の骨粗鬆症診療において,解決しなければならない大きな問題の1つですね。
太田 確かに脂質代謝でもそうですね。食事と運動でどのぐらい改善できるか,という問題は骨量と同様に,その実態の把握が難しいです。
中村 病気で骨量が減ることがありますか。
 最大の問題は,多くの病気で観察される骨量減少が,病態的に病気の重症化と直結するのか,それとも病気の悪化に伴う二次的な不動化によるものかを鑑別することは重要ですが,実際には非常に困難です。代表的な二次性骨粗鬆症にはステロイド性があげられます。
中村 やはり社会的な認識も必要で,ステロイドホルモン治療を行なっておられる方は,骨量が減ってくると骨の健康が障害される可能性がある,ということは認識しておいていただかなくてはならないですね。

遺伝性

中村 次に骨格についてですが,親子は顔が似ているように,骨格も似ています。おそらく骨の中の構造や量も似ていると思います。これはどのように考えればいいですかね。
白木 遺伝性に関しては,昔から「ツインスタディ」と言って,双子で研究されています。それから,センセーショナルに出てきたMorrison & EismanのビタミンD受容体遺伝子多型の問題等々から,遺伝性が一時話題になりました。彼らによれば,78%ぐらいは遺伝因子で決定されてしまうそうです。その後,遺伝子の多型性と骨の関係がブームになりましたが,結論はかなり混沌とし,「あるポピュレーションで真実でも,他のポピュレーションでは真実でない」ということが次々と出てきました。
 私どもも7-8組の候補遺伝子を検討しましたが,データはかなりバラバラでした。その反省から,大体500種類ほどの候補遺伝子について網羅的に調べようとしています。と申しますのも,候補遺伝子の組み合わせは非常にバラバラです。つまり多因子病で,しかも多遺伝子病です。従って,遺伝子の問題は今後解決できると思いますが,かなり個人差があるものです。総体としては確かに遺伝子は効いているだろう,というのが現状ではないでしょうか。
中村 そうしますと,先ほど申し上げましたように,親が子に,また子が親に似ているというぐらいの遺伝性で,疾病起因遺伝子が引き継がれていくのではない,と考えたほうがよいということですね。
白木 そうですね。正確に言えば,ある人は起因遺伝子が遺伝する場合もあるでしょうし,骨格形成遺伝子が遺伝する場合もあるということですね。単一遺伝子病ではないということです。

閉経と老化

中村 次に閉経の問題ですが,太田先生,どれぐらい影響があるとお考えですか。
太田 生殖機能を終えて生き延びているのは人類だけです。他の動物は月経がある間に生命の終焉を迎えますが,人類だけがエストロゲンが低下しても生息しています。私どもの検討では,閉経前の5年間にもうすでにYAMから5-10%ぐらいの骨量の減少があります。一時的なホルモン低下でそういう影響があり,閉経後10年間にロングのスタディですと15.2%,クロスでは20%の減少でした。ですから,そこで見ますと,すでに閉経後10年というと60歳になり,ほぼ20%-30%減っています。つまり骨減少症になります。原発性骨粗鬆症診断基準の実測値をプロットしてみますと,平均的には60歳で骨減少症になっているわけです。また,60-70歳の10年間ではたぶん5%-10%ぐらいしか減らないのではないかと思います。そういうことから,70歳でYAMの30%以上減り,骨粗鬆症になりますので,閉経はそのくらい影響が大きいのではないかと考えています。
中村 必ずしも閉経でエストロゲンがなくなったことで全員が骨粗鬆症になるわけではないけれども,骨粗鬆症に近いところまで骨を減らしていくということですね。
 閉経の他に,先ほどのカルシウム,ビタミンD,老化などが重なって病気になると考えればよろしいですか。
太田 そうですね。
中村 白木先生,老化の影響については,どのようにお考えですか。
白木 老化そのものの影響の他に,老化に伴う異常も修飾因子となってくるため複雑です。ただ言えることは,老化とともに細胞の量が減ります。従って,骨を作る細胞も骨を削る細胞も減りますが,特に骨を作る細胞の減り方のほうがより大きい。削るほうの細胞は,なぜか生き残る。つまり,骨の持つ第一義的な意義は,骨を削ることによってカルシウムを供給するところにあるのではないかと考える1つの根拠になっています。これが老化だと思います。
 閉経とエストロゲンと骨量の関係ですが,日常診療で人工閉経された患者さんの術後を見ていると,骨がよく減る人とあまり減らない人がいますが,どうでしょうか。
太田 個体差がありますね。HRT(hormone replacement therapy:ホルモン補充療法)を行なっても,年間に10%近く増える人や逆に5-6%も減る方がいます。個体差と言うか,病態差があるのではないでしょうか。
 どこが違うのでしょうか。
太田 骨代謝回転が異なるのではないかと思います。このように病態に多様性がありますので,どのように診ていくかが問題になります。後ほどお話に出てくると思いますが,新しい骨代謝マーカーを使うことである程度把握することができるのではないかと考えています。

■骨粗鬆症の診断

骨の病態(症状)の捉え方

中村 次に骨粗鬆症の病態という話題に移ります。まず骨代謝について,白木先生,どのように変わっていくのでしょうか。
白木 閉経や加齢現象を通じて骨代謝が非常に活発になっていきます。この程度は,子どもの骨代謝と匹敵するほど活発になっていますね。骨代謝が活発になりますと,それだけサプライヤーも一所懸命働かなくてはいけない。ところが残念なことにサプライヤーの機能も低下している。従って,骨代謝に供給するもとがなくなっていきますので,骨が減らざるを得ないことになります。
中村 通常,年を取ってくると代謝は弱く,鈍くなってくると考えられますが,骨についてはむしろ活発になってくる。そのために,骨の原材料の供給が十分にできなくなる。そういう乖離が,骨が減ってくることの基本にあるということですね。内科や老人科の先生方は,歴史的にカルシウム内分泌代謝から骨粗鬆症を研究・診療されてきたと思います。ビタミンDについてはどのように考えればよいのでしょうか。
白木 カルシウム代謝が骨粗鬆症の発症に関わっていることを最初に発表されたのは,実は日本の藤田拓男先生です。
 骨粗鬆症の患者さんの一部では血中のPTHが高い。そのPTHが高いのは二次性の副甲状腺機能亢進症である。なぜかと言えば,加齢とともにカルシウムの摂取量が少なくなり,腸管からのカルシウム吸収量も少なくなって,そして結果的に副甲状腺機能亢進状態になって骨が溶けていく,という「カルシウムセオリー」を出されたわけです。
 その後世界の学者たちが検討して,ほぼ真実であるということになりました。そこで,カルシウムの摂取量を増やすか,腸管からのカルシウムの吸収量を増やすことが次の目標となり,活性型ビタミンDが出てきたという歴史的な流れがあります。
中村 高齢になって骨の代謝が高まる。そして,その影響でカルシウム内分泌系全体の代謝異常が起きてくることが基本になっているわけですね。女性ホルモンがなくなると骨が減ってきますが,骨の代謝に及ぼす影響はどのようになるのでしょうか。
太田 カルシウム調節ホルモンに対する全身的,あるいは間接的な作用もありますが,骨局所にも直接的にさまざまな影響を及ぼしています。骨髄の微小環境が変わってまいりまして,それを説明する理論として「B細胞セオリー」や「サイトカインセオリー」があります。このようにして,骨吸収のサイトカインが活発化して骨吸収が高まるのに対して,女性ホルモンは骨吸収,骨の溶け出しを抑制しています。それが女性ホルモンの血中濃度が下がってくると,骨が溶け出すわけです。
中村 女性ホルモンも骨の代謝を調節している。カルシウム内分泌系とは別個な系統として存在し,閉経によって骨の代謝がよけいに高まるということでしょうか。
 森先生,骨代謝の他に,骨折の視点からご説明願えますか。
 整形外科の立場から見ると,骨折が中心になりますが,私が取り上げたいのは,脊椎の圧迫骨折です。脊椎圧迫骨折の過半数はいつ骨折したのか不明な不顕性骨折でありますが,はたしてこれらの骨折は本当に骨折であるのかという疑問があります。骨量が減少し,骨が弱くなって起きる変形(deform)と定義したほうがよいのではないかと考えます。
中村 臓器としての骨を考えると,骨折も変形の一種である。運動機能からはそういう捉え方もできるわけですね。
 微小環境で見ますと,脊椎の海綿骨では微小骨折(microfracture)が起きて,それが修復されることが報告されています。椎体内では変形はなくとも,小さな骨折が生理的レベルで起きていると考えられます。椎体の変形はこのような微小骨折が蓄積されて起きてくるのではないでしょうか。白木先生が言われたように,骨折の修復が低下すると変形が起きやすくなることも考えられます。ですから,老化というのは修復機能の低下とも捉えられるのではないかと思います。
中村 これは広い意味での骨の代謝かもしれませんが,いわゆる通常の形が維持された状況での代謝と別個に,骨の小さな破壊がある程度の頻度で起こっている。それによって修復起点が起こっているというような,「生理と病理の間のような現象」も骨の中で起きているのですかね。

検査:骨量測定と骨代謝マーカー

中村 診断の話に移りますが,2000年に日本骨代謝学会から出た診断基準(表参照)についてご意見をいただけますか。
 病態の話の際にも出ましたが,生理的なものと病理的なものの一線をどこに引くのかが難しい疾患ではないかと思います。そういう意味で,日本骨代謝学会が苦労して作られた骨量の基準は,1つの叩き台として使いやすいと考えております。患者さんには何かを指標にして,「あなたは骨粗鬆症です」とか,「違います」と言わなければなりませんので,よい基準を作ってくださったと思います。
太田 骨の脆弱性を評価する方法として,骨折を見るのは重要だと思います。国際的には,単純なX線ではまったく評価していないようですが,まず骨折があるということは骨が弱くなっている,ということは間違いないのではないでしょうか。過度な外力が加われば別ですけど,通常は間違いないし,それに加えて骨の強度の8割方を評価できる骨密度で骨量を評価するのは意義があって,それなりの完成度の高い診断基準ではないかと思います。
中村 骨折と骨密度という二本立ての診断基準は意義があるというお考えですね。
白木 先ほど森先生がおっしゃった問題点は,あらゆる老年病に当てはまる問題ですね。つまり,老年病の疾患は必ず連続性の疾患です。ある検査値の異常が連続して起こってくることによってある病態を引き起こしてくるのが老年病の特徴です。
 例えば特異なフェノタイプを来すような疾患に比べますと診断効率が落ちるのは避けられません。そういう意味では,この診断基準の効率が約77%ぐらいを確保しているのは実は驚異的なことです。
中村 診断効率の高さ,感度と特異度という面からも現行の基準は妥当ということですね。
白木 ええ。
中村 診断における骨量測定はX線撮影と骨量測定の2つが重要ということは,先生方の共通するご意見だと思います。
 一方,最近「骨代謝マーカー」というものが出てまいりました。先ほど病態のところで話題になった「骨代謝」の問題です。 代謝が加齢に伴って高くなってきて,そして骨が減ってくるというわけですが,骨代謝を直接評価するこの骨代謝マーカーについては,先生方はどういうご意見をお持ちでしょうか。
白木 現在,いくつかの骨代謝マーカーが保険診療でも認められています。骨代謝マーカーは患者さんの現在の病態を知る上では,きわめて重要な診断項目だろうと思いますが,その値の算定に関してはかなり混乱があることも事実です。例えば,骨粗鬆症は全例骨代謝マーカーが高いであろうとお思いになるかもしれませんが,必ずしもそれほど高くない例もありますので,診断内容に関してはかなり混乱しています。
 ご注意していただきたいことは,骨代謝マーカーは現在の骨代謝を反映する道具であって,過去のこと,それから未来のことを反映する道具ではないということです。過去に高い時期があって現在の骨密度が形成されているわけですから,現在低かったからと言って,それが骨粗鬆症を否定するものではない。そういう使い方をされればよいと思います。
中村 大変重要なご指摘です。骨代謝は確かに加齢とともに高くなっていく。しかしまた同時に,夜は高くなるけれども昼間は下がってくるような「日内変動」もある。骨の代謝は細かく動いているということがわかってきました。
 そういった意味で,骨代謝マーカーの1回の測定値は,診断上はあまり重要視しなくてもよいかもしれない。やはりX線と骨量測定が重要だということになりますが,実際に骨代謝マーカーを使う場合,どういうことを期待して使うのがよいのでしょうか。
太田 ご指摘のように,X線写真と骨密度と,病態を把握するためには骨代謝マーカーも補完するものですね。日内変動もあれば個体差も大きいですから,その評価は難しいですが,最大の目的はやはり治療効果の評価ではないでしょうか。
 特に骨吸収抑制剤使用時の治療評価の指標には十分に可能で,アメリカでも骨吸収抑制剤使用時の,特にNTxをメインとしたモニタリングのガイドラインが出ています。このNTx値を治療の指標に使って,特にビスホスフォネート中心だと思いますが,3か月後のNTx値で確か38nM BCE/mM Cr以下,あるいは開始時から30%以下に低下していれば治療効果があり,以後,年1回の骨密度とNTxで経過を見ればよいし,NTx値がそこまで低下しない場合には,服薬のコンプライアンスも含めて再評価しなさいということです。骨代謝マーカーは,治療効果の測定に使うには一番よいのではないかと考えております。
中村 治療効果を見るために,1回ではなく何回か測ってみて判定する,という使い方をすべきだということですね。逆に言えば,モニターとしては非常に有用な武器が出てきたということですね。

治療と骨折防止

中村 そういう意味で診断におけるX線撮影,骨量測定,そして治療面での骨代謝マーカーなどが出てきて,骨粗鬆症の臨床面が整備されてきたと思います。ところで,骨粗鬆症治療で骨折は防止できると言えるのでしょうか。
 最近,EBM(Evidence-Based Medicine)に基づき,多施設の大量のデータをもとに薬物による骨折の予防効果を評価したデータが多く出てきました。しかし,診察室で個々の患者さんに対峙しているわれわれには,まだ治療効果があがってきたという実感を感じていないのが現状ではないでしょうか。一整形外科医として,毎年,大腿骨頭頸部骨折が増えているように感じます。
中村 非常に正直なご発言ですね。予防的治療というものは,一般に手応えという意味でよくなってくるというものがない。先ほどのマーカーや骨量などをモニターしてきちんと見ていくと,それなりの手応えがある時代にはなってきたが,骨折が防止できたということは,なかなか実際の手応えでは感じられないということでしょうか。
 骨量は別にして,患者さんに1年間しっかり生活指導を行なうと,明らかに患者さんのQOLが高まったなという実感が持てることはあります。

表:原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)
 低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。
I.脆弱性骨折(注1)あり
II.脆弱性骨折なし
 骨密度値(注2)脊椎X線像での骨粗鬆化(注3)
正常
骨量減少
骨粗鬆症
YAMの80%以上
YAMの70%以上80%未満
YAMの70%未満
なし
疑いあり
あり
(注1)脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満,あるいは脊椎X線像で骨粗鬆 化がある場合)が原因で,軽微な外力によって発生した非外傷性骨折,骨折部位は脊椎, 大腿骨頸部,橈骨遠位端,その他。
(注2)骨密度は原則として腰椎骨密度とする。ただし,高齢者において,脊椎変形など のために腰椎骨密度の測定が適当でないと判断される場合には大腿骨頸部骨密度とする。 これらの測定が困難な場合は,橈骨,第二中手骨,踵骨の骨密度を用いる。
(注3)脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は,従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行なう。
脊椎X線像での骨粗鬆化従来の骨萎縮度判定基準
なし
疑いあり
あり
骨萎縮なし
骨萎縮度 I 度
骨萎縮度 II 度以上

■骨粗鬆症の治療

治療の目的

中村 EBMによって得られた結果がわれわれの診療をリードするということが,今後ますます必要になってくると思います。EBMの立場に立つと,世界的には骨折防止が可能になりつつあるのが現状でしょうが,そのような状況の中で,実際の先生方の治療を簡単にご説明願えればと思います。森先生は先ほど「日常での治療の目的はQOLの改善である」と言われましたが,あらためてどのようなことをめざして治療に当たられているのかをお聞かせいただけますか。
 私の診療手順は,初診の患者さんが来られた時は,まず栄養,運動,遺伝性などのリスクファクターのチェックから始めます。なるべくこれらの因子を排除して,日常環境を整えた上で,さらに不足であれば薬物治療を導入することが原則と考えています。例えば姿勢の問題にしても,脊椎圧迫骨折は円背の原因になると言われていまが,骨折がなくても円背の方がかなりいます。円背になると直立姿勢を保つために余分な背筋力を使わなければいけないので,背筋力がないとすぐに円背が出現してしまいますが,圧迫骨折のある患者さんの背筋と下肢の筋力をいかに維持していくか,ということも大切な問題かと思います。そうなると,診察室での診療だけでは,多くの制約と限界があることを痛感いたします。今後は,診察室から出た治療展開が必要ではないかと思います。
中村 そういう意味では,EBMでリードされて,骨折防止がある程度可能であるというのは大きな成果だろうとは思います。

薬物とその特徴

中村 次に先ほどお話に出ました薬物治療についてですが,太田先生,どのように治療なさっておられるのですか。
太田 女性の健康管理という視点に立って考えますと,骨粗鬆症も生活習慣病の1つと考えられます。このような患者さんは高脂血症,高血圧,耐糖能異常,肥満などがあったりすることを考えますと,やはり幅広い効能を持つエストロゲン製剤が第一選択薬となります。しかし骨だけにターゲットを絞れば,骨密度の増加効果が高い,骨折防止効果が顕著な薬剤としてビスホスフォネートがエストロゲンに勝るとも劣らない薬剤と考えます。そういう中でビタミンDやKという薬剤も,骨量の増加はもう少しですが,今後の骨の健康管理,健康支援という意味合いで使う場合もあります。
中村 1つは女性の健康維持という意味でのエストロゲンですね。もう1つは,骨の量を増やして強くする代謝を制御する薬物。それからビタミンDやKのような健康維持の薬物,という使い方のようですが,白木先生はいかがでしょうか。
白木 私が診療している患者さんは,若年から高齢者までさまざまですので,薬もかなりバリエーションに富んでいます。
 治療の最大の目標は,もちろん骨折の防止ですが,他にも「痛み」ということも目的とせざるを得ません。「痛み」に対してはカルシトニンが最もよい適用になります。ただし,これは骨折予防効果を確認するまでコンプライアンスが続きません。週に1度,外来に注射に来なければいけないというデメリットがあります。その他の薬剤に関しては,大まかに考えて,骨密度が非常に低くてハイリスクな方には,骨吸収抑制剤が骨折の予防効果もかなり高いことは明らかですので,ビスホスフォネートとエストロゲンを使うようにしています。エストロゲンは高齢者でも有効性が高い。
 それから面白いことに,それほど骨密度が下がっていない人たちに対して,ビスホスフォネートやエストロゲンが骨折を予防する能力がどの程度あるかを検討しましたが,意外にありませんでした。むしろビタミンKやビタミンDのほうが,このように初期の骨粗鬆症例では骨折を抑える能力が高いように見受けられます。まだ完全な統計データではないので,その辺をもう少し詰めようかと思っております。
中村 俗な言い方をしますと,骨密度量が少し低いというような方には,はっきりとした骨代謝調整効果のある薬剤は,必ずしも骨折防止という意味では目に見えた効果は出てこない可能性がある。むしろそういった場合には,健康維持の薬物のほうがよい可能性があるということですか。
白木 はい。
中村 今のご指摘は薬物の特徴づけとして非常に重要な点です。今後さらにEBMの原則に基づいて,さまざまな特徴を持った薬剤が位置づけられていくと,わかりやすくなるのではないかと思います。

治療効果のモニター

中村 治療効果のモニターについては,先ほど骨量測定と骨代謝マーカーということで,ずいぶん楽になってきたというお話ですが,太田先生は,骨代謝マーカーは治療を始められてからどれぐらいでお測りになるのがよいとお考えになっていますか?
太田 骨吸収抑制剤では,効果がある場合は2週間でもという話もありますが,通常は3か月ほどで反応が出てくると言われています。
中村 骨量が6か月ぐらいでわかってくるのに比べれば,半分ぐらいの時期でわかるわけですか。これは非常に意味があることですね。1年以上経ちますと脊椎圧迫骨折等が問題になり,骨折の判定が課題になります。先ほど骨折でなく形がじわじわ変わってくるタイプの骨の変形の話が出ましたが,脊椎圧迫骨折の判定は日常診療ではどのようになさっておられますか。
 骨代謝学会で決めた椎体高を前中後で測って,その割合によって判定するわけです。しかし,実際にX線写真に向かいますと回旋が加わり,計測が困難な例も多くみられます。ただし,1枚のX線写真だけで骨折の有無を判定するのが困難な例でも,毎年X線撮影をして前年の写真を比較するのであれば,その変化はわかりやすいと思います。
中村 臨床症状の有無に関わらず年に1回は脊椎のX線を撮って,椎体の変形の具合を見ることも重要ですか。
 そうですね。

■21世紀における骨の健康支援と運動能力の維持

中村 21世紀は,骨の健康という問題を正面に据えて考えられる世紀だと思います。最後に今世紀への展望を踏まえ,骨の健康支援と運動機能の維持という問題について,ご意見をお伺いしたいと思います。
白木 栄養嗜好品に関して申し上げますと,最近,ビタミンKが特に骨折に関係しているというデータがフランス,イギリスおよびアメリカから出されました。骨密度に関してこの栄養物はあまり関係ありませんが,骨折に関してはかなり関係が深そうです。また,ウィスコンシンのSuttieのグループが,ビタミンKの血中濃度を調べました。機能的にGlu-Osteocalcinのレベルから見ると,アメリカ人の78%はビタミンK欠乏状態にあると発表しています。このことから考えても,ビタミンは血中濃度のみならずあくまでも機能的に評価しなくてはいけないと考えます。
太田 私ども婦人科領域においても,骨粗鬆症診療が果たした役割は大きいですね。どうしてかと言いますと,中高年女性の健康管理と言いながらも,従来の婦人科は更年期障害だけに対応していたのですが,よい診断基準ができ,また測定器の精度が向上したことによって,産婦人科医でも取り組みやすくなり,今や更年期障害ばかりでなく,高脂血症と並んで骨粗鬆症も更年期外来の3本柱になりました。そして,骨量を測ることが中高年女性の健康の動機づけになっています。そういう意味では婦人科で骨粗鬆症を取り扱うことの意義があったと考えています。
 健康と運動機能の維持ということでは,骨が脆弱化した骨粗鬆症の患者さんでは運動したら,また骨折するのではないかという懸念がいつもつきまといます。このような患者さんを上手に運動させ,QOLを高めることが大きな課題です。診察室で患者さんを診療するというレベルではとてもその課題を解決できません。高齢者の日常の生活に密着した治療が必要になってくるのではないかと思います。そういう意味では,医師だけではなく,コ・メディカルやさらには他業種との連携がぜひ必要になると思います。
中村 骨の健康維持の問題は,高齢化社会を迎え,社会全体として取り組むべきだということですね。
太田 トータルケアの1つとして骨の健康があるわけですね。
中村 セクシャリティということもそうですね。
太田 そうですね。これも非常に重要な問題ですね。
白木 骨を足かがりとして,全身を見るようになったということもありますね。
中村 本日は3人のエキスパートの先生にお集まりいただきまして,骨粗鬆症診療の意義,それから骨の健康に及ぼすさまざまな要因,そして診断から治療までお話しいただきました。今後はおそらく,高齢化社会の到来とともに骨粗鬆症診療が運動器,骨の疾患の中では最も先頭を切って進んでいける疾患になったのだろうと思います。そういった意味では,骨粗鬆症診療を1つの牽引車,突破口として,高齢者の骨の健康維持と運動機能の維持,年をとってもきちんと五体満足に歩いて日常生活を楽しめる,そういうような時代が来ることをめざして,骨粗鬆症診療がさらに進んでいくことを期待しております。
 先生方,今日はお忙しいところをありがとうございました。