医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護管理者の3つの条件,知的な勇気とセンス,豊かな表現力

対談 私たちの看護管理実践
紙屋克子,住吉蝶子 著

《書 評》西元勝子(固定チームナーシング研究所)

 おもしろい。経験と理念に基づいた体験談は実におもしろい。あるべき論ではなく,著者2人の実践的看護管理論が満載されている。私は常日頃,管理は知的な勇気とセンスが決め手になると考えている。しかし,この本を読んで組織の管理者にはもう1つ能力が必要だと思った。それは,自己の信念をその体験を通して魅力的に仲間に伝えられる,豊かな表現力である。それがないと優れたリーダーシップはとれないと実感した。これらの条件を備えた2人の著者が,テニスコートで意気投合して日米の看護管理をテーマにラケットで打ち合っているような,今までにないムードの看護管理読本である。経験を話しながら夢を語り,日米双方の医療保険制度や医療組織の違いを述べながら2人の対話は続く。

現状分析から問題解決志向で論じる

 管理の説明をする時に必要なことは,どのような現場でその看護管理が実践されたのかだが,この点がどの話の中にも出てくる。現状分析から問題解決志向で論じられていて納得できる。
 著者の1人である住吉蝶子氏の勤務された米国のプロビデンス病院の現状が具体的なデータで説明される序章から始まる。ベッド数と職員数の割合など,日本の病院,勤務している病院と比較しながら,問題意識を持って批判的に読むと興味深い。
 第1章「人を育てる」では,ヴィジョンの共有化をどのようにするかが,プロビデンス病院と紙屋克子氏が看護部長として勤務された札幌麻生脳神経外科病院での場合とで述べられている。プロビデンス病院では病棟婦長にスタッフナースの採用権(人事権)があり,現在教育の費用等もそれぞれの現場婦長(ナースマネジャー)が責任と権限を持って運営しているという。日本では沖縄県浦添市の浦添総合病院でも同様なことが実践されたと聞いたが,日本の多くの病院では看護部長には採用権はない。日本の雇用とローテーションの実状や人件費・人事権を持たない看護部の話など2人の話の中から,看護の展望をイメージして大いに刺激を受ける。
 第2章「スタッフの育成」では,リーダーシップとコミュニケーションを中心に看護観・教育観が述べられている。看護界でも豊かな表現力を高く評価されている紙屋氏がコミュニケーション能力について語っている中で“自分自身の欠点を克服する”という小見出しのついた頁は感慨深い。
 こうして第6章まで続くのであるが,どの章にも臨床看護現場で,今話題のテーマが盛り込まれている。読みやすさの1つは対話のテーマと小見出しのおもしろさである。例えば看護とコミュニケーションの項の“バイタル語,皮膚語ってわかりますか?”,管理と人材育成の項の“後継者育成のポイントは変化に対応できること”,変化を起こすの項の“1年後,3年後,5年後と段階を追って夢を実現する”などである。またカットが楽しい。
 さらに終章「医療におけるリスクマネジメント」の資料1「患者の安全と組織看護管理」を紙屋氏が,資料2「リスクマネジメントと看護者の役割」を住吉氏が担当しているのも今,現場の管理者に参考になる。
A5・頁208 定価(本体2,000円+税) 医学書院


PTCAに携わるすべての医療スタッフのための実践書

PTCAスタッフマニュアル
湘南鎌倉総合病院心臓カテーテル室 編

《書 評》川中秀文(小倉記念病院心臓カテーテル室長・放射線技師)

 近年,心疾患の新しい診断法の進歩にはめざましいものがあり,それらを駆使すればきわめて精密な診断が可能となってきた。その進歩には心エコー,X線CT,SPECT,MRI,などの画像診断法が寄与しているが,心臓カテーテル検査法が安全に施行できるようになったことが,診断技術の進歩に最も大きく貢献したと言われている。1977年,Gruentzigが初めてPTCAに成功して以来,冠動脈造影という元来,侵襲的であった検査法は,PCTAという虚血性心疾患の治療法の発展と普及とともに,患者さんにも認知された感がある。わが国でも80年代半ばにはすでに虚血性心疾患の重要な治療法の1つとなり,以来,飛躍的に増加の一途をたどっている。

心カテ室にこの1冊を

 従来,心臓カテーテル検査法やPTCAに関する専門書は数多く出版されている。そのほとんどはこれらの技術に精通した経験豊富な循環器専門医によって,これからカテーテル技術を習得する医師のために執筆されたものである。残念ながらコメディカルスタッフのために書かれたものはほとんどなく,当然,本書のように放射線技師,検査技師,臨床工学士,看護婦(士)など各職種の方々が,それぞれの視点で書かれたものは今まで皆無であった。
 心カテ室に配属されるコメディカルのほとんどは,心カテ室での専門知識のないままに新人として,または業務の都合上,配置転換などの理由で心カテ室勤務となる。中にはそのために不安からカルチャーショックに陥ることもある。『PTCAスタッフマニュアル』を拝読し,まず感じたことは,本書が1冊あれば数える側も教わる側も「これ1冊でもう安心」ということである。心カテ室での業務における入門的な基礎知識から検査,治療時の重要な注意点,患者さんへの配慮など,各職種の方々が細部にわたってわかりやすく解説されている。
 本書の構成は診断カテーテル,PTCA,緊急カテーテルが段階づけて分けられており,それぞれの業務の流れを明確に把握できるようになっている。また,各職種における注意点について細かく記載があり,必要な時にすぐに対応できるように構成されている。

患者さんのためにどうするか

 PTCAは熟達した医師個人の技術のみに頼るものではなく,各職種のスタッフが質の高い技術や環境を提供することにより成立する。また,患者さん中心のチーム医療の重要性を認識することが不可欠であり,そのためにわれわれは努力していかなければならない。
 本書は,医師や心カテ室勤務者にすぐに役に立つ技術解説書でありながら,患者さんのためにどうすればよいかをたえず考えながら書かれたものと確信する。湘南鎌倉総合病院心カテ室に勤務されている優秀なコメディカルスタッフの方々のご努力に敬意を表すとともに,本書をPTCAに携わる多くの方々に読んでいただきたい。
B5・頁180 定価(本体3,500円+税) 医学書院


医療者-患者関係の「異文化性」に気づくために

話せる医療者 シミュレイテッド・ペイシェントに聞く
佐伯晴子,日下隼人 著

《書 評》丹野義彦(東大大学院総合文化研究科助教授・臨床心理学)

隠される不幸な経験

 医師とのやりとりで不愉快な思いをした経験は誰にでもあるだろう。特に大きな病院や大学病院でそのような話をよく聞く。しかし,患者の側は,不愉快や気持ちを面と向かって医師に表すことはほとんどないだろう。その場では「はい,わかりました」と言って,家に帰ってから不満を家族にぶつけたり,近所の人に「あの病院には行っちゃダメだ」と言って憂さを晴らすくらいが関の山である。
 それが悲しい現実である。医療事故がメディアで騒がれたり,医療訴訟が増えたりといった医療不信の底には,こうした医師との不幸な経験が積み重なっている。医師には患者とのコミュニケーションをぜひ勉強してもらいたいものである。

「模擬患者」という仕掛け

 この本は模擬患者(シミュレイテッド・ペイシェント)について書かれた本である。模擬患者というのは,医学生の訓練のために,特定の疾患の症状を再現するように訓練を受けた患者役のことである。患者役になって,症状を話したり,質問に答えたりするのである。はじめは医師の診断能力を上げるために取り入れられたのだが,最近では,患者とのコミュニケーション能力を高める医学教育として注目されている。日本でも2004年の医師国家試験から,模擬患者を取り入れたオスキー(OSCE;客観的臨床能力テスト)を導入することを検討中だという。
 医療にはサイエンスの部分とアートの部分があり,その両方が必要だと言われる。しかし,サイエンスの教育はしっかりしているのに,アートの部分,つまりこころの部分の教育はまだ未開発なのである。
 この本の著者は,医学部などの学生の面接実習に,ボランティアの模擬患者として10年以上協力している。この本には,模擬患者の実際のシナリオや,それを医学生や看護学生に実施した記録や,ずっと活動を続けてきた著者らの感想や対談などが収録されている。いろいろな側面から模擬患者のことがよくわかるように作られている。たいへんわかりやすい。

お説教ではない,ヒントにあふれた本

 著者によると,医療者と患者のコミュニケーションは,ちょうど異文化交流であるという。すれ違いと誤解に満ちている。医療者の側はそれに気づかない。本書を読むだけでもいろいろなことに気づかされる。
 例えば,「アナムネ」「ポリクリ」「既往歴」といった専門用語は患者にはすぐ理解できず,すれ違いを広げるばかりである。また,あいさつをしなかったり,敬語を使わずに話したりするのも患者には失礼である。こうしたことは誰にでもわかることなのだが,医療の現場にいると気づかなくなる。それに気づく訓練をするのが模擬患者との面接なのである。
 アドバイスは決してお説教的ではない。実際の模擬患者は相手のプライドを傷つけるような言い方はしないのだという。多くの医師(医学生)や看護婦(看護学生)と交流してきた著者の目はたいへん暖かい。
 患者の気持ちを少しでもよく理解するために,医師や看護婦の方にぜひ一読していただきたい本である。できれば模擬患者との面接を一度体験してみるとよいかもしれない。
A5・頁190 定価(本体2,000円+税) 医学書院