医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


教科書では学ぶことのできない臨床経験に基づいたマニュアル

呼吸器病レジデントマニュアル
第3版
 宮城征四郎 監修/石原享介,谷口博之 編集

《書 評》足立 満(昭和大教授・内科学)

 本書は,本邦における臨床研修医を対象にして執筆された,呼吸器疾患研修用のコンパクトでありながらも内容の充実したマニュアルである。第3版監修の宮城先生,編者の石原,谷口両先生は現在日本の臨床呼吸器病学界における代表者の方々である。執筆者の顔ぶれも日常診療の第一線で活躍しているエキスパートが選ばれており,本書の内容の充実度がこのことからも推し量られる。呼吸器病学を研修中の研修医にとっては,教科書では学ぶことのできない臨床経験に基づいた内容がふんだんに盛り込まれているので,本書を臨床の現場に携帯すれば,臨床における疑問や不明点をその場で解決していく際に,非常に力となると考えられる。

臨床呼吸器病学研修の力強い味方

 第3版の序で編者らは,「臨床医学というアートは,サイエンスのエキスがプラクティスという土壌の中で発酵し円熟し完成品に近づいていくものである」と述べている。つまりこれは,臨床研修を通じた日々の研鑽の中で,EBM(Evidence‐based Medicine)に基づいた科学的な思考方法を学び,これに臨床経験を蓄積し,臨床医としての力量を高めていくことの重要性を示している。これは,よい指導医によって十分な臨床研修がなされていけば理想と考えられるが,現実には研修医は昼夜を分かたず多忙を極めているために,問題に遭遇した場合でも十分な調査,検討ができない場合が多いと考えられる。このような際に本書を利用し,時間的制約の中でも有効かつ適切なアドバイスを得ることは,執筆者らが意図するところの1つであろう。本文中の図表などもわかりやすくまとまっており,本書の特徴をうまく使うことにより,臨床呼吸器病学研修への力強い味方となるものと期待される。
B6変・頁468 定価(本体5,700円+税) 医学書院


日常診療に対応する新しいスタイルの教科書

Kelley's Textbook of Internal Medicine
第4版
 H. D. Humes 著

《書 評》後藤淳郎(東大助教授・腎臓内科学)

 『Kelly's Textbook of Internal Medicine』の第4版が出版された。周知のようにアメリカにはすでにHarrisonおよびCecilという2つの代表的な内科学教科書が,前者は病態生理の優れた記述を,後者は疾患の基礎とのつながりに基づく体系的な記述を,それぞれその特徴として長年にわたって確固たる地位を築いている。
 このような状況の中で,およそ10年前にあえて新しい内科学教科書としての『Kelly's Textbook of Internal Medicine』の第1版が刊行された意図は何だったのであろうか?

臨床現場の現実を解決する

 それは筆者が信ずるに,時として書斎に飾られてしまうのではなく,もっと診療の現場と密接に結びついた実際的な新しいタイプの内科学教科書が必要であるという確信ではなかったか? この線に沿って,本書はそのスタート時から一貫して「すべての患者さんは教科書に記載されている疾患そのままに医師の前に現れるのではなく,まず症状があり,それを訴え,その症状を改善してくれることを望んで医師を訪れる」という現実を解決するのに役立つことを目標としている。この第4版も過去の版に劣らず,この目標が達成されるように,細かい配慮がなされている。
 まず,注目されるのは,日常臨床で遭遇することの多い疾患について緊急に情報が欲しい時に,短時間で引き出されるように「Rapid access guide」という赤で色分けされた頁が最初におかれていることである。その内容は簡単にして要領を得ており,表紙裏には,採用されているトピックスが頁とともにリストアップされ,最小の時間でその項目を参照できるよう配慮されている。
 さらに医学・医療の世界での趨勢を敏感に反映して,いわゆるEvidence‐based Medicineに合う形で,速やかに臨床上の方針が決断できるように,一覧表とともに「Clinical decision guides」が随所に折り込まれ,それぞれの根拠がどの程度のものか,グレード別に明記されている。もちろん,現代の医学・医療の実践に不可欠な臨床疫学やコンピュータについての詳しい情報が盛り込まれている。
 本書の主要な内容はHarrisonおよびCecilと同じく,subspecialtyの臓器別に分けられている。しかし,その構成に特徴が認められる。それぞれの分野で,まず最初に,その臓器とかかわりの深い主な症状を持つ患者さんにどのように対応するか,そのアプローチ法が多くの頁を割いて詳しく述べられている。これによって,どのような症状の患者さんでも漏れなく適切な情報が確実に得られると思われる。それに続いて,通常の教科書では内容の大半をしめる疾患別の系統的な記載がなされ,最後にその分野での診断や治療手技が整理されて説明されている。
 なお,プライマリ・ケアで診る必要のある頻度の多い疾患は,subspecialtyの前に別個の章立てになっており,多くの臓器とかかわりを持つ横断的疾患として,いわゆる心血管疾患の危険因子に属する高血圧,肥満,喫煙などはここで解説されていることも本書の特徴と言えるであろう。

頼りがいのある実践的なテキスト

 ところで,本書の厚さには少なからずの方々が圧倒されるのではないだろうか? しかし,すべての情報,知識に精通していることが要求されているのではない。上に述べたさまざまの工夫を活用すれば,とりあえず,すべての患者さんに適切な一通りの対応を施すことは可能である。その上で時間を見つけて,おもむろにさらに詳しい情報を得ればよいのである。1冊でこのような使用法が可能な本書は,頼りがいのある実践的な教科書と形容されよう。わが国でも本書の第4版によって支持者がさらに増えることを期待する。
A4変・頁3254 定価(本体19,250円+税)
Lippincott Williams & Wilkins