医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


嚥下障害者への関わりを基礎から系統だてて学べる成書

嚥下障害ナーシング
フィジカルアセスメントから嚥下訓練へ
 鎌倉やよい 編

《書 評》山本三千代(慶大月が瀬リハビリテーションセンター)

現場のナースにとって待望の書

 ナースであり,嚥下障害に関心のある私は,この本を初めて手にした時,わくわくするほどうれしい思いを感じた。現場のナースにとって待望の書がついに出たという感激であった。
 近年,摂食・嚥下障害に関する書籍や雑誌の特集号など,実に多くのものが出版されている。参考書が少なく,手探りで嚥下障害者と関わっていた十数年前を考えると隔世の感がある。多くの書籍,参考書の出版は,今秋第6回学術大会を終えた日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の発足と無関係ではないと思われる。加えて,高齢社会を迎え,多くの老人や障害者と関わる必要性が高まり,改めて嚥下障害の重要性が認識されてきたことの表れでもあろう。
 しかし,嚥下障害についてナースを読者対象として書かれた多くの参考書も,初期においてはほとんどが医師や歯科医師,言語療法士による執筆であり,看護職はその片隅に場を与えられているだけの場合が多かった。一方,看護系雑誌にはさまざまな嚥下障害者への関わりの事例や,優れた取り組みなどが発表されるようになってきたが,その内容はレベルもさまざまで統一性に欠けるという問題があった。

ナースによるナースのための成書

 そのような背景の中で,このたびの本書の出版は,ナースの手による,ナースのための成書ということで特筆に価するものである。まず,第1に読みやすい。多用されている図は適切で明瞭であり,非常に理解しやすい。観察による情報のとりかたから,しっかりした裏づけのあるアセスメント,具体的なアプローチの方法まで実にわかりやすく述べられている。
 また,嚥下訓練の方法を述べた後に「効果の実証」が付記してあるのも本書の特色である。国内,国外の学会や医学雑誌の最新論文を要約して示し,さまざまな研究者や実践家の取り組みや動向,最先端情報を得ることができ,興味をそそられ,本書をレベルの高いものにしている。
 目次にそって読み進めることで,嚥下障害者への関わりを基礎から系統だてて学べることはもちろんであるが,必要に応じて,いま,必要な項目を開けば,そのまま実践に役立つ構成になっており,臨床ナースにとってたいへん有益な参考書と思われる。よくわからないために,嚥下障害の看護は苦手と考えている多くのナースや,現在悩みながら取り組んでいるナースにぜひ読んでほしい。
B5・頁152 定価(本体2,400円+税) 医学書院


女性として,看護婦として共感できる

摂食障害 食べない,食べられない,食べたら止まらない
切池信夫 著

《書 評》白田久美子(阪市大看護短大部教授)

 本書は精神科医である著者が約20年間,摂食障害の患者に接し,その経験から研究の積み重ねを行ない,着実な研究成果のもとに記載された貴重な書である。摂食障害についてわかりやすく記載されており理解しやすい。特にこの本に興味を覚えるのは,摂食障害の有病率の高い国は英国と米国であるが,日本も高い有病率を示してきており,今日的な社会問題を含んでいる病気となっていること,さらに摂食障害については,文化・社会的要因,心理的,生物学的要因を含めて,つまり1人の人間として患者をしっかりとらえないと治療できないと述べてある点に,女性としてまた看護職として,とても共感できるからである。

摂食障害という身近な問題

 女性の社会進出に伴い,単に食生活,喫煙,飲酒,運動といった習慣化した日常生活に加えて,各自の考え方や倫理観,生活や才能,人間関係や環境といったもの,特に生活スタイルや心理的傾向を含む女性のライフスタイルの変革が起こり,女性の生き方に対する選択肢も多くなってきた。女性をとりまく社会環境や生き様の変化は,女性の身体上の変化と互いに無関係ではありえない。現在私は若い女性である学生たちと接する機会が多いが,女性の心理として,やせたい,そして美しくなりたいと願う気持ちは誰にでもあることを感じるし,ダイエットも盛んである。摂食障害とは神経性食思不振症と神経性過食症を言い,特に思春期女性のダイエットと摂食障害は関連が深いという。それだけに摂食障害は身近な問題であることを感じる。
 女性なら,多かれ少なかれ体重増加を防ぐ方法などは経験している。やせ願望と肥満恐怖,この根底にある心理とは何か,自分自身はどうなのかと考え,診断基準,摂食態度検査等については自らを振り返り読むこともでき興味深い。これは摂食障害に対する予防的な面での啓発にもなる。
 さらに看護職として,複雑なさまざまな臨床像を持つ患者の症例が述べてあることが興味深く,そして丁寧な看護をしていくことが大切であることを感じる。著者も指摘されているが,病因と発症機序は複雑であり,治療法が確立していないだけに摂食障害患者に関して医療に関わるチームの一員としてどのように接し,そして対応するのかを,私たち自身,もっと理解せねばならないことをこの書は指摘してくれる。
A5・頁240 定価(本体3,000円+税) 医学書院


こどもに接する可能性のあるすべての保健医療職の必携書

<総合診療ブックス>
見逃してはならないこどもの病気20

山中龍宏,原 朋邦 編集

《書 評》西脇由枝(埼玉県立大助教授・小児看護学)

 本書は,こどもの専門的医療を担う臨床家が,こどもに関わる可能性のある医師・看護職を対象に執筆された。小児科医はもちろんのこと,こどもに関わる可能性のあるすべての診療科の医師,こどもとその親に関わる可能性のあるすべての看護職者(看護,保健,助産)が読者に含まれる。専門分化する膨大な臨床情報の中から「見逃してはならないこどもの病気」に焦点を当て,「これだけは知っておいてほしい」事柄を精選し,実践の場で応用しやすい形にまとめられているので,読者は,最新の情報・経験から学び築かれた智恵,行間に伝わる医療哲学に触れることができる。

こどもの「最善の医療を受ける権利」を守るために

 近年,医療の進歩はめざましく,こどもが最善の医療を受け,生命・成長発達・生活を豊かにする道が開かれている。「医療により対処が可能な病気で,しかも生命・発達・生活に重大な影響を及ぼすこどもの病気を絶対に見逃さない」ということは,こどもの保健医療専門職が担う重要な責務である。
 しかし,こどもの対象特性は成長発達にあり,(1)弱いことに加えて変化が早く重症化しやすい,(2)症状の現れ方や表現方法が成人とは異なる,(3)臨界期をすぎると取り返しのつかない障害に至る,等の特徴がある。診断は難しいが,早期発見・対処が求められている。また,(4)こどもの受診行動は親の認識や行動に左右される。適切な時期に受診できるような専門的介入が必要となる。「心配するものではない」と一度だけ言われて放置した結果,対処の時期を逸して苦しんでいる事例も多い。情報提供場面・相談場面・診療場面において,見逃してはならない病気の症状経過を予測し(次の)受診が必要となる判断基準を伝えることで,タイムリーな診察,適切な診断や対処が可能になる。
 こどもの「最善の医療を受ける権利」を守るために,こどもに関わる可能性のあるすべての保健医療専門職者は,研鑚し最新の情報を得て,他者の経験に学び,ジェネラリストとスペシャリストの連携を進める必要がある。
 研鑽と連携に資する本書を手元におき,日々活用されることを望む。
A5・頁248 定価(本体3,700円+税) 医学書院