医学界新聞

 

手軽な解析から有用な情報を

――患者の満足度調査の新しい試み

田久浩志(中部学院大学短期大学部教授・経営学科)


単純な調査票と解析方法で

はじめに

 従来から,よりよい医療環境を提供するために,患者の満足度調査が行なわれてきた。そして,次第に満足度に影響を与える因子が明らかになってきた。例えば患者の満足度は,患者の病態,年齢,性別,慢性疾患・急性疾患の別,入院期間などが影響を与えると言われている。しかし,実際の看護の現場では,それらの文献的な影響因子を看護職に示そうにも,その内容を理解してもらえないケースが多い。
 「一般にはそうでしょうが本院ではどうなのでしょうか。簡単に言えば何に注意したらよいのですか」と言われてしまえば,何も言えなくなってしまう。
 患者の満足度の調査は,各病院,各病棟によって異なって当然である。そのため論文報告のみを参考にせず,本当に必要な自分の病院の患者満足度を,いかに調査解析して現場の業務改善に応用できるか,という点が問題になる。
 筆者は,以前より患者満足度に興味を持ち,いろいろな解析を行なってきた。今回は上記の反省点に立ち,単純な調査票と解析方法で,患者へのサービス提供時に注意すべき点を抽出することを試みたので報告する。

対象と方法

 本調査は,東邦大学医学部附属大森病院の看護部の協力のもとに行なった。今回の満足度の調査は,看護職の対人サービスに関する質問と院内の環境に関する質問に限定し,医師や疾病に対する質問は扱わなかった。
 調査は患者に対する調査票を作成して行なった。フェース項目として「性別と年齢」,外来患者では「外来初診の有無」,入院患者では「入院期間」などを用いた。また,入院患者では,「看護婦の身なり・礼儀・態度,入院中の生活,症状・検査・治療・処置」など36項目,外来患者では「看護婦の身なり・礼儀・態度,病院の環境,症状・検査・治療」など22項目の満足度を5段階で測定した。
 データの入力をどのように行なうかは各施設で最も頭を悩ますところであるが,今回の調査ではマークシートを自分で定義し,スキャナで読み込んだ質問表イメージから自動的にデータを抽出する手法を採用した。そのため,データ入力の手間,時間は大幅に節約できた1)
 アンケート調査の結果,外来患者826名,入院患者440名の調査票を回収した。フェース項目の欠如,誤記入等を除外するとともに,当該病院の患者年齢層を考慮し,20歳代から70歳代までで,本人回答のみの質問票を解析対象とした。その結果,解析対象は外来505枚,入院334枚となった。
 解析は,SAS社のJMP Ver4.0を用いた。解析結果を現場へわかりやすく提示することを最重要と考え,重回帰分析,数量化解析などの多変量解析は行なわず,記述統計である,クロス集計表,グラフのみで解析を行なった。

得られた情報をもとに的確な患者対応を

結果

 多くの報告では考慮されていないが,相関が高い質問をいくつも行なって解析をすると解が不安定になる,多重共線性というやっかいな問題がある。その点を考慮して,調査票では何種類もの質問を実施したが,最終的には質問のカテゴリー別に分類し,その中で一番回答数が多かったもののみを解析対象とした。その結果,のような質問を解析対象とした。
 質問は,入院・外来,性,年代を対比して満足度の分布を比較した。代表的な例を図1-4に示す。
 これはモザイク図とよばれるグラフで,縦軸と横軸の変数の割合を示している。右側の独立した棒グラフはY軸の変数のみの分布を示し,「女23」の記述は女性20-30歳代を意味する。
 したがって,例えば図2の女性の入院患者で20-30歳代のものは約10%存在し,その中で満足度が5のものは約40%あることがわかる。このようにモザイク図は,通常の棒グラフに比較して2変数の分布割合を直感的に把握できる利点がある。
 男性では,入院・外来とも40-50歳代の満足度が他年代に比較して低下する傾向,つまりグラフで2,3,4の点数割合が増加する傾向がみられた。この現象は,図12の右側の矢印が山型に変化することで示した。
 女性では,外来患者の20-30歳代の満足度が低く,年代とともに満足度が改善する傾向がみられた。これは図1の左側で右下がりの矢印で示した。この右下がりの満足度変化は,図に示した以外の質問項目でも観察された。一方,女性の入院では,男性のように山型に満足度が変化する傾向がみられた。
 その他の特徴として,全体を通じ入院の20-30歳代の男性は,どのような質問でも常に満足度が高い傾向がみられた。一方,男女を問わず,同じ質問に対して外来の満足度は,入院に比べ低下する傾向がみられた。なお,トイレに関する質問では,女性の入院患者で40-50歳代の満足度が極端に低い(5点が少ない)傾向がみられた。また,入院期間と満足度の関係については,入院開始後の2週間まで満足度は上昇し,その後低下する傾向がみられた。

表 解析した質問
質問のカテゴリー代表的な質問
看護婦の礼儀身なり
患者と看護婦の会話
看護婦間の連絡
病院の環境
患者の苦しみへの対応
検査などの説明
礼儀正しさ
気兼ねなく話す
看護婦間の連絡
トイレの整頓
不安感の理解
検査治療の説明

考察

 今回の入院患者の調査結果では,男女とも40-50歳代が他の年代より満足度が悪化していた。女性の外来患者では20-30歳代が常に厳しい評価を下していたが,女性も年齢が高くなるにつれて評価は改善された。これらの現象の解釈として,40-50歳代の評価は常に厳しく評価する傾向があり,外来患者ではその傾向に,看護職と同性同年代(20-30歳代)の視点のシビアさが加わり,評価が変化するとも解釈できる。あるいは,外来では看護職が職務に忙殺され,患者とコミュニケーションが取れないために,外来患者の満足度が低下するとも考えられる。
 若い外来女性の多い診療科としては産科が考えられる。そのため,産科患者の特殊性によって,外来20-30歳代の女性患者の満足度低下傾向が観察されたとも考えられる。しかし,今回の外来患者の調査では,外来診療科別の記録はしていないので,この点については不明である。
 何が原因であるかを追求する前に,現状の解析結果をもとに考察すると,外来看護婦は単に患者に接するのでなく,20-30歳代の女性外来患者の満足度評価は常に厳しいという患者の特性を考慮して,十分注意して患者に対応すべきとも言えよう。
 40-50歳代の満足度の評価が常に厳しい理由として,患者が自分の部下あるいは子どもを見るのと同様の視点を持って看護職を観察しているためとも解釈できる。その点は,図4の入院でのトイレの整頓に関して,40-50歳代の女性が厳しい評価をしていることからもうかがえる。しかし,その原因を検討するには,子どもの有無,独身・既婚,社会的地位など,患者の人生を築いている環境の差異が,これらの満足度に与える影響を検討しなくてはならない。詳細な解明は今後の解析を待ちたい。
 入院患者の評価が外来患者よりよくなる点は,入院により看護職を身近にみることができる,看護職と患者の間にコミュニケーションが成立するなどの理由が考えられる。今回は詳細な解析結果を示さなかったが,全般的に入院開始後の2週間までは満足度は上昇し,その後低下する傾向がみられた。このことは,看護職とコミュニケーションが取れると満足度は増加する,という仮説を補強するものである。
 しかし,2週間を過ぎて満足度が低下する理由は,入院生活に飽きたためとも解釈できるが,その詳細は不明である。この点にも現実的対応をすれば,可能であれば入院2週間で退院していただくのが,満足度向上の点から言えばベストであると言えよう。

まとめ

 今回の解析により,(1)外来患者の評価は入院患者より常に厳しい,(2)女性の,特に20-30歳代の外来患者の評価が極端に厳しい,などの点が明らかになった。現実に存在する,患者の入院・外来,性,年代別による満足度評価の差を考えると,外来と入院が常に同じサービスを提供するのではなく,性別・年齢等による満足度の差を考慮したサービスを提供するのかが重要であると言える。
 近頃,EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づいた医療)の実施が主張されているが,今回の解析は見方を変えれば,Evidenceに基づく看護管理法である。解析手法も難解な統計手法は用いず,同じ質問を入院患者と外来患者に行ない,年齢,性別をコントロールして比較しただけである。ただし,結果に関しては,現場職員が理解しやすいようにモザイク図を利用してわかりやすくした点に特徴がある。
 確かに,患者の満足度の検討に関しては,その影響因子を詳細に解析する必要はある。しかし,現場の看護管理者にとっては,現時点の満足度がどうなっているのか,それをどのように各々の看護職に理解させるか,そして具体的にどのような方策をとればいいのか,がわかればよいはずである。
 筆者としては,満足度の複雑な相互関係はともかく,得られた情報をもとに的確な患者対応を行ない,次第に病院全体の満足度が上昇すればよいと考えている。その意味では,今回のようなシンプルな解析方法も,これから十分に看護の現場で役立つと信じている。今回の報告が,現場の看護職の皆様にいささかでもお役に立てば幸いである。

〔参考文献〕
1)田久浩志,岩本晋:ナースのためのかんたんExcel 5-2手書き帳票の認識,羊土社,2000