DDW(Digestive Disease Week)-Japan2000
第8回日本消化器関連学会週間開催
DDW(Digestive Disease Week)-Japan(日本消化器関連学会週間)が,日本消化器関連学会合同会議(議長=中澤三郎氏)のもとで,さる10月25-28日,神戸市の神戸国際会議場,他において開催された。
“スリムでアカデミック”を基本理念に掲げてきたDDW-Japanは,今回第8回を迎え,第38回消化器集団検診学会(日大・第3内科 岩崎有良会長),第31回膵臓学会(熊本大・第2外科 小川道雄会長),第42回消化器病学会(鳥取大・第2内科 川崎寛中会長),第36回胆道学会(千葉大・第1内科 税所宏光会長),第60回消化器内視鏡学会(東邦大大橋病院・消化器診断部 酒井義浩会長),第31回消化吸収学会(社会保険山形健康管理センター 高橋恒男会長),第4回肝臓学会(岡山大・第1内科 辻 孝夫会長),の7学会の参加を得た。
「DDW-Japan2000は消化器病の臨床を指向する学術集会をめざし,20世紀の消化器病学を振り返るとともに,21世紀に向けた消化器病学への新たな展望を開く」(川崎寛中運営委員会委員長)という意図のもとに,DDW-Japan2000の合同企画は,各学会で選定された臨床的内容に富む優秀演題からなる「合同プレナリーセッション」と2つの国際シンポジウム,26のEnglish Sessionに加えて,統一テーマ「消化器病として21世紀の展望と期待」のもとに9題の教育講演が企画された。
QOLを考慮した消化器癌治療

肝腫瘍に対するRFAの有用性
肝細胞癌では,他の固形腫瘍とは異なって,肝硬変や多発性病変のために,切除可能な症例は限られている。さらに,根治的手術がなされても,肝内微小転移や異時性多中心性発癌のために,根治的手術を行なっても5年以内に80%以上の症例で再発が見られる。椎名氏は,「患者のQOLを考え,局所の根治性に優れ,肝機能への影響が少なく再発時の再治療が容易なPEIT(経皮的エタノール注入療法)やPMCT(経皮的マイクロ波凝固治療)などの経皮的局所療法を大部分の肝癌症例に行なってきたが,その経皮的局所療法に最近,RFAが加わった」と述べ,RFAの有用性を報告。
椎名氏によれば,RFAは1回で約3cmまでの範囲を予想通りに壊死させることができ,PEITとPMCTの長所を兼ね備えた,QOL改善に有用な治療法である。
また,この療法の一般的適応は,(1)肝癌が切除不能または外科的手術を希望しない,(2)Pltが5万以上,かつPTが50%以上,(3)コントロール不能の腹水がない,(4)病変の最大径が3cm以内,病変数が3個以下,または径5cm以内の単発症例であることだが,氏はさらにこの条件外でも,他に効果的な治療法がなく,RFAが有用と思われれば施行した。
そして椎名氏は,RFA施行例324例に関する成績を,「(1)病変の存在部位などを理由にRFA施行を断念した例はない。(2)CTによる評価では,最終的には全例で病変は完全壊死に陥ったと判定できた。(3)治療セッション数は2.2±1.2回,必要入院期間は13.0±7.4日。(4)平均観察期間308日で,局所再発は7例。(5)合併症は,肝膿瘍4例(1例では入院時すでに腹腔内膿瘍があったが,癌が急速に増大するために敢えてRFAを施行。1例では気管支胆管瘻を合併した),腹腔内出血1例,胃潰瘍1例,腹壁熱傷+感染1例,門脈血栓1例,一過性黄疸1例だが,いずれも保存的治療で軽快。(6)324例中305例が生存中,10例が癌死,7例が肝不全死,2例が他病死である」と報告。
これらの結果を踏まえて椎名氏は,「肝腫瘍に対する従来の経皮的局所療法もQOL改善に優れた治療法であると評価できるが,RFAは少ないセッション数で病変の完全壊死を達成でき,入院期間も短縮でき,患者のQOL改善にさらに有用な治療法であると思われる」と結論を述べた。
肝臓病学:21世紀へのメッセージ

肝臓病学,残された課題
続いて,シンポジストの林紀夫氏(阪大)が,ウイルス肝炎をテーマに口演。21世紀へ伝えるB型およびC型ウイルス肝炎の治療法として,(1)ラミブジン,(2)インターフェロン,(3)他のヌクレオチド誘導体,(4)ステロイド離脱療法などを挙げた。特に,C型ウイルス肝炎の21世紀の課題として,(1)C型肝炎ウィルスの排除抑制機序の解明,(2)難治例に対する対処法の開発を挙げ,「20世紀は,ウイルス側の因子を主に研究してきたが,ポストシークエンス時代となる21世紀には宿主側の因子も探るべき。DNAチップやSNPsなどの技術を応用した治療が期待される」と述べた。次に,戸田剛太郎氏(慈恵医大)が,自己免疫性肝炎をテーマに口演。自己免疫性肝炎研究の歴史を語るとともに,21世紀に託す課題として,(1)免疫遺伝子学的背景を探るなどの根本的原因の解明,(2)肝細胞障害の原因の究明,(3)自然発症的動物モデルの発見などを提示。また,「自己免疫性肝炎では,常に肝硬変や劇症肝炎への移行が危惧される。早期診断・治療に結びつく基礎研究が望まれる」と述べた。
ウイルス抑制から根絶へ
小俣政男氏(東大)は,肝癌をテーマに口演。B型肝炎ウイルスに関する2つの発見として,(1)B型肝炎ウイルスの発見に伴なうワクチン開発,(2)逆転写機能の発見を挙げた上で,今後の課題として,(1)ウイルス抑制から根絶へ,(2)肝硬変予防,(3)有効な薬剤の開発を指摘した。また,「1つの細胞とは10万人の蛋白が住む街にたとえられる。その中で遺伝子が暴動を起こした状態が癌である。21世紀は,遺伝子を1つひとつ調査するという地道な研究から,閉ざされたブラックボックスを開けてほしい。特に若い研究者に期待する」と述べた。最後に,生体肝移植について,田中紘一氏(京大)が登壇。生体肝移植の今後の課題として,(1)ドナーの安全性,(2)ボランティアリティ,(3)成人の生体肝移植,(4)有効な免疫抑制剤の開発を挙げた。特に,(4)については,「遺伝子解析を通じた,オーダーメイド的な研究が期待される。これにより,QOLを維持した状態での,より簡便な移植が可能になるだろう」と述べるとともに,「21世紀においては,移植をさまざまな技術の集学的治療と考え,それぞれの分野の専門家に協力していただきたい」と結んだ。

膵癌にゲノムシークエンスのインパクトを
27日に行なわれた第31回膵臓学会の特別講演「膵癌の発生・進展に関与する遺伝子異常の解析-診断・治療への応用をめざして」(司会=熊本大 小川道雄氏)では,堀井明氏(東北大)が,ゲノムシークエンスの発展が難治性の高い膵癌の治療に与えるインパクトについて口演。氏は,癌を遺伝子の質的変化と量的変化という2段階の異常の積み重ねによる“遺伝子の病気”として捉え,「膵癌の発生に関連する遺伝子を解析できれば,癌化する以前の前癌段階で早期治療できる」ことを示唆。氏の研究成果として,膵癌の初期段階で,Ki-rasに100%の異常が見られること,12q,17q,18qの遺伝子の欠損および異常が膵癌の予後不良に有意に影響を及ぼすことなどを明らかにした。その上で,膵癌治療として,(1)Gatekeeper的治療(遺伝子変異を予防),(2)Carekeeper的治療(遺伝子変異を修復する)の2方向からの治療を提案し,「QOLを重視したdormancy therapyやオーダーメイド医療などと併せれば,羅患率に比べ死亡率の高い膵癌でも5年生存が望める」と主張。「今後も,膵癌治療に応用できる基礎研究に力を注ぎたい」と今後の膵癌治療に意欲をみせた。内視鏡診断・治療の最先端
26日に行なわれた第60回消化器内視鏡学会のシンポジウム「内視鏡診断・治療の最先端」(司会=大阪府立成人病センター病院 竜田正晴氏)では,佐野寧氏(国立がんセンター東病院)が狭帯域filter内蔵電子内視鏡システムについて,飯石浩康氏(大阪府立成人病センター)は蛍光内視鏡について,井上春洋氏(東医歯大)がLaser-scanning confocal microscopy(LCM)について,また近江雅人氏(阪大)が光コヒーレンストモグラフィ(OCT)について,古川俊治氏(慶大)はmaster-slave型内視鏡下手術支援装置について,それぞれ発表した。その中で,「LCMを用いた内視鏡」を口演した井上氏は,「実際に組織を採取することなく,無固定無染色の生体にプローブを当てるだけで,組織像を獲得し,病理組織学的診断を行なうことに成功した」と報告。この技術を「Endo-Microscopy(内視顕微鏡)」と呼称するとともに,仮想生検(Virtual Biopsy)」および「仮想病理学(Virtual Histology)」を提唱した。
ロボット技術を臨床に応用
一方,古川氏は,master-slave型内視鏡を用いたロボットサージェリー「ダヴィンチシステム」の臨床応用の成果について口演。胆嚢摘出術では,「クリップを残さず,胆嚢管および胆嚢動脈の結紮・切離が可能となり,胆嚢摘出後の腹膜欠損部の修復も可能になった」と,同システムの実用性を強調する一方で,装置の保守整備,装置の小型化・低価格化,鉗子の開発,内視鏡の広角下,触覚の伝達などの問題点を指摘した。司会の竜田氏は,「21世紀の内視鏡治療は,技術の進歩と相俟って,とことんまでQOLを追求するものとなるだろう。医師1人ひとりに新しい内視鏡の技術を習得する準備が必要」と結語した。
■第42回消化器病学会より
きたる高齢社会に備えて
