医学界新聞

 

「人は誰でも間違える」

「医学ジャーナリスト協会」創立10周年記念シンポより


 さる10月31日,東京・千代田区の日本記者クラブにおいて,医学ジャーナリスト協会創立10周年を記念した公開シンポジウム「人は誰でも間違える-より安全な医療システムをめざして」が,大熊由紀子氏(朝日新聞)をコーディネータに,李啓充氏(マサチューセッツ総合病院),森功氏(八尾総合病院),黒川清氏(東海大),井部俊子氏(聖路加国際病院)の4名をパネリストに迎えて開催された。
 開会にあたり,医学ジャーナリスト協会長の宮田親平氏は,同協会10年の歴史を語るとともに,「医療をより安全にするために不可欠な新しい医療文化の構築の方向性について,パネリスト,会場の参加者とともに検討したい」と同シンポジウムの目的を明らかにした。

組織的な過誤防止システムの必要性

 シンポジウムでは,まず李氏が,全米的に行なわれた過誤防止システム構築のための一連の努力について概説(『アメリカ医療の光と影-医療過誤防止からマネジドケアまで』〔医学書院刊〕に詳しい)。「次の医療過誤を防ぐためには,個人の行為ではなく,システムやプロセスに焦点を当てた根本的原因分析(Root Cause Analysis)を通して,組織レベルの共通原因に遡ることが必要」と述べた。その上で,日本の医療の問題点として,(1)過誤に関わった医療者の刑事告発を優先し,個人を責めないと気が済まない文化,(2)インフォームド・コンセントの未熟さ,(3)国家的対応の欠如,(4)医療の質を保証する制度や医療訴訟以外の医療過誤被害者を救済する制度がないこと,などを指摘した。
 続いて,森氏が,院長を務める自院において本年4月より本格設置された「医真会Audit Unit(IAU)」の活動内容を解説するとともに,医療過誤に関する客観的調査と評価,および鑑定意見書の作成を行なう「医療事故調査会」のデータを提示。現場レベルでの医療過誤防止策として,「医療職の意識改革に基づいた情報の共有化と原因究明,そのフィードバックが欠かせない」とし,「医療における絶対の透明性とそれを十分に説明することが最も大切」と主張した。また,同氏は,医療過誤に警察が介入し,特定の個人を有罪として,組織的な反省や原因究明,その後のトレーニングがないままに放置してしまう現在の法制を批判。情報収集とそのフィードバックを専門とする調査機関と,医療の質を管理する法案の必要性を説いた。
 次に,黒川氏が,アメリカで医師として14年間勤められた経験から,日米の医療過誤の現状を比較し,日本の問題点として,(1)診療科が縦割り組織で,横のつながりがない,(2)実力のある医療人を育てる教育,「他流試合」の欠如,などを指摘。医療過誤防止のためには,(1)情報の共有,(2)職業人教育,(2)人的資源・職場環境の改善などをあげ,「本来,医師と患者はパートナーである。過誤が起こってしまった場合にも,医師と患者,その家族が歩み寄り,互いに情報を共有して問題を解決していくべき」と述べた。
 最後に,医療過誤の当事者となりやすい一方で,医療過誤のチェック機能を果たすことが期待される看護職の立場から,井部氏が,看護職をとりまく現場環境の悪さを指摘。医療器具のデザインへの工夫や,人的配置の改善などの必要性を訴えた。特に,夜間では看護職1人が20人の患者を担当する現状に警鐘を鳴らし,今後,氏が副会長を務める日本看護協会では,急性期病棟における「患者:看護職=1.5:1」をめざすなどの抱負を述べた。また,「(1)高度化・複雑化への組織的対応,(2)医療過誤はゼロにはできない。人間のミスを前提にした上での対策,(3)十分な安全対策のための費用確保,(4)個人の責任追及よりも原因の究明,などの意識改革が必要」と主張した。

医療事故を具体的に検討

 参加者からの提言・質問の場面では,本年4月に東海大学附属病院で起こった医療事故により亡くなった女児(当時1歳6か月)の父親が,(1)医療機関内だけでなく,被害者の家族とともに情報を共有し,原因究明に努めること,(2)過誤を起こした個人の責任追及と処罰,(3)被害者の家族がすぐに相談でき,医療過誤を隠蔽させない第3者機関の設立,と医療文化再構築に向けた3つの提言を行なった。また,同大の事故への対応,同事故に際し設けられた医療事故の外部調査委員会の報告書などをめぐり,パネリストの他,外部調査委員会のメンバーの1人山内隆久氏(心理学者),医療事故市民オンブズマン「メディオ」の伊藤隼也氏など,多くの参加者が発言。東海大の医療事故について踏み込んだ議論が行なわれた。